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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

花言葉の物語

シーザーとゼラニウム

作者: クスノキ

一応「シーザー→レンスロット」の順番を推奨しています。

ピンクのゼラニウムの花言葉『決意』『決心』『××』



 これは遠い昔のお話。世界にまだエルフや魔族、獣人やドワーフと言った者たちがおり、五つの大陸でそれぞれ過ごしていた頃のお話です。

 あるところに一人の青年がおりました。彼の名前はシーザー。黄金の髪に宝石のように澄んだ赤い瞳の、村で評判の勇敢な青年です。


 そんなシーザーには大事な友人がおりました。彼の名前はレンスロット。夜みたいに黒い髪に灰色の瞳をもった、臆病だけどとても頭のいい青年です。

 シーザーとレンスロットは幼なじみでいつも一緒におりました。

 さて、シーザーにはもう一人幼なじみがおりました。彼女の名前はアルトリア。美しい銀の髪に銀の瞳をもつ見目麗しくも心優しい少女です。


 三人は田舎の小さな村で幸せに暮らしていました。ですがある日、シーザーの前に空からピンク色のゼラニウムが降ってきたのです。それに触れた瞬間、シーザーに神託が下りました。


『シーザー、私はお前を選びました。十年の後、世界に大きな災いがもたらされます。貴方がその災いを止める英雄となるのです』

「ああ、神様!僕に英雄になれとおっしゃる!しかし僕にあるのはこの両の手をつないでくれる二人の親友だけ。とても英雄になどなれません」

 シーザーは神の言葉を賜ったことを嬉しく思いつつも、荷が重すぎると言いました。すると神様はこうおっしゃいました。


『なるほど、今のお前では世界を救う英雄にはなれないでしょう。シーザー、世界を回り、獣人、ドワーフ、エルフ、魔族と縁を結ぶのです。そして彼らの力を借り、世界を救う英雄になるのです』

 この言葉を聞いたシーザーは地面に頭を擦り付け、「かしこまりました。貴方の仰せの通りに必ずや世界を救う英雄になってご覧にいれましょう」と言いました。


 そうとなればうかうかしてはいられません。それからすぐ、シーザーは世界を回る支度を始めました。そんな中、シーザーを止めたのは、彼の幼なじみのレンスロットとアルトリアです。


「神のお告げを聞いたから大陸を回る?正気かい?」

「シーザーにはできっこないわ。お願いだから止めて」


 彼らはシーザーが大陸を出て、海を渡り、別の大陸にいくと聞いて飛んできたのです。ですがその旅には当然大きな危険が伴います。村から一歩外に出れば襲い掛かるのは世にも恐ろしい『獣』たちの群れ。その鋭い爪は人の体をたやすく切り裂き、その大きな口はどんな生き物も丸のみしてしまうことでしょう。

 ですがシーザーの想いは揺らぎません。神様からもらったゼラニウムを片手に、シーザーは言いました。


「それはできない。これは神様からの信託なんだ。なんとしてでも、僕は行かなくてはならない。それに僕らは神様から『言の葉』の力を授かった人間だ。どんな『獣』にだって『言の葉』で想いを届けてみせるよ」

「だったら僕も連れていってくれ。僕には君のような勇敢さはないけれど、僕の知恵で君を助けよう」

「そうよ。私も連れていって。何もできないけれど、私はあなたのそばにいたいの」


 シーザーの強い想いはレンスロットとアルトリアの心を動かしました。シーザーは涙をこぼしました。

「ありがとう。僕はなんて素晴らしい親友を持っていたのだろう!」


 こうしてシーザーとレンスロット、アルトリアの世界を回る旅が始まったのです。



 村を旅立った3人には数多の困難が待ち受けていました。突如として襲い掛かる『獣』の群れ。神を信じぬ不届きもの。荒れる海。言の葉を持たぬ獣人たち。ですがそんな困難を全て乗り越えて、シーザーたちは山の上にいる獣人の長の所へたどり着きました。


 シーザーは『言の葉』を使って獣人の長と話をします。


「獣人の長よ。僕はシーザーと申します。神様の信託を受け、こちらへ参りました」


「何用か。若き人の青年よ」

 獣人の長は不機嫌そうにシーザーをにらみつけ、自慢の大きな尻尾をビタンと地面に叩きつけました。それは大層恐ろしい姿でしたが、シーザーはめげません。負けじと言い返しました。

「神は仰いました。10年の後、世界に災いが訪れると。僕に英雄になれと。あなたたち獣人の力をお借りしたいのです」


「そうか。そうか」

 獣人の長はそれを聞いて大笑いをしました。

「お前のようなしっぽも毛皮も持たない、言の葉しか持たないお前が英雄に!戯言を」


 獣人の長の言葉は大きく響きました。それでレンスロットとアルトリアは腰を抜かしてしまいましたが、シーザーだけは勇敢な顔で言いました。


「ならば僕が英雄にたりうる証拠をお見せしましょう」

「おもしろい。ならば若者よ。あれが見えるな」


 獣人の長は遠くにある岩を指さしました。シーザーの身の丈の何倍もある大きな岩です。

「あれをここまで持ってこられたら、お前のことを英雄に足る男だと認めよう。だがもしできずに逃げてみろ?お前を頭から食ってやろうぞ」

 獣人の長は自慢の牙をむき出しにして言いました。


「どうするつもりだい?シーザー」

 獣人の長との話が終わってレンスロットが聞きました。


「困ったなどうしよう」

 シーザーは肩を落として言いました。獣人の長が持ってこいと言った大岩は人の背よりもはるかに大きいものですから、持ち上げて運ぶなんて不可能です。

「私は見ていることしかできないわ。ごめんなさい」

 アルトリアが今にも泣いてしまいそうな顔をして言いました。


「泣かないで」

 シーザーは言いました。アルトリアはシーザーとレンスロットの心の支えなのです。アルトリアが見ているだけで2人からは力と知恵がわいてくるのです。


「そうだ」

 名案を思い付いたと、レンスロットが目を輝かせました。

「何か思いついたのかい?」

 シーザーが問いかけました。そしてレンスロットが言ったのです。

「うん。僕たちには心をつなぐ言の葉しかない。だから言の葉を使うんだ」


「なんとこれは」

 次の日、獣人の長の目の前にはあの大岩がありました。

「どうやったんだ」

 獣人の長はシーザーに尋ねました。


「僕にできるのは言の葉で心をつなぐことだけ」

 シーザーはにこりと笑って言いました。

「皆に協力してもらったんです」


 そう話すシーザーの後ろにはたくさんの獣人たち。シーザーたちは言の葉で屈強な彼らの力を借りて、みんなであの大岩を運んできたのでした。


 獣人の長は素晴らしいものを見たとカチカチと歯を鳴らします。

「これは驚いた。人の若者、いやシーザーよ。私たち獣人の力をお前に貸し与えよう。『言の葉』を」

「はい」


 こうしてシーザーはどんなものでも持ちあげられる力を、レンスロットは何よりも速い足を、アルトリアはどんな傷だって治せる癒しも力を、獣人からもらいました。


「ありがとうございます」

 シーザーと獣人の長に手を振って別れました。



 次にシーザーたちが訪れたのはドワーフの大陸です。3人は獣人からもらった力を使ってどんどん先へと進みました。

 そうして3人は、洞窟の奥底にいるドワーフの長の所へたどり着きました。


「ドワーフの長よ。僕はシーザーと申します。神様の信託を受け、こちらへ参りました」

「そうか」

 ドワーフの長はずんぐりむっくりな体を震わせて言いました。


「あなたたち手の平の民の力をお貸しください」

「そうか」

 シーザーが何と言おうとドワーフの長は「そうか」としか言いません。シーザーは困り果てていると、長の妻が口を開きました。


「我々ドワーフは言の葉を好まない」

「どういうことですか?」

 シーザーは尋ねました。しかし長の妻は首を振って黙り込むばかり。ならばとレンスロットは言いました。


「ドワーフは酒を好むという。『言の葉』が駄目なら酒で彼らの心を開こう」


「それはいい考えだ」

 シーザーは手を打ってレンスロットの考えに賛成しました。


 それからレンスロットは獣人からもらった誰よりも速い足で大陸中を駆け回り、ついに酒の湧き出る泉を見つけました。

 そこから汲みだした酒を大きな大きな樽に入れて運ぶのは、獣人からどんなものでも持ちあげられる力をもらったシーザーです。彼は何度もくじけそうになりながら、それでもアルトリアの癒しの力を受けてそれを長のもとへ運びました。


「ドワーフの長よ。あなた方が『言の葉』を好まないというのであれば、黙して酒を酌み交わしましょう」

「そうか」

 それを聞いたドワーフの長はにっこりと笑いました。


 それからシーザーたちは3日3晩ドワーフたちと酒を飲み続けました。そして最後にドワーフの長はやはり黙ったまま、シーザーたちに3振りの小刀を手渡しました。

 それを受け取ると、シーザーの小刀はその体を守る盾に。レンスロットの小刀は道を切り開く大剣に。アルトリアの小刀はその身を支える杖に姿を変えました。


「ありがとうございます」

 シーザーはそう言ってドワーフの長のもとから離れていきました。



 シーザーたちはドワーフの大陸を出て、エルフのいる大陸へ向かいました。ですがそんな彼らの前に恐ろしい『獣』が現れたのです。


 見上げるほど大きな躰にシーザーの身の丈ほどの牙に爪。その体を支える4本の足は大樹のように太く大地に根を張っているかのようでした。尻尾は鞭のようにしなやかでいて、磨き上げられた剣のように鋭い輝きをもっていました。ですがその輝きに反するように、シーザーたちを見下ろすその顔は、どんな『獣』よりも醜悪なものでした。


「あなたはなんだ」

 シーザーがその『獣』に尋ねました。


「私は『最古の獣』だ」

 その『獣』が言いました。


「そこをどいていただけませんか。僕たちはエルフのもとへ行かなくてはならないのです」

 恐れをこらえて、シーザーはその恐ろしい『獣』に丁寧に語り掛けます。ですが『最古の獣』はどきません。


「神の先兵たる貴様らはここで死ね」

 『最古の獣』はシーザーたちにその大きな足を振り上げました。


「逃げよう」

 『最古の獣』に恐れをなしたレンスロットが言いました。


「駄目だ」

 シーザーは手に持った盾で『最古の獣』の足を果敢に受け止めながら言いました。


「僕は神様からいただいた使命がある。ここで引くわけにはいかないんだ」

 襲いかかる『最古の獣』にシーザーは何度も話しかけました。


「どうして僕たちを襲うの」


「話しあえれば分かり合えるよ」


「僕たちはずっとそうやって旅を続けてきたんだ」


 いつしか『最古の獣』の攻撃は止んでいました。そして何も語らぬまま、シーザーたちの前から去りました。


「よかった。分かってくれたんだ」

 シーザーはほっとしたように言いました。そんなシーザーをアルトリアは見つめます。ずっと幼馴染として見ていたシーザーを、アルトリアは初めて一人の男として見るようになりました。

 あんなにも恐ろしい『最古の獣』からその身を挺して守ってくれたシーザーに、アルトリアは恋をしたのです。


 そんなアルトリアをレンスロットは黙って見ていました。



 彼らの旅は続きます。エルフの長は深い森の中に住んでいました。

「エルフの長よ。僕はシーザーと申します。神様の信託を受け、こちらへ参りました」


「お前の願いは何だ」

 エルフの長はその長い耳をピクピク動かしながら聞きました。

「あなたたちエルフのお力を貸していただきたい」

 シーザーは真っ直ぐな瞳で言いました。そんなシーザーをアルトリアは熱っぽい目で見つめています。


「よかろう」

 エルフの長はアルトリアを見ながら言いました。

「本当ですか?」

「ただし、人の若者よ。お前には私の娘と結婚してもらう。それが条件だ」


「なんですって!」

 長の言葉にアルトリアは声を荒げました。レンスロットは黙ったままです。

「どうしてですか」

 シーザーは長に尋ねました。

「それが必要なことだからだ」

 長はそう言って黙り込んでしまいました。


 シーザーは困った顔でレンスロットを見ました。困った時はいつもレンスロットがその知恵で、シーザーを助けてくれたからです。


 ですがレンスロットは何もしゃべりません。


「私はいやよ」

 アルトリアが言いました。

「なぜだ」

 長がアルトリアに顏を向けて聞きました。

「だって私はシーザーを愛しているもの。他の誰にだってあげるものですか」

 その言葉を聞いたシーザーは飛びあがって驚き、レンスロットはそっと目を逸らしました。そしてシーザーはアルトリアの方を向いて言いました。


「僕もアルトリアのことが好きだよ」

 なぜならシーザーはずっとアルトリアのことが好きだったのですから。


「シーザー」

「アルトリア」

 二人は長の前で見つめ合います。それを見たエルフの長が言いました。


「君たちには負けたよ。私たちの力を貸そう。言の葉を」

「ありがとうございます」

 二人の愛の力で、すっかりほだされたエルフの長は3人に力を与えようとしました。その時です。


 レンスロットがいきなりシーザーを斬りつけたのです。


「何をするんだ。レンスロット!」

 シーザーはレンスロットの大剣を間一髪のところでかわしました。


「どうしてお前ばっかりが」

 レンスロットは憎しみのこもった声で言いました。シーザーの顔は悲しむで歪みました。


「レンスロット!どうしたんだ。何があったのか僕に話してくれ!」

「僕もアルトリアのことが好きだったんだ!」

 レンスロットはそう言って再びシーザーに斬りかかります。シーザーは涙を流しながらその大剣を盾で受け止めます。


「どうして言ってくれなかったんだ。僕たちはずっと言の葉をつむいで旅をしてきたじゃないか」


「いつもお前が主役だった。僕はいつもお前の後ろを歩くばかりだ」


「語り合えば、分かり合えるんだ。レンスロット!」


「全てお前が奪っていく!」


「これはいけない」

 エルフの長はレンスロットの蛮行を見て、急いでシーザーとアルトリアに力を与えました。


「ありがとうございます。長よ」

 力をもらったシーザーはレンスロットを止めようとしました。


「ちくしょう!」

 ですが自分の不利を悟ると、すぐにレンスロットは逃げ出してしまいました。


「どうしてなんだ。レンスロット⋯⋯」

 去っていったレンスロットを見てシーザーは一筋の涙をこぼしました。



 裏切り者のレンスロットがいなくなり、シーザーとアルトリアは二人で旅を続けました。


「裏切り者のレンスロットなんて忘れてしまいましょう」

 アルトリアが冷たく言いました。

「そんなことを言わないで」

 シーザーはやっぱり悲しそうな声でいいました。


 二人になってしまったシーザーとアルトリアは海を渡り、魔族のいる大陸へ行きました。魔族は草も生えない荒野住んでいます。砂ばかりの大地を踏みしめて歩く二人。ですが後もう少しで魔族の長のもとへたどり着けるというところで、二人の前にある人物が立ちふさがりました。


「ここから先は通さないよ」


「レンスロット!」


 この世の闇という闇を集めたかのような黒い鎧を全身に纏ったレンスロットがそこにいました。獣人からもらった誰よりも速い足を使って、シーザーたちの先回りをしていたのです。手に持つ大剣からは赤い血が滴っていました。


「まさか!」

 その大剣を見てシーザーは気づきました。なんと、レンスロットはシーザーを裏切っただけに事足らず、魔族の長を殺してしまっていたのです。


「愚かなレンスロットめ!」

 そんな蛮行を犯したレンスロットをもはや仲間だとは認められません。なぜなら長がいなくては魔族の力を受け取ることができないからです。シーザーはドワーフたちからもらった盾を取り出しました。


「レンスロット!なんて卑しい人なの」

 アルトリアも杖を取り出してレンスロットに向けました。


「2人とも、死ね」

 レンスロットはシーザーとアルトリアへ斬りかかっていきました。



 3人の戦いは日が暮れて、朝になってまた日が暮れるまで続きました。決着はついて、シーザーとアルトリアの目の前にはレンスロットの骸があります。


 シーザーとアルトリアは悪心をもったレンスロットを滅ぼしたのです。ですが魔族の長はもういません。裏切り者のレンスロットのせいでシーザーは神の信託を成すことができなくなりました。


 シーザーとアルトリアはバサリ、バサリという音を聞きました。そういつしか神の言う十年は来ていたのです。神様の言う通り、世界の果てから数多の龍が、世界を滅ぼすために襲い掛かってきました。


「行こう。アルトリア。力は足りないけれど、僕たちで世界を救うんだ」

「はい。シーザー様」

 こうして2人は裏切り者のレンスロットの骸を捨て置いて、勝ち目のない戦いへ挑んでいったのでした。


 英雄たりえなかったシーザーの姿はしかし、英雄そのものでした。



 ピンクのゼラニウムの花言葉『決意』『決心』『疑い』

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[一言] 「花言葉の物語」シリーズにはまりました。あと1作読んでないので、それ読みます。 花って素敵ですよね。 花言葉も好きです。 「呪い」はクロユリ、「死」はスノードロップ、「罪」はユウガオ、「貪欲…
2018/07/13 21:17 退会済み
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