転生死神、転生を決意する。
(はあ? そんな死に方って...えぇ? はぁ? いや、そんなのってありえんの)
ただ今絶賛混乱中の俺は、もう何度かも分からないくらいに同じことを考えた。おじいさんの「後悔しても知らんぞ」っていう忠告はちゃんと聞いておいたほうが良かったかもしれない。俺がそんな死に方をしたって考えるともうしばらくは立ち直れなさそうだ。
「だからやめておいたほうがいいって言ったじゃろ。それにそんなに混乱するくらいなら見せてやろうか? お主が死んだ瞬間を一応わしは録っておいたのでな。自分が死んだ瞬間を見れば多少は落ち着くじゃろ。」
「いや、いらねえよ。それに落ち着かねえよ...。っていうかじーさん、あんたなんでそんなもの録ってんだよ。見たくないんじゃねえのかよ?」
「それはじゃな、後で死神の奴に見せて文句を言ってやろうと...おお! 忘れるとことじゃった! こんな下らないことよりももっと重要なことがあるんじゃった。」
おじいさんはそんなことを言いながらいそいそと「危ない危ない」と呟きながら懐の中をまたごそごそしだした。
「おいじーさん。確かに下らないけど一応人は死んでるんだよ。」
俺のそんな文句もどこに吹く風。おじいさんは相当必死で探しているようで俺の声は全く聞こえて内容だった。
「どこに突っ込んだかの...。お主、ちと探すのを手伝ってくれんかの? これくらいの大きさの紙なんじゃが。」
そう言っておじいさんは手でA4くらいの大きさの紙を指で表した。
「そんなに大事な紙なら無くすような所に入れんなよ。それで、そりゃ何の紙なんだ?」
「それは見つけてからあのお楽しみじゃ。それより早く探せ。」
(んだよこのじーさん。人使い荒いな...。)
そんなことを心の中で愚痴りながらも俺はおじいさんを手伝うことにした。
俺はどこを探そうかと考えながらあたりを見回すと、思わず「うわぁ」と声を漏らす。なぜかって、それはこういうことだ。
「じーさんよぉ。探す言うたってこの部屋なんもないじゃんかよ。これくらい一人で探せや。」
「これ、そんなこと言うでない。お主に探してもらいたいのはそこのちゃぶ台の裏とかじゃ。それは先ほどまでわしの懐に入ってたものだからちゃぶ台の脚と台の隙間なりなんなりに挟まっておるかもしれんしな。」
「そんなこと言われてもなあ。そんなもんパッとみったら分かるだろ。やっぱりじーさんが探せや。」
そんなこと言いながらも俺は渋々とちゃぶ台の裏を見ようと体を屈めると、いきなり鼻を突くような異臭が漂い始めた。
「おいじーさん、ここ臭えぞ。どうなってんだよこりゃ。これちゃぶ台からしちゃダメな匂いなんじゃねえの?」
俺があまりの臭さに鼻をつまみながら顔をしかめて言うと、おじいさんが懐をごそごそやりながらこちらに目もむけず答えた。
「そりゃあお主、わしはこんな狭い部屋にいるんじゃ。ここ1000年間風呂に入っとらんよ。...冗談じゃ、そんな顔するでない。」
「じゃあなんなんだよ。どう考えてもこりゃ自然発生するにおいでもないぞ?」
「それはじゃなあ、200年前くらいにこの機械の燃料漏れに巻き込まれたのじゃ。ほれ、この部分が破れてるじゃろ?」
そう言っておじいさんが懐から霧吹きのような形をしたものを出した。確かにおじいさんが言った通り真ん中が少しだけ破れている。
「ってこたあ結構やべえんじゃねえの? ほら、肌がかぶれたりとか、色々と言うだろ? それは大丈夫なのか?」
「それに関しては大丈夫じゃ。ちゃんと消毒してあるし、コーティングもしてあるじゃろ? それでも不安ならこれをつけなさい。」
おじいさんが懐をごそごそやりながら今度は鼻栓を出してきた。いや、そういう問題じゃないんだけどなあ。
そんなことを考えながらも結局鼻栓を付けてちゃぶ台の裏をのぞき込むと、なんか白いものが脚と台の隙間に挟まっていた。俺はそれを引っ張ってみると、それは確かにおじいさんが言っていたサイズの紙だった。その紙はかなり古いもののようで、ところどころ黄ばんでいたりする。それになんか分からんが上のほうに『契約書って書いてある。
「おいじーさん。この紙でいいのか? なんか契約書って書いてあんだけど。」
「ああ、それじゃそれじゃ。ちょっとその紙を渡してくれい。それと、慎重に渡してくれよ? その紙が破けるだけで一つのルート分岐が消えたりもするんじゃからな。」
(なんじゃそりゃ。怖っ。)
俺は言われたとおりに慎重に紙をおじいさんに渡すと、おじいさんはその紙を思いっきりビリッと破いた。おじいさんその紙重要だとか言ってったよな。
「おいじーさん。その紙重要じゃないのか? ルート分岐がかかわってくんだよな?」
「まあ、そりゃあな。だが、この紙はわしがわしの手で破るから平気なんじゃ。破ってたのがお主ならルート分岐が消えるがな。...あったあった、これじゃ。この紙がお主に書いてもらいたい奴じゃ。」
そう言いながらおじいさんが懐からペンとさっきと同じような紙を出した。いや、さっきとは少し違う。その紙は、さっきとは違って真新しかった。
「なんじゃこりゃ? これが、俺のルート分岐ってやつか?」
「そうじゃ。お主にはその紙にサインしてもらいたいんじゃ。その死神契約書にな。」
(は? なんだそりゃ。『死神契約書ってどこぞの厨二病かよ。)
俺がそんなことを考えていたら、それが顔に出ていたのかおじいさんが少しだけ視線をずらした。
「まあ、そんな反応もするわな。わしとしてもかなり恥ずかしいことを言っている気がする。だが、これはさっきの話とは違ってマジじゃ。マジの話なんじゃ。」
「マジって何がよ。『俺の選択に世界が掛かってる』ってか?」
「そうじゃ。」
「やっぱな。それなら...何て? 今何て?」
「お主の選択に世界が掛かっているっちゅうことじゃ。これがお主たちがいた地球とは別の世界の存亡に大きく関わっているんじゃ。」
「はぁ? いや、はぁ? 俺に世界を救えってか?」
「まあ簡単に言えばそうじゃ。お主がこの契約を受けるのであればその世界の運命がかなり変わる。もう一度言う、山内康弘。お主の選択には、世界の存亡が掛かっておるんじゃ。」
おじいさんはさっきとはまるで違う真剣な雰囲気で言ってきた。
(うおおおお! なんじゃそりゃ! 俺に世界を救えだあ? そんなん無理に決まってんだろ! 俺はただのニートだし戦う力なんて全くないぞ! しいて言うならば労働と戦う力だが俺はそれしか持ってないぞ!)
俺は4度目の混乱タイムに入っていると、おじいさんはさっきとは違う少しイラついた雰囲気で急かすように言ってくる。
「早く決めぬか。お主がこの場所にいられるのも時間が限られているのじゃ。あと1時間でもそのまま悩んでみればよい。そうすれば、お主は完全に死ぬぞ。」
「ん? そりゃどういうことだ? 俺は死んだんだったんじゃないのか?」
「いや、完全には死んでいない。今お主は身体は死んでおるが、魂は生きている。お主の魂を、今わしは無理やりこの場所に結び付けているといった感じじゃ。」
(まじかよおお! これ俺どうすりゃいいんだ!? やべえ、時間制限があるって考えると余計焦ってきた! 落ち着け、落ち着け俺。俺はネット友たちに『たまにいる所見でめっちゃ冷静な奴』って言われた男だぞ? 俺ならできる、俺なら落ち着けるはずだあ!)
俺がそんなことを悶々と考えているとおじいさんがまたもや懐から何かを出した。こいつの懐は未来のネコたぬきかよ。
「ほれ、この砂時計を見てみ。この砂時計の砂が全て下に落ちると、お主は完全に死ぬ。それまでに答えを聞かせるのじゃ。」
おじいさんが物騒なことを言いながら最終兵器のようなものを机の上に出した。やべえ、これめっちゃ怖え。
(よし、俺、ちゃんと考えろ。俺はニートだ。それ以上でもそれ以下でもない。だから、ぶっちゃけ言って今の俺には世界を変えるほどの力を持っていないって考えたほうがいいな。だが、このじーさんは死神だの言っていたから一応チート的な能力はついてくるはずだ。っていうことは多分その世界に行っても十分戦えるはずだ。それに、死ぬってことを考えるとかなり怖い。それも言われると余計怖くなるしな。なんだよ俺、冷静に考えられるじゃんかよ。)
俺はそこまで考えをまとめてそんな俺に軽く感動していると、おじいさんが俺の目を見ながらゆっくりと口を開いた。
「考えがついたようじゃな。それでは答えを聞かせてくれ。」
俺はその問いに答えた。
「もちろん。死神にならせてもらう。それも条件付きでな。」
どうも、ドスパラリンチョです。
まず、投降が開いて済まなかったな。
でもしょうがないんじゃ。アンジャナフが強すぎるのがいけないんじゃ。
それでは、内容の解説に行きましょう。
今回までが康弘編になりましたが、康弘編はサリエット編とは違ってかなり短くなりました。もう少し長くしたかったけどネタがないんじゃ。
それでは、今日はここらへんで終わります。
読んでくれた方、ありがとうございました!