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混乱

私はランディ。この商業都市オサカで成り上がりを夢見る商人である。


最近、オサカは何かと騒がしい。黒いローブの神官が現れて、さかんに偽勇者ライトの冤罪を訴えているが、そんなの正直どうでもいい。


国やお偉いさんが奴を偽勇者だと公言している以上、真実はどうであれそうなのだ。皆も同意しているしな。


だから私も皆と一緒に奴に石を投げてやった。


奴は「天罰が下るぞ」と負け惜しみして逃げていったが、その商業都市では金こそがすべての現実主義だ。天罰を恐れるよりも金稼ぎが優先される。


そんな俺は、さらに金儲けできるやり方を聞いた。


なんでも「クレジットコイン」とやらを買えば、さらに便利に商いができるらしい。


最初は半信半疑だったが、いつでも金貨に換金できる上、国の意向にかかわらず貨幣の価値が保たれると聞いて、試しにクレジットコインを買ってみた。


すると、貨幣間の交換レートに悩まされることなくクレジットコインで仕入れ・販売ができるだけではなく、その価値も徐々に上がっていった。


これは儲かると踏んだ私は、今までためてきた金貨をすべてクレジットコインに換えておく。私の思惑通り、その価値は何倍にも跳ね上がった。


私と同じようにクレジットコインを買ったものは全員が大儲けし、「実体がないものを買うのはちょっと」と金貨で資産を持っていた頭の固い商人たちは、麦や商品の物価が跳ね上がって金貨の価値が暴落したことで相対的に大損をした。


ふふふ。ご愁傷様だ。商人は情報がすべて。新しい時代に適応できない奴は滅びるんだよ。


焦った商人たちはますますクレジットコインを買い、その値段は跳ね上がっていく。いつしか、街内の商取引から貨幣が姿を消してしまった。


しかし、誰も不便を感じない。物を売るにも買うにも、カードを決済機にかざすだけで済んでしまうからだ。


もはや現金取引など古いぜ。これからは仮想通貨の時代になり、金貨など銀行の蔵の中だけに存在するものになるだろう。


にわか成金となった俺たちは、新たな金を生み出す神となったヨドヤ商会と取引し、さらに資産を拡大させていく。


このままいけば大商人への仲間入りも夢じゃないと思っていたある日、突然歯車が狂ってきた。


いつものように料理屋で食事した後、カードで支払おうと決済機にあてたとき、決済画面が表示されなかった。


「おい。おやじ。これはどうなっているんだ?」


「おかしいな。壊れたかな」


商店のおやじが決済機を叩いたりゆすったりしてみたが、「ただ今メンテナンス中です」という表示がでるだけで、カードでの決済ができない。


「すいませんね。どうも調子が悪いみたいです。現金でお願いします」


商店のおやじはそういうが、もちろん現金などもってない。


「……現金はもってない」


「なんだと?それならどうやって支払いするんだ」


とたんにおやじが怒り出すが、無いものはない。


「ちょっと待ってくれ。銀行にいって換金してくるから」


「いいや、信用ならねえ。そのまま逃げる気だろう」


そういっておやじは通してくれない。仕方なく、担保として身に着けていた指輪を置いていくことになった。


「まったく。あの業突く張りめ。たかが飯代の代わりに高価な指輪を要求するとは」


憤慨しながら店を出て、銀行に向かう。するとあちこちの商店から言い争う声が聞こえてきた。


「決済機が動かないんじゃ、クレジットコインで支払いできないだろう。現金で支払え」


「知るか!機械が壊れたのが悪いんだろうが」


中には取っ組み合いの喧嘩を始めている者たちもいる。


「ま、まずいぞ。もしかして、街中の決済機がこわれたんじゃないだろうか。もしそうなら。俺のクレジットコインはどうなるんだ?」


クレジットコインには実体がなく、ただカードと決済機の間でしか成立しない仮想のものである。その一方が壊れたとなると、その価値自体が失われる可能性があった。


「一刻も早く金貨に換えないと」


俺は大慌てで、クレジットコインを発行しているヨドヤ両替銀行に向かうのだった。




ヨドヤ両替銀行には、殺気立った庶民が押しかけてきていた。


「さっさとクレジットコインを換金してくれ!」


そう要求してくる庶民たちに、わが銀行の従業員たちは必死に説明している。


「ですから、決済機が動かない以上、換金はできません!」


「なんだと!ちゃんとカードに金額は表示されているだろうが!」


一番前の庶民が持っているカードを振り回す。たしかにそこにはクレジットコインの残高が表示されていた。


「ですから、その表示額が正しいかどうかは、決済機で判別しているんです。カードだけでは証明になりません」


「貴様!」


顔を真っ赤にしたその男は、その従業員の胸倉をつかんでゆさぶる。


ほかの庶民たちも、大声で騒ぎ始めた。


「最初から、俺たちの金貨を巻き上げる気だったんだな!この詐欺師め!」


そんな声が広がり、今にも暴動が起きそうになっていた。


これはあかん。銀行は信用が命や。詐欺師なんて悪評が広まったら、簡単につぶれてしまう。


そうおもったわては、仕方なく金貨への換金に応じた。


「わ、わかりました。それでは順番にどうぞ」


庶民を列に並ばせ、クレジットコインカードの残高に応じた金貨を払い戻しする。


しかし、あまりにも売りに出す者が多かったため、銀行に用意していた金貨はどんどんなくなっていった。


途中から交換レートを下げようとしたが、怒り狂った庶民たちには通用しない。


「レートを下げるだと!ふざけるな。俺たちだって列に並んでいるんだ」


「ヨドヤ両替銀行が責任をもって、前日のレートで買い取れ」


結局、高止まりしたままのレートでクレジットコインを買い取らざるを得なかった。


この時点で1クレジットコイン=金貨100枚まで跳ね上がっていたので、用意していた銀行の貨幣がどんどんなくなっていく。


「これはあかん。デンガーナ。屋敷の金庫から金貨をもってくるんや」


わてはなんとかこの場をしのごうと、ヨドヤ商会のためていた資産まで使って庶民たちを抑えようとした。


デンガーナに金庫のカギをわたす。


「わかった。おとん、ここは任せたで」


そういって娘は裏口から去っていく。


私は一刻も早く娘が戻ってくるようにと、冷や汗を流しながら窓口を眺めるのだった。




数時間後


ついに、銀行の金庫に保管していた貨幣が無くなってしまった。


しかし、換金を求める庶民の列は減るどころか増える一方である。


「ご覧ください。もう金庫にお金はありません。今日の営業は終了です」


従業員が声を枯らして説明しているが、金に狂った亡者どもは引き下がらなかった。


「ふざけるな!家族全員の財産をはたいてクレジットコインを買っていたんだぞ」


「おじいさんの薬代だけでも返して!


暴れまわる男や泣きわめく老婆など、その場は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。


「ええい。デンガーナはまだか!」


「お嬢様はまだ戻ってこられません」


疲れ果てたような顔の従業員がそう答える。


「何をしているんや!わかった。わてが直接屋敷までとりにいってくる。ここは任せた!」


わては従業員にその場を任せ、裏口からこっそり銀行をでる。


なんとか庶民たちに見つからず屋敷にもどったら、そこはもぬけの空だった。


地下にある金庫にも、一枚の金貨も入っていない。


「も、もしかして、わてを置いて逃げたんか?」


娘に置いていかれて、わては心の底から絶望する。


床に座り込んで嘆いていると、扉が開いて兵士たちが乱入してきた。


「あ、あんたら、何者や!ここはわての屋敷やで……ぶっ」


問答無用で殴り倒され、縛り上げられて連れ去られてしまう。


馬車に入れられて連れてこられたのは、何人もの男たちが集まっている部屋だった。


「ヨドヤさん。この度はとんでもないことしてくれましたな」


彼らは冷たい目でわてを見つめる。


クレジットコインを発行するとき、協力してくれた大商人たちだった。


「換金できない仮想通貨に価値などない。いまやクレジットコインは銅貨一枚の価値もない電子ゴミと化した。どう責任をとるつもりだ」


彼らはクレジットコインのカードを差し出しながら、説明を求めてくる。


「こ、これはわてのせいではおまへん。アポロンがだましたんや」


わては力の限り弁解したが、彼らを納得させることはできなかった。


「なら、そのアポロンはどこにいる」


「も、もうすぐわての部下たちがつれてくるさかい」


最後の希望を込めて説明したが、やつらは冷たく笑った。


「少し前に連絡が入った。オサカ港の沖合で、アポロンが借りた船が沈没したそうだ」


「な、なんやと……?」


もしや、奴が死んだせいで決済機に不具合が起きたのか!あの無能どもめ!あれだけ殺さずに連れてこいって命令したのに。


「アボロンが死んだ以上、責任はお前に取ってもらわないといかぬな」


大商人たちの後ろから、屈強な男たちがやってくる。それは国に認められた、借金取り立て人だった。


「えー。ヨドヤ商会が所有する屋敷・銀行・商店・船舶などをすべて合計しても、クレジットコインの清算には金貨100万枚ほど足りませんな」


「な、なんやて!」


あまりの巨額に、わては卒倒しそうになる。まさかクレジットコインがそこまで高値になっているとは思いもしなかった。


「足りない分は、鉱山で働いて返してもらう」


「ま、待て。そんな大金、100年働いてもかえせるもんかい!」


抗議するが、屈強な男たちに取り押さえられてしまう。


「つれていけ!」


こうして、わては財産を根こそぎ奪われて鉱山奴隷として売り飛ばされてしまうのやった。


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[一言] 娘さんはどうなったんですか?気になります。
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