18 守りたい②
『森の怪物』が住まう森の中に入ってからしばらくの時間が経った。
どれくらいの五時間を歩いているのかはわからないが、というか全然わからなくてもいい。
何故かと言うと、森の中は誰かの仕業でもの凄く荒らされていたからである
なので、どれくらいの時間が経っているのかどうかなんて、正直どうでも良かった。
「もしかしてこれをしたのって、『森の怪物』の仕業なんですかね?」
「そうだろうな。俺もどういった魔物が『森の怪物』なのか全く知らないが、今までの経験上で分かることと言えば、そこら付近の魔物とは大きさが比べれない大きさだろうな」
近くにいたフォンさんはそう教えてくれた。
そこから分かるに、本当にこの森は危険なのだということだろう。
「――っ」
入ってからしばらくは異臭のようなものを感じていたのだが、ここに来てもっと凄い異臭を鼻が感じ取ってしまった。
さすがにこの異臭に耐えきれなくて、異臭を感じないように鼻を手で押さえてしまう。
ちなみに歩いている周りでは、木には魔物の血であろうものがべっとりと付いており、草などにも気と同じようなことが起こっている。地面では、魔物であろうものが何者かによって蹂躙されてしまったあとが残っている。
正直言って、こんな場所にいていいのかって逆に問いたくなってしまいたくなる。
まあ、今回はどうなっているかの偵察みたいなことをするだけなので、件の『森の怪物』に出会うことはないだろう。
……出会わないだろうと思っていると、フラグを踏んで逆に『森の怪物』に出会ってしまいそうだな。
「大丈夫か?」
異臭を出来るだけ感じないよう鼻を手で押さえていた俺を見て、オーンさんが心配そうに尋ねてきた。
「は、はい。……どうにか」
さすがに心配をされるわけにもいかないし、自分のことは自分でどうにかしよう。
ゆっくりゆっくり慎重に歩いていると、突然先頭を歩いていたミドルさんが右手を挙げて、
「止まってくれ」
小声で停止の指示を出してきたのである。
「どうかしたんですか?」
なにがあったのかミドルさんのところに急いで行って、尋ねてみる。
「ん、ナギルくんか。ここを見てみろ」
「はい……?」
指を差してミドルさんは自分が見ていた場所を俺に見てもらうようにして、言ってきた。
なんだろうと不思議に思いながら見てみると、指を差していた場所には大きな足跡のようなものが地面に出来ていたのである。
「これって、もしかして……『森の怪物』のですかね……?」
「たぶんそうだろうと思うよ。ただ、これほどまでの大きな足跡をもつ魔物は俺でも見たことがない。ということは……ナギルくんの言っている通り『森の怪物』のものだろうな」
そんな説明をしている間にも、停止命令をされている村の人たちがなんだなんだと思いながら見に来ている。
「これって、『森の怪物』の足跡なのか……」
「なんというか、す、凄い大きいな……」
「……化け物だろ」
「ヤバくないのか……?」
『森の怪物』の足跡であろう大きな足跡を目にした村の人たちは、見るなり次々にそう呟いていく。
やはり、ミドルさんが見たことないというとなると他の村の人たちでも見たことはないよな。
「なあ、ミドル。これはさすがにやばいんじゃないか?」
と、オーンさんがミドルさんに言う。
「俺もそう思う。他のやつらも、少し気が乱れてる」
と、フォンさんがオーンさんの意見に乗っかてミドルさん言う。
「……うーん………………」
判断をしなくてはいけない立場に立っているミドルさんは、オーンさんとフォンさんの意見を耳に入れてこれからどうすればいいのかの判断を考え始めた。
さすがにここでのミドルさんの判断によって、村の人たちの命やミドルさん、オーンさん、フォンさん、あと俺の命は決まってしまう。
だから、ここでの判断はとても大切なのである。
……。
…………。
………………。
しばらく黙り込んで考えることしばらく、
「……よし」
どうすればいいのか答えを導き出せたのか、ミドルさんは続けて口を動かす。
「ここから急いで出よう」
「「「「「了解」」」」」
そして、これからどうすればいいのかが決まった。
そういうわけで、俺とミドルさんたちと村の人たちは、『森の怪物』に遭遇しない様に急いで出口に向かって歩き出したのであった。
――ただ、その時。
「ギャアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
そんな化け物が出すような叫び声が森全体に響き渡ったのである。
歩き出してすぐだったので、その叫び声を聞くと同時に足を止めてしまった。
「全員、注意しろ」
ミドルさんの指示にオーンさんとフォンさん、村の人たちは持って来ていた武器を構えて、その叫び声の持ち主がどこからでも出てきていいように準備をする。
俺も持って来ていた剣を鞘から引き抜いて、息を殺して構える。
……。
…………。
………………。
……………………。
しかしいつまで経っても、叫び声の持ち主であろう存在は姿を現さない。
「どういうことだ……?」
なにも起こらないことによりミドルさんがそんな疑問の声を上げた。
「なにも――」
――起こらない? と言おうとしたオーンさんだったが、最後まで言わずに何故か口を閉じてしまった。
その答えは、
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
オーンさんの視界いっぱいに、『森の怪物』であろう大型の魔物が映っていたからである。
「――っ」
まさか『森の怪物』がここまで大型の魔物だろうと、誰が予想をしていただろうか。
否、誰もそんな予想はできていなかった。
思っていた以上、それ以上の大きさは確実にあるだろう。
そんな『森の怪物』を目の当たりにしてしまった村の人たちは大混乱が生じてしまっている。
ミドルさん、オーンさん、フォンさんに関して言うと、今までの経験で培ってきたものがあるからか、どうにか持ちこたえているみたいだ。
だけれど、このまま何もしないで大混乱のままになっていると、結果的に『森の怪物』にころされてしまうのがオチだろう。
そんなことを考えている間にも、『森の怪物』であろう魔物は叫びまくっている。
未だに茂みから体が完全に出ていないからか、ゆっくりゆくっりと茂みから動きながら体を出してくる。
そしてついに、『森の怪物』であろう魔物の体が茂みから完全に出て来て、どんな体をしているのかが分かった。
一言で表すのなら、狼だろうな。
ただ、普通の狼ではなく、体は黒一つの色で目の色は少し赤みがかかっている色になっている。ついにで、体には至るところに赤い血がべっとりと付けられていた。
「全員、この場から逃げろ!! そして生きて村に戻るんだ!!」
どうにか声を発することの出来たミドルさんだったが、そう口にするしかできなかった。
まあ、誰かが危険に冒されてしまう前にその判断が出来たのは良かったと思う。
というか、俺も逃げなくてはいけない。
だけど、村の人たちの後を追いかけるようにして逃げるのはダメだろうと思うから違う場所に向かって逃げるとしよう。
そういうわけで、俺は『森の怪物』だろうと思う魔物から逃げ始めるのであった。
逃げ始めてからすぐに、俺は後ろから何かに追いかけられている感覚を覚えてしまった。
というか、ずっと感じていたのだけれど、『森の怪物』の標的になっているのである。
「……くそ……」
ずっと走っているので息を切らしながら口にするのはきついものである。
てか、なんで俺が標的になってるんだよ。
そんなことを思いながら走っている間にも、俺と『森の怪物』との距離はどんどん縮まっていっている。
というか、あんな大型の魔物にこんな俺みたいな人間が勝てるわけないのである。
「……」
しゃべるのすらだるすぎて、必死に俺は逃げまくる。
曲がったり、曲がったり、曲がったりして、『森の怪物』の視界から逃げようとするも追いかけてくるのが早すぎて逃げ切れない。
ここで死ぬのか……?
『森の怪物』追いかけられているせいで、逃げ切れることが無理なのが分かったからか、俺は知らないうちにそんなことを思ってしまっていた。
異世界に来て、一ヶ月も経たないで死ぬのは嫌だなぁ。リーナのパパにもなったばかりなのになぁ。恩も返せてないしなぁ。
逃げながら俺はそんなことを思ってた。
『あぁ、ちゃんと帰ってくるから!』
すると、突如そんなことが俺の中で生まれてしまった。
これは、俺が村を出てくる前にリーナに言った言葉。
――そうだ! 俺は、リーナのところにちゃんと帰るんだ! ここで死ぬわけにはいかないんだ!!
逃げるために走っていたが、今、俺は決意を決めた。
リーナのところに帰らないといけない! まだリーナとこの世界を歩いて廻らないといけない!!
決意を決めた俺は、その場で止まり『森の怪物』の方を振り向く。
そして、これから、決意と共に俺は『森の怪物』と戦う!




