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「汝は人狼なりや?」入門  作者: 雨木康平
第一部 全体としての人狼論
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人狼ゲームの本質について

 前章で予告していた通り、この章では人狼の本質を探っていくことにしよう。そもそも人狼の本質とはなにか、本来なら人狼をする上で真っ先に議論してもいいことなのだが驚くことにこの問題について触れているものは全くといっていいほどない。前書きでも述べたがネット上でいくら探しても戦術の話しか出てこないのである。「グレランを抜けるための方法」だとか「騙るときに気をつけること」だとかいった戦術的な話があるばかりであった。そうした戦術論にはその場その場で役に立つことがあっても全体を通して使っていけるものはない。ここではそうした単なる戦術論とは一線を画すため、この論を戦略論にするためにこのゲームの本質を明らかにしてみせよう。

 

 では、ここで前回述べた人狼ゲームの構造を思い出してもらうところから始めていこう。下が前回明らかにした人狼の三つの部分である。 

  

 『襲撃(狼)→議論(中立)→吊り(村)』


 次に、占い師の役割についても思い出してもらおう。占い師は村の武器であると前章では述べた。そして、それに対して狼は村が真の武器を操るのを妨害するために騙りを紛れ込ませるのである。すこし文学的な表現になったが、要するに占い師を真であると確定させないために騙りを出すという話である。占い師は狼を露出させるといったが、逆説的にそれが占い自身の武器としての働きを鈍らせることになっているのである。下に分かりやすく図式化してみた。騙りを偽者の武器と捉える見方は信用勝負的な考えであって占い即噛み展開に対して十分なものとはいえないかもしれないが、ここでは議論を単純なものにして、説明を簡単にするためにこのような図を用いることにしたとあらかじめことわっておく。


  {村→選択(決めうち)}→占(武器)、狼(騙り=偽武器)、狂(騙り)→灰「狼、狐」

             

 これがこのゲームの本質を解明するための手がかりとなる。それでは、上の構造から見ていくことにしよう。図にある三つの行動の繰り返しでゲームが進行していくわけだが、それはいったいどういうことを意味しているのだろうか。ひとつは人数の減少である。基本的には噛みで一人、吊りで一人、毎日二人ずつ死んでいくことになる。そして、もうひとつ減っていくものがある、それが「グレー」である。この「グレー」が人狼において非常に大事なのだ。ここで一度極端な例を考えてみよう。17人村において共有10、狼7という配役でゲームを行ったとする。勝つのは当然村人陣営である。7吊り7人外だろうがなんだろうが関係ない、狼は絶対に勝つことはできない。それはなぜか、その理由がこの「グレー」である。人狼ゲームにおいては吊り=グレー数なら完全に詰みである(この場合のグレーは吊る可能性のある場所という意味である。確定○の反対と考えてもらえればいい。また、狐は無視した)。ここで「グレー」の重要性を認識してもらったところで構造の話に戻ろう。それから、なんでもいいから自分の人狼経験と照らし合わせて「襲撃」と「吊り」との違いを考えてみてほしい。なにか分かっただろうか。両方とも人を減少させているが気づいてほしかったのはそこで消える者の違いである。襲撃では確定○が死ぬが、吊りでは絶対に死なない。これは実に当たり前のことであるが、このゲームの本質が端的にここに現れている。すなわち、人外は出来る限りグレーを減らさないようにして、村人はグレーを減らそうとするということである。これこそが人狼の本質の一つ目『グレコン』である。

 さて、一つ目がわかったところで一旦保留してもうひとつの占い師の役割と騙りの妨害の図からまた別の本質を明らかにしていく。上の図を見ればわかるように前章で説明していないものを新たに加えているところがある。それが「選択(決めうち)」という手続きである。これが意味しているものを図のイメージを使いながら説明していこう。占い師という武器を確定させないために、騙りが偽の武器として占い師と一緒に並ぶ。そうして、村はその中からひとつの武器を選び取って人外に向かう、そこで偽者を選んでいたらぱっくり食われてアウトというわけである。これはわかりやすく信用勝負を例に挙げたが占い噛み展開でも似たようなものだ。真占いが噛まれているのにもかかわらず騙りを武器として使う村もたまにある。ここでも噛まれたものを真で見るか、残っているものを真でみるかの「選択」の結果なのである。ところでこの「選択」はなにも占い師に限ったものではない、分かりやすい例がこれだというだけだ。またもや、極端な例を挙げてみよう。同じく舞台は17Aである、共有が適当なものを3人、狼だと断定し、1人を狐だとして、順に吊ったら見事に当たっていて勝てた。これもまた「選択」の結果である。似たようなものはグレランゲーなら見られることもあるだろう。したがって、人狼のもうひとつの本質とはこれ、「選択」=『決め打ち』である。

 以上の二つが人狼の本質である。どんな行動であろうと究極的にはこの二つのどちらか、あるいは両方に属することになる。それでは少し注意点を述べておきたいと思う。ここでの『グレコン』と『決め打ち』の定義は一般にゲーム内で使われている「グレコン」、「決め打ち」とは若干広い意味を持つ言葉である。『』付きの『グレコン』の場合は単に狼の行うグレコンの意味に止まらず村の進行において行われるグレーを調整する行為などグレー(非確定○の意、以下特にことわりもなくこちらの意味で使う場合は「」をつけておく。)数を維持、減少させる行為、進行を指す。また、同様に『決め打ち』のほうは占いのみならず、例で挙げた共有の指定のようになにかの判断を下して、そう推定して進めていくものすべてを指す。

 まずは『グレコン』のほうから先に詳しく説明していこう。だが、ここでも全体と同じように片方の説明にもう片方が顔を出すことがあるのでそこは理解してほしい。先ほど述べたように、「グレー」数=吊り数ならゲームは詰みである。ここでは占い『決め打ち』後の話はのぞいて単純に考えていく。そうすると、狼としては襲撃で「グレー」を潰していくのは冒険である。よって、基本的には確定○、もしくは後々そうなる場所を潰していきたいと思うわけである。反対に、村はとにかく「グレー」を減らしたいわけだから完グレをメインで指定して、単●は吊るしても、パンダは吊るさないのである。こうした行動が後々の殴り合いで村アピとして利用されたり、殴りに使われるのだがそれはまた別の話だ。あまりに単純すぎるのでここでは少し具体的な例を出して進めていきたいと思う。村陣営が行う『グレコン』というとあまりピンとこないと思うのでそちらを中心に挙げていこうと思う。まずひとつは先ほど挙げたパンダ吊りの話である。占A:C●、占B:C○という占い結果が出ていたとする。ここで多くの場合パンダが保留される理由はそのパンダが後に確定○に昇華する可能性が存在しているからである。真占いをBで『決め打ち』した場合、Cは確定○の扱いになるし、次の日にBが噛まれたりでもすればなおさらである。したがって、パンダ吊りでは「グレー」が減らないので、ここで完グレ、すなわち別に「グレー」を吊るのが理にかなっているというわけである。ちなみにこういった説明は他の戦術論のサイトにもないわけではないが、ここで重要なのは『グレコン』という概念のもとでこれの説明が行われているということである。また繰り返すことになるがこういう戦略的な視点から戦術を見るのがこの論の独自性なのである。まあ、自画自賛はこのくらいにして次の例にいこう、霊が2になった場合の話である。ここで霊ロラをするか霊は放置してグレランから入るかといった問題がある。昨今は霊ロラが幅をきかせてグレランはめったに見られるものではないがここの考え方も『グレコン』という視点から眺めるとよく理解ができるのである。端的に言ってしまえば霊ロラはいずれは両占い視点でどちらかは吊るべき場所になるのだから吊ってしまえという考え方で、グレランはいずれは両占い視点でどちらかは吊らなくていい場所=確定○になるのだから残せという考え方である。両方とラインが切れるとか霊真狂というレアケースはあったら設けものといったかんじである。それよりも大事な考え方が霊は既にグレーではないが「グレー」ではあるということなのだ。(このケースに関しては『決め打ち』とも関連があって、占い噛みがまだ霊とのラインが見えない段階で入ったことを考えてみると、霊ロラは『決め打ち』を避ける戦術であり、グレランは『決め打ち』を恐れない戦術であるといえよう)この二つが代表的な村のグレコンだろう、正直にいえばこれ以上の例は思いつかなかった。強いて言えば初手●COなしからの霊2になったときの話くらいだがこれは一般的でない上に分かりづらいのでやめておく。一方、狼の『グレコン』の例だが、これはもうそのままグレコンを当てはめてもらえればいいだろう。こっちの意味のグレコンに関してはまた別の機会で語ることがあるだろう、少なくとも陣営論の人狼陣営のあたりでは触れないことはないだろうと思う。ついでだが、グレコンの話でひとつ言っておこう、手段としてのグレコンの話である。信用勝負において狼が気にするのは真占いに狐をどう溶かさせるかということである。この場合適度に真占いのグレーを狭めてやる必要がでてくることがある。そのときに真のグレーを噛むことをグレコンと呼ぶ者もいて、ここではグレコンという語が手段的な意味合いを持って使われていることがわかる。だからどうしたという話なのだがここで扱っている話が目的としての『グレコン』なので注釈的にこの話をしておいた。別にこの例のグレコンも大枠を見れば『グレコン』という語の意味から離れるものではないが、狼が「グレー」を減らす方向で『グレコン』をしているという点は注意してみてもおもしろいかもしれない。とりあえず『グレコン』の話はここまでにしよう。

 それでは、もうひとつの本質『決め打ち』に関しての話である。こちらも普通の意味で使っている決め打ちの意味に関してはあまり説明は要らないと思う。また、前の例で述べたようにグレーにおける狼の『決め打ち』といった意味の拡張も比較的問題なく行えるであろう。ではここではなにについて説明するかというと行動としての『決め打ち』の話ではなく目的としての『決め打ち』、すこし視点を変えて『決め打たれ』と呼ぶのがふさわしいかとも思われるような話である。なにを言いたいのかというと、議論におけるすべての行動の目的を『決め打ち』だといいたいわけである。信用勝負でもグレランゲーでもどんな場合であろうと人狼ゲームにおいて「発言」は大きな比重を占めるということに異論はないであろう。ここではこうした発言の目的こそが『決め打ち』なのだ。信用勝負で占い同士が殴りあうのも、グレランゲーの無秩序な殴り合いでも共有(もしくは別の判断役)に自分を村(村陣営)であると『決め打ち』させることが絶対的な目的なのである。同様に判断役が殴り合いを求めたり発言を求めたりするのも決め打ちのためであり『決め打ち』を目的としているものである。少し混乱するかもしれないが、まとめてみると、人狼では受動的か能動的かの違いだけで各プレイヤーの発言や行動の根底をなすものが『決め打ち』という概念で普遍的に示せるということがこの段落の論旨なのである。最初の構造論を手がかりにすると、人外にとっても村にとっても議論から吊りへの流れの中で自分を村だと『決め打たせる』こと、反対に人外を人外だと『決め打たせる』ことが重要であり、一方の指定役にとっては村を村だと『決め打つ』こと、人外を人外だと『決め打つ』ことが大事であるというわけで、この二つを『決め打ち』という共通項を本質として全体を一括して考えられるということである。あんまり同じ事を言い過ぎても蛇足なのでこれで最後だが、具体例を挙げて説明すればいくらか分かりやすくなるだろうか。信用勝負展開で騙りが信用を取れる発言を心がけること、グレランゲーで村アピをすること、ある「グレー」を人外で決め打って指定すること、これらはすべて『決め打ち』という概念でひとつにくくることが出来るというわけである。詳しくは言わないので自分で考えてみてほしい。

 さて、長くなってしまったがそろそろまとめに入ろう。この章では、最初に前回に示したゲームの構造と、占い師の役割をさらに深く考察したものとを手がかりにして、『グレコン』と『決め打ち』という二つの本質を帰納的に導き出し、それを様々な事例を挙げながら説明してきた。まとめてしまえばこんな短いものなのだが、なんだかんだで説明が長ったらしくなってしまったのでわかってもらえたかが心配である。とりあえず上の説明では『』付きかどうかとかで意味を微妙に変えたりしているのでそこは注意しておいてほしい。それから、構造論で保留していた問題について簡単にではあるがここで答えを出しておこう。構造論で三つに絞った理由は三つとも今回論じた二つの本質のうちの『グレコン』の場であるからである。夜時間、役職実行時間に関しては占いの実行や噛み先の話を行うのは十分承知の上だが、その結果が現れてくるのは昼の時間であるため、夜に関しては完全に構造から外した。おそらく本質論を納得してもらえた方には納得してもらえたはずである。

 それでは、これで構造論と本質論についての概要はつかんでもらえたと思うので最後の陣営論へと入りたい。陣営論ではここまで論じてきた構造、本質の二つから各陣営がどう動くべきであるかということを再びはっきりと論じていきたい。また、陣営論のなかで構造論についても考察を深めていく部分も出てくるだろうと思う。


 この章のまとめ

・人狼の本質は『グレコン』と『決め打ち』

・『グレコン』とは「グレー」を調整する行動全般を指す。村は「グレー」を狭め、人外は「グレー」を広げる傾向にある。

・『決め打ち』とは能動的にも受動的にも使用する。発言を行う事も本質は『決め打ち』である。


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