第二十九話 水を差すサキュバス
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ガラネル草原での急襲から一夜明けて、夕方。
俺は拠点にしている館でニヤニヤしながら各地の魔族の頭領や族長から送られてきた親書に目を通していた。
「アルウラネ、アリアドネ、ヘルスパイダーにゴブリンまで俺の傘下に加わるとは……! これで吸血鬼の服装問題もある程度は解決するし、ムギに甘味を与えられるぞ」
イグニスを捕らえ、王国と人質交換の交渉の段階に入ってから噂を聞きつけた魔族たちが俺に擦り寄ってきたのだ。
人間かつ突然現れたことで警戒していた様子だったが、烏合の衆とはいえ軍を相手に戦い、脱落者を出さなかったことで話し合う価値はあると認めたらしい。
当初の想定よりも多くの魔族が、かつて俺の送った親書に対する返答を出してきたのだ。
ムギには村にいる吸血鬼に魔術を教えるように指示を出している。吸血鬼たちも自衛の手段は欲しいようで、積極的にムギの授業に耳を傾けていた。
ムギは俺と違って魔術学園では『魔術戦術学』を専攻していたので、俺よりも魔術師団の運用について知識がある。良い拾い物をした。
「ひとまずブロンズにアルウラネから送られてきた花の蜜を使って作った王国伝統の甘味ミルクセーキをムギに与えるように伝えてくれ」
「かしこまりました、ルーク様」
ふっとベンの姿が消える。
吸血鬼固有のスキル『霧化』だ。実体を消し、物理的な障害を無視して最短距離で目的地に向かうという便利なスキルだ。
ムギの雇用問題は解決した。
次は俺に従わなかった魔族たちだ。
ベンから聞いた話によれば、俺の領地(ラザール領)にはゴブリン、アルウラネ、アリアドネが住む『黒い森』と、北の『銀灰の森』が二分するようにある。
黒い森は俺の支配下に入ることを決断したが、『銀灰の森』は真逆。俺に逆らうことを決めたらしい。
銀灰の森に済む魔族はオーガ、ダークドワーフ、スライムたちが覇権を争っている。
そこから出てこないならば別に構わないし、放置する方針だったのだが、オーガと交流のあったゴブリンからのタレコミによれば俺の暗殺計画を立てているらしい。
もっともどこまで信用できるのか分からないので、裏取りをする必要がある。
リカルドに調査を任せているが、念のために俺の方でも調査した方がいいだろうな。
『従属契約』を結んだポチに調べさせるか。銀灰の森に行きたがっていたし、知り合いのオーガがいるとも言っていた。裏が取れたらポチを通じて脅しをかけ、大人しくするなら放置。それでも敵対行動を取るなら殲滅だ。
捕らえたイグニスは、王国からの返信が来るまで館の部屋に軟禁。監視にリカルドをつけておく。
イグニスの首には【隷属の戒め】をつけておいたので自害も敵対行動もできないが、彼は交渉において貴重な手駒だから監視は必要だ。
「あ〜、領主って大変なんだなあ……」
ひとまず今後の見通しを立てた俺は、椅子の上で背伸びをする。
魔素を大量に体内に取り入れ、【魔王の兆し】を授かってからは肉体的な疲労とは全く無縁になったが、気持ちの問題だ。
肩をグリグリと回していると、部屋の扉がコンコンとノックされた。
『ルーク、お茶を持ってきたんだけど良かったら休憩しない?』
鈴を転がしたようなフィオナの声が聞こえたので、俺は満面の笑みで肯定。
自ら席を立って扉を開け、彼女を部屋の中へ招き入れた。
いつもの動きやすい格好とは違って、“サバト”出席のために即席で誂えた白いワンピースを着ている。
アリアドネの糸でフィオナにどんな服を着せようか。王道の白ワンピースもいいが、王都で流行っていたドレスを着せるのも悪くない。
俺がそんなことを考えていると、向かいのソファーに座ったフィオナは首を傾げる。カップに息を吹きかけている途中の体勢で首を傾げているから可愛さが倍増だ。両手でカップを持っている姿はリスのよう。
思わず俺は手を伸ばしてフィオナの頭を撫でていた。
「お〜よしよしフィオナは可愛いなあ」
「えっ? 私、なにもしてない……」
彼女はびっくりしながら、もごもごと呟く。困ったように眉を下げていたが、カップをソーサーの上に戻した。
さらさら、さらさら。
フィオナの指通りのよい髪を指で梳きながら撫でる。
俺の手が触れるたびにフィオナの頰にじわじわと赤みが差す。
半年前、こういうスキンシップをしばしば取ることがあったが、俺の首に抱きついて「好き」と囁いてきた小悪魔と同一人物とは思えないな。
これが素なのか?だとしたら、なかなかどうして可愛いじゃないか。
『空間転移』でフィオナの隣に移動し、驚いて肩を跳ねさせた彼女を抱きしめてさらに頭を撫でる。
抱きしめた体から伝わる温度はいつもよりじんわりと高い。
「ね、ねえルーク……私、これ恥ずかしい…………」
「ん? なにも恥ずかしいことはしていないだろ。フィオナはただ楽にしているといいさ」
フィオナの額、瞼、頰にキスを落としていく。
彼女は俺のやることなすこと全てに対して恥ずかしそうに目を伏せ、くすぐったそうに肩を震わせる。初々しいじゃないか。
潤んだ瞳で俺を見上げるフィオナの頰に手を添えて、彼女の唇に俺のものを押し当てようとして……。
『ひゅーっ、熱いねえ!!!!』
先日、“サバト”に出席していた魔王候補者の一人エリザベスが窓の外から俺たちをじっと見ていた。
俺はそっとカーテンを閉め、『音声結界』と『シールド』ついでに『マギシールド』を張って見なかったことにした。
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