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第十一話 フィオナの死

前回、多くの方から反響がありました。感想をくださった方はありがとうございます!


 フィオナが逮捕された次の日の昼。

 俺はフィオナに何故、あんな馬鹿なことをしたのか問いただす為に王城を訪れていた。


 見張りの兵士が焦ったくなるような手つきで面会の書類を制作している間、俺はネックレスを握り締めたり、悪癖の貧乏ゆすりをしたりと終始落ち着きのない振る舞いをしていた。


 そうしてようやく兵士に案内されながら、フィオナが収容されている独房を訪れる。

 扉越しの会話だけで、物の受け渡しは禁止と説明を受けて扉の前に立つ。


「フィオナ、俺だ。ルークだ。話がしたい」


 呼びかけた俺の声が虚しく響く。


「フィオナ、返事をしてくれ」


 やはり、応答はない。

 見張りの騎士二人が訝しげな表情をしたのが、視界の端で見えた。

 脱走防止のため、簡単には蹴破れないほどに分厚い鉄製の扉を乱暴に叩く。


「面会人は下がってください。おい、返事をしろ囚人!」


 それでもフィオナの応答はない。

 騎士の二人は目配せをすると、扉の鍵を開けた。


「フィオナ……?」


 昨日と同じ格好をしたフィオナが、壁にもたれ掛かるような体勢で座っていた。

 投げ出された細い手足はピクリとも動かず、俯いているせいで表情は分からない。


 騎士の一人がフィオナの肩を揺する。

 その勢いで彼女は地面に倒れた。


「ーー死んでいる。直ちに手配しろ!」

「はっ! 了解しました」


 慌ただしく駆け出す騎士のことなどどうでもよかった。

 地面に倒れたまま動かないフィオナに近寄って、その身体を抱き起す。

 触れた皮膚が地面に敷き詰められた石と同じ温度だというのが、とても気持ち悪かった。


「フィオナ、なあ、嘘だろ……?」


 二ヶ月ぶりの再会。

 ずっと会いたいと思っていた最愛が、再会した次の日に死んでいる。

 その事実は、あまりにも受け入れ難い。

 気がつけば、俺はダンジョンで得た古代魔法の知識の中からとある魔法を引っ張り出して口にしていた。


「ここは冥府の門、現世の瀬戸際。死者の魂よ、我が手に戻り給えーー『死者蘇生(リザレクション)』」


 死後、六時間以内かつ死体の外傷がないことを条件として死者蘇生を可能にする古代魔法。

 死者の尊厳と社会の混乱を防ぐために使用が禁止され、時代とともに廃れた“死霊術”の系統の奥義でもある。


 俺の魔力が湯水のように消費される。

 それでも、青白いフィオナの顔に血色が差すことはなかった。


 フィオナは生き返らなかった。





◇ ◆ ◇ ◆




 フィオナが収容されていた独房に、報告を受けた王弟シグルト殿下が駆けつけた。

 宮廷魔術師や鑑定士による捜査が行われている現場とフィオナの亡骸を見て、シグルト殿下は目を見開く。


「まさか、本当にフィオナが死んだとは……警備はどうなっていた?」


 シグルト殿下の問いかけに騎士たちは「不審な輩はいなかったし、脱走した囚人もいない」と報告をしていた。

 つまり、どうしてフィオナが死んだのか分からないらしい。


 フィオナの亡骸を調べていた鑑定士がシグルト殿下に近づく。


「殿下、鑑定の結果が出ました。どうやら毒を服用した様子です。死後、十時間は経過していると見て間違いはないかと」


「毒の種類は?」


「薬剤師のギルドに問い合わせています。念のため、冒険者ギルドや鑑定ギルドにも連絡しておりますので、早くてもあと数分で結果が届くかと」


 シグルト殿下が唇を噛む。

 それを俺はぼんやりと眺めていた。


「クソッ、トカゲの尻尾切りか!?」


 シグルト殿下が頭を掻きむしっていると、冒険者ギルドの制服を着た職員が新聞を片手に慌てた様子で駆け寄ってきた。

 乱れた息で言葉を紡ごうとするが上手く喋れず、終いには手に持っていた新聞をシグルト殿下に渡す。


「おい、なんだこれはっ!?」


 ばらばらと新聞を巡った拍子に、新聞の大きな見出しが俺の目に飛び込んできた。


『勇者アベル、痴情のもつれを理由に仲間を毒殺未遂!?』

『美少女を巡る醜い男の争い!?』

『果たして彼女は悪女なのか? その真相に迫る!!』


 新聞らしいセンセーショナルな見出しで飾られたそれは、最新技術が可能にしたと言う『写真』付きだった。


 そういえば、ここに来るまで何やら城下町が騒がしいと思っていたが、新聞を目当てに客が店に殺到していたのだろう。

 勇者の出現は魔王の再来を意味するから、人々が関心を寄せるのも納得。そこに事件が加われば白熱するのも無理はない。

 箝口令が敷かれていたはずだが、一体どこから情報が漏れたのだろうか。


 新聞をグシャリとシグルト殿下が握り潰す。


「あり得ん! どうして新聞がアベルを知っている!?」


「はあ、はあ……実は、もう一つありまして……!」


 職員が鞄からもう一つの新聞を取り出す。

 号外と赤見出しの付けられた新聞に『勇者アベル、口封じに仲間を殺害か!?』という見出しが目を引く。


「この新聞を発行している会社とばら撒いている奴を全員逮捕しろ!」


「はっ、かしこまりました!!」


 シグルト殿下の鋭い命令に、騎士と職員が弾かれたように駆け出した。

 彼らと入れ替わるようにアベルと聖女、聖騎士がやって来た。


「シグルト殿下、これは何の騒ぎですか?」


「フィオナの死亡が確認されました」


 アベルは目を見開き、聖女と聖騎士は無言で十字を切った。

 彼らにシグルト殿下は新聞を見せる。それを見た聖女がおずおずと問いかける。


「これは……?」


「ご覧の通り、アベルのことが広く世に知れ渡ってしまいました。最善は尽くしますが、これ以降は魔族の目に入ったものと思って熟慮の上で行動をお願いすることになりますね」


 シグルト殿下がぶっきらぼうな突き放す声で告げる。

 そんな彼に、先程の鑑定士がボソボソと耳元で囁いた。


「……そうか。分かった」


 どこか、落胆した声だった。ため息混じりにアベルを見る目が冷たさを帯びている。

 アベルは困惑したように見つめ返す。


「勇者アベル、フィオナ殺害の容疑で逮捕する」

「…………は?」


 鋭い目を限界まで見開きながら、アベルは間抜けな声を口から漏らした。

 状況を理解したのか、ぶわっとその顔に汗が吹き出す。


「な、何を言っている!? 俺はずっと城にいたんだぞ!!」


「昨晩、フィオナと面会していた記録と使用された毒から見て、勇者アベル以外に疑わしい人物はいない。動機も十分にある」


「毒!? 何を言って……!」


「鑑定の結果、【毒薬に満ちた小瓶(ギフトポイズン)】が使用されていたこの状況をどう説明するつもりだ?」


 アベルに詰め寄るシグルト殿下。


 アベルが、フィオナを殺したのか?

 自分の罪から逃げるための、口封じとして……?


 カッと頭に血が昇ったが、寸前で堪える事ができたのはシグルト殿下の毅然とした態度と、アベルを蔑む目で見る聖騎士と聖女の姿を見たからだ。


「違うっ! 俺は何もしていない! あの秘宝はサミュエルが……!」


 叫ぶアベルを取り押さえ、連行しようと近くにいた騎士が手を伸ばす。

 それを、アベルの目が捉えた。


「俺に触るなっ!」


 騎士の手を振り払う。そして、アベルは腰に下げた剣に手を伸ばした。


「ッ! シールド!!」


 咄嗟に俺が張った結界が、アベルの剣から放たれたスキル『スラッシュ』を阻む。

 その威力は人を傷つけるのに十分なもので、未だに剣から手を離そうとしないアベルを見据えているうちに怒りが限界に達した。


「アベル、貴様というやつは……どこまで屑に成り下がるつもりだっ!!」


「どこまでお前は俺を邪魔するんだ、ルークッ!! お前さえ、お前さえいなければこんな事にはならなかったのに!!!!」


 叫び返したアベルの言葉。

 勇者にあるまじき責任転嫁と、他人の死を願う発言。


 昨日、フィオナが連行される様を見るだけだった。

 この男は、フィオナが欲しいと宣い、俺に毒を盛って掠め取った挙句、利用して己の保身のために捨てた。

 ほんの一時でも、この男を仲間だと考えていた時期があったことすらもはや憎い。


「それがフィオナを、俺の恋人を殺して吐く台詞かっ!! いいから黙って連行されろ!」


「魔術師風情が勇者であるこの俺に命令してんじゃねぇ! 返り討ちにしてやるっ!!」


 杖を向ける俺に、アベルは剣を構えた。

ポチ(もしかして、忘れられてる……?)





気がつけばブクマが百を超えてました。これからも頑張って更新を続けます!!

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ黒幕は絶対サミュエルだよね。でもあれだけ弁護していたアベルに罪を擦り付ける意図が分からん。 あわよくばって感じにルークやシグルト達との同士討ちを狙っているとして一体コイツになんの特がある…
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