脳筋聖女、詫びの最中に眠られる
「ちょっと待てお前ら。どうして俺を置いてって話を進めてくんだよ。説明をしてくれよ説明を。」
今に戦闘を始めようとする私とディアブロにそんな間の抜けた声が掛かる。その声の主は、もちろんあの男だ。
私はその男を一睨みしてから言う。なぜ睨むかって、もう少し空気を読んでほしかったからだ。
「ちょっと黙ってて。今割と真面目な感じなんだから。」
「そうは言われてもなあ。気になるものは気になるんだよ。おいそこの悪魔っぽいの。お前も気色悪いこと言ってないで俺に説明しろや!」
私のそんな言葉に不服そうな顔をした男はディアブロの方へと矛先を変える。
「む? それは俺も聞きたいところだ。貴様は何なのだ? 貴様はこの女ほどではないにしろなかなか魅力のある人間だし、貴様も投降すると言うのならば助けてやってもいいぞ?」
「だーれがお前なんかのところに行くかよ、バーカ! それよりサリエット。早くこの状況を説明しろや! それとも何だ、こいつがお前が討ち漏らしたって奴か?」
男はディアブロを睨みつけながらそんなことを私に言う。ついでに言うと、チンピラ風の男の睨みは、なかなかに効くらしくディアブロは少し引いているようだ。
「はいはい、分かった分かった。さっきあんたと倒した盗賊たちがいるでしょ? そいつらの親玉って感じの奴。どう、分かった? それじゃあ次からあんまり口を挟まないでね。っていうかあんたもう帰って。」
そんなことを言いながら私は男に手を「しっしっ」と振る。それを見た男は「何言ってんだよ」と言い返してくる。
「バーカ、俺はお前をあの蛍光色どもに助けてこいって言われてここに来たんだよ。それで俺だけ帰ってきたらもうそれは酷く言われるだろうよ。俺としてはそうなんのが嫌だから、オラ、こいつ一緒に倒すぞ。」
男はそう言いながらディアブロに向かって鎌を構える。その立ち姿は、先ほどの残念な感じは一切なく、それどころかカッコよくさえも見える。
しかし、その鎌の構えを向けられているディアブロは、どういう訳だか男を見てはしきりに首をかしげていた。たまに「そんな筈は無いんだが、な」だなんて言っている。
「どうしたのよあんたさっきから。こいつがそんなに変? まあ確かに服とか髪色とかは変だけどそんなに首かしげるほど?」
「いや、そうではない。なんというか不思議な感じなんだ。もともと俺たち悪魔は天敵である神聖な力を察知できてな。それでまあお前みたいな聖職者とかは神聖な力を感じて分かるんだが、それでこの男も神聖な力を感じるわけだ。」
「それってこいつが聖職者ってことじゃないの? それならなんもおかしくないじゃない。」
「いや、それが違うんだ。聖職者とはまた違った神聖な力でな。例えるなら聖職者たちが宝石だとすると、この男は原石と言った感じであるな。」
「つまり、それって...。」
「この男の神聖な力は聖職者たちの力の基礎にあたる神本来の力だということだ。信じられたことではないがそういうことだ。それで貴様、ちょいと魔眼で貴様を視てみてもいいか? もし良いならばその構えを解いてほしいんだが。」
ディアブロはそんなことを言いながらまだ構えている男を指差す。
「んん? 俺? ああ、まあ別に良いけど。でも急に襲い掛かるってのはやめろよ。」
男は急に話を振られて少し驚いたようだったが、それでも承諾して構えを解いた。
男が構えを解いたのを確認すると、ディアブロは両手で目を覆いながら呪文を唱え始めた。それからしばらくすると、ディアブロは目を覆っていた手を放し、男を睨むように見つめだした。その目は先ほどとは違って、緑色に輝いていた。
やがて、ディアブロは目を見開き、そして静かに笑いだした。それを怪訝そうに見ていた私と男にディアブロは口を開いた。
「クックック。そういうことか。どうやら俺はここで死ぬ運名にあるようだな。どうりでここまで力のある聖職者と鎌使いがあるという訳か。」
そんな意味不明なことを言うディアブロに、私はさらに怪訝そうに聞く。横で「そういやそうだったな」なんて呟きながら頷く男も気になるが、今はこっちの方が重要だ。
「それってどういうことよ。まさかこいつが神ってこと?」
「さあな。それはその男に聞くと良い。そっちの方が分かりやすいだろうよ。...さて、それじゃあ俺はお前たちのことは諦めてさっさとこの場から逃げることにする。俺はまだ死にたくないんでな。それじゃあ、さらば、美しい人間よ。そして、さらば、死神よ。」
そんなことを言いながらディアブロは指を鳴らした。すると、ディアブロの姿が透け始め、そしてそのまま消えた。
「あいつなんだったんだよ...。」
静かになったその場所に、男の虚しい声がやけに響いた。
「それじゃああんたは死神だって言うの!? 嘘じゃない!?」
「まさか、そんなことがあって良いのか!? おいヤスヒロ、今までワシがお前さんを近しく思っていたことはどうなるんだ!? いや、許してくれ、知らなかったんだ!」
少し広めの馬車に、そんなエドワードとか言う馬と私の声が響く。
今私たちは、そのヤスヒロとか言う死神が先ほどの場所に行くのに使ったというタクシーに乗っている。そして、私はそのヤスヒロに先ほどディアブロが言っていたことを聞いてみたのだが、その答えに私と途中から話に入ってきたエドワードが驚きの声を上げていた。
「いや、待て、落ち着けお前ら。まず嘘ではないし、お前は恩もあるし何もしないからいい加減早く歩いてくれエドワード。」
そんな驚きの声を上げる私たちにヤスヒロは焦ったように言ってくる。
「わ、分かった。ありがとな、ヤスヒロよ。」
エドワードはそう礼を述べながら再び歩き始めた。さっきからやけに揺れが少ないと思ったらそういうことだったのか。
「いや、まだ信じられないわ。この目で見たわけではないし。」
「そうは言ってもお前、さっきの悪魔みたいに魔眼が使えるわけじゃあないんだろ? まあ信じれないならば無理に信じなくてもいいさ。俺としても自分が神であるということにどうこう思ってるわけでもないから。それより俺もう寝ていいか? この馬車が気持ち良すぎんだよ。」
そんなことを言う私にヤスヒロは目をつぶりながらそんなことを言う。だが、康弘が完全に寝てしまう前にやりたいことがあった私はヤスヒロを揺さぶって起こした。
「んだよお前よお。寝かせてくれよこんにゃろ。」
「いや、そういう訳にはいかないの。まあすぐ終わるからちょっとだけでも起きててね。」
私はそう言いながら体を前に乗り出し、そしてヤスヒロの額に手を当てる。そして、聖職者ならば誰もが一番初めに覚える魔法を唱えた。
「...何してんのお前。そんなことされると目が自然と胸の方に行っちゃうんだけど。」
「ぶん殴るぞお前。...そうじゃなくて、今私がやっているのは神眼っていう魔法。聖職者が神を名乗るものに必ず唱える魔法よ。この魔法があればもし嘘つきだったらぶん殴ればいいし、もし本当に神だった時にはすぐに礼を尽くせるようにとすべての聖職者たちが一番初めに覚えさせられるの。能力は、まあ魔眼の劣化版って言ったところかしらね。それでも私ほどの力になれば精度は魔眼を超えるほどになると思うけど。」
私はそう説明しながら神眼を発動する。すると、意識がヤスヒロの中に吸い込まれるような感覚がした。そして、その後、ものすごく強い力が押し寄せてきた。それは、神の、そして死の力であった。
(ヤバい。マジで神だったわ。)
そう直感した私はすぐにヤスヒロに跪く。後ろでエドワードが驚いているが、それよりも先にヤスヒロに詫びねばならない。確かに信じている神ではないが、それでも神に礼を尽くすのは当たり前であろう。普段は言動なり行動なりがアレでも、私は聖職者なのだから。
「その、先ほどの非礼は誠に申し訳ありませんでした。それでも、どうかお許しください。」
私はそう詫びを述べる。しかし、ヤスヒロからの返答はない。
「...あの、どうされましたか?」
「ぐー、すー。」
なんとその死神は寝ていたのでした。
どうも、ドスパラリンチョです。
3日間投稿が開いて済まなかったな。何があったかって、疲れた体に鞭打ちながら書いていた小説のデータがぶっ飛んで意気消沈して2日ほど引き籠ってソウルマラソンやってました。おかげで今では千万ソウル。
まあそんな僕のゲーム事情は置いといて内容の解説に行きますか。
今回は康弘が正体を明かす回になっております。本当は終盤まで正体を明かさないってことも考えていたのですが僕としては初めにバーッとやって後でゆっくりしていくという感じの方が好きなのでこっちを選ばせていただきますた。あと、話は変わりますがあらすじも変えました。
それでは、今日はここで終わります。そして、明日はサボらないようにします。
読んでくれた方、ありがとうございました!




