乱入
「さて……どのタイミングで乱入しようかな」
俺はそう思いながら見守っていると、エルフたちと冒険者の試合が始まった。
しかし、試合とは名ばかりであり、事実上は一方的な虐殺である。
王女を中心とした騎士団はひたすら防御に徹して秩序を守っているが、ほかのエルフたちはほとんど無抵抗で殺されていった。
「ははは。雑魚どもめ。死ね!」
エルフの一般人たちを殺した冒険者たちは、容赦なく騎士団に襲い掛かっていく。
「ひ、姫様を守れ!」
兵士の一人は剣を突き立てられながらも、必死に王女を守る。
また別の兵士はフレイルで頭を叩き割られながらも、体をはって近づけないようにしていた。
「すまない……勇敢な兵たちよ」
王女ララ―シャが目に涙を浮かべる。
エルフたちは棒切れしか与えられなくても、命を捨てて彼女を守ろうとしていた。
エルフの兵士たちの死体が転がる中、観客たちが気勢をあげる。今まで後ろで高みの見物をしていたレイバンが前に出たからである。
「無駄な抵抗だな」
「何を!エルフたちの誇りを見せてやる」
棒切れを掲げてララ―シャと生き残りの兵士が突撃しようとしたら、レイバンが軽く手を前に突き出した。
「みるがいい。これが勇者バーティの一人、風戦士レイバンの力だ。『烈風』」
レイバンの手からすさまじい風が吹き、エルフたちをなぎ倒す。
「くっ。まただ!」
必死で立ち上がろうとするララ―シャに、レイバンはさらに追い打ちする。
「『竜巻刃』」
ララ―シャたちを真空の刃でできた竜巻が取り巻く。
竜巻が止んだ時、ララ―シャたちは体中が傷付いてボロボロだった。
「とどめだ。串刺しにしてやる」
レイバンは残酷に笑って、槍を構える。
まずい。このままじゃエルフたちは全員殺されてしまう。
俺が焦って乱入しようとしたとき、澄んだ声が闘技場に響き渡った。
「なんなのこれは!」
1人の少女が闘技場に飛び降りて、エルフたちをかばう。
それは冒険者ギルドの受付嬢、ミナだった。
あまりに意外な人物の登場に、レイバンは構えていた槍を降ろす。
「さがっていろ。ミナ。まだ試合の途中だ」
「試合?エルフたちにまともに武器も与えなくて、どこが試合なのよ。一方的な処刑じゃない。あなたたち、それでも戦士なの?」
ミナはひるむことなく糾弾する。
それを聞いた冒険者たちは、きまり悪そうにミナから顔をそむけた。
「レイバン。エルフ王国から帰ってきてから、あなたはおかしいよ。なんでこんな残酷なことができるの?あなたは優しくて高潔な戦士の筈でしょ!」
それを聞いたララ―シャは、傷付いた体を起こして叫んだ。
「高潔な戦士だと!そいつがエルフ王国でどんな蛮行をしたのか、知らないのか!」
「蛮行?」
「ああ。そいつをはじめとする冒険者たちは、友好を装って一方的にエルフ王国に攻め込むと、我らの財産を奪い、家を焼き、男を焼き殺し、女子供を奴隷にしたんだ!」
レイバンたちのエルフ王国での蛮行をしらされ、ミナはショック受けたようだった。
「そんな……噓でしょ?魔王を倒し、民を救った英雄であるあなたがそんなことをするはずが……」
ミナはすがるような目でレイバンを見つめるが、奴はゆっくりと首を振った。
「ミナ。もう下がれ。女が口出しすることじゃねえ」
レイバンは部下に合図し、ミナを無理やり連れて行かせた。
「そんな!優しいあなたがそんなことを言うなんて」
連れていかれるミナに対して、レイバンは言い放つ。
「俺はもう昔の弱者じゃねえんだ。冒険の旅を通じて、そして勇者光司と出会って、力こそすべてだって悟ったんだ」
そうつぶやくと、再びララ―シャに向けて槍を構える。
「これで終わりだ。てめえら全員、串刺しにしてやる」
「くっ……」
もはやどうにもならないと悟ったのか、ララ―シャは天を仰いで呪いの言葉を吐いた。
「神よ。これがあなたの意思なのか!魔王が倒され、世界が平和になると思っていたのは何だったのだ!なぜ私たちを助けてくれないのだ!」
「うるせえ!死ね!」
レイバンが投げた槍が、超スピードでララ―シャに迫る。
もうおしまいだと、ララ―シャが目をつぶった時。
「神は助けてくれない。だが、魔王なら話は別だ」
俺が放った雷により、槍は叩き落された。