第二十六話 【英知の導き】
フィオナの斥候に関するスキルが抜けていたので追記しました
めちゃくちゃ改稿しました。
古代魔法『空間転移』で館に戻った俺たちを、さっそくてんやわんやと慌てている吸血鬼たちが取り囲む。
「人間たちがここを目指しているって本当かい?」
その吸血鬼たちを代表して、妙齢の女性ブロンズが俺たちに質問をぶつけてきた。
館から駆けつけてきたベンと、見張りを任せていた人狼が俺に恭しく頭を下げながら報告する。
「数はおよそ二千、冒険者が百人ほどで、その他は兵士ということしか分かりませんでした。斥候を飛ばせばもっと詳しく調べることもできますが……」
何故このタイミングで冒険者が魔王領に来たのか考えた俺は、勇者騒動について書かれた新聞の内容を思い出す。
勇者が魔王と戦う為に、予め尖兵である魔物たちの数を減らそうという活動を一部貴族と教会、それと市民が行っていた。恐らく、魔物の素材や武器の需要に目をつけた商人たちの後ろ盾もあって二千の兵士を揃えられたのだろう。
それにしても、よくこの短期間で数を用意したものだ。
「リカルド、軍の調査を任せてもいいか?」
「はっ、お任せください。隠密に長けた斥候がおります」
リカルドが素早く配下の人狼に指示を飛ばす。
人狼のリーダーなだけあって頼もしい。
俺は魔術学園で学んだ基礎教養の中から基礎戦術学の知識を引っ張り出す。
「戦場は村ではなく、『ガラネル草原』にするべきだな。ここは籠城するには防御力が足りないし、非戦闘員が多い」
魔術師は、魔術を扱えることから研究の分野だけでなく様々な場面で助言を求められることが多い。魔物や魔族との戦闘、自然災害への備え、時には政治に介入することもあった。学んでおいて損はないということで、魔術の他に基礎教養が設定されたのだ。
その筋の専門家には劣るが、無いよりはマシだろう。
「リカルド、戦える兵士の数はどのくらいだ?」
「人狼の戦士が二百、吸血鬼は五十です」
周辺の村や魔族との協力関係を構築している最中での出来事だから、戦力がかなり足りない。
俺の支援魔術でどこまで耐えられるか。数の不利は戦意に直結しやすい。
「夕暮れを目処に攻撃を仕掛けるか。夜は魔族がもっとも力を増す時間帯だからな」
「かしこまりました。一時間で戦支度を整えるよう手配しましょう」
攻める側と守る側では、攻める側の方が精神的に高揚しやすく戦意が挫けにくい。
対して守る側は常に緊張状態にある為、精神的疲労が蓄積しやすいのだ。
加えて、この村の住人は十数年前に敗北して魔族になって以来、大きな戦いを経験していない。防衛戦に対して苦手意識が残ったままなのだろう。
指示を飛ばす俺を、吸血鬼たちは不安そうな目で見ている。
ここは彼らにも何か仕事を割り振った方が精神的にも楽になるだろう。
「ああ、そうだ。ブロンズさん、一つ頼み事をお願いしたい。村の周辺に柵を作りたいんだが、その指揮をブロンズさんに任せたいんだ」
「柵だね、分かったよ。手が空いている連中はついてきな!」
この村を訪れた時に気になっていた防衛の改善も兼ねて指示を与える。
ブロンズに仕事を割り振ったのは正解だったようで、吸血鬼たちは足早に柵を作りに村の外へ駆け出していった。
「相手の指揮官がどう動くかで攻め方を変える必要があるな」
指揮官がどこぞの貴族の坊ちゃんなら捕らえて王国との交渉材料に出来るが、果たして物事がそう上手く転がるかどうか。
これからのことについて考えを巡らせていると、隣に立っていたフィオナが話しかけてきた。
「ルーク、魔力の残量は大丈夫?」
「四分の三ほど残っているから問題はない。そういえば、三ヶ月前に『鑑定』を受けてからそのままだったな」
「それなら、【英知の導き】があるから調べてみる?」
フィオナが『アイテムボックス』から見覚えのある水晶玉を取り出した。
それを見て、俺は驚いて凝視する。
教会の秘宝とも言われている代物で、『鑑定』スキルで見てもらうよりも遥かに多くの物事が分かるとされている。例えば魔力の数値化や『己の運命を知ることもできる』とすら言われている。
王家の秘宝に次いで一般には公開されることはない。
フィオナは気まずそうに視線を逸らす。
「……これは、あくまで模造品なんだけど」
「模造品?」
「ダンジョンから入手した【真似っこ】を使って秘宝の特性を模倣させたの。効果は本物に比べて数段ほど落ちるけれど、『鑑定』スキルより詳しく調べるのに向いてると思う」
秘宝には思いもしない効果があるとは聞いていたが、まさか他の秘宝を模倣する秘宝があったとは。
そしてそれをフィオナが持っていたとは。
自己申告してきたということは、少しは信頼されるようになってきたと思って良さそうだ。
「そうか。ありがとう、フィオナ。戦いの前に自分をよく知ることは大切だからな。ありがたく使わせてもらおう。これはどうやって使うんだ?」
水晶玉に手を翳せばいいのか、なんて考えているとフィオナが水晶玉に魔力を込めた。
バチっと青い電撃が走り、水晶玉に文字が現れる。
その文字列は何列にも渡って続いていて、あまりの多さに目を回してしまいそうになった。
「これが、私の『ステータス』。スキル、種族、称号の全てを纏めて古代語で『ステータス』って言うんだって」
「フィオナ、それって……俺に見せてもいいものか?」
「私に出来るのはそのぐらいだから。その上で、私をどうするか考えて欲しい」
フィオナは寂しそうな笑みを浮かべる。
同業の冒険者であっても、全てのスキルを味方に開示することはない。
奥の手であったり、緊急時用の自衛手段だったりするからだ。
それを、フィオナは自発的に俺に見せている。
どういう意図かは分からないが、彼女を知るいい機会だ。
俺は全てを暗記するつもりで文字列に視線を戻した。
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フィオナ・エバンシア 17歳 聖族(人間)女 レベル:63
魔力:550/560
固有技能:【閃き】[+目星][+観察][+遠見][+聞耳][+スキル構築]
スキル:
アイテムボックス[+容量増加]
歩行[+移動速度上昇][+瞬歩][+遠歩]
再生[+魔力変換][+再生操作]
魔力操作[+魂魄変換][+魔力糸][+武器防具形成][+エンチャント]
炎属性[+火][+炎][+豪炎]
火炎耐性[+熱軽減][+煙軽減][+熱無効化][+火炎操作][+魔素変換]
スラッシュ[+ダブルスラッシュ][+トリプルスラッシュ][+クアトロスラッシュ]
三爪[+風爪][+嵐爪][+雷爪]
絶影[+絶影十字斬]
殴打[+正拳突き][+回転蹴り][+踵落とし][+寝技]
投擲[+命中補正][+威力上昇]
回避[+緊急回避][+回避距離上昇][+動体視力上昇][+影潜み]
物理耐性[+部分硬化][+瞬間硬化][+痛覚耐性]
悪食[+暴食][+任意消化][+第三の胃袋][+魔素変換][+肉体操作]
毒耐性[+毒効果軽減][+経口鑑定][+抗体獲得][+毒液生成][+毒保留][+魔素変換]
麻痺耐性[+麻痺効果軽減][+麻痺無効化]
調合[+初級][+毒効果上昇]
シュートアロー[+パワーショット][+五月雨撃]
挑発[+隠遁][+ヘイト操作][+思考誘導][+視線操作]
隠蔽[+偽装工作][+擬死][+魂魄操作][+黄泉がえり]
鑑定[+看破][+魔力視][+薬物鑑定][+秘宝鑑定][+毒物鑑定][+鉱物鑑定]
鍛治[+修復][+鉱物操作][+武器防具作成][+練成]
初級魔術[+効果時間延長][+消費魔力軽減]
魔術:
『クイックステップ』
『カルメルタザイト』
魔法
『魔素循環』『竜鱗』
称号:『半端者』『殺戮者』『虐殺者』『魔に魅入られし者』『死を纏う者』『上級冒険者』『歩む者』『卑怯者』『ドラゴンスレイヤー』『神の意思に触れた者』『断崖絶壁』『魔に寄り添う者』『聖に叛く者』『二股経験者』
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『毒耐性』スキルが派生しすぎじゃないかとか、『悪食』って今まで何を食べたら獲得できるんだとか、『断崖絶壁』ってなんだとか突っ込みたいところは多々あったが、俺が口にできたのは、
「……フィオナ、君は一体これまで何をしてきたんだ????」
このシンプルな疑問だけだった。
「色々と必要に駆られてスキルを習得したの。軽蔑、したよね……」
フィオナの言葉に俺は首を横に振る。
特定の条件をこなせば、スキルを習得することができる。例えば、毒耐性なら毒を服用して耐える必要があるのだ。
何度も毒を服用すればスキルが成長していき、さらに派生スキルを習得することができる。『習熟度』が関係しているのではないかと学者は疑っている様子だが、確たる証拠があるわけではなかった。
膨大なスキルと、派生スキルの数々を見ればフィオナがこれまでどんなことをしてきたのか分かる……いや、やっぱり分からない。
称号はこれまでの振る舞いや周囲の評価から与えられるというし、フィオナが普通じゃないことだけが分かった。
「いや、少し驚いただけだ。次は俺が使ってみてもいいか?」
「うん。私、他所を向いておくね」
フィオナは俺に水晶玉を手渡すと、くるりと背中を向けてしまった。
俺は手に持った【英知の導き】に魔力を流す。
透明な水晶玉の表面に、フィオナの時と同じく文字列が浮かび上がった。
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ルーク・アバウト 18歳 魔族(人間)男 レベル:80
魔力:3000/3000
固有技能:
【魔王の因子】
【術式構築】[+展開速度上昇][+詠唱破棄][+無詠唱][+消費軽減][+魔力回路活性化]
スキル:
魔力操作[+魔力放射][+魔力隠蔽][+魔力感知]
火魔術[+威力上昇][+操作性上昇]
魔術耐性[+四属性耐性][+呪耐性][+聖耐性][+魔素変換]
威圧[+威圧耐性][+戦意保持][+魔力圧]
毒耐性[+毒効果軽減]
魔力操作[+魔力放射][+魔力収束]
魔素操作[+魔力変換]
発狂[+自己洗脳][+狂戦士化]
カリスマ[+号令]
魔術:
結界術[+魔物除け][+音声結界][+シールド][+マギシールド]
火魔術[+ファイアーボール][+フレイムシールド][+ファイアージャベリン]
土魔術[+ロックブラスト][+ストーンヘッジ]
風魔術[+ウィンドシールド]
水魔術[+ウォーターボール][+レイクウォーク]
聖魔術[+サニティ][+ホーリーブレス][+セイクリッド・レイ]
回復魔術[+ヒール][+クイックヒール][+エリアヒール]
支援魔術[+アクセル][+ウィンドステップ][+カルメルタザイト]
魔法:
古代魔法[+術式掌握]
称号:『魔術学園首席卒業』『魔術師』『狂気に足を踏み入れた者』『竜を支配下に置く者』『ダンジョン踏破者』『人道に叛く者』『反逆者』『魔王候補者』
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魔術や魔法に心当たりはあるが、スキルには心当たりが全くと言っていいほどないな。
『発狂』のスキルなんていつのまに習得したんだか。意図して使用しない限りは効果がないというから、ひとまずは安心していいだろう。
三ヶ月前より魔力が二倍に増えている。恐らくS級ダンジョンに二ヶ月も滞在し、エルダーリッチといった強力な番人を倒したことで、体内に大量の魔素を蓄積したことが原因だ。
称号は、これまでの行いから与えられるものだから特に意味はないか。気にするだけ時間の無駄だな。
【英知の導き】に流していた魔力を断ち切れば、水晶玉の表面に浮かんでいた文字列がぱっと消えた。
「ありがとう、フィオナ。おかげで自分のことが分かったよ」
俺に背を向けていたフィオナが振り返る。
彼女は「これぐらい、感謝されることでもなんでもないよ」と後ろ向きな発言をしながら、【英知の導き】を『アイテムボックス』にしまう。
俺のステータスを見ても良いと言ったんだが、フィオナは頑なにこれを拒否。無理強いして見せるものでもなかったので強制はしなかったが、むしろ正解だったと思う。
『発狂』スキルなんて滅多に見かけないからな。心配かけさせてしまうかもしれない。
「さて、そろそろリカルドたちが戻ってくる頃合いだ。夕暮れまで時間はあるが、戦に備えないと」
俺の言葉にフィオナは頷いた。
フィオナちゃん何やってきたんだ????
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