野望
大商人ヨドヤとその取り巻きの商人は、仮想通貨「クレジットコイン」をアピールして多くの商人に参加を求める。
「金貨を仮想通貨「クレジットコイン」に替えておけば、価値を保てるどころか大儲けする可能性もある。なぜなら、我々商人そのものが管理が管理する、国の都合に頼らない通貨だからだ」
彼らの説明を受けて、度重なる国の貨幣改鋳にうんざりして金貨に信用を無くしていた商人たちは、興味を持つ。
「さらに、「クレジットコイン」で商取引すれば、すへての都市で共通レートなので、いちいち貨幣を両替する必要もなくなる。また、重たい金貨を運ばなくても、コインカードを決済機に触れるだけで支払いできるから、交易間のリスクも減るるぞ」
「すると、もう両替料を払わなくていいってことか」
「そのとおりだ」
それを聞いて、貨幣交換レートの違いに悩まされる交易商人たちが目を輝かせる。
「ぜひ、俺たちも参加させてくれ!」
こうして、クレジットコインの価格は本来の価値を超えて上昇していくのだった。
わてはヨドヤ。一代で王国最大の商人になりあがった男や。
やがてはわてが王国の実権を握って、王や貴族などお飾りの存在にしてやる。
そんな野望を持っているわては、娘を勇者の元に送り込んで篭絡しようと目論んだが、あてがはずれたみたいや。
わての娘も可愛いが、国一番の美女といわれる聖女マリアや、愛らしく上品な姫と名高いシャルロット姫と比べると、いささか分がわるかったらしい。
娘デンガーナは、勇者からは役に立つ道具としか思われてへんで、冒険の旅が終わったらお払い箱になってもうた。
まあ、一度や二度は抱かれたみたいやが、奴を篭絡するには役不足だったちゅうことや。
仕方ないのでわてが経営している銀行で働かせていたら、なかなか役にたちそうな男を捕まえてきた。
ホメロン国とかいう聞いたこともない国の王子だと名乗るそいつは、いきなり大金を預けてきて、金儲けにつながりそうな情報を伝えてくれた。
普通なら怪しいと思うところだが、娘の「鑑定」で調べても怪しいところはないし、預けた金貨も本物やった。
それで信用して食料を買い占めたところ、すぐにコルタール地方の壊滅の噂が広まって、麦の価格が暴騰した。食料不足の上にあての買い占めが重なり、貧乏人たちは食うに食えず苦しんでいるらしいが、知ったことやない。
濡れ手に粟で大儲けしてホクホクしているところに、奴はさらに魅力的な提案をしてきた。
そうや。奴の言う通り国に頼らず、わてら商人が勝手に創った仮想通貨を庶民どもにつかわせればいいんや。
しかも光の魔石を利用すると、貨幣の現物さえ作る必要がなくなり、単なる映像記録が実際の価値をもつようになる。
つまり、発行者であるわてら商人は自由に好きなだけ金を生み出せるようになるんや。
そうおもったわては、さっそく奴に協力して仮想通貨とやらを作り出す。
「え?金貨で払ってもらえないんですか?」
「そうや。これからの取引はすべて「クレジットコイン」で行う」
わてら大商人が手を組んで、下請けや取引先に無理やり仮想通貨を受け取らせる。
中には反抗しそうになる奴もいたが、取引停止や麦を売らないと脅しつけるとみんな従った。
そうやって取り扱い先を増やしているうちに、だんだん金貨よりクレジットコインのほうが価値を持ち出す。
「ぜひうちにもクレジットコインを売ってください」
クレジットコインの需要が増えるに従い、最初は一クレジットにつき金貨1枚の交換レートだったのが、今では金貨10枚にまで値上がりしていた。
そうなると、黙っていても価値が暴騰してくる。
「俺にも売ってくれ」
「私にも!」
商業都市オサカの住人は、上は大商人から下は労働者階級の庶民まで、ためた現金を銀行にもってきてクレジットコインに換えた。
「がーーーっはっはっは。庶民とは何て愚かなんやろ」
「ほんまですなぁ。奴隷も同然や。せいぜいうちたちに金貨を貢いでもらいまひょ」
娘と二人で笑いあう。わてらが勝手に創りだした元値タダの実体がない仮想通貨を、金貨を出して買う愚か者たちがおかしくて仕方なかった。
「この調子なら、国中の金がわてらの元に集まってきまっせ」
「うちたちがこの国の支配者や」
わてらの国の実権を握るという野望は、あと一歩のところまで来ていた。