~暗い路地にて~
ガロ爺と別れて、ようやく分かった事がひとつある。
ここは、夢の世界では無いという事だ。
ここは夢では無いかもしれないと思うようになっていた俺は、頬をつねってみた。
思ったより痛くてビックリしてしまった。
しかし、ここは俺が過ごしてきた日本でもないらしい。
言語や、文字等は日本と全く同じものだが、ここでは日本円が使えず、この世界でのお金が存在する。
その上、ファンタジー感あふれるこの街並みは、日本で見られる規模のものでは無いだろう。
そして、そんな事を超越する一番の理由がある、それは、魔法が使えるという事だ。
この事から俺は少なくとも日本…いや、地球には居ないという事になる。
たが、何故こんなことになっているかはさっぱり分からない。
まあ、前に進んで行かないと何も始まらないし、今俺が出来る事をしていくしかないだろうな。
そんなことを考えながら目的地を目指して歩いていた。
…はずの俺だが、いつの間にか暗い路地に一人立っていた。
「やべぇ、完全に迷ってしまったようだ。」
とりあえず適当に歩いてみるか。
そう思い俺は、俺の直感で歩いていった。
◇
かれこれ、二時間程路地を歩いた俺だが、どうやら同じ所をループしているようだ。
同じ所を通らないようにしているつもりだが、なぜかどこを通っても同じ所に戻ってくる。
なんか同じような光景さっきも見たなぁ、とか思いながらため息をついてとぼとぼ歩いていると、右の方向から、なにやら揉めているような声が聞こえた。
「ちょっと、やめてよ!」
「暴れんじゃねーよ。そうすりゃ悪い事はしねぇよ。」
「そうだぜ、大人しくしとけよ。」
その声が聞こえた俺は、無意識に足がその方向に、向かって走り出していることに気づいた。
走った先に見えたのは、行き止まりの路地に大男二人組が女の子を囲んでいる所だった。
「おい、嫌がってるからやめてやれよ!」
「ああん?」
「なんだ?やんのか?」
二人は俺を鋭い目付きで睨んできた。
喧嘩などほとんどした事ない俺が、こんな大男二人と闘って勝てる確率は何%だろうか?1%も無いだろうな。
俺の本心は逃げろと叫んでいるが、ここまで来た以上、なんとかするしかない。
この状況を打破すべく、俺はポケットに左手を入れ、ガロ爺から貰った魔石を掴んだ。
「ウォータ!!」
俺の右手から放たれた魔法は、反応が遅れた一人の顔目掛けて飛んでいき、勢いよく顔面にヒットした。
と言ってもその威力はとてもじゃないが相手を気絶させるような威力はなく、少し後ろにそれたくらいだ。
その次に俺は二人目にも顔面目掛けて水をヒットさせた。
「こんの野郎が!!」
と、水浸しになった二人が顔を真っ赤にさせた所で俺は後ろを向くとダッシュで駆け出した。
「まちやがれ!」
俺の思い通り二人とも俺を追いかけてきた。
そうだ!そのままついて来やがれ!!
お日様は、真上を通り過ぎて少しずつ傾いてきている。
二時間歩き回ったおかげで、ほぼ道を憶えていた俺は、自慢の脚力も活かして、二人を振り切ることが出来た。
格好悪いかもしれないが、今の俺には、これが思いついた最善の策だった。
にしても二人とも追いかけて来てくれたのは幸運だった。あの大男達がキレやすくて本当に良かったな。
とりあえずあの子が無事か確認しないとな。戻ってみるか。
あの大男達に合わない保証も無いが、しょうがないな。
俺は落ち着いてきていた体をまた動かし始めた。
◇
俺が歩いていると
「ちょっと、キミ!」
呼び止められた。
俺は声をかけられた人の方向に顔を向けた。
そこに立っていたのは、サラサラに光る金色の髪に、ぱっちりした大きな瞳、文句の付けようがない整った顔の美少女だった。
いきなり現れたその美貌を見て、唖然としていると。
「私を助けてくれた人だよね?」
大男でよく見えなかったが、どうやらこの美少女を俺は助けたらしい。
「あ、ああ。」
「やっぱりそうだったのね!私はイリア、さっきは助かったわ。」
嬉しそうに微笑みながらイリアは言った。
「俺は逃げただけなんだけどな。」
苦笑いしながらそう言うと
「そんなこと無いわよ。貴方が来なかったらどうなってたか…」
「役に立ったみたいでよかった。俺はカイトだ、よろしくな。」
照れくさそうに俺も自己紹介をしたのだった。




