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新人

「ああ、マリア様、私たちを救ってくださってありがとうございます」


私はギルドマスター室で、マリア様に祈りをささげる。


彼女の言うとおり、ライトを生贄に捧げることで、冒険者ギルドは国からの信用を得た。


平和な世では厄介者扱いされかねなかった冒険者たちも、今では海外侵攻の傭兵として活躍している。


特に息子であるレイバンは、エルフ王国の王城を落とすなどして大手柄をあげていた。


わが息子ながら頼もしい。いずれ大将軍として取り立てられるかもしれない。


そうなったら、我が家は貴族になることも夢ではないだろう。


そうなれば、マリア様と……。


「あの日の甘美な体験が忘れられない。ああ、なんとかしてマリア様に会えないだろうか」


そう思っていると、職員が部屋にやってきた。


「申し上げます。近くの岩山で新しいダンジョンが発見されました」


「なんだと!」


久々のいい知らせに、私の胸は高まる。


新しいダンジョンを捜索すれば、まだ見つかっていない宝物があるかもしれない。


それをマリア様にささげれば、再び甘美な時間を過ごせる。そう思っていた私は、まだこのインディーズに残っていた冒険者たちに命令を下した。


「至急冒険者たちを派遣して、捜索させろ」


「は、はい」


職員は慌てて部屋を出ていく。


私は冒険の成果を楽しみに待ちながら、マリア様に思いを馳せるのだった。



私は傘下の冒険者からの報告を聞いて、さらなる期待を寄せる。


「新しいダンジョンの中には、宝箱がたくさんあり、その中には大量の金貨が詰まっていました」


冒険者というには未熟な低ランクたちでも、トラップなどにひっかかることなく宝を持って帰っている。どうやら、新しいダンジョンは相当に甘い作りらしい。


(待てよ。低階層にも宝があるなら、奥にいけばもっとすごい宝があるんじゃないか?)


そう思った私は、自ら深層階の探索に乗り出すことにした。


一応安全のため、昔のメンバーに声をかけてみた。


「なるほど。お宝がつまった新ダンジョンか」


「でも、照明師はどうするの?ライトがいたときは楽に探索できたけど、奴がいないんじゃどうすることもできないよ」


盗賊職の女冒険者、セローナがそう指摘してくる。


そう、ダンジョンにもぐるためには照明が必要になる。


低階層なら松明やランプを用意しておけば問題はないが、深く潜るにつれて必要な量が増えてくるので、どうしても長持ちする照明係が必要になるのだった。


あのライトとかいう偽勇者がいたときは、どんなに深いダンジョンでも探索することができた。しかし、今は違う。照明係もいないのに深層階に潜ることは無謀だった。


どうしたらいいか悩んでいると、受付嬢のミナにある新米を紹介された。


「ギルドマスター様。俺と組んでくれませんか。俺は初心者のアポロンといいます」


その男は、若い金髪の優男だった。


「初心者だって?私たちは冒険者としてはAランクだぞ、身の程を知れ」


そういって追い払おうとするが、奴は私たちの前で指を一本立てる。すると、ポっとオレンジ色の灯が灯った。


「実は俺は、火魔法が使えるんですよ。照明係として役に立ちますから」


そう言われて、仲間たちも乗り気になる。


「いいんじゃないか?」


「ライトみたいに階層ごと明るくするなんてことはできないけど、贅沢は言えないしね」


それを聞いて、私も考えを改めた。


「いいだろう。だが分け前は私たちが9割だ。いいな」


「は、はい。俺は初心者なんで、冒険の経験を積ませていただけるだけでもありがたいです」


アポロンと名乗った男はそう言って卑屈に頭を下げてくる。こうして私たちは、新しくできたダンジョンに向かった。




「レガシオン様、頑張ってください」


「すごいお宝を期待しています」


冒険者たちは、ギルドマスター自らがダンジョンに挑むと聞いて、わざわざダンジョンまで見送りに来ていた。


「おう。帰ってきたら宴会だぜ!」


冒険者たちに手を振って、私たちのパーティはアポロンを先頭に、ダンジョンを潜っていく。


思惑通りこのダンジョンには宝箱が多く、トラップも仕掛けられていないので、どんどん先に進むことができた。


「おっ。またあったぞ」


仲間の一人が宝箱をあけようとすると、アポロンに止められた。


「ちょっと待ってください」


「なんだ?何か文句でもあるのか?」


私が咎めようとしたら、奴は真剣な顔をして宝箱をあける。シュッという音とともに、毒針が飛び出してくた。


「宝箱にトラップが仕掛けられていたのか!しかし、よくわかったな」


「はい。実は俺は『鑑定』も使えるので、怪しい宝箱はわかるんです」


アポロンは、照れくさそうに笑った。


なるほど。こいつは初心者ながらなかなか優秀なスキルをもっているらしい。冒険者ギルドのマスターとしては、ぜひ子飼いの部下にしたいところだ。


そういえば、以前私の部下だったライトは照明以外まったく役にたたなかったな。


「なかなか役にたつな。ライトとは大違いだ」


「ライトって、あの偽勇者ですか?もしかして知り合いだったんですか?」


アポロンが意外そうな顔で聞いてくる。


「ああ、あいつは魔法学園で魔法を学んでいたんだが、ちっとも身につかなかった。それで冒険者ギルドに連れてこられて、私たちのパーティにいれてやったんだよ」


今思い出すと、奴は本当に役立たずだった。いくら戦闘を繰り返してもまったくレベルアップできなかったので、常に私たちがフォローしなければならなかったのだ。


「そうよ。あいつのせいでどれだけ迷惑かけられたかわからないわよ。レガシオンなんか、あいつのせいで腕に傷をおったのよ。ほら」


セローナは私の袖をめくって、アポロンに見せる。そこには奴をかばってモンスターの攻撃を受けたときの古傷があった。


「ほんと、勇者の血を引く特別な人間だから守れって国に言われて、さんざんな目にあったわ」


「まあまあ、ちゃんと仕返しもしてやったじゃないか」


私がそういうと、仲間たちは笑みを浮かべた。


「仕返しって何をしたんですか?」


アポロンが知りたそうな顔をしたので、仕返しの内容を教えてやった。


「魔王が倒された後、奴はふたたびこの冒険都市につれてこられたんだが、以前とちがって奴隷に堕ちていた。だからこきつかってやったんだよ」


奴の『照明』の力を使って、今まで細かいところがわからなかったダンジョンを隅から隅まで捜索できた。おかげで相当数の未発見の宝を回収できたのは良かったと思う。


「それだけじゃねえぜ。飯を分けてやるのがもったいなかったから、ダンジョンのネズミとか蟲とか食わせてやった」


「あれは傑作だったよね。泣きながらゴキブリたべていたりして。さすがに気持ち悪かったわ」


私は仲間たちとギャハハと笑いあう。その話を聞いたアポロンは、心なしか顔を引きつらせていた。


「お前もあんまり調子に乗っていると、奴みたいになるぞ。間違っても俺たち高ランク冒険者に逆らうんじゃないぞ」


仲間たちがアポロンを脅しつける。


「は、はい」


奴がビビっているのを見て、私たちはこれからも奴を好きにこきつかえると確信していた。


「まあまあ。そう虐めてやるな。私たちに従って役にたっている限り、眼をかけてやるから」


私はギルドマスターとして、優しい言葉をかけてやった。


「は、はい。一生ついていきます」


ぐふふ。素直だな。こうやって新人を脅しつけて従わせていれば、私たち古参冒険者も安泰だ。


こうして奴を教育しながら、私たちはどんどん奥へともぐっていった。


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[気になる点] ギルド自体が落ち目なのにここから動向しながやどうやって追い詰めるかですね
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