表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/90

海賊

俺はアポロンの姿で、オサカの町をあるいていた。


「また今日もクレジットコインの値が上がったぞ」

「俺も全財産はたいて買う」


ヨドヤ両替銀行では、クレジットコインを求める人々が列を成していた。


近くの商店に行き、麦の値段を調べてみる。その値札には、金貨建てのものとクレジットコイン建てのものが書かれていた。


クレジットコイン建ての値段はたいして上がってないのに比べて、金貨建ての値段は先月の10倍にまで値上がりしていた。


「なんでこんなに値上がりしているんだ?」


俺の問いかけに、店主は憮然として答えた。


「仕方ないだろ。麦不足に加えて王国の金貨の改鋳だ。もはや金貨なんて価値はねえんだよ。くそっ。俺も早くクレジットコインを買っておけば、今頃大儲けできたのに……」


悔しがる店主をみて、俺は腹の中で笑っていた。


(そろそろ頃合いだな)


もはや金貨は信用されなくなって、実体のないクレジットコインがもてはやされるようになる。


すべてをひっくり返し、ヨドヤたちを破滅させる準備は整った。


(それじゃ、最後の仕上げといくか)


俺はアポロンの姿のまま、ヨドヤ両替銀行に向かった。



「アポロンはん。ようきなはった」


俺を出迎えたデンガーナは、気味が悪いほど上機嫌で接してくる。


俺は穏やかにクレジットコインのカードを取り出し、全額を金貨に換金することを求めた。


「せ、全額でっか?」


いきなりの話で、デンガーナが動揺する。


クレジットコインのカードと決済機の生産を握っている俺は、いくらでも残高を操作できる。俺の資産は金貨に直すと一千万枚にまで増えていた。


「ち、ちょっと待ってんか」


慌ててデンガーナは父親であるヨドヤを呼び出した。


「アポロンはん。こんな大金をうちから引き出して、どないするつもりや。あんさんとはいい関係を築いていけるとおもっとったんやが」


ヨドヤは傲慢な態度でにらみつけてくる。


すでに彼らは、預かった金を自分の金だと勘違いしているようで、金貨を俺に支払うのが惜しいと考えているみたいだった。


俺はその態度を責めず、誠意をよそおって説得する。


「いや、そろそろ国に帰って、父上に報告しないといけませんので。私の国ではまだクレジットコインが浸透していないので、金貨を持って帰って成果を見せないといけないのですよ」


「そやけど……」


「もちろん。父上を納得させたら、すぐに戻ってきてまた預金させていただきます。私がいない間は、クレジットコインの発行権をヨドヤ様に一任しましょう」


それを聞いて、ヨドヤも考え込む。


現在、クレジットコインの発行はヨドヤたち大商人と、カードと決済機を製造している俺との合議で決められていた。


俺という目の上のたんこぶがいなくなれば、ヨドヤは誰はばかることなく無制限に発行できるようになる。


「しかたありまへんなぁ」


しぶしぶと、ヨドヤは金貨一千万枚を持ってくる。


それは、銀行の総預金の半分を占めるほどの大量の金貨だった。


「これは持ち運びに大変そうだ。そうだ、ヨドヤ様が保管している、物を無制限に収納できる「勇者の道具袋」を貸していただけませんか?」


そう言われたとき、なぜかヨドヤの目がいやらしく光った。


「まあ、いいですやろ。その代わり、貸付料はキッチリ払ってもらいますで。親しき中にも礼儀ありや」


ヨドヤは欲深く要求してくる。俺は苦笑して使用料を払い、金貨1000万枚を袋に収納した。


「一か月後に戻ってきます。お元気で」


「あんさんも。気をつけておかえりなはれ。道中海賊などに襲われんようにな」


こうして、俺は商業都市オサカを離れる。


豪華な船を貸し切りにして港を出た俺は、不審な船が後をついてくることに気づいていた。


「ふふふ。浅はかな奴め。だがちょうどいい。久しぶりに大勢の人間の魂を吸収できそうだ」


俺はニヤリと笑って、夜になるのを待った。




俺たちは商業都市オサカを根城とする、ヨドヤ商会傘下の海賊団だ。


普段は商会のライバルになりそうな船を襲って生計を立てているが、最近は敵がいなくなり、暇を持て余していた。


そんな時、久々に主人であるヨドヤ様から指令が降りる。


「ホメロン国の王子が乗っている船を襲えばいいんですかい?」


「そうだ。奴が借りた船は、すでに船長以下すべてわての息がかかったものや。お前たちはゆうゆうと乗り込んで、王子を捕らえて道具袋を回収すればええ」


そういって、莫大な報酬を払う事を約束してくれた。


くくく、持つべきものは気前がいい主人だ。いつもの海賊行為と違い、乗り込む船の船長や船員が味方なら、一人の人間を捕らえることなんて赤子の手をひねるようなものだ。


私はターゲットが乗った船とひそかに連携を取りながら、オサカの街が見えなくなる沖合に出ると、静かに乗り込んだ。


「王子とやらはどうしている?」


船長に聞くと、彼はニヤニヤしながら答えた。


「船室で眠っています。ふふふ、不用心ですな。大金をだして私たちを雇ったことで、安心しているのでしょう」


そういうと、船長自ら船室まで案内してくれる。


「よし。下がっていろ。一気に捕まえるぞ」


仲間たちとともに剣を構え、ドアを開けてなだれ込む。


「オラァァァ」


気合を入れて部屋に一歩踏み込んだとたん、足元に光でできた魔法陣が浮かび上がり、ビリビリという音とともに激痛と麻痺が全身を駆け巡った。


「やれやれ。予想通りだな」


冷たい声が響くと、黒いローブの男がゆらりとベッドから立ち上がる。奴の体からは、光と闇が混じったようなオレンジ色のオーラが立ち上っていた。


「き、貴様は……」

「残念だったな。ヨドヤの考えなどお見通しだ」


そういうと、立ち尽くす俺たちを無視して部屋の外にでる。そこには、あっけにとられたような顔をした船長たちがいた。


「あ、アポロン様、ご無事で……?」


「ああ。ケガ一つしてないさ。侵入者はすべて捕らえた」


アポロンはそういうと、船長たちに向かって顎をしゃくった。


「何をしている。侵入者だぞ。お前たちは俺にやとわれているんだろう。さっさと殺せ」

奴は冷酷にも、俺たちを殺せと命令してくる。


「で、ですが……」


「それとも、お前たちもこいつらの仲間なのか?」


そう責められて、船長と船員は覚悟を決めた顔になる。


「わかりました。すぐに始末しましょう。お前をな!」


船長たちは、硬直している俺たちを刺すとみせかけて、一斉にアポロンに襲い掛かっていった。


しかし、大勢の船員たちが突き出したナイフは空を切る。


なんと、アポロンは宙を飛んでナイフを交わしていた。


「くくく……これでお前たちを殺す理由ができた」


アポロンは嬉しそうに笑いながら、その手からオレンジ色の剣を生み出す。


「新しい魔法を試してみよう。広域落雷魔法『エビルサンダー』」


剣から放たれたオレンジ色の雷が、船全体を駆け巡る。


俺たちは一人残さず床に倒れこんだ。



少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「更新がんばって!」と思ってくださったら、

ブックマークと広告下↓の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援して下さると嬉しいです


既刊案内


反逆の勇者と道具袋


挿絵(By みてみん)


https://www.cmoa.jp/title/1101158644/


貴族のお坊ちゃんだけど世界平和のために勇者のヒロインを奪います

挿絵(By みてみん)

https://www.cmoa.jp/title/1101157774/


無駄の従者にして闇の黒幕

挿絵(By みてみん)


https://www.cmoa.jp/title/1101234719/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=569357356&s
― 新着の感想 ―
[一言] 三ヶ所、アポロンの名前がアボロンになってました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ