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魔境の森と異邦人  作者: ツキヒ
6:風のゆくえ
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XX. 東へ出発

出発までのダイジェスト回なので、ちょっとみじかめです(次話との切りどころに迷った)

 王国から東の港街ドリスまで、街道が完全に開通したようだ。

 そんな知らせを受けたのは、ブレイズたちが王都に到着してから、ちょうど十日後のことだった。


 故郷に残した家族や知人に会いに行く東部出身者、雪で物資の不足した東部の人々を相手にひと稼ぎしようと急ぐ行商人、そんな彼らの護衛に雇われた賞金稼ぎたち。

 先を争うように馬や乗合馬車に乗って出発する人々を横目に、食料の買い出しなどの準備をして。

 その間にギルドが専用の馬車を用意してくれたので、街道開通の知らせから二日後には出発の準備が整った。


「ブレイズ、荷物はこちらで全部ですか?」

「ああ。残りのスペースは使わねえから、ついでに運ぶもんがあったら置いていいぞ」


 馬車の御者として東の港街(ドリス)まで同行するのは、以前ファーネ支部に滞在していた連絡員のルシアン・ハズウェルである。

 過日の『大襲撃』以降、王都のギルド本部に戻っていた彼は、その後また連絡員としてあちこち行かされていたらしい。

 そういえば本部で顔を見ないな、と思っていた。忘れていたわけではない。遠出する度にゲロを吐く女顔の男、なんてゲテモノをそう簡単に忘れてたまるか。


 ルシアンに荷室(ラゲージ)を任せ、客室(キャビン)のあるほうに回ると、ラディとウィットが見送りの連中と立ち話をしているのが見えた。

 どちらも――というかブレイズもだが、服屋で用意してもらった防寒着を身にまとっている。なかなかに暖かいので、一緒に用意されたマントをつけるのは、もう少し東に行ってからでいいだろう。

 ちなみに、ファーネから来る際に着ていた服など余分な荷物は、ギルド本部で預かってもらっている。


 それはそれとして、ブレイズもまた、話し込んでいる相棒たちのほうへ歩いていった。

 見送りに来ているのは、デズモンドとフォルセの二人だ。リストニエも来たがったらしいが、都合がつかなかったそうだ。

 近づいてくるブレイズに気づいて、デズモンドがおっかない顔を向けてくる。


「おう、準備は済んだか?」

「俺らのほうは大丈夫っす。ルシアンの荷物積んで、余裕があったら他に何か積めばいいんじゃないっすかね」

「まあ王都から持ってくもんは、他の連中が持ってったからな。空きスペースは、途中の村や街で荷運びの依頼があったら小遣い稼ぎにでも使え」

「いいんすか?」

「足りんもんを現地調達することもあり得るだろ。あとはルシアンのお守りをさせる駄賃だな。介抱は任せる」

「吐く前提かよ……」

「とんでもない遠出だからな。どうも、長く気を張ってるとダメらしい。……ま、ファーネにいた頃は大丈夫だったようだから、お前らには気を許してるほうなんだろう。そこまで酷いことにはならんはずだ」


 ちなみにルシアンは、ブレイズたちを送り届けた後、そのまま仕事で東部を飛び回る予定らしい。

 よほど自分たちの戻りが遅くならなければ、帰りも彼が馬車で王都まで送ってくれるそうだ。そちらのほうがブレイズとしても気楽なので、そうなってくれればいいと思う。


「ブレイズ」


 デズモンドとの話が一段落すると、それを見計らっていたのか、フォルセが話しかけてきた。


「シルビオさんから伝言。『戻ってきたらまた剣を見せに来い』だってさ。ラディとウィットも」

「ああ、分かった」


 防寒着の手直しを待ちつつギルドで東方大陸の知識を叩き込まれている間、王都の顔見知りということで、武器屋のシルビオのところにも顔を出した。

 ブレイズたちが現在使っている剣は、三本とも彼の店で買ったものである。ファーネには武器専門の鍛冶職人がいないのもあって、いい機会だからと順番に剣の点検を頼んだのだ。どの剣も特に異常はなく、手入れだけされて戻ってきたが、やはり気にしてくれているのだろう。


「……つっても、戻ってきたら忘れてっかもしれねえけど」

「大丈夫だろ。お前が忘れててもラディは覚えてるだろうし」


 ね、とフォルセがラディに笑いかけ、ラディも小さく微笑みながら頷いて応じる。

 なんだよそれ、と言い返しつつ、ブレイズは唇を尖らせた。

 この二人、どちらも本などで知識を仕入れるのが好きなタイプだからか、ブレイズに対してとは別の方向で仲がいい。別にのけ者にされているわけではないが、一人だけアホ扱いされれば拗ねたくもなる。

 不服そうなブレイズを見て笑いながら、フォルセは再び口を開いた。


「ま、戻ってきたらまた言ってやるよ。だからちゃんと戻ってきて、顔見せに来いよ」

「……おう」


 まあ、とはいえ幼馴染だ。心配されているのは分かっているし、それを煩わしく思うほど子供(ガキ)でもない。

 軽く拳を突き合わせて、それで終わりにした。


 そうやって話しているうちに、ルシアンのほうも準備が終わったらしい。

 御者席から声をかけてきたので、ラディとウィットを伴って客室に出入りするための扉を開く。


「ラディ、ウィット、忘れ物はねえな?」

「ここで『ある』って言ったらどうなるのかなって思ってはいるよ」

「やめなさい」


 ボケようとするウィットに呆れ顔のラディ。つまり『ない』ということだなとブレイズは判断した。


「ルシアン、お前の仕事はこいつら送り届けてからが本番だからな。ゲロはその時までとっとけ」

「とっとくもんでもとっとけるもんでもないんですよジジイ。というか人前で自尊心を削るようなこと言わないでくれませんかアンタ親族でしょうが」

「他人が言ったら無神経と非難されることでも、言って許されるのが親族ってもんだろう」

「僕は許す気ないんですけど????」

「はいはいはい続きは戻ってきてからにしてもらって」


 出発直前になって言い合いを始める大叔父と従甥の間にフォルセが割って入る。

 デズモンドの腕を引いて馬車から遠ざけつつ、フォルセは「気をつけろよ」とこちらに手を振ってきた。

 それに応じるように、客室から三人で手を振って。

 ルシアンの運転によって、馬車がゆっくりと動き出した。

ここからはまだ細かいプロットができていないので、今までから輪をかけて行き当たりばったりになるかと思います。

更新はなるべく隔週ペースを守っていきたい所存ですが、たまに遅れたら「あ、詰まったな」と生温かい目で見ていただければ。

本作を見守ってくださってる方は、比較的のんびりお付き合い下さってる(と思っている)のでありがたい限りです……。

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【完結】階段上の姫君
屋敷の二階から下りられない使用人が、御曹司の婚約者に期間限定で仕えることに。
淡雪のような初恋と、すべてが変わる四日間。現代恋愛っぽい何かです。
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