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第二十七話 戦の足音とそれぞれの思惑

前話をかなり改稿しました。具体的に言うとルークのスキルだとかステータスを載せました。暇な時にでも見てやってください


 神聖王国北部に設置された関所を超えた先にある『ガラネル草原』。

 国境に渡って広がる草原を吹き抜ける風を、銀髪の女性エミリアが剣を片手に浴びていた。


「故郷を滅ぼした魔物と戦えるなら手段は選ばないつもりだったが、流石に今回ばかりは賛成できないぞ……」


 誰に向けたわけでもない独り言を呟く。


 貴族の号令で魔王領に向けて進軍する義勇兵を募ったはいいが、道中の梅雨払いは全て冒険者ギルドに丸投げときた。


 数さえ揃えればいいという魂胆が透けて見える。

 事実、これまで依頼を受ける際にはランクに見合った依頼しか受注できないように厳格なルールが設けられていた。しかし、今回は『大勢で挑むならば良し』という特例が設けられている。

 上層部でかなり揉めたらしいと冒険者の間で噂になっているほどだ。


 最近、ようやくDランクからCランクへの昇級試験であるダンジョンを突破したエミリアには、名門貴族からの命令で今回の依頼を引き受けるように圧力をかけられた。

 政治的な思惑や駆け引きに疎い彼女であっても、この魔王領出兵は王都での“勇者騒動”が起因するものだと理解できる。


「ふっ!」


 ダンジョンから得た秘宝の盾を手に、エミリアは草原の草むらに隠れていた魔物を剣で切り捨てる。


「この辺りには、もう魔物はいないな」


 剣についた血を初級魔術の『クリア』で清め、鞘に戻す。

 背後を振り返れば、膝に手をついて荒く息を繰り返す冒険者たち。

 その中の一人であるリーダーのケインズが、顎を伝う汗を拭いながらエミリアに話しかけた。


「す、すまない……流石に連戦は辛いな……」


 へばっている冒険者を見て、エミリアが落胆の表情を浮かべることはない。何故ならば、彼らはBランクの冒険者であり、新進気鋭のパーティーとして有名な実力者であるからだ。

 この草原に辿り着く前、彼らは義勇軍の指揮を任命された貴族の令息から命令を受け、発見されたばかりの未踏ダンジョンを突破したばかり。疲弊しているのも無理はない。

 体力を回復するのも待たず、次は義勇兵が進軍するための魔物を減らす為に駆り出された。蓄積した疲労は、冒険者といえどもそう簡単に克服できるものではない。


「こんなに兵を出して、王国は大丈夫なのかね。まったく……」


 パーティーの魔術師である青年が不安そうに呟く。


「さあね。私たちは受け取った代金分の仕事をするだけだ」


 エミリアは答える代わりに魔力の回復を促す『マジックポーション』を飲んだ。

 少し値は張ったが、ソフィアという凄腕の錬金術師から買っただけあってすぐに尽きかけていた魔力が回復した。


「村を魔物に滅ぼされ、復讐を誓って騎士を目指していたかと思えば、試験に落ちて冒険者になり、知り合った青年は勇者一行の魔術師で、気がつけば魔王領目前……なかなかどうして、私の人生は波瀾万丈じゃないか」


 気丈に振る舞うが、その声は少し落ち込んでいた。


「さて、これからについて考えねばな」


(そろそろ引き時か。これ以上、この行軍に付き合っても旨みはない。この依頼は失敗扱いにして撤退した方がよさそうだ)


 数週間前に比べ、実力を身につけたエミリアは今回の魔王領出兵は頓挫すると冷静に判断した。


 秘宝はたしかに凄い。

 傍らに常駐させた魔術師も凄いだろう。

 だが、それだけだ。

 義勇兵の練度は低いし、数で押すとしても限界がある。一度でも崩れれば兵は逃げ出すだろうし、魔術に対する備えも足りていない。

 魔王領に生息する低ランクの魔物はどうにかできても、Cランクより上の魔物や魔族が出現したならば崩れるだろう。そうなれば撤退も危うい。


 荷物を背負いなおしたエミリアは、同業の冒険者たちに声をかけて撤退を提案した。



◇ ◆ ◇ ◆




 ガラネル草原を進軍する義勇兵に周囲を囲まれながら、此度の魔王領出兵の指揮を任されたグレンザ侯爵家の令息イグニスは馬上で爪を噛む。


「まったく、どうして僕がこんなことをしなくちゃいけないんだ。この辺りを統治しているとかいう魔物は『撤退しろ』なんて生意気に勧告してくるし……」


 視線の先にはもたもたと徒歩で歩む義勇兵。

 領地を出発してから立ち寄った村から兵を集め、訓練しつつ魔王領を目指しているのだが想定よりもペースが遅い。


 ほんの数時間前。

 イグニスの元に手紙を持ってきた兵士が言うには、箱が空から降ってきたが、空には鳥の影すらなかった。箱の中には封蝋がされた手紙だけが入っていた。

 中身を見れば、撤退を勧告する内容とこのまま進軍すれば予告なく攻撃するという脅し文句。それをイグニスは鼻で笑って破り捨てた。

 グレンザ侯爵家が脅し文句に屈したとなれば、部下に見せる顔がないからだ。2000の兵を率いているのに、何を恐れる必要があるというのか。


「まあ、いい。秘宝が手に入ったからな。それにこちらには使い潰せる亜人の魔術師もいる」


 じゃらりと片手に持っていた鎖を引けば、そこには剣呑な雰囲気を纏った一人の獣人が気丈にもイグニスを睨みつけていた。

 ネコ科の特有の鋭い牙と丸い目であるが、体格は成人男性に勝るほど背が高い。小麦色の毛皮が特徴的だ。

 鉄の首輪に繋がった鎖には複雑な術式が描かれていた。


 【隷属の戒め(ドミナントカラー)

 着用者を支配下に置く効果を持つ秘宝だ。指定された人物から一キロメートル以上離れることはできず、命令に違反すれば大人の男ですら泣き叫ぶほどの激痛が与えられる。


 同じ聖族である獣人にこのような行動や自由を制限する秘宝を着用させることは、王国と帝国の間に交わされた条例により禁止されている。

 どういうわけかイグニスはその獣人を私物のように扱っていた。周囲もそのことを咎める気配はなく、見てはいけないものを見てしまったかのように目を逸らす。その場に名門貴族であるグレンザ侯爵に盾突く勇気を持つ者はいなかった。


「反抗的な目をするとは、まだ調教が足りていないようだな。電撃を流されたいか?」


「……………………」


 獣人の魔術師は鋭く舌打ちだけをして、イグニスから視線を外す。


 獣人の魔術師ムギは、かつては魔術学園の生徒だった。

 行商人として働く両親の間に生まれ、魔術の才能があったばかりに魔術学園に通うこととなったが、周囲との軋轢や両親の期待が彼を素行不良の生徒として有名になるまで追い詰めた。

 ついには問題行動を起こし、退学処分を食らう。

 そんな転落続きの彼に首輪をつけたのが、グレンザ侯爵家令息のイグニスだった。


 あらゆる自由を奪われたムギは、イグニスにとって都合の良い手駒。

 使い潰しても良心がちっとも痛まない。

 きっと、ムギは死ぬその瞬間まで己の意思一つで決めることはできないだろう……その秘宝が壊れるか、イグニスが死なない限りは。


 ムギは歯を食いしばって屈辱に耐える。

 いつか、復讐する機会があるはずだと己に言い聞かせながら。




「…………ふん、つまらん。そこ、サボるなっ!」


 イグニスは沈黙を選んだムギに興味を失って、腹立たしげに遅々として作業を進める部下を怒鳴りつける。


 今回の魔王領出兵は、グレンザ侯爵家の落ちこぼれ三男と罵られてきたイグニスが成り上がるまたとない好機だった。

 他の貴族に遅れをとるわけにも、ましてや兄弟たちに手柄を横取りされるわけにもいかなかった。


 父に頼み込み、貯蓄していた個人的な財産と伝手を総動員して一番乗りした以上、失敗は許されない。

 成功すれば叙勲ついでに拝領できるどころか、父を国王に据えれば官僚になれる可能性すらあるのだから、焦らない理由がなかった。


「魔族を討ち取り、素材と彼らが蓄えた秘宝や財産を手に入れてさらにダンジョンの探索を進めることができればさらに進軍できる……」


 無謀な進軍は、手酷い損失が与えられない限り続く。



◇ ◆ ◇ ◆



 着々と戦の準備が進む村の様子を眺めながら、フィオナは緊張に生唾を飲み込む。

 何度か冒険者として活動していた時期に魔物との戦闘や山賊の拠点を襲撃したことはある。しかし、今回のように非戦闘員が戦闘に巻き込まれる可能性は限りなく低い状況だった。


 怖いだろうに、フィオナの親戚の吸血鬼ブロンズは気丈に振る舞い、他の吸血鬼を励ましては指示を飛ばしていた。


「そっちの柵の状態はどうだい?」


「バッチリだよ、ブロンズおばさん」


 『みんなのお母さん』と慕われているブロンズの指示に吸血鬼たちは従っている。

 低位の吸血鬼から中位吸血鬼に進化したことで日光に対する耐性を獲得し、日中でも動けるようになっていた。

 フィオナが三年前にここを出発するときに比べて、雰囲気が少しばかり明るくなったようにも思える。


 脳裏を過ぎる青髪の青年にフィオナはなんとも言えない気持ちになった。

 ただひたすらに申し訳ないという気持ちと、恩に報いたいという気持ちがある。


(『私はルークに愛されている』そのことを申し訳なく思う日が来るなんて……考えもしなかったなあ)


 自惚れでも自信過剰でもなく、ルークの振る舞いを見ていれば否が応でも気づく事実だ。

 その瞳にどこか狂気的な色を孕んでいたとしても、『愛』があることに変わりはない。


 サキュバスクイーンのエリザベスをけしかけて、自身に向けられた愛をなかったものにするという作戦は頓挫してしまった。

 発覚しなかっただけ、マシ。

 フィオナはそう考えて思考を現状の課題へ切り替える。


(それにしても魔王領に出兵して、王国は大丈夫なのかな。勇者アベルはまだ行動不能な状態だし、騎士団は防衛のために動かせない。義勇兵を募るにしても……行軍が早すぎる)


 王国の歴史は長く、魔族と幾度となく衝突してきた。王国内の勢力は冒険者ギルド・商会ギルド・王室の三つに区分できる状態であり、勇者騒動で王室の権威をかなり削ぎ落とした。

 貴族の監督を務めている王室が揺らげば、権威と名声欲しさに貴族が内戦を引き起こすかとフィオナは画策していた。


(恐らく、国内の発言力と影響力を高めるために魔王領出兵を計画したってところかな。それなら指揮官はグレンザ侯爵家の可能性が高い)


 グレンザ侯爵家は、王家と緊張関係にある名門貴族の一つである。亜人の平等を掲げる王家と、亜人の奴隷化を推進する貴族の寄親であるグレンザ侯爵家は事あるごとに対立していた。

 王家が取り潰そうとするも歴史が古く、家系図を辿れば王家とも関わりがあるためそれも難しい。

 一小市民でしかないフィオナには理解し難いが、それらの諸般の事情からグレンザ侯爵家は今日まで続いてきたのだ。


 撤退を勧告する手紙を指揮官が破り捨てたと斥候から報告があったように、彼らは手柄を得るか損害が大きくなるまでは絶対に引き下がらない。

 衝突は避けられないだろう。


(ルークの魔術があれば負けることはないと思うけど……)


 フィオナは何とも言えない気持ちを抱えながら、柵の点検に励む村の住民たちを見る。


 彼らは魔族であり、人の血を啜って生きながらえる吸血鬼。まともな感性であれば怯え、討伐を声高く主張する化け物だ。

 それでも、フィオナにとっては家族同然に育ってきた“仲間”だった。

 見ず知らずの人間と、仲間の吸血鬼。

 どちらを選ぶかと問われれば、フィオナは躊躇いなく仲間を選ぶ。

 だが、それでも人間が無意味に死ぬのは嫌だとも思ってしまう。

 それこそが称号『半端者』を授かった所以であり、彼女が魔族になれない理由だった。


(もう迷うのはやめないと。みんなを守るためなら、私はーー)


 そして、フィオナは決断を下した。


 『アイテムボックス』から鉱物を取り出し、『鍛治』スキルから派生した『鉱物操作』で即席の防具や武器を作り出していく。

 これまでは奥の手と称して隠し、人に披露したことなどなかったが、もうフィオナには隠す理由も偽る意味もなかった。


(こういうことでしか、私はあの人に償えない)


 本来なら、ルークは王国で有力な貴族の令嬢と結婚していたかもしれない。あるいは、魔術学園で研究に没頭。あるいは、勇者アベルたちと旅を続けて、魔王討伐を果たしたかもしれない。

 その未来を奪い、魔族にまで堕としたのは紛れもなくフィオナの行動によるもの。

 謝罪ほど無価値なものはなく、それどころかこの地の支配者になることを決断したルークの意向を蔑ろにするものだ。

 ならば、フィオナはただ魂の搾りかす一滴までルークに捧げるしかない。それだけが、彼から与えられた恩に報いる方法なのだ。


 黙々と作業をしていると、村の周囲に堀を作っていたルークが背後からひょっこりと姿を現した。サバトからこの村にすぐに駆けつけた為、礼服のままだ。

 いつものローブ姿と違う印象を与えるから、フィオナはなんだか落ち着かなくてじっとルークの顔を見れない。


「フィオナ、何をしているんだ?」


「あ、ルーク……今ね、武器と防具を作っているの。即席だけど、これなら急所を守れるかなって」


 完成した胸当てを手に取ったルークが感心した声を漏らした。


「これなら、簡単な付与魔術を施せば生存確率がグッとあがるぞ。ちょうどベンや子供の吸血鬼に付与魔術のやり方を教えたところなんだ。彼らを呼んでもいいか?」


 フィオナは頷く。

 否定する理由も、拒否する意味もとうになかった。




◇ ◆ ◇ ◆





 鼻から後頭部、そして背中にかけて白い毛が線を引いたかのように生えている魔族の人狼リカルドは深く首を垂れながら、主君の言葉を拝聴していた。


「冒険者の撤退。ダンジョンの攻略と秘宝の入手。それらを差し引いても、俺たちの勝利は揺るがない」


 確信と自信に満ちた言葉に、リカルドは畏怖の念を抱いた。



 戦では数がものを言う、とはリカルドの祖父の言葉であった。

 人狼は、その口の構造上、複雑な呪文を唱えることができない。必然的にスキルを駆使した肉体を頼りに戦う。

 故に、魔族の間では『脳筋』として評判が低く、前の主であるラザールからは使い捨ての駒のような扱いを受けていた。


 従わなければ種が絶える。

 ラザールの気紛れと名誉の為に、方々を駆けずり回って魔物と戦ってきたリカルドにとって、ラザールは暴君であった

 ーーある日、ふらりとやってきた魔術師がラザールを討ち取るまでは。


 ルーク・アバウト。


 異様な青年だった。

 微笑みを浮かべているはずなのに、底なしの悪意があるように見えた。まるで笑顔を貼り付けた人形のような、なにか無機質な雰囲気があった。

 ラザールの配下である人間のフィオナに笑顔を向けている時だけ、人らしい表情を浮かべて優しい声音で喋る。それがより一層不気味で気味が悪い。

 魔王候補者会議“サバト”においても他の候補者に怖気付くこともなく、それどころかサキュバスの精神攻撃を無効化すらしてみせたのだ。

 次元が違う。そのことをリカルドは直感した。

 ラザール以上の暴君になるかもしれないと怯え、人狼が生き残る術を模索した。

 しかし、ルークという青年は、ラザールよりも話が分かりやすく、そして親身になってくれる存在だった。


 数の不利を恐る恐る進言したリカルドに折檻することなく、ルークは『それもそうだな』と一言だけ発して、なんらかの魔術を村全体に掛けた。


『魔王領は魔素に満ちているから魔力は潤沢に回復できる。全体に支援魔術を掛けるのも簡単だったな』


 事もなげにそう言ったルークの魔力量と支援魔術の精度に舌を巻いた。

 彼に従っていれば、人狼の未来は安泰。もはや、リカルドが彼に忠誠を従わない理由がなかった。


 数を逆転できる秘策があるのだろう。それが、力によるゴリ押しでも、圧倒的な魔術による盤面操作であったとしても、力こそが正義であり、勝者こそが全てである以上、リカルドに異論はない。


(ルーク様こそ我らの主。いや、いずれは魔王になられる御方。魔王となられた暁には、我々人狼族を側近に任命してくださるかもしれない)


 ついぞラザールにすら抱いたことのない敬意を胸に、リカルドは機嫌よく尾を揺らしながら戦に備える。

 作戦を詰めていく最中、ふとルークが地図から顔をあげてとある言葉を口にした。


「ああ、そうだ。リカルド、可能であれば指揮官は捕虜にしよう。王国への交渉材料にする」


「捕虜ですか、かしこまりました。全てはルーク様の御心のままに」


 魔族として生まれ、魔族として生きてきた自分には分からない境地で思考を巡らせているのだ。捕虜ていどであれば容易い。

 女子供を攫ってこいという、ラザールの命令と比べるのも烏滸がましいが、理由に納得できるものだ。


 リカルドは粛々と命令を受諾し、部下に素早く伝令を通達した。




◇ ◆ ◇ ◆




 着々と戦への準備が進む。



 夕暮れになり、ガラネル草原がオレンジ色に包まれた。

 橙色の草原に赤色の雲、夕闇の迫る空の景色を『マジックアワー』という。

 いかに絵の具や技法が発達しようとも、『マジックアワー』の景色を再現することはできないと言われるほどに多種多様な色が混ざり合う時刻。


 イグニス率いる軍が野営のために天幕を張る風景を遠くから眺める魔族の集団があった。

 夕闇を背に立つ魔族を率いるのは青い髪をした魔術師の青年。右手の甲に浮かぶ黒い痣が、魔族に連なることを示している。


 フィオナは戦の準備を終えて杖を持つルークの側に立っていた。

 さっと視線を向ければ、連帯と挟撃で恐れられる人狼族の戦士が武器を手に虎視眈々とルークの号令を待っている。


「撤退を勧告したのに、馬鹿な奴らだなあ」


 冷たい声が草原を吹く風に攫われた。


 ルークの軍を見る目は冷ややかだった。

 斥候がもたらした情報や、彼が習得した古代魔法で軍の実態が暴かれるたびに彼が立案する計画から不確実性が消えた。敗北する可能性は低くなり、夕暮れが近づくにつれて勝利は揺るがないものとなった。


 フィオナの目から見ても無謀な行軍を強行した指揮官の無能ぶりには呆れるばかりだった。戦素人から見てそう思うほどに杜撰で行き当たりばったり。負ける要素を探す方が難しい。


「夜は魔族の時間だ。何に戦いを挑もうとしていたのか思い知らせてやろうじゃないか」


 ルークの提案に、耳ざとい人狼たちは無言で色めき立つ。

 ラザールの下では絶対に味わえなかった予感に、彼らは総じて毛皮を粟立てて興奮したのだ。

 それもそのはず、ルークを中心として轟々と魔素が渦を巻いているからだ。


 ルークが杖を掲げる。

 煌々と魔力が収束し、複雑な術式を宙に描き始めていた。


 もう間もなく、開戦の狼煙があがる。

これからやっと厄災できる……!


誤字脱字報告と感想ありがとうございます。執筆の励みになります!!

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