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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

令嬢とドレスと杖

作者: 遠

最近流行の令嬢モノを書きたくなって書きました。 正直勢いとニワカ知識だけで書いたので令嬢の言葉遣いは怪しいです。

 これはとある、お屋敷のとある令嬢のお話。


「今、なんと仰ったのです? どうも耳の調子が悪いようでして……もう一度仰ってくださいまし」

「何度でも言うよ。 君との婚約は破棄させてもらうと言ったんだ」

「な、なぜですか!? そんな貴方は私の事を愛していると仰っていたではありませんか!」

「確かに言ったさ。 けどね、そのようなドレスしか用意出来ないような没落貴族の女を嫁に貰っても僕の家の尊厳に関わるんだ、分かってくれ」


 質問をした令嬢の服は、確かに貴族としての威厳を最低限保つ程度のドレスでそこかしこにほつれがあり裾には裁縫の痕跡さえ見えるほどだった。


「じゃあ、確かに伝えたよ? では」

「ま、待って――」


 追いすがろうとするも扉は閉じられ男の貴族は帰っていく。


「確かにこのドレスはかなりの年季の入ったもので色あせていたりもしていますが、私にとって世界で一番の宝物なのですっ! それを……理由に……」


 令嬢の着ているドレスは令嬢を生んですぐに亡くなった母親のお気に入りのドレスだったのだ。 令嬢は父親からその話を聞き、成長して身体付きが大人になり形見のドレスを着られるようになるのが何よりの楽しみだった。 それを蔑むような目で見ながら婚約破棄を告げ、早々に帰っていった貴族の男に堪忍袋の緒が切れた。


「お嬢様……」


 小さいころから世話をしてくれていた初老の執事が気遣うように話しかけるが、そっと手を差し出し何も言うなと示す。


「……お母様の形見のこのドレスをバカにされて黙ってはいられません」


 令嬢は自室に戻り、ベッドの下から大きなトランクケースを引っ張り出しロックを解除して蓋を開ける、中には一本の杖と手紙が入っていた。


「お爺様、使わせて頂きます」


 その杖は令嬢の祖父の愛用していた魔法の杖で、術者の魔力に関係なく強大な魔法を行使できるという特別な物だった。 但し術者の記憶を奪っていくという副作用を持っており、ただ一度使用しただけで祖父は記憶が曖昧になり寝たきりの生活を余儀なくされた。 それを子供ながらに見ていた令嬢はこの杖を気味悪く思っていたが、祖父が使用する前に手紙を書き残しており副作用の事と、自分の娘、孫を愛しているという事そして記憶を失う事になっても使うという意思があるのなら存分に使えという事が綴られていた。

 そして、執事に馬を用意するように指示し行く先を告げると何かを言いかけたがやめて言う通り馬車を用意し目的地へと向かわせる。


「では、参ります」

「ご武運を」

 

 執事は令嬢が真っ直ぐ前を向いて歩いていく姿を目に付けようとするかのようにじっと見つめながら少し震えた声で見送る。令嬢は手に杖を携え、服は貴族の男が貶した形見のドレスを着て貴族の屋敷に真正面から堂々と突入していった。


「何か約束をされておられるのでしょうか? そうでないのならお引き取りを――」


 真っ直ぐ挨拶も無しに屋敷に入ろうとする令嬢に警備の者が呼び止めに集まってくるが令嬢は無言で杖を向け魔法を発動させると上半身が吹き飛び血の噴水を作って倒れた。


「ごめんあそばせ?」


 令嬢は自分の記憶の何かが抜け落ちたのを感じながら騒ぎを聞きつけ更に押し寄せてくる屋敷の者たちに向かって更に強力な一撃を放ち一気に数十人を死体に変えた。


「これは……予想以上に辛いですわね」


 先ほどよりも強力な魔法を行使したことでもっと大きな何かが記憶から消えたのを感じながらも令嬢は屋敷の中へと踏み込んでいく。


「貴様! これはどういうことだ! なんの目的でこんなことをしている」

「五月蠅いですわね」


 魔法により屋敷の中で待機していた警護が顔だけが綺麗に消え去った状態で後ろに倒れ込む。 それを見ていたメイドが金切り声を上げたかと思うと気絶した。


「なにごとだっ! ん? き、君は」

「先ほどはどうも。 このドレスを貶した罪で貴方を罰しに参りましたの」


 返り血を浴びて所々真っ赤になったドレスの裾を摘み恭しく礼をする令嬢に、心底怯えた貴族の男は悲鳴を上げ逃げようとするが、両足の膝から下を消され前のめりに倒れ込む。


「ひぎぃっ!? あ、足がぁ!!」

「何処へ行くのです? 逃がす気などありませんから諦めてくださいまし」


 腕を使ってうつ伏せで倒れ込んだのを仰向けにして令嬢を視界に入れながら恐慌状態になる貴族の男にゆっくりと歩み寄っていく令嬢。


「た、頼むぅ! 命だけはぁ!!」

「ご冗談を。 一方的な婚約破棄、そして私の母の形見を侮辱した罪、貴方の命で贖ってください」


 令嬢は返り血を浴びて赤い血痕が付いたまま穏やかな微笑みを浮かべながら貴族の男を葬ったあと、自分の手にある杖と服を見て不思議そうな顔をして屋敷から出て行こうとすると沢山の兵士が囲んでいた。


「ご機嫌用。皆さまお揃いで、一体何の騒ぎですの?」

「動くなっ! 大人しく捕まれば悪いようにはしないっ!」

「私が、この杖でやったという事かしら……ということはこの杖の効果で記憶が……ふむ」


 令嬢は剣や槍を突きつけられながら顎に手を当て思案するとポンと手を叩きニッコリ微笑むと、口を開き言い放つ。


「どうせ、記憶が消えるのならどこまで消えるかトコトン試してみましょう。 それでは皆様、お付き合いくださいませ」


 令嬢はドレスの裾を摘まんで一礼すると杖を構えた後、取り押さえようとしてくる連中に魔法を放ち続け最後には記憶を完全に無くす頃には地図から国が消えた。


 数日後、虚ろな目をして血塗れのまま歩き続けているところを旅人の青年が保護し綺麗にしてやりながらまともな意思疎通が出来ない事を知り甲斐甲斐しく世話をし続け、人格を取り戻した令嬢は青年に同行し各地を周っていく中で恋に落ち、やがて愛し合い幸せに暮らしましたとさ。

短編でサクッと終わらせる話を色々書いてみるの楽しいと思いました。

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