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異世界の至る所で天ぷらを揚げる獣(人間) ~なんでも天ぷらにするスキルで料理からモンスター討伐まで請け負います~

異世界の至る所で天ぷらを揚げる獣(人間) ~なんでも天ぷらにするスキルで料理からモンスター討伐まで請け負います~

作者: いたたたっ

近所の天ぷら屋で喉に御餅天ぷらを詰まらせ、もう死ぬ。と思いつつもがいていた香川次郎は、気が付けば、大きな樹木が生い茂る森の中にいた。ここは一体? と思いつつ、周囲に目を向けると、さっと目の前を何かが過る。


「おお。うまそうじゃの。食ってやるのじゃ」


 そう言ったのは、見た事のない何か、いや、落ち着いてちょっと考えれば見た事があると思い出す、だが、それがいるのは、アニメやゲームや何かしらの作り物の世界の話の中での事で、現実の世界に、今、次郎が見ているような、一般的にスライムと呼ばれ、RPG世界の中でモンスターとして登場する生物はいないはず。けれど、そんな生物がいて、しかも言葉をしゃべっている。


「な、なんだお前」


「スか? スはスライムなのじゃ。」


「お前、人の言葉が分かるのか?」


「スくらい長生きしているスライムだと分かるのじゃ」


「スって?」


「スはスなのじゃ」


「ごめん。分からない」


「スは、スの事を差しているのじゃ」


「ああ。一人称?」


「ああ。それなのじゃ」


「そうだ。スって、この世界に住んでるんだよな?」


「当たり前なのじゃ。スはもうここで五百年生きているのじゃ」


「スライムなのに?」


「なんなのじゃ? スライムは駄目なのじゃ?」


「いや。普通スライムって凄く弱いだろ?」


「なるほどの。そう思っているのじゃな」


「その自信。もしかして、強いのか?」


「うんにゃ。弱いの。ただ、戦い慣れていない人間くらいなら、たまにまぐれで倒せる事もあるのじゃ」


「だから強気なのか?」


「お前相手だからそれもあるのじゃ。けど、それだけではないのじゃ」


「何があるんだ?」


「どうれ。冥途の土産に見せてやるのじゃ」


 スライムの体がプルプルと震え出す。すると、細胞分裂をするように体に線が入り、そこからぽろぽろと、体が割れ始め、あっという間に数え切れないほどの数のスライムが出現した。


「凄い」


「これが、スが今まで生きて来られた理由なのじゃ。どんな者にも何かしらのスキルがある物なのじゃ。この世界はそういう世界なのじゃ」


「じゃあ、俺にも?」


「あるはずなのじゃ。まあ、お前は服装なども変わっておるからの。実際に確かめてみないと分からないのじゃ」


「今、分かるのか?」


「ふん。スを誰だと思っているのじゃ? 五百年生きたスライムなのじゃぞ」


「じゃあ、ス様。お願いします。俺のスキルを見て下さい」


「えー? どうしようっかなぁなのじゃ。スはお腹空いたしなのじゃ~」


「なんでちょっとギャルっぽい?」


「え~? 何言ってるのか分かんなーいのじゃー」


「頼む。教えてくれ。冥途の土産に。どうせお前に喰われるんだろ?」


「ああ。そうなのじゃそうなのじゃ。しょうがないのじゃ。見てやるのじゃ」


 スライムがそう言ってから、微動だにしなくある。だが、動かなくなったのは一匹だけで、先ほど大量に出て来たスライムたちは縦横無尽に動き回っていて鬱陶しい事この上ない。


「お。見えたのじゃ。えーと、なのじゃ、これは、なんなのじゃ? なんでも天ぷらにできるスキル? となっているのじゃ」


「なんでも天ぷらにできる……」


 次郎は口の中に広がった涎をごくりと喉を鳴らして飲み込む。


「なんなのじゃ? なんだか、目付きが変わったのじゃ」


 スライムが首はないが、小首を傾げるような仕草をした。


「スライム。ちょっと、お前の分身を使わせてくれ」


 次郎はぴょいんぴょいんと飛び跳ねている一匹のスライムを見つめると、天ぷらになれと思ってみる。すると、次郎が見つめていたスライムが一瞬のうちに揚げたてほかほかの天ぷらに変わり、地面の上に落ちた。


「な、なんなのじゃ?」


「スライム。すまん。俺の空腹はもう限界」


「ま、まさか、食べる気なのじゃ?」


「プルプルしてておいしそう」


「きゃ~。助けて、食べられるのじゃ」


「なんて。嘘だよ。でも、ごめん。この子、死んじゃったか?」


「ああ。残念だが、これは臨終しているのじゃ」


「そうか、本当に悪かった。もっと考えてからやればよかった」


「いや。いいのじゃ。仕方のない事なのじゃ。生きる物は皆いつかは死ぬ。お前だって、もうすぐ、スに食われるのじゃ」


「いや。ス。ごめん。それはない。お前が俺を襲うなら、俺はお前を天ぷらにする」


 スライムががびーんというエフェクトが出ているかと思うくらいに驚く。


「しまったのじゃ。それは、そうなのじゃ。天ぷらは嫌なのじゃ~」


「なら許してやる。その代わりに、俺にこの世界の事を教えてくれ」


「むむ、なのじゃ。急に強気になったのじゃ」


「分かった。悪かった。じゃあ、お願いだ。教えて下さい」


「良い心掛けなのじゃ。分かったのじゃ。とりあえず、ここではなんなのじゃ。スの巣へ行くのじゃ。そこでゆっくり話すのじゃ」


「後ろをついて行けばいいか?」


「いんや。スを手に持つのじゃ。運ぶのじゃ」


 スライムが次郎に寄って来ると、次郎に向かってぴょいんと飛んだ。


「意外と重いな」


「な、なんと、失礼な奴なのじゃ。スはスライムの中でもかなり美人な方なのじゃ。スタイルだって抜群なのじゃ」


 次郎はスライムをじろじろと見る。


「はうっ、なのじゃ。エロエロ視線を感じるのじゃ」


「どっちに行けばいい?」


「無視なのかーい、なのじゃ。ああ、うん。あっちなのじゃ」


「初めに出会ったモンスターがお前で良かったよ」


「そうじゃろうそうじゃろう。スライムは高貴で高潔で利口なのじゃ。森の賢者と呼ばれているのじゃ」


「へー。それ初めて知った。凄いな」


「尊敬するのじゃ。さすれば、お前にはきっと良い事があるのじゃ」


「ああ。分かった。ス様。さっき天ぷらを見たら酷くお腹が空いて来たので、何か食べ物を」


「分かったのじゃ。巣に着いたら、真っ先に食べ物を出してやるのじゃ」


 次郎は、この世界は一体どんな世界で、俺はこれからどうすればいいんだ? と思いつつ、歩く速度を上げたのだった。


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