38 魔法
「ウイゴーンさん、今大丈夫でしょうか?」
ギルドマスターがいる部屋の前まで来た俺とウサギさん。
ウサギさんは扉をノックして、部屋にいるであろうウイゴーンさんに尋ねた。
「いいぞ」
帰ってきたウイゴーンさんの声と同時にウサギさんが扉を開けてくれた。
「こんにちは、ウイゴーンさん」
「ウサギの声が聞こえたのにナツナギくんがいるとはね。こんにちは、どうしたんだい?」
少し驚いたような演技の混じったそんな声が返ってくる。
俺はそこから、何があってここにやってきたのかを詳しく話した。
「なるほど。そんなことがあったとは……それでナツナギくんが緊急事態だと重い俺に報告してくれたってことだね。ウサギも急いでここに連れてきてくれたこと、良い仕事をしたね」
ウイゴーンさんはウサギさんを褒めるようにして、笑顔で口にした。
「それじゃあ、行くとしようか」
男三人がいる場所へと戻ってきた俺とウサギさん、やってきたウイゴーンさん。
ウイゴーンさんの存在に気が付いたウサギさんの同僚が、ウイゴーンさん近くにやってくる。
すでに話の内容を大体と知っていた(俺がウサギさんに連れて行ってもらってとりあえずわかる範囲での説明をしたのだけれど)ウイゴーンさんは、
「とりあえず、落ち着こうか」
と、声をかけ落ち着かせようとしたのだった。
「あ、はい。すみません。冒険者のみなさんにつられてしまい、困惑してしまい」
頭を下げて、謝罪をしてくる。
「まああとは、私とここにいるナツナギくんに任せてくれるといいよ」
え、俺もなんですか?
口からは出さずに、心の中で反射するように言い返してしまった。
いやまあ、ウイゴーンさんの耳に入っていないんだから大丈夫なんだけどね。
「うん、ナツナギくんがいないと難しそうだしね?」
「お、俺の心読めるんですか?」
「そんなことできるわけないじゃないか。長年の経験値、的な物かな」
「……なるほど」
というか、普通にバレていたようだ。
ただ俺は心の中で思ってしまった。
そう、この人には心理戦で勝てる気がしない気がする……。
まあ、俺自身が心理戦なんてものをしたことがないし、じゃんけんが心理戦だと思い込んでいる。
「じゃあ、早めに話を聞かないとだ」
「そうですね、ウイゴーンさん」
男冒険者たちの方に歩いて行きながらウイゴーンさんと短い会話をした。
近くまで行き、座りこんで呼びかける。
「何があったのかゆっくり話してくれるか?」
「は、はい。そ、その……うっ……」
「辛そうだ。そっちはどうだい?」
「うっ……お、思い出したくない……」
「そこまで辛いことだったとは……」
話を聞いてみて、ダメそうだなと困った顔をするウイゴーンさん。
なんだろう、結構深刻な話なんだろうか。
どういう風に接しないといけないのかとてつもなくわからなかった俺は、恐る恐るウイゴーンさんに尋ねる。
「あの、ウイゴーンさん。これって結構深刻な話なんですかね……?」
「うーん、そうだな。ここまで話せないとなるとなにも情報を得られないままだ」
ウイゴーンさん、どうすればいいかわからないのだろうな。
うーん、こういうときに精神状態を正常に戻す魔法があったりすると便利なんだけど。
精神状態を戻す……完全回復、的なものでどうにかなったりするのだろうか。
だけど、英語なんて俺にはわかんないかなら。
分かるといっても火や水、光などといった簡単な英語だけ。
今の俺にはどうにもできないのか……?
しばらく黙り込んで考えながら、一つの策を、今のこの状況を打倒する策を思いついたのだ。
それは、
「あの、ウイゴーンさん。壊れてしまった精神状態を完全回復させたりする魔法ってあるんですかね?」
この異世界の住人で、この異世界に生まれ育ったウイゴーンさんに聞くということだ。
これで分からなかった場合は、どうすることもできないのかもしれないな。
「ん? あるにはあるが、使える者はここには存在しないぞ?」
首をかしげながらもウイゴーンさんは答えてくれた。
「あるんですね! その魔法を俺に教えてください! この人たちをどうにか回復させますから!」
俺は食いつくようにして、身を出しながら言い返した。
これでどうにかできるな。
「じゃあ、教えるが……リカバリーっていう壊れた精神を回復させる魔法が存在している。ただこの魔法は魔法を極めし者の下でしか取得できないんだ」
なるほど、リカバリーか、試しにやってみるのもいいかもな。
「だから、いくらナツナギくんでもこれをどうにかするっていうの……」
そんなウイゴーンさんの言葉を遮って、リカバリーを試す。
「リカバリー」
二人の男の冒険者に手をかざし、リカバリーと唱えた瞬間、俺の体の中で何かが動くようね気配を感じた。
魔力の暴走とかではないと思う。
あの日から、魔力が暴走しないように制御を心がけているからな。
だけど何だろう、この気配。
そんなことを考えている間に、試しに唱えたリカバリーは発動前を迎えていた。
かざしていた手から一気に展開される魔法陣。
眩い光の魔法陣は、俺の医師とは背くかのようにしてそこから同じ魔法陣が展開され、合体して、さらに大きくなる。
そして……。
「リカバリーが、発動された……のか?」
うまくいったようだ。
「え、ナツナギくん? リカバリー使ったのか……?」
俺の手から展開された魔法陣と、発動された魔法を見ていたウイゴーンさんは口を開けたまま俺と男冒険者を交互に見てくる。
「使えちゃったみたいですね」
少し笑いながら答えてしまう、俺。
いや、うん、どう反応すればいいのかわからない。
だってウイゴーンさんが地味に固まっているんだから、ロボットみたいに。
そこから数秒の静寂の後に、周りがざわざわし始めたのだ。
それからのことは簡単に予想がつくかもしれない。
いや、簡単に予想がついてほしいものだ。
急に俺がリカバリーを使ってしまい、しっかり発動させてしまう。
それと話を遮ってしまったので、リカバリーがどういった魔法なのかを後から聞いた。
うん、これはやってしまった感がありまくりだな。
もう過去には戻れないから、どうにもできないけれど。
なんというか、俺にはリーナや宿泊に使っているヒヨコ亭のフィナさんやユンがいるから、迷惑が掛からないことをめちゃくちゃ願っていたいかな。




