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第八話 冒険者ギルド


 道中、エミリアと意気投合した俺は、しばらく歩いた末に街へ辿り着いた。

 アベルに毒を盛られたのは六月の二十八日。

 実に二ヶ月ぶりの街は、なんだかとても懐かしい気がした。


 ダンジョンで手に入れた素材を売り払い、身支度を整えるための金を手に入れる。

 ウォーターボールでなるべく汚れを落としていたとはいえ、薄汚れていた俺は公衆浴場で身体を洗う事にした。

 ポチは大きいので、街の外でお留守番だ。


 エミリアと一旦別れ、俺は手早く着替えを近くの店で買ってから身体を洗う。

 手持ちの金で床屋に入り、伸び切った髭を綺麗さっぱり剃って髪も短くした。


 さっぱりした身体はやはりいい。心まで洗われた気分になる。

 外に出ると、何故かエミリアが俺を待っていた。

 俺を見つけると笑みを浮かべた。


「うむ、なかなか知的な外見をしているじゃないか。『映え』るな!」


「『映える』……?」


「こちらの話だ。気にしないでくれ」


 首を傾げる俺を他所に、エミリアは機嫌が良かった。

 一緒に冒険者ギルドへ行こうと誘われ、特に断る理由もなかったので承諾した。


 宿代を確保する為、次は冒険者ギルドに立ち寄る。


 広いホールには、依頼を貼る為の掲示板やめぼしい依頼を探す駆け出し、待ち合わせを待つ熟練の冒険者たちが壁際にいる。

 エミリアという綺麗な女性を連れているから目立つのも仕方ないが、ジロジロと不特定多数に見られるのはあまり気分が良くない。

 ここで表情に出すと『絡まれる』ので、俺は澄ました顔で受付のカウンターに向かう。


「エミリアさん、俺は少し時間がかかるかもしれないから先に済ませてくれ」


「ああ、分かった。では、お言葉に甘えて報告させてもらおう」


 依頼達成の報告をする背中を見守りながら、俺はエミリアの髪型についてぼんやりと考えていた。


 てっきり下ろしていると思っていた髪は、どうやら上半分だけ編み込んでいるらしい。

 初めてフィオナとデートをした時、白いワンピースにその髪型をした彼女とピクニックしたものだ。

 帰り際、突然の雨を寸前で回避できて安堵した思い出がある。


 そんな事を考えていると、俺の背後からふらりと一人の冒険者がエミリアに近づく。

 無精髭に長い髪、それと仕事帰りなのか魔物の血がこびりついて乾いた不愉快な匂い。

 エミリアの応対をしていた職員がその冒険者を見てさっと顔を青褪めさせた。


 なにやら嫌な予感がして、俺は冒険者に声をかける。


「割り込みはやめてもらえるだろうか。マナー違反だぞ」

「あん? なんだ、テメェ」


 冒険者が振り向いた。

 ジロリと睨みつけながら、俺を上から下まで眺め回し、最後に顔を見て「ケッ、魔術師ふぜいが偉そうに……」と吐き捨てる。


「新人か? なら教えておいてやる、俺はCランク冒険者のグレッグだ。ここは実力さえあれば、割り込みしても許されるんだよ」


「そんなルールはない。出鱈目を言うな」


 俺がばっさりとCランク冒険者の先輩面しているグレッグの言葉を切り捨てると、彼はピクピクと眉を痙攣させながら俺に詰め寄ってきた。


「少し魔術が使えるからって調子に乗るんじゃねぇぞ、クソガキ! 痛い目に遭わせてやる!」


 拳を振りかぶるグレッグの背中越しに、焦った表情の受付嬢と振り返って目を丸くしたエミリアの顔が見えた。


 振りかぶった拳で俺の顔面をグレッグが殴りつける。

 バキッ、と骨と肉がぶつかる音が冒険者ギルドに響いた。


 数拍遅れて、グレッグの苦悶に満ちた声が食いしばった歯から漏れる。


「イ゛デェ!? なんだ、その硬さは……!?」


 ポチの炎を防いだ『竜鱗(ドラゴンスケイル)』には劣るが、持続時間を追求した防御力を増やす魔術を使っただけだ。


「『カルメルタザイト』ーー天より飛来したという硬い鉱石の仕組みを解析して魔術で再現させた」


 卒業研究で開発した魔術なだけあって、思い入れの深い魔術である。

 開発者の俺から言わせれば、『竜鱗(ドラゴンスケイル)』と比べて熱や薬品に対する抵抗力は変わらないのでまだまだ改善の余地はある。

 いつか無敵になる魔術を開発したいところだ。


「拳の威力は申し分ないが、S級ダンジョンで遭遇したビッグボアのタックルには劣るな」


 とりあえず、いきなり殴りかかってきたグレッグに当て擦る。


「な、なに……!?」


 グレッグは顔をしかめた。


 無用な争いは面倒なので、俺は冒険者カードを取り出して顔写真とランクだけ見せる。

 隠すことはできるので、名前を知られることはない。


「Bランク、だとっ!?」


 グレッグが歯を食いしばる。それはもうギリギリと鳴る程に。


 俺はじっと彼の言葉を待つ。

 フィオナ曰く、『冒険者は他人から圧力を掛けられると反発するけれど、自分から折れた場合は距離を取る。なるべくなら当事者同士で解決した方が揉めにくいことが多いよ……まあ、全員がそうだとは限らないけどね』とのこと。

 なんでも冒険者というものは面子でやっていく仕事で、男であれば尚のこと気にするらしい。引き下がるのにも相応の理由が必要なのだとか。


 しばらく悩んだ末、


「チッ、覚えてろよ」


 捨て台詞を吐いたグレッグは、俺を睨みつけながら冒険者ギルドの外へ出て行った。

 一応、穏便(?)に事が済んだ。受付嬢が介入してくる事態にならなかったようで一安心だ。

 話を再開する二人を見ていると、俺の後ろに並んだ若い冒険者に話しかけられる。


「アンタ、すげぇな。あの男、ここじゃ厄介者として有名なんだぜ」


「そうなのか。久しぶりにここへ来たから、そんな冒険者がいるだなんて思わなかったな」


 数ヶ月も経てば、所属している冒険者の質がガラリと変わる。流動の激しい冒険者業は、季節や時期に合わせて狩場を変えるからだ。


「王都でやらかしたらしい。アンタ、夜道には気をつけておけ」


「忠告に感謝する」


 そんな会話をしていると、俺の番が回ってきた。

 感じのいい若い冒険者に見送られながら、俺は受付カウンターの前に移動した。


 受付嬢は上下を緑色の制服で統一している。胸につけた白い羽が冒険者ギルドの職員であることを示している証だ。

 接客業特有の微笑みを浮かべながら、彼女は問いかける。


「ご用件をお聞かせください」


「二件ありまして、一つ目は死亡届の取り下げとダンジョン攻略の達成です」


「かしこまりました。冒険者カードの提示をお願いします」


 冒険者カードを受け取った受付嬢は、テーブルに埋め込まれた水晶にかざす。

 ぼんやりと幻影が浮かび、受付嬢が頭部に装着していたサークレットが緑色に光を発した。


 噂によれば、水晶とサークレットはどれもダンジョンで生産されたもので、情報伝達に特化した装着型らしい。

 商会や政治にも運用されているとかなんとか。


 何かの情報を受け取った受付嬢は、表情を変えずにカードをカウンターの上に置く。


「……奥の部屋で支部長がお待ちです。どうぞ、カウンターの奥へお進みください。カードをお返ししますね」


 カウンターの扉を開け、奥の扉を示した。

 冒険者カードを受け取った俺は頷いて、奥の部屋を目指した。

ポチ(しばらく外でお留守番かあ……)

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― 新着の感想 ―
[一言] 続きが楽しみです!
[一言] さて、ギルドマスターはルークに何を語るのか、まぁ何を言ったとしてもルークの事だ、何言われてもまたご都合解釈するんだろうな…
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