19 絶対絶命
会話文は少ないです。
正直言って、『森の怪物』を倒すということは不可能に近い。
それは、今の俺の力で倒せられないのではないかと思っているからである。
初めてゴブリンを倒してLvが上がってから、どれくらいの月日が経っているかは正確にはわからないけれど、今の俺のLvは……あ、俺のレベルは書いてなかったんだった。
ただ、攻撃や防御などは数値化されていて――。
攻撃:【49(+5)】 防御:【42(+2)】 俊敏:【42】 器用:【17】 幸運:【29】
こんな感じにはなっている。
スキルの方も前回確認した時よりも増えていて――。
【火魔法:Lv1】 【水魔法:Lv1】 【風魔法:Lv1】 【土魔法:Lv1】 【光魔法:Lv2】 【闇魔法:Lv1】 【詠唱短縮】 【二段切り】 【滅多刺し】
こんな感じになってしまっていた。器用も幸運も、変な数値になってる。
光魔法は今日村にやって来た男性冒険者たちの傷などを【ヒール】と【ハイ・ヒール】で回復していたので、しっかりとLv2になっている。
他の魔法に関しては、全く使っていないでのLvは上がらないでLv1のままである。
「――うおっ」
そうだった、俺は今『森の怪物』と一対一で戦っている最中なのだ。
そう気づかされるとともに、『森の怪物』が放った攻撃から身を避けるために、スペースの開いている場所へ身を投げるようにして攻撃を避けた。
といっても、スペースの開いている場所は、ただただうざったいくらいに思えてしまう草で密集している。
「ガルルルガァァァァァ」
しかし上手く避けることが出来たと思っても、『森の怪物』は俺が避けた方向へと瞬時に方向転換をしてくる。
「ああああぁぁぁぁ、くそっ!」
なんでこんなに方向転換してくるの早いんだよ! 俺よりも絶対俊敏の数値が高いはずなのに、行き過ぎらずに良く方向転換できるよな‼
俺は誰かの耳に入るわけでもないそんな文句を思いながら、『森の怪物』から少しでも差を開くために全力疾走をする。
ただ、攻撃から逃れるために違う方向へ避けたばっかりなので、思ったような速さが出ない。
「ガガガルルルルルルルル」
俺と『森の怪物』との差が少し開いていたのだが、さすがに縮まってしまっていた。
そのため、『森の怪物』は俺に向かって前足を使って獲物を捕らえるかのような攻撃をしてくる。
「――っ」
しかしこの攻撃もどうにか避けて、危険から逃げる。
……このまま逃げ続けていても、どうにかなるわけではない。なら……俺もスキルを使って攻撃をしないといけないのか。
だが……剣を使ってでの攻撃はさすがに難しいだろうし……たぶん、今の俺では難しいと思う。
それなら――。
「ファイアボール」
攻撃をして来てはいないが、方向転換をすると同時に、俺は、ファイアボールを『森の怪物』向けて放つ。
【詠唱短縮】っていうスキルがあるから、長いかどうかわからないがファイアボールの詠唱文的なものを言う必要はない。
俺の手元に魔法陣が浮かび上がると、そこからファイアボールが勢い良く飛び出した。
そこからすぐにファイアボールは『森の怪物』と衝突をした。
ついでに衝突をしたと同時に、大きな爆炎が巻き起こる。
さすがにダメージくらいは入っただろう?
こんなフラグは立てたくないが、正直言ってフラグじゃなくて本当にダメージが入っていてくれると俺的にはありがたい。マジで、安心出来る。
爆炎からは大きな煙が起こっていて、だんだんと煙が小さくなっていく。
そこからは、シルエットで形の分かる『森の怪物』の姿があるのだが……。
「なっ」
ファイアボールが当たる前とあまり変わっていない状態の『森の怪物』の姿が出てきたのだ。
……はい……? ……どういうことなんだ……もしかしなくても、俺のファイアボールが全く効いてないのか……?
「ガルルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥ!!」
立ち込めていた煙から姿を現すと、『森の怪物』は大きな叫び声を上げた。
瞬間、俺の体が大きく震えてしまう。理由はわからない。
なのだが、叫び声というよりも、なにかが違うもので――スキルのようななにかなのかもしれないと思う。
ただ、もしも本当にスキルだったとするのなら、俺は勝つことは出来るのだろうか?
しかし、今の俺に出来ることは、今持っているスキルで攻撃をするのみ。
ファイアボールが効かなかったとするのならば、違う攻撃をするまで。
「ウォーターボール!」
今使ったのは【水魔法:Lv1】で使うことの出来る水魔法だ。
だけど、ファイアボールが効かなかった以上ウォーターボールも効かないだろうと推測出来てしまう。
ウォーターボールは『森の怪物』に衝突して――一瞬にして弾け飛んだ。
「!?」
なにが起こってしまったのかわからなくなり、唖然となる。
「ガルルルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
が、そんな『森の怪物』の叫び声で俺はハッと意識を目の前に戻す。
……今気づいたのだが、火魔法を使ってから『森の怪物』が一切の攻撃をしてこない。
たまたまなのかもしれないけど……。
『森の怪物』を見ながら俺は、そんな疑問を抱えつつも次の攻撃をする。
「アイスボール」
簡単に言うと、ウォーターボールが水なら、アイスボールは氷なのである。まあ、同じ水魔法の一部だ。
俺の手に現れた魔法陣からアイスボールが放たれ、『森の怪物』と衝突をするも、何事もなかったかのようにして『森の怪物』は俺を見てくる。
「ガルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
そして『森の怪物」の叫び声が俺の体を震えさせてくる。
なんというか、今の叫び声には……そんなものか? 的な言葉を感じてしまう。単なる勘なのだが……。
そこから俺は、【風魔法:Lv1】で使えるウィンドボールを使い、【闇魔法:Lv1】で使えるダークボールを使った。
だが、二つとも最初に使ったファイアボールやウォーターボール、アイスボールと同じように『森の怪物』にダメージを与えることはできなかった。
しかし、このまま諦めることは出来なく、一回使うだけでなく数を増やしたりして攻撃をした。
だけれど、結果は一回だけ使った時と同じような結果。ダメージを与えることは一切できなかった。
ここまでくると、本当にダメなのではないかと思ってしまう。だって、いくら攻撃をしてもダメージが一切入らないのだ。
もしもここがゲームの世界なのなら、一度電源を落として(セーブをしているなら)どこかでLvをたくさん上げたりしてから挑めばどうにかなりそうなのだが、ここはゲームの世界ではなく、現実の世界、なのでそんなやり直しはきかない。
「……はぁはぁはぁはぁ……」
さすがにスキルを使い過ぎてしまったからか、体に疲れが溜まってきてしまった。今日まで運動して体力が付いて来たと思っていたけど、それもここまでなのかもしれない。
なんというか、ここまで頑張ったのだから『森の怪物』には見逃してほしいものだ。それで、シルルテ村を荒らさないで、森の奥地へと戻ってもらいたい。マジで。
「……はぁはぁはぁはぁ……」
息を切らしながら、俺はもう一度スキルを使う。
使うのは変わらず魔法の方だ。剣を使うスキルは、『森の怪物』に近づかないといけないから、使うのはダメだ。
「ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール!!」
右手にある魔法陣と左手にある魔法陣から二つ同時のファイアボールを放つと、再び二つ同時のファイアボールを放って……それを十回。
俺の両手にある魔法陣からは、十個のファイアボールが現れて『森の怪物』に向かって勢い良く飛んで行く。
衝突と同時にファイアボールは消え、一個の時に起こった爆炎とは比べ物にならないほどの大きな爆炎が起こってしまい辺り一面を大量の煙が覆い隠す。
ついでに言うと、俺も大量の煙に飲まれてしまった。
そこから徐々に大量の煙は、なくなっていく。
しかし、姿を現したものはあまりダメージをくらっていない『森の怪物』の姿。最初よりも多少はダメージが入っていると思えるが、『森の怪物』はダメージが入ったような雰囲気は出していない。
もしかすると、入っているかもしれない。入っていて、入っていない雰囲気を出しているのかもしれない。
それが事実であるならばどれだけ楽なのだろうな。
「ガルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
……事実ではないようだ。うん……分かってはいたけど、分かってはいたんだけれど……。
だが、『森の怪物』がした今の叫び声は、今までしてきた叫び声よりも凄まじく、誰が聞いたとしても体を震えてしまうほど凄いものだった。
「……」
さすがの俺も、目の前で起こっている叫び声に対して体を震わせ、口を動かすことも難しくなってしまう。
ただただ、震えと驚きでいっぱいいっぱいなのである。
次の瞬間――。
「――っ!」
耳元でとてつもなく大きな風がブゥンと突っ切って行くようなそんな音を拾った。
途端に体の震えも収まったが、音が過ぎていった方向へと恐る恐る首を動かす。
そして視界に入ってきたのは、言葉にするのが難しい何かによって大きな痕が出来てしまっている光景だった。
さすがにこの一瞬で何が起こったのか理解に悩んでしまう。
首を悩ませて、なにがどうなってこうなった、のかという答えを探していると再び耳元で先ほど聞いたブゥンという音が聞こえたのだ。
ただ、今度は、なにがどうなってこうなった、という答えを見つけることができてしまった。
理由は、風で出来ているであろうとてつもなく大きな爪が先ほどの光景を作っただろうと思える光景を、目の前で起こしてしまったからである。
正直言って、今起きたのは現実ではないのかな? と、そう思ってしまいそうになるのだが……頬をつねっても目の前の光景が消えない、なので、今起こっているのはちゃんとした現実だ。
「――痛い……?」
ふと、俺は頬に一瞬だけの痛みが走ったことを気が付いた。
なんだろうな、そう思いながら手で触れてみると、何かが出ていることを感じた。そのままその手を目の前に持っていき、確認する。
「……血……どうして……」
すると何故か、手には赤い血、確実に俺の血液である赤い血が付いていた。
しかしどうしてだ? どうして、血が出てるんだ?
今分かっていることから、考えられる答えを探す。
そして――見つけることが出来た。
ただ、確証を持っての答えではないのだが、『森の怪物』にもスキルが合って、そのスキルで今の光景を作り繰り出して、俺の頬から血を出させた、のではないかということ。
もしもこれが本当だったら(ほとんど本当)、俺、確実に死ぬ。
せっかく決心して、リーナのところに戻るためにシルルテ村の人たちを守るために、『森の怪物』と戦っているのに、俺は何もできないで死ぬ、のだろうな。
正直、勝てる自信もないし、ほとんど諦めかけている自分が俺の中にはいる。
「ルガァァァァァァァァァァルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
そんな俺を見てからか、今まで一度も攻撃をしてこなかった『森の怪物』が再び動き出してきた。
俺と開いていた差だが、俺が動かないせいでだんだんと差が縮まっていく。
……リーナ、ごめん。あの時ちゃんと帰ってくるからって、ちゃんと言ったのに、帰ってこれなくなっちゃて……。
「ガァァァァァァルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥガガガガガガガ!!」
心の中でリーナに謝っている間にも、『森の怪物』がどんどん近づいてくる。
しかし、俺は逃げようともしない。
……本当に諦めてしまったみたいだった。心のどこかで逃げようと思うのなら、俺は今頃避けているはず。だけど、避けていないということは、諦めてしまっているのだろう。
まあ、ここまで力の差を見せられてしまっては諦める以外なにもないだろう。
ついに――俺との差がなくなった『森の怪物』は、前足に付いている大きな爪を見せて来て――自分の頭の上まで行くように大きく振り上げる。
そして次の瞬間、『森の怪物』の大きな爪は俺の頭目掛けて――勢い良く振り下ろされてしまった。
◇
「……あれ……?」
さすがに怖すぎたので振り下ろされる瞬間は目を瞑ってしまったのだが……死んでない……?
恐る恐る瞑っていた目を開けると、目の前には振り下ろされていたはずの『森の怪物』の大きな爪がどういう原理か空中で止まっていた。
それも、時間が止まるかのようにして止まっていたのである。
「どういうことだ……?」
疑問に思っていると、視界がふらついた。
と、思うのもつかの間で一秒後には意識が暗転したのであった。
リーナは可愛いです(想像上)。




