第1話 放課後
「はぁ、今日の会議は長かったなぁー」
口元から白い息が漏れ、空へ舞い上がる。暦上では春だけどまだまだ寒い。
私の名前は橘清香。
卒業間近の高校三年生。
今日は学校生活最後のクラス委員会議があって、いつもより帰りが遅くなってしまった。
普段なら遠くから聞こえる、帰宅が遅い吹奏楽部の演奏も聞こえず、隣にいる友達の明るい声だけが響く。
「会議は長くなかったよ、最後の会議だったから歓送会が長かったんだよね」
そう会話を付け加えてくれたのは、別のクラスの委員長をしている篠崎友子ちゃん。愛称はトモちゃん。
トモちゃんは一年生の時にクラスが一緒で、いつの間にか仲良くなっていたお友達。
悩みがあると、いつも相談に乗ってくれる。違う大学に行っても、また仲良く出かけたいねと、最近はそんな話もしていた。
最後の委員長会議で、毎年恒例の卒業生歓送会をしてくれたんだけど、予想以上に帰りが遅くなってしまって……
既に陽が沈みかけていた。
「清香はいいよね」
「?」
突然、何のことだろう?
私より身長の高いトモちゃんの顔を少し見上げながら首をかしげていると。
「大学がもう決まっていて」
ああ、そのこと。
私立の大学に合格が決まっているので、私の受験勉強は既に終わっていた。
トモちゃんは国公立の受験なので、これからが本番だ。
「どうして清香は国公立の大学を受験しなかったの?」
「どうしてって?」
私が目指す大学は一つしかなかったけど……
「だって、清香の学力だったら、東大も受かるじゃない」
あ、そういう意味。
私は、頭がいいと皆からは思われていて……確かに模試の点数は悪くないけど……
色々な経験から、点数をとれる、イコール頭がいいとは思えなかった。
「うーん、でも、その理由は決まってるよ」
「え?」
志望校は二年前から決まっている。
つい気持ちが抑えられず、校門の方を力強く指差してしまった。
「……なるほど……」
校門を少し越えた先のベンチに座っている人影を確認して、トモちゃんも納得してくれたようである。
早くその人の所に行きたい。
気持ちを抑えられずに、私の足が自然と前に駆け出そうとする。
「じゃあ、またね、トモちゃん」
足が先に行ってしまう前に、別れの挨拶をしておく。
「ええ、また」
私が笑顔で別れると、トモちゃんも笑顔で挨拶を返してくれた。
そして私は……
心の衝動に身を任せ、校門先のベンチへと走り出していた。




