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磔刑

執務室で報告を受けた私は、怒りのあまり持っていたペンを取り落とした。


「アリシアが、ライトに殺されただと!」

「はっ」


報告をした騎士団長も、悲痛な表情を浮かべている。アリシアは美しく心優しい少女で、城内の誰からも好かれていた。


「なぜだ!なぜアリシアを殺す必要があるのだ。アリシアに何の罪があったというのだ!」


「……わかりません。ですが、奴は色仕掛けなど通用しないとほざいていました」


ばかな!何が色仕掛けだ。アリシアにそんな気など欠片もないことぐらい、いくら奴が堕落してもわかるはずだ。


それとも、アリシアの真心すら理解できないほど、奴の心は復讐心に染まってしまったということなのか?


「アリシア……おお、アリシア。心清きわが娘よ。お前を使者になどするのではなかった」


私はアリシアを使者にしたことを後悔する。正直言って、交渉で奴の復讐が止まるとは思っていなかった。


それでも私が送り出した本当の理由は、アリシアに生きていて欲しかったからだ。私の手元に置いていたら、確実に復讐に巻き込まれてしまう。彼女に罪がないことを知っているライトなら、アリシアを見逃してくれると思っていた。


しかし、その思惑ははずれ、アリシアは無残に殺されてしまった。


「おのれ、ライトめ。この手で縊り殺してやる」


今までは奴の復讐に対して、罪悪感があった。後ろめたさがあった。最悪、殺されても仕方ないと思っていた。


だが、奴はとうとう越えてはならない一線を越えてしまったのだ。


「どんな手段をとってもいい!奴を殺せ!」


「はっ……ですが、その前に領民の反乱に対処しなければなりません。交渉が不可能なことを知った民たちが、城に押し寄せています」


それを聞いて、私は初めて外から聞こえる民衆の声に気づいた。


「公爵を差し出せ!俺たちが助かるには、それしかないぞ」


城に押し寄せる何百人もの声が、怒涛のように聞こえてくる。


「これが民の本性か……助かるためには、主人である私も売るのか……私が今まで奴らを守ろうとしてきたことは、なんだったんだ……」


民への絶望とともに、奴らを救おうとしてきた己の愚かさに怒りを感じる。


「あの……いかがいたしましょうか」

「……殺せ」

「は?」


騎士団長は、私が言った言葉を理解できなかったのか、聞き返してくる。


「どいつもこいつも殺してしまえ!ライトに味方する奴は全員悪だ!女子供だろうが容赦するな!」

「は、はいっ!」


騎士団長は、はじかれた様に走り出していく。私も執務室に飾ってあった先祖伝来の剣を手に取った。


「ライト……殺してやる」


もはや、この憎しみをぶつけられるなら誰でもかまわない。私は怒り狂う民衆の間に、切り込んでいった。




「うっ……私は、まだ生きているのか?」


気が付けば、私はバルコニーに一人でいた。周囲には民衆の死体とともに、最後まで忠実に私を守ってくれた騎士団長の死体がある。


「いったい、あれからどうなったんだ?」


辺りは静まり返っていて、さっきまで響き渡っていた民たちの怒号も聞こえてこない。どうやら、城に入ってきた暴徒たちの撃退に成功したようだった。


「わが忠実な兵士たちは……どこだ」


よろよろとよろめきながら、バルコニーにたって城下を見下ろす。美しかった城下町はところどころ火の手があがり、あちこちで兵士たちの死体が焼かれていた。


「うっ……」


あまりに凄惨な光景に、私は吐き気をもよおす。


「これが……これが私の選択の結果なのか。私はどうすればよかったのだ」


私はバルコニーの手すりにつかまって懊悩する。


私は正しい選択をしたはずだった。勇者光司や国王の言葉に従ってライトを陥れることに協力しなければ、難癖をつけられてコルタール領が責められていたかもしれなかった。


無力な農民一人とコルタール領すべて、どちらを領主として守るか、誰の目にも明らかなはずだ。私は間違っていない。


「てめえの事情なんて、知ったことか」


冷たい声が響いて、私は顔を上げる。目の前の空中に、憎いライトが浮かんでいた。


「領主の事情も、てめえらの上から目線の自己正当化もどうでもいい。俺はただ理不尽を押し付けられて、それをはねのけただけだ」


「理不尽だと!」


ライトの言葉が、私の心に再び怒りをたぎらせた。


「貴様のその我儘のせいで、どれだけの人間が理不尽に死んでいったと思うのだ!貴様一人が我慢していれば、こんなことにならなかったのだ!」


私は魂をこめて弾劾したが、ライトは冷たく笑うのみだった。


こみ上げる怒りを抑え、ライトをさらに責め立てる。


「……100歩譲って、私が復讐されるのは仕方がない。だが、なぜ罪もないアリシアまで殺したのだ」


それを聞いたとたん、ライトの顔が怒りと悲しみにゆがんだ。


「きまっているだろう。貴様の娘だからだ」


「バカな!娘に何の関係がある!」


「では、なぜ俺の両親と妹は殺されないとならなかったんだ」


ライトの問いかけに、私は心臓に冷たい杭を打たれたかのような衝撃が走った。


「……新たな勇者が存在する以上、旧い勇者の血筋は邪魔だからだ……」


「そんなくだらない理由で、俺の家族を殺したのか……」


ライトの顔がますますゆがんでいく。


「家族さえ殺されなかったら、俺は復讐するにしても当事者のみにとどめただろう。争いをそこまで拡大させた、お前の自業自得だ」


「貴様!」


私はライトに心底恐怖を感じた。こいつはすでに狂っている。放置しておけば、何百万人もの罪のない無辜の民が殺されるだろう。まさに第二の魔王だ。


「許せん!貴様は私が、今ここで殺してやる!」


私は我を忘れて、バルコニーから身を乗り出してライトにつかみかかる。奴の黒いローブに触れたと思った瞬間、私の手は空をつかんだ。


「残念だが、この姿は実体ではなく電子体だ。勇者の能力の一つ「電化(サンダーフィギュア)」。己の体を電子に変換すれば、空を飛ぶことなどたやすい」


ライトの言葉を、私は落下しながら聞いていた。


すさまじい衝撃がつたわり、全身の骨が砕ける激痛がする。地面に激突した私を、武器をもった民衆が取り囲んだ。


「公爵だ」


「こいつがすべての原因だ。処刑しろ!」


怒り狂った民衆が、私を十字架にかける。足元に薪がつまれ、火がつけられた。


「死ね!死ね!お前さえ死ねば、みんなが助かるんだ」


民衆の声を聴きながら、私は自らの愚かさを自覚していた。


(彼らは……私と同じだ。誰かを生贄にして、自分だけ助かろうとしている……醜い)


自らが生贄にされる立場に立って、初めてライトの気持ちを理解することができた。


(私がわる……かった)


しかし、私の謝罪の声は炎にかき消されて、誰の耳にも届かないのだった。



俺は公爵の処刑を見届けると、そのままコルタールの町を離れようとした。


「待ってください。これで俺たちは許してくれるんですよね」


俺を見上げて、町の民衆が騒ぎ立てる。


「ああ、あとは好きにしろ。もっとも……」


俺はそこで言葉を切って、ニヤリと笑う。


「この封鎖された都市から出るのは、苦労するだろうけどな」


「そんな!俺たちにどうやって出ろっていうんですか!」


民たちが抗議の声を上げるが、俺は冷たく見捨てる。


「知らねえよ。城壁から縄梯子やロープで降りるなり、勝手にするがいい」


俺はそういって、次の目的地である商業都市オサカに向かう。


そこは大商人の自治が認められてる港町で、全世界から交易品が集まっていた。


王国では、主に魔法を封じ込めた魔道具を特産品としている。また海外からは、ドワーフやエルフなどの他種族が奴隷として輸入されて、他の都市に連れていかれていた。


「俺はここで大商人ヨドヤに、何週間も金儲けのためにこきつかわれたんだよな……」


思い出すと、怒りが沸き起こってくる。


『復讐の衣』の中に存在する、歴代魔王の復讐の歴史を参考に、やつらにもっともふさわしいやり方を学んだ。


「決めた。ヨドヤとその娘。デンガーナには全財産を失わせて破滅させてやろう」


俺はそう決めると、商業都市オサカに潜入していった。



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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり冤罪までは我慢できても家族を皆処刑にしたのは致命的だね。特に妹のシャインが処刑されたのはライトにとっても筆舌にしがたい苦痛だっただろうに。
[一言] よう見たら淀屋橋と大阪でんがな
[一言] 罪のない娘の死を嘆く資格はないよね。罪のない主人公の両親や妹を火刑にて処したんだから。そこに罪悪感を抱いてなかった時点でズレてる公爵さんはどうしようもない。
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