表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第2話 大切な人

「兄さん、ゴメンなさい」

 ベンチにたどり着くと同時に、申し訳ない気持ちを一杯にして頭を下げた。

 ……だいぶ待たせてしまったよね……

「最後の委員会、お疲れ様」

 そう言うと、お兄ちゃんは頭を撫でてくれた。

「……怒らないの?……」

 聞いてみたけど、分かってる。

 怒ってないって。

 お兄ちゃんは優しいから。

「ん?遅くなるかもしれないってメールくれたよね」

 ……確かにメールはしたけど……一時間も遅れたんだよ……

 まったく怒る素振りのないお兄ちゃんの様子に、思わず涙腺が緩む。

 いやいや、ここは泣くところじゃないし。

 というよりも、こんなこと一つ一つで感動していたら、お兄ちゃんの妹はやっていられないから。

 私の大好きなお兄ちゃん。

 名前は橘誠人(たちばなまさと)

 今は大学二年生で、私が受かった大学に通っている。

 お兄ちゃんが通っている大学は、私が通っている高校と近いため、今日は買い物に付き合って欲しいというお願いをして、一緒に帰ることになったんだけど……

 ……買い物は建前だから……ちょっと胸が痛い……

 少し罪悪感。

「今日は歓送会があったんだよね」

「うん、少し長くなってしまって……」

 ……真っ直ぐに顔が見られない……

「大丈夫だよ、気にしてないから」

 お兄ちゃんの笑顔。

 嘘じゃないよと言う声が聞こえた気がした。

 お兄ちゃんの笑顔につられて思わず微笑する。

 ……ずるいよ……お兄ちゃん……

 反省ができない。

「それにしても、清香も委員会を三年間するとは思わなかったよ、けっこうやることもあって、大変だって話してたはずなんだけどな……」

 どうして?って顔してる。

 思わず苦笑する。

 目の前の人が原因なんだけどね。

「ふふ、三年間がんばりました」

 Vサインをすると。

 ビシッ!

「痛っ!」

 チョップをされた。

「そういうことは自分で言わない、言わなくてもちゃんと評価してくれる人はいるから」

 お兄ちゃんのいつもの説教癖が発動。

 お父さんが単身赴任で家にいないことが多いから、お兄ちゃんとしては、父親代わりという思いもあるのかもしれない。

 でも、優しすぎて説教になっていなかったりするんだけどね。

 怒られているのに、思わず笑みがこぼれそうになる。

 ……仕方がない……よね……

 心配してくれていることが、嬉しくて仕方がないんだから。

「了解しました教官」

 冗談を交えて軍隊の敬礼の真似をする。

「なんだよ、それ」

 お兄ちゃんが楽しそうに笑う。

 その笑顔を見て、私も一緒に笑った。

 普段はこんなことはしない。実のところ、人一倍周りを気にしてしまう性格である。

 お兄ちゃんに喜んでもらいたいと思っている時は、自分のことを忘れてしまうみたいだ。

 周囲の人たちは、私のことを優秀でまじめな人だと言う。

 優秀なのかは分からないけど、たぶん、まじめな人というのは合っている。

 そんな私に自然と冗談を言わせるお兄ちゃんは、本当に特別な存在なんだと思う。

「じゃあ、そろそろ帰るか」

 お兄ちゃんの一言で、校門から一歩も動いていないことに気づいた。

 会話に夢中になってしまい、帰るのを忘れていた。

「うん」

 普段の何気ないお兄ちゃんとのやり取りが、今の私にとっては特別な時間。

 ずっと一緒にいられる訳じゃない。

 

 ……きっと別れは突然のようにやってくるんだ……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ