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信用(クレジット)

応接室に入ってきた若い男を見て、デンガーナのテンションがあがる。それは金髪のふさふさした髪を持つ、美青年だった。


「はじめまして。私はアポロンと申します。ホメロン国の王子です」


アポロンとなのった男は、完璧な王国語を話した。


「お、王子様?これは失礼しました。あ、うち、いや私はヨドヤ両替銀行のオーナーの娘。デンガーナと申します」


必死に上流階級のお嬢様を装って、挨拶をする。アポロンと名乗った男は、優しい笑みを浮かべた。


「ご高名はうかがっております。世界を救った勇者様の鑑定士を務めたお方だとか」


アポロンは優雅な仕草で、デンガーナの手の甲にキスする。その時チクっとかすかな痛みを感じたが、デンガーナは気にしなかった。


「ふふっ。いつもどおりのしゃべり方をしてください。そのほうが好感をもてますので」


「そ、そうやろか?だったら失礼して、楽に話させてもらいますわ」


デンガーナは友好的な笑みを浮かべ、ソファを進めた。




(くくく。やったぞ。奴の「鑑定」の力を阻害する呪いをインストールできた。これでうまくあやつれる)


アポロンと名乗った美青年ー俺が『幻影』で姿を変えた男は、ひそかに腹の中で舌をだす。


光の魔力をつかって相手の魔法を阻害する電気信号(ウイルス)をつくりだし、接触によって感染させるという作戦は見事に成功した。


(先に「鑑定」を使われたらやばかったが、この女、好みの美形に出会って油断していたな)


俺の思惑通り、デンガーナは楽しそうにうきうきしている。


「それで、あの、預金してもらえるとか」

「そうでした。これを」


俺は持ってきたバッグを開けて、中身を取り出す。キラキラとした金貨が、テーブルいっぱいにぶちまけられた。


「こ、こんなに……」


さすがの大富豪であるデンガーナも、多額の金貨をみて驚いている。


(くくく。うまくいったな。本当は銅貨に『幻影』をかけて金貨に見せかけただけなのに)


これは今まで村や町から奪ってきたものである。


「「鑑定」してもかまへんか?」

「ええ、どうぞ」


デンガーナは「鑑定」を使って、金貨が本物であるかどうかを査定するが、先ほど感染させられた呪い(ウイルス)によって、鑑定結果が歪められる。


「すごい。これは400年前勇者ライディンが魔王を倒した時、記念として発行されたライディン金貨やないか。でも、なぜこんなにたくさん?」


「そうなのですか?実ははるか昔、わがホメロン国は貴国と貿易していたらしいのです。その時に贈られたものらしいのですが……まだ使用できますでしょうか?」


不安そうな表情を作って問いかける俺に、デンガーナは狡猾そうな視線を向ける。


「そ、そうなんや。まあ、今じゃ使われてない金貨やけど、金が含まれているのは事実やから、今の金貨と同じレートで預金してやるわ」


ちなみに、レートで言えばライディン金貨は今の金貨の100倍のプレミア価値を持つ。デンガーナの顔には、世間知らずの金持ち王子様を騙してやろうという欲が浮かんでいた。


(ふふふ。バカめ。せいぜい俺を甘くみていろ)


こうして、偽物の金貨は本物として預金されてしまうのだった。


うれしそうなデンガーナに、俺はさらに告げる。


「あと、お近づきの印に、おひとつ耳寄りな情報を」


デンガーナの耳に口を寄せて、小さな声でささやいた。


「偽勇者ライトの反乱により、コルタール地方が壊滅しました。今年の麦の相場が跳ね上がりますよ」

「ほ、ほんまか?」


金儲けが好きなデンガーナは、食い入る様に聞いてくる。


「ええ。私の言っていることが正しいかどうか、「鑑定」で確かめてみられては?」


そういわれて、デンガーナは俺に鑑定魔法をかける。「この情報は正しい」と出て、彼女の顔はにやついた。


「ええ情報教えてくれておおきに。これからもよろしくお願いしますわ」

「ええ、いずれお父上にもご紹介していただきたいものです」


俺とデンガーナは堅く握手を交わす。こうして俺は相手の懐にもぐりこんだのだった。




一か月後


俺は大商人ヨドヤが開いた、大商人たちの交流パーティに招待されていた。


「いや、ほんとおおきに。いち早くコルタール地方が壊滅したという情報を手に入れたおかげて、麦を買い占めることができて大儲けですわ」


大商人ヨドヤは、太った体をゆすりながら満足そうにわらった。


「いえ。今後は我が国も王国と取引を開始したいと思いますので、ぜひおとりなしを」

「わかってまんがな。いい関係を築いていきまひょ」


ヨドヤはすっかり俺を信用したみたいで、馴れ馴れしく手を握ってきた。


頃合いを見て、俺はある話を持ち掛ける。


「そういえば、王国はまた貨幣を改鋳するみたいですね。王城と取引している商人が新金貨で支払われたとか」


俺が水を向けると、ヨドヤは渋い顔になった。


「ほんまですわ。いい加減にしてほしいものです。どうせ、また金貨の質を落として貨幣量を増やそうとしておるんでしようが……」


ヨドヤはため息をつく。魔王が倒されて、確かに世界は平和になった。しかし、モンスターによって与えられた被害はすぐには消えない。


疲弊した村々の復興資金に加え、いまや救世主となった勇者光司が好き放題に浪費しているので、国家財政は疲弊の極に達しようとしていた。


困った王国は、旧金貨を改鋳して質を落とし、金貨の数を増やして予算を捻出する。そのとばっちりをうけるのは、国と取引している大商人たちだった。


国との取引で以前と同じ額面の新金貨を支払ってもらったとしても、金の含有量が減っている以上、その価値は激減する。大商人たちにとっては、不当に金を巻き上げられているも同然である。


ヨドヤの王国への不満を見て、俺はある提案をした。


「そろそろ、われわれ商人たちも防衛策を練ったほうがいいかもしれませんね」

「ほう。その防衛策とは?」


ヨドヤは興味深そうな顔をして、食いついてきた。


「貨幣は常に偽物をつかまされるリスクがあります。また、本物であっても、いつの間にか改鋳されて、中に含まれている金の量を減らされてたなんてことが頻繁にあります」


俺の言葉に、ヨドヤをはじめといるパーティに出席していた商人たちはうなずく。それぞれ痛い思いをした経験があるからである。


「だから、我々商人の間で、国に頼らない新たな通貨を創って共有するのです」


俺は詳しいプランを話し始めた。


「なるほど……商人たちの間だけで通用する、仮想通貨どすか」

「商人の間でお互いにその価値を保証しあえば、うまくいくかもしれませんな」


商人たちが乗り気になったので、俺は技術的な提案をする。


「光の魔石を使えば、貨幣をデータの形で保存することができ、決済も簡単にできます。そのための道具は私が提供しましょう」


俺は光の魔石で作ったクレジット決済機とコインカードを提供すると約束する。


こうして、仮想通貨『クレジットコイン』が誕生することになったのだった。


少しでも




「面白い!」




「続きが気になる!」




「更新がんばって!」








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― 新着の感想 ―
[気になる点] ただの農民が仮想通貨を考えたりできるかな? 王都に来てからだって武術だけで経済についてなんて勉強させないよな?
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