46 魔法陣と黒龍
最後の一人の黒装束との戦いが終わったと同時に、空高くから光を感じた。空を見上げてみるとそこには、王都全体を包むようにして展開している魔法陣の存在。
魔法陣が放つ光は時間経過と共にその輝きは増していく。
「あれは......?」
そういえばさっき倒した黒装束が死に際に『封印が解放される』とか言っていたが、もしかするとこの魔法陣のことなのかも知れないが、だとしてもこの魔法陣は何なのだろうか。
疑問に思うところもあるが、王都の冒険者達が何かと結界を張っている最中なのかも知れない。けど、俺の知っている結界は魔法陣なんて現れなかったから、よく分からないのも事実。
そんなことを考えていると、無意識に目を瞑ってしまうほどの光を放っている魔法陣は前触れもなく、黒一色へと変化した。
ーーズドン!
瞬間、空から、魔法陣から雷でも落ちるような音が聞こえた。
それに続くように魔法陣はバリバリという音を立てながら消滅し、空一面にヒビがはいる。
それはまるでこの世の終わりのような光景。
「竜......なのか......?」
ファンタジー系のラノベで良く登場してくる魔物と言えば、ドラゴンこと竜の存在だと思うけど、本来こうやって目にすることになるとは思ってもなかった。いや、冒険者として魔物を討伐していればいつかは登場しているかも知れないし、魔王側として登場する場面もあるかも知れないな。勇者じゃないから魔王と戦うこともなければ、竜と戦うこともないだろうけどね。
だけどそんなことを考えている暇は俺にはない。いくらシルテ様公認で最強の力を持っていると自覚していても、異世界に来たばっかりで竜と対峙するのは普通に無理な気がする。絶対に無理だろう。
ーーギュガワァァァァァァァァァァァァァァ!
脳を直接殴られているような竜の方向が王都全体に響く。そして空をガラスの様に破りながら身体の全容が明らかになる。
それは、俺のハヤトちりだった。
竜、ではなく、龍。全身は黒一色の龍だ。
「これは、やばいよな」
黒龍の視線が俺に向いている様な気がしたが、多分気のせいだろう。
今やるべきことはリーナを迎えにいくこと。黒装束は全員倒した。黒龍をどうにかしなければならない、というのもあるけど今の俺一人でどうにか出来る相手じゃないのは身体全身で感じている。
きっと勇者とかなら対抗出来るほどの能力を備えているだろうと思うが、事実は知らない。それに王都まで来る頃には王都は壊滅しているかも知れないだろう。
シルテ様、俺はどうしたらいいでしょうか。
きっと女神様が手を出せば黒龍くらい瞬殺することは楽勝だろうが、戦いの女神様じゃなくて世界を管理する側の女神様から事態をどうにかする力は持ち合わせていないと思う。
「パパ……!」
俺の帰りを待っていたはずのリーナが、王都中心地である噴水広間に突然姿を現した。
「リーナ? どうしてここに!?」
絶対帰ってくるから待ってるって約束したはずなのに!
思わぬ事態に俺が困惑していると、
「シルテ様がここに行けば会えるって言ってくれたの。道案内もしてくれて。そしたら空におっきな動物が現れて」
空に浮かぶ黒龍を指差しながらリーナは説明してくれた。
シルテ様が、なるほど。けどどうしてわざわざ? 待っていた方が安全は約束されていると思うのに。
『ナギル君、リーナちゃんはまだ六歳なんだよ? そんな子が一人で居て寂しくないわけないじゃん。だから私が連れて来てあげたのよ? 女神様に力を使わせた代価はもちろん高くつくから覚えておくことね』
胸に手を当て意識する。
『それは分かってますけど、六歳の子を一人で来させるなんて無謀です。シルテ様こそ反省してください。何かがあってからじゃ遅いんですから』
『あぁー、本当にナギル君は分かってないね。それに私は言いました。女神様の力は高くつくと。その意味、お分かりで?』
『マジで言ってます? 後から叱られても知りませんよ?』
『そこはリーナちゃんがしっかり説明してくれるから。それにナギル君も居るからね。味方は多いに越したことはないんだよ!』
シルテ様も呑気というかいつも通りというか。なんか地元の安心感を感じてしまう。
「エルはどうしたの?」
リーナに尋ねてみるが、わからないの一点張り。
そんな時、
ーーゴォォォーーーーーーーン
空から耳を裂くような轟音が響いた。
空は視線を移すと、見知ったシルエットが黒龍と対峙しているのが見える。
「あれは……エルか?」
ーーアオォォォーーーーーーン
エルの咆哮と同時に緑色の光線が発射され、黒龍にヒット。煙がモクモクと上がり、ダメージを与えたと思ったものの、黒龍の身体の周りには青白く光る結界のようなものが見える。
そういえば結構遠くなのに結界ってよく分かったよな。それはどうでも良かった。
エルが戦ってるとなると、リーナをどうするべきか。
そんなことを考えていると、突然頭上に黒い塊のようなものが現れた。
「なっ!?」
突然のことに呆気に取られたものの、『光魔法:上級』で結界を貼る。
「は?」
しかし黒い塊に接触している部分の結界がドロドロと溶け始めて、数十秒後には穴がぽっかり空いてしまう。
リーナを抱き上げ、バックステップで避けつつ、ヒヨコ亭に預ける為に急足で向かう。
『エル、ヒヨコ亭に向かうからリーナ含めたヒヨコ亭の守備を頼む。準備が出来たら俺と交代だ』
『本気で言ってます? 流石の主でも厳しい……いえ、任せました』
同時にこれからやることをエルにも伝えておく。
反論されたが、エルも黒龍に相手されていないことを感じ取ったのか納得してくれた。そう、黒龍の標的がなんとなくだが俺に向いているような気がしてならない。
さっきの黒い塊のような攻撃がたまたま被弾したのでなく、俺を標的にした攻撃なら理解出来る。
黒龍相手に初心者冒険の俺がどこまで通じるかは別として、王都を死ぬ気で守らないといけないな。シルテ様が用意してくれたこの力で。




