脳筋聖女、自己紹介を恥ず
「いやー、キミ、かわいいねぇー。ちょっとお兄さんとホテルいかない?」
「待て待てー。それなら俺も混ぜてくれよー!」
「ケッ。4Pってか。」
私の目の前で目もチカチカするような冒険者たちがそんな女性を前にして言ってはいけないレベルの下ネタを連呼する。
私は今、先ほどのふざけた依頼を受けるため、そして神殿の上司から逃げるために冒険者ギルドに来ている。そして、その冒険者ギルドの会議室を借りて冒険者たちと依頼の打ち合わせ的なものをしているのだが...。
「なんだこのふざけたパーティは。」
私はギャハハと下品に笑う冒険者を眺めながら、思わずつぶやいてしまった。なんというか、良く言えば華やかなパーティだった。
「ん? なんか言った?」
「いや、なんも言ってないです。それより説明をお願いします。」
私がそう返すと、その冒険者は呑気に「そうだな」なんて言って依頼の説明を始める。こいつらはやる気があるんだろうか。
(にしても、本当になんなんだこのパーティは。)
私は、チカチカする目を何度もこすりながら、そんなことを考えた。
なにがおかしいのかって、言葉だけならまだしも、見た目までもおかしいのだ。蛍光色なのだ。なにがって、パーティメンバーが。そいつらは蛍光色のボディペイントをしているし、武器も蛍光色。もちろん、鎧も蛍光色だ。
これから依頼を受けに行くとは思えない格好だ。こんなんじゃ敵を引き付けまくるだろう。
「まあね、俺たちが倒しに行くのは、山賊ってワケよ。それで、相手はまあそれなりに強いって聞いてるし、毒も使ってくるらしいからまあそれで回復職が必要かなーってなったワケ。どう、お嬢さん。オワカリ?」
私の心配をそっちのけで、やはり呑気に冒険者はそんな説明を続けていた。いや、毒とか強いとかじゃなくて、蛍光色をやめればいいんじゃないか。多分それだけで生きる世界が変わるだろう。
「まあ、だいたいは。それよりですね...。」
「ああ、それね。大丈夫大丈夫。というか今それ言っちゃうね。」
どうやら、その点はわかっていたようだ。蛍光色による利点なりがあるのだろうか。
「自己紹介だろ?」
「断じて違う。」
私は思わずツッコんだ。というかツッコまざるを得なかった。
(違ったわ。全然理解してなかったわ。)
私としてはこんなやつらともう二度と会いたくもないし、自己紹介なんてどうでもいい。そんなことよりも蛍光色の理由のほうが気になって仕方ない。
「え!? 違うの?」
本人は驚いているし、周りにいる奴らもめっちゃ驚いている。
(いや、どう考えても自己紹介よりその外見の説明のほうが先だろ。さてはこいつら、馬鹿だな?)
「じゃあなにが気になるっていうんだい? まさか俺たちが落としてきた女の人ず...。」
「そんなことじゃない!お前らの外見だよ外見。お前らなんでそんな格好してんだよ、頭沸いてんじゃないの? それにそんなどうでもいいことなんか聞きたくもないわ!」
私は思わず、くだらないことをいいだす冒険者たちにキレてしまった。そりゃキレるのも仕方ないだろう。そんなくだらないこと聞くくらいならあの上司に謝るほうがマシなくらいだ。
「コホン。それでですね、その蛍光色の肌について説明していただきたいのですが...。」
私の先ほどの剣幕に驚いて顔を引きつらせていた冒険者たちだが、やがて落ち着いてきたのか先ほどくだらないことを言っていた奴が口を開いた。
「ああ、それはだな。冒険者っていうものはやっぱりインパクトじゃん? ほら、伝説に謡われる冒険者たちは赤髪だったとか。青い鎧を着ていたとか。そういうのあるじゃん? で、俺たちは、もし有名になったら、こういう見た目だったってことを覚えてもらうためにこんな色にしてるワケよ。」
私はそんな頭の悪いことを聞いて、床にへたり込んでしまった。
なんというか、どっと疲れが出てきた。これからこんな頭の悪い奴らと依頼を受けに行くと考えると、どうにもやる気が出ない。
「あ、じゃあついでに自己紹介やっちゃう?」
「はいはい。もう好きにやっちゃってください。」
もう言い返す気も沸かない。面倒くさいしこいつらの好きにやらせよう。
「よっしゃお前ら、テンション上げてけ!」
「ウォオオ!」
なんか勝手に盛り上がっているが、それも気にしないでおこう。
「それじゃ、俺から行くぞ。」
そう言って、弓を担いでいる黄色い奴が立ち上がった。
「俺の名は、ジョン。このパーティで唯一の弓使いだ。そして、黄色を背負ってるぜい! なあお嬢ちゃん。やらないか。」
「やりません。」
「そうか。まあ気が変わったら言ってくんな!」
気が変わる気はしないが、まあ覚えておこう。
「それじゃあ、次は俺だな。」
そう言って、次は赤い奴が立ち上がった。そいつは横に杖を下げている。
「俺は、同じくこの中で唯一の魔法使い、トーマスだ。俺の色は情熱のごとく赤だな。俺は魔法使いだから愛の魔法なんてものも使える。どうだ、お嬢ちゃん。やらないか。」
こいつも同じか。お前らはネタがないのか。
「やりません。」
「そうか。まあ気が変わったら言ってくんな!」
確実に気が変わらないが、とりあえず覚えておこう。
「じゃあ締めは俺だな!」
そう言って、さっき依頼の説明をしてくだらないことを言っていた緑色の奴が立ち上がった。こんどはダガーと投げナイフを腰に下げている。
「俺は、このパーティのリーダーにして斥候のマックスだ。俺の色は我が友である自然の緑だ。野生な遊びは大好きだし、お嬢ちゃん、やらないか。」
なんなんだろうこのパーティは。やらないかと言わないとやっていけないのだろうか。
「やりません。」
「そうか。まあ気が変わったら言ってくんな!」
100%気が変わるわけがないがまあ覚えておこう。
冒険者たちの自己紹介が終わると、黄色い奴がそわそわしながら言ってきた。
「で、次はお嬢ちゃんの番だ。どうだ、紹介してくれるか?」
黄色い奴の言葉に、ほかの奴らが壊れた人形のように一斉にうなずき始めた。
どうやら、こいつらが自己紹介をしようと言い出したのは、私のことが知りたかったようだ。
(それなら直接言ってくれればよかったのに。警戒するだけで別に普通に自己紹介したんだけどなあ。まあいいか。こいつらとこの依頼以外で会わないだろうし。会ったとしてもこいつら遠くから見ても目立つだろうから事前に見つけて逃げちゃおう。)
「わかりました。私の名前は、サリエットで...。」
私がそんなことを考えながら適当に自己紹介を始めようとすると、緑の奴が途中で遮ってきた。
「違う違う。もっと俺たちみたいなドッカーンとしたやつをやってほしいのよ。わかるでしょ? 冒険者なら。」
いや、私は冒険者ではないのだが。ただ、そういうドッカーンとしたやつが冒険者たちの中で主流なのならば私はそれに合わせたほうがいいだろう。なんせここは冒険者ギルドなんだから。騙されてる気がしないでもないが、これも気にしないでおく。というかこのご時世いちいち気にしてたらモンスターの餌にされるかホモの餌にされるだろう。
「それでは、テイクツー。スタートォ!」
私はその緑の奴の合図に合わせて、こんどはドッカーンとした奴をやってみた。
「私の名はサリエット! 我が戦神信仰者の中での紅一点にして最強の回復魔法、支援魔法、メイス捌きを操りし女! 汗臭い男と蛍光色の男は嫌いだから寄ってくんな!」
私が大仰な身振り手振りでドッカーンとした奴をやってみると、冒険者たちからパチパチと拍手する音が聞こえた。
「ヒューッ! 可愛いよサリエットちゃん!」
「いいよいいよ! やればできる娘だ!」
「あーっ、マジ天使。ちゃんと目に焼き付けたし、今晩これ使うわ。」
やばい。超恥ずかしいしこいつらに超メイスで殴りかかりたい。でも結構楽しんでる自分もいるから殴りかかれない。というか最後に大変なことが聞こえたが、思い出したくないし忘れておこう。
「じゃあ明日はよろしくな! こんなに可愛い娘がいるんだったら俺たちは百人力だ! 明日の盗賊討伐は舐めた山賊たちを蹂躙しつくすぞ!」
「ウォオオ!」
そう、どう考えてもフラグとしか受け取れないような言葉と私の心に黒歴史を残して蛍光色の冒険者たちが去っていった。
明日の山賊討伐が心配で心配でしょうがないのは私だけだろうか。
どうも、ドスパラリンチョです。
勢いのままにツイッターのアカウントまで作ってしまいましたが、アイコンを設定しようとした時、この小説を書いているパソコンに写真が入っていないことを思い出して絶望しました。
この小説でも書きましたが、見た目などは非常にステータスになったり印象を与えたりとするので、適当にスマホに入ってる写真でも漁ってアイコンを設定しようかなと考えております。まあそれでも蛍光色にはしないけどね。
それでは、今日はこれくらいにしたいと思います。
読んでくれた方、ありがとうございました!