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第三十話 サキュバスとの同盟と勝手に配下になったイグニス

遅刻しましたが毎日投稿です


「ちょっとー!!」


 窓の外からガンガンと叩く音がする。

 俺は舌打ちしてため息を吐いた。


 せっかくフィオナと良い雰囲気になったと言うのに、サキュバスクイーンのエリザベスが邪魔してきた。

 先ほどの雰囲気をもう一度作ろうにも、フィオナは既に俺の腕のなかから逃げて来客用のお茶を準備していた。


「何のようだ?」


「いやね、“サバト”を途中で抜けたじゃない? だから、その結果を教えてあげようと思って」


「それでわざわざクイーン自ら出向いたと?」


 窓の向こうでエリザベスが頷く。

 翼に魔素を循環させて反重力エネルギーを生み出しているので、動かす必要がないのだ。


「悪魔族とダークエルフは来月に戦争をすることになったの。それで、どちら側の味方をするのか聞きに来たの〜」


「戦争か。それは面倒だな」


「お姉さん的にはフィオナちゃんと君が仲間になってくれると嬉しいなあ。可愛い子を殺すのは嫌なの」


「すぐに結論は出せない。考えさせてくれ」


「三日以内に返答をちょうだいね。良い返事を期待してるわあ」


 俺が追い払う仕草をすると、エリザベスはあっさりと引き下がって空の向こうへ消えていった。


 他の候補者同士が争うのは構わないが、巻き込まれるのは勘弁だな。

 いや、むしろチャンスか?

 予め恩を売っておけば、勇者アベルと王国に対抗するための同盟を組めるかもしれない。


 問題は誰と組むか、だが……。


「フィオナから見てモーガンとエリザベスはどうなんだ?」


「個人的な見解を述べるなら、モーガンと交渉するのは難しいと思う。ダークエルフだから、上下関係に厳しくて一度でも下になってしまうとそこから関係を変えるのは難しい」


「ラザールが負けたっていう話が過去にあったな。もしかして、リカルドが戦争に行っていたって言うのはそれ絡みか?」


 フィオナは茶を片付けながら頷く。

 俺は向かいのソファーに座って、解毒を済ませた茶を啜った。


「モーガンの命令にラザールは逆らえなかったみたい。よくエリザベスとの領地争いに駆り出されていたようだね。エリザベスは、王国の教会とも争っているよ」


「なら、今回はエリザベス側についた方が良さそうだな」


 俺は吸血鬼と人狼からの好感度を考えた結果、モーガンに従うのは得策ではないと考えた。

 いくら力による圧政が早いとはいえ、謀反や反乱は少ない方が良い。ラザールとは違うことをアピールできる。


「リカルドやムギにも相談してみるか。王国との交渉もあるしな」


 もうじき王国から返答が来るはずだ。

 俺は冷めた茶を飲み干し、ソファーから立ち上がった。





 次の日の朝、俺の招集に応じたリカルドとムギの二人がやって来た。


 さっそく昨日の出来事と俺の考えを相談してみたところ、リカルドは尾を振りながら歯を剥き出しにする。


「次の相手はモーガン卿! それは良いですね、かのダークエルフには部下を失った報いを与えたいと思っていました!」


 やはりモーガンに対して思うところがあったらしい。

 リカルドの賛同を得たところで、俺はムギの方を見た。


「一ヶ月ほどあれば魔術師団を形にはできる。だが、急拵えだから品質は保証できない」


 ブロンズの作ったミルクセーキを飲みながら、ムギは尻尾をゆらりと動かした。

 出来ると言わないあたりがムギらしい。彼は学業は疎かにするやつだったが、不良集団に所属しながら冒険者として稼いでいたらしい。


「エリザベスも俺たちにそこまでの戦力は期待していないだろう。魔術師団はあくまで後衛かつ支援として運用するならどうだ?」


「それなら一ヶ月で形にできる。支援魔術ならば、攻撃魔術よりも術式は複雑だが、必要とする魔力は少ないから訓練のペースをあげられる」


「ならそれで頼む」


 ミルクセーキを飲みながらムギが頷く。


 こうして見てみると、獣人と人狼はあまり変わらない。分類上は聖族と魔族で違うのだが、二人とも二足歩行の獣と表現する姿形をしているので似ている。

 だからこそ、かつては獣人に対して差別が横行していたらしい。


「これからエリザベス側で戦うことを想定して行動してくれ。何か必要なものがあったらこちらで用意しよう」


 部屋を退出する二人の背中を見送る。

 入れ違いになるようにベンが姿を現す。


「ルーク様、王国からの使者を名乗る方から手紙を預かりました。ご覧になりますか?」


「ああ。使者はどうした?」


「お帰りになられてしまいました。引き留めたのですが、武装していましたので……」


「下手に戦闘になってもややこしくなる、返して正解だ。まあ、まずは手紙を見てみるか」


 俺はベンから受け取った手紙に施されていた罠の魔法陣を解除して、中身に目を通す。

 目を通して、俺は眉間を押さえた。


 俺が王国に要求したのは、イグニスの身柄を返還する代わりの金銭と食料。貴族一人と比べれば、破格とまではいかなくても比較的安いものだ。

 俺が受け取った手紙には『王国は魔族の卑劣な脅しに屈しない。散って行った息子イグニスのためにも我らは最後まで戦う!』というもの。

 イグニスが死んだことになっている時点で苦笑いするしかなかった。


 ……王国に潜り込ませた間者によれば、内乱でそれどころじゃないらしいが大丈夫なんだろうか。


 イグニスに手紙を見せたところ、彼はがくがくと震えながら『待ってくれ、これは何かの間違いなんだ。僕にはまだ利用価値があるから殺さないで!!』と叫んでいた。

 本人から聞いた話から推理すれば、イグニスは貴族の三男なので実家が本腰を入れて救出するほどの価値はない。とはいえ、親ならば子供を助けようと思うのだが……。


 ふと廊下をローラが歩くのが見えた。どうやら最近はムギにちょっかいをかけているらしく、ミルクセーキを飲んでいる彼の周囲をうろちょろしている。


 親の形は人それぞれだ。子供を愛している親なんていうのは存在しないのかもしれないな。


「ルーク様! 僕、目が覚めました! 【悪と混沌の神】に忠誠を誓います! だから殺さないで!!」


 俺の沈黙を誤解したイグニスが、泣き叫びながら宗教を変えた。あっと声をあげるより早く、『従属契約』の魔法陣が彼の額に浮かぶ。

 黒い魔力を迸らせながら、イグニスの身体がみるみる変わっていく。


 細い体は筋骨隆々に、皮膚は毒々しい紫色に変わり、平凡な茶髪が赤褐色へ変貌する。

 どこからどう見ても魔族の外見だ。秘宝の首輪はそのままだ。


「うおおおお!! これが、新しい僕……?」


 己の顔をペタペタと触り、部屋に設置した鏡を見たイグニスが俺に片膝をつく。


「ルーク様、ありがとうございます! 誠心誠意、忠誠を誓わせていただきます!!」


「え、ええ……? いや、うーん……」


 これは困った。

 イグニスの外見が変わってしまっては、人質として囲っておく理由がない。かといって、このまま王国へ突き返せば教会の連中に始末されるだろう。


 俺がイグニスの変貌ぶりに困り果てていると、魔力を感知したムギが部屋にやってきた。


「ルーク、何があった……って、これはあのイグニスか?」


「ちょうどよかった、ムギ。イグニスの外見が変わってしまったんだ。どうするべきだと思う?」


「これでは人質として運用するのも難しいな……あ、それなら少し借りてもいいか? 人手が欲しいんだ」


 ムギがひげをピクピクと動かす。瞳孔が開いて、瞳が暗くなっていた。どうやら良からぬことを考えたらしい。

 大方、奴隷的扱いを受けていたイグニスに対してどう復讐するか考えているのだろう。


「……殺すなよ」


「殺したら終わっちまうからな。ちょっと借りるだけだ。魔術っていうのは、“本物”を相手に使った方が上達が早い」


 ムギにイグニスの鎖を渡す。

 イグニスは「人手が足りないのか。なにを手伝えば良いんだ?」と呑気にやる気を出していた。



 後日、ムギとイグニスの様子を見に行くと、魔術の練習台として木に括り付けられたイグニスを見かけた。

 魔族になったことで頑丈性が増したイグニスは練習台に最適だとムギが彼を絶賛していた。

 当のイグニスはのほほんとした顔をしていたので、俺はなにも見なかったことにした。


「明日は攻撃魔術の練習をするぞ」


 がんばれ、イグニス。怪我したら治してやるよ。

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