30 ウサギ=シルエット
王都ギルバデンスにある冒険者ギルドでは、いつものように朝から受付嬢やらが仕事を夕方くらいまでの長い時間せっせとこなしていた。
そこの冒険者ギルドのギルドマスターにいるのは、ウイゴーン・ドリルバという男である。
そんな冒険者ギルドにて最年少の16歳にて受付嬢になった少女が一人いた。
その少女こと受付嬢の名前を、ウサギ・シルエットと呼んだ。
何故16歳の若さで受付嬢になったかと言えば、特に理由はないのだが(たぶん)……まあ、冒険者ギルドの受付嬢は15歳以上から働いても良いと、オルフェニアではしっかりと決まっているのである。
だからウサギは、冒険者ギルドの受付嬢になった。
ただその若さゆえに冒険者からの視線の的になってしまい、色々な冒険者(主に男や少年)から声を掛けられるようになってしまった。
その結果からある一つの事が生まれてしまったのだ。
それはなにかと言うと、冒険者ギルドで受付嬢をしている先輩たちからの嫌がらせ、その一つである。
どうして嫌がらせが起こるようになってしまったのかは、先ほども説明したように男や少年の冒険者からの視線の的になってしまっていることが原因。
で、ウサギがどんな嫌がらせをされるようになってしまったのか挙げてみるとしよう。
ん? どうして挙げる必要があるのかって?
それはどう考えても、嫌がらせの量が多いからに決まっているよ。
一つ、受付嬢として仕事をする時に必要になる制服を隠さられる。
二つ、私物を盗まれてしまう。
三つ、私物を目の前で壊されてしまう。
四つ、先輩受付嬢が男冒険者にお金を払えば体を触れるという嘘情報を流されてしまう。
五つ、泊まっていた宿の場所を先輩受付嬢が男冒険者に売っている。
六つ、裏で嫌味を言われる。
……だいたいこれくらいのことを、ウサギは先輩受付嬢から毎日されている。
正直言って、ウサギの先輩受付嬢は人間として何かを失っているからこんなことができてしまうのだろう。
この六つの嫌がらせの中には本当にやってはいけない嫌がらせがいくつもある。
ただ、本当にやってはいけない嫌がらせはいくつもあるのだが、本当にやってはいけない嫌がらせも子どもがしているであろう嫌がらせも、本当はすべて絶対にやってはいけないものなのだ。
そして今日も先輩受付嬢からウサギは嫌がらせを受けていたのである。
しかしその嫌がらせは、ウサギが思うに今まで受けてきた酷い嫌がらせと言うのにはもの凄く難しいものだった。
それは何なのかと言うと、ナギルが受けたクエストに今回ウサギに与えられた嫌がらせの本当の答えがある。
「ふぅー、この書類はこれで完璧ですね」
カウンターではないカウンター冒険者ギルド内の受付嬢たちが使う仕事部屋にて書類の確認をしていた兎はそう口にすると、書類を持って椅子から立ちあがった。
そこからウサギが向かう場所は、書類保管庫と呼ばれている冒険者ギルドに直接関わりのある人しか入ることが許されていない保管庫だ。
冒険者ギルドに直接関わりがあるというのは、関わり簡単に言えばギルドマスターと受付嬢だけである。
仕事部屋から出ると同時に、ウサギの視界の隅で先輩受付嬢数人の姿が映ってしまった。
視界の隅に映ってしまっただけなのでウサギは挨拶をすることなく、書類保管庫に向かって歩い始めた。
だがそんな時、ウサギの耳にしゃべっている内容が入ってくる。
「知ってる? 水色の湖の先にある森でゴブリン・キングが出たらしいわよ」
「え!? それって本当なの!?」
「まさかよね? だってゴブリン・キングって言ったら、こんな森では見かけないんじゃなかったの?」
「それがねぇー、この前冒険者ギルドに来ていた男の人が、見たって言ってたのよぉ」
「冒険者ギルドに来てた男の人がそれを言ってたのなら、本当の事になるわよね!」
無視して書類保管庫に行こうとしていたウサギの耳に入ってきたのは、まさかの事だったのだ。
水色の湖の先と言うと、ゴブリンが生息している山がそびえ立っている。
そしてなにより、そこには今日の朝から一人の冒険者が行っていた。
それを耳にしたウサギだったが、顔色をまったく変えようとせずに書類保管庫へと早足で向かていった。
バタンっという音を出しながら、書類保管庫の扉が閉められた。
「え? ……どういうことなの?」
顔色をまったく変えなかったウサギは、持っていた書類をテーブルに置くと、今の状況を整理しようと始めた。
「……え? 私にあのクエストをさせるようにしてきたのって、こういうことだったの?」
どうにかして今の状況を整理出来ていってしまうウサギ。
その顔色が一つ一つしっかりと整理されるごとに、段々と悪いものになってしまっていた。
完璧に今の状況をしっかりと整理させてしまったウサギは、崩れるようにしてその場に座り込んでしまう。
「……私のせいで……あの人を死なせてしまうんだ……」
その言葉を口にしたウサギは、反射的に大量の涙を流し始めてしまった。
しかしこの涙は不要だという事実を――今のウサギには知る由もなかったのだ。
ちなみに、ウサギの先輩受付嬢の思うようにも絶対にならないのである。
だってナギルは、このオルフェニアに召喚された勇者よりも最強の存在なのだから。




