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【短編】異世界に1億人送りつづけた女神と罪を負った男のくだらない話

作者: PRN

ある単語を思いついたことによって書いたものです。

 目覚めるとそこは神々しい光を帯びた神殿だった。荘厳すぎて逆に悪趣味にも見える。

「転生の神殿へようこそ。迷い怯え矮小なる、羊の皮を被った魂よ」

 黄金に光り輝くタイルに真っ赤な絨毯が敷かれた巨大な階段、その頂点に君臨するは痴女だった。

 まず目に入ったのは曝けだされた豊満な胸。大事な場所は肌着で見えていないが、隠そうとする気はなさそうだ。そして首には巨大な鉄の輪を身に着けており、コンセントのオスがぶら下がっている。頭に黄色の輪がついていて背中から大小ばらばらの羽が6枚ほど生えているが、それは些細な問題だ。ただ痴女であるということが最も特筆すべき点だろう。あと、この女すげぇ失礼。


「私は神、我が名はコンデ・ぴぃぃぃ・シザー・イフゥス。――でけでんっ! さて問題です! ぴぃぃぃにはなにが入るでしょう!」

「知らねえよ! つーか一人称を統一しろ!」

「……くッ! まさかそこに気づくなんてッ!」

 初対面のよくわからない変態を相手に突っ込んでしまった。突っ込むといっても決して卑猥な意味ではない。

「今まで1億人を異世界に送ってきたこのワタクシに手を挙げるとは……」

 手は上げてない。あと送りすぎ。日本の年間死亡者数約100万人をはるかに上回る数字に恐れおののく。このままでは見知らぬ異世界の生態系が変わってしまう。


 よよよとわざとらしく倒れるコンデの演技力の低さに腹が立った。

「さて、茶番はこの辺りにしておきましょう」

 表情を一変させてしなやかに立ち上がるコンデ。

 そろそろ頭も冷静になってきた。

 きっとこれは自死という愚かな死に方をした自分に対する裁き。ならばその罪を背負う覚悟はとうの昔にできている。

 あの事件いらいずっと背負ってきたのだから。

「では答えをどうぞ!」

「だから知らねえって!」

 果たしてこれが本当に裁きなのか。というか神は痴女なのか。


「それ以上の無礼はエネーン様が許しても、私が許しませんよ?」

 横で黙って痴女を仰いでいたメイドが口を開いた。というか、答えを言っていないか。

 こちらを睨みつけるは真紅の瞳。尋常ではない威圧感に圧倒され、立っていることすら辛く感じる。恐らく彼女も人間ではない。


「ちなみに正解したら……この神殿に住む権利が強制的に与えられまーす!」

 なぜ強制なのだろう。絶対に答えないようにしなければ。

 コンデは痴女という点を除けば、かなりの美貌の持ち主だ。およそ現実では決して出会うことができないほどに彼女の顔は整っている。まるで美を象徴する女神、傑作芸術にすら思えるほどに。ただ、一挙手一投足とテンションが100点満点の120点を0点まで下げれるくらいに、気に障る。

「ちなみに不正解ならば異世界に転生して魔王と闘ってもらいます」


 まだ人を送りつづけるつもりなのか。待て、なにかがおかしい。

「なんで、1億人も送ってるのにオレも行く必要があるんだ……?」

「ふふっ……知りたい?」

 優雅にイスに腰掛け、肉感的な足を組むコンデ。その嫣然ともいえる微笑みに隠された謎とは一体。

 息苦しいほどの緊迫した空気が、悪趣味な神殿全体に蔓延する。多分だが、この間は絶対に狙ってやっているはずだ。

「異世界のほうが日本よりも居心地が良いのです」

「ふぇっ? ――ひどい! それワタクシのセリフ!」

 巨大な羽の扇を仰いでいたメイドが先に言ってしまった。コンデは一瞬驚いた表情をすると、いじけるように首から下げられているコンセントのオスをいじいじしてしまう。


「異世界は美人が多く、どんなカスでも現代の知識を持っていればそこそこの活躍ができ、自分に偽りの価値を見いだすことができるようですね」

 メイドは手を止めずに淡々と辛辣な言葉を並べる。

 技術力が高ければ重宝されるのが世の常というものだ。特に美人が多いという点はかなり惹かれるものがある。


 そういう自分も25歳独身。生前は社会と毎日戦っていた。ボーイスカウトの経験もあるし、多少楽器を扱うこともできる。これは異世界にいけばバラ色の人生が待っているのでは。

 まあ、別に、自分の人生に後悔して自殺したわけではないのだが。

 期待と忘れ得ぬ記憶の狭間で心が揺れ動く。


「――ねえってば」

「おわっ!」

 ふと気がつくと目の前でコンデが屈んでこちらを見上げていた。バレーボールのような胸が両膝の上でふるふると踊っている。痴女だ。

「な、なんだよ……」

 なぜかコンデはウェーブがかった髪で半分顔を覆い隠し、唇を尖らせている。さきほどセリフをとられて、まだ落ち込んでいるのだろうか。

「……なんで自殺なんてしたのよ?」

 ドキリと心臓が跳ねた。己の懺悔しろとでもいいたいのか。

 その潤んだ宝石のような瞳に自身の顔がうつった。腐っても相手は神。隠し事ができるわけもない。


「人を車で轢いたんだ。相手は中学生の男の子だった。店の袋を抱えて、帰宅を急いでいたのか飛び出してきて……それで……」

 たとえ彼に原因があろうとも責任はすべて自分に降りかかる。言い訳はしない。これは自分の不注意がまねいた事故だ。彼は中学生、未来ある若者。これから勉学に励み、進学して、恋をして、社会に揉まれつつもりっぱな家庭を築いたはずだ。定時で帰らなければ、もっとゆっくり車をはしらせていれば、どれほど後悔してもしきれない。

 だから、遺族のために賠償金と、このくだらない生命を差し出して償ったにすぎない。とは言ってもこれも自己満足にすぎないのだが。

「ちなみにその彼は、よろこんで異世界に行きましたよ?」

 メイドは表情ひとつ変えることなく宙に浮いた不思議なモニターを叩いて衝撃の事実を口にする。

「マジで!?」

「ええ、まあ、しょせん保健室通いでゲーム買って帰ったところで跳ねられた雑魚なので、もうくたばりました。ただの人間が魔物蔓延る異世界にいって活躍できるわけないでしょうに」

「辛辣すぎないかい? キミ」

 現実は非情だ。現実はリアリティだ。

 乾いたため息が口から漏れる。


「ちなみに彼の運命をいじったのはコンデなので、アナタに罪はありません。まあ、日本の法的には罪があったようですが。ご愁傷様です」

 メイドは至極愉快といった表情で、ニタリ赤い口を開いた。もはや神に様すらつけないのか。 

 まて、今、聞き逃してはならない言葉が聞こえた。

 残業三昧の現代日本の闇。あの日は、半年ぶりの定時帰宅だった。たしか作業している機械が謎の不調を訴え、専門の人間を呼んでも原因がわからないということで、馬鹿上司が社員たちに泣く泣く定時を言い渡しのだ。

 震える手をコンデの顔を交互に見やる。

「ごめーんねっ☆」

 ぺろりと舌をだしてウィンクする痴女。

 マーダーライセンスが欲しい。いや、ここはもう法の支配の外側なはずだ。一発くらい鼻を殴ってみるか。

「と、いうわけでぴぃぃぃの答えは何でしょう! お答えをどうぞ!」

轢いた側は罪を償っているのだ。

というわけで、本日2本目の短編でした。


【コンデ・エネーン・シザー・イフゥス】に隠されたものが解った方は感想で書くなり、もはや問題でもなんでもないし下らねえと怒るなり、お好きにどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  面白いです。話の内容は笑いに振ってますが、文章自体はかなり真剣に錬られていると思いました。登場人物の会話も軽快で分かりやすく、神様もあんな性格ですが好感持てました。それと「一人称を統一し…
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