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触手な俺が魔女の奴隷  作者: よしむ
第三章 狂信者は強靭でした
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第七話

 昔々、まだ人間と魔物がお互いに争っていた時代のお話でございます。

 ウスベルクのお山に棲む一頭の竜がおりました。

 その竜は永きに渡り、近くに住む者たちとの平穏を保っておりました。

 

 しかしある時、その竜が近隣の集落を襲い始めたのです。

 竜は咆哮を上げ、家々を口から吐き出す炎で焼いていきました。

 とても恐ろしい竜に、周囲に住んでいた者たちは逃げることしかできませんでした。


 そんな恐ろしい竜に立ち向かう者たちがおりました。

 かの有名な勇者マイマイでございます。

 勇者マイマイは仲間たちと共に勇敢にも竜に挑み、とうとう竜を討伐したのです。


 勇者マイマイと共に戦った勇敢な者たちの中に、アロンザというラミアがおりました。

 その彼女が愛したとされているのが、この「たまごまんじゅう」で御座います。

 この「たまごまんじゅう」は、名匠辰川五郎が――


「もういいわ。

 どこの銘菓も書いてあることは同じね」

「うむ、そうじゃな。

 そもそも竜も勇者も関係ないではないか」

「二人とも、ここからが面白いんですよ。

 名匠辰川五郎のたまごまんじゅうにかける情熱が凄いんです。

 なんとたまごまんじゅうのために死神に弟子入りしたらしいですよ!」


 俺はたまごまんじゅうについていた冊子を読み上げるが、ご主人もダリアさんも興味を示してくれない。


「たまごまんじゅうが美味しいってだけじゃ駄目なのかしら」

「うむ、珍しく美味かった。

 とても濃厚な味で、満足感がある。

 名物にうま――」

「ご主人、それ以上はいけない」


 周囲にはお土産物屋が立ち並び、“名物”だの“本家”だのという文字が躍っている。

 今ここで、“名物にうまいものなし”などと言わせては、店員さんたちの気を悪くするだろう。


「それでご主人、山に登るにはこの道でいいんですか?」

「そのはずじゃな」

「あそこに看板があるわよ。

 “登山コース”って」


 道を歩く人々は多く、やはり完全に観光地になっている。

 これだけ多くの人が竜のパワーを得たら大変なことになるのではないだろうか。

 というか残ってるのか? 竜のパワー。


「初級、中級、上級コースに分かれてるみたいじゃな」

「初級にしておきましょうよ。

 遭難して近隣住民に迷惑をかけたくないです」

「遭難しても人知れず死んじゃうだけでしょ?」

「そうなんですか」

「……」

「……」


 ああ、ついつい言いたくなってしまっただけなのに。

 そんな冷たい目で見ないで二人とも。

 興奮してしまう。


「行くか……」

「そうね……」

「待って下さい二人とも」


 俺はご主人とダリアさんの背中を追いかけ、竜が棲んでいたという山に入った。



―――



 鬱蒼とした森の中を通る登山道は整備されており、まず遭難したりはしないだろう。

 まわりに人も多い。

 どう考えても修行をしたりするような山ではない。


「ご主人、この山のどこでどんな修行をするんですか?」

「綺麗な山の空気を吸えば、ソーマの心も綺麗になるかなぁと……」


 蜘蛛に負けた件が全く関係ないっ!?


「ソーマの心が綺麗になれば、少しはイケメンに近づくかなぁと……」

「そんな……。

 ご主人ひどいですっ!

 ご主人も外見で男を選ぶビッチだったなんて!

 たしかに俺はイケメンと比べれば多少外見は見劣りするけれども、それでもこんな扱いを受けるなんて!

 俺はご主人のために強くなろうとしていたのに、ご主人は外見のことしか考えていなかった!」


 俺は山道をはずれて森の中へ逃げ出す。


「これ待て、待つんじゃソーマ」

「あーらら……」


 ご主人の制止を無視し、俺は茂みの奥へとどんどん進む。

 なぜだか、こちらからは巨乳の気配がしたような気がするのだ。

 正直言って、ご主人が言っていたことは気にしていない。

 巨乳のいる気配がしたからこちらに来たのだ。

 巨乳の気配がどんどん近づく。

 気配が近づくごとに俺の身体能力は上がり、移動速度が増す。


「……!」


 しばらく行くと森が途切れ、川に出た。

 太陽の光に目が眩む。


「……神よ、身を清め、お待ちしておりました」


 女性の声が川の方から聞こえてくる。

 太陽の光で、声の主の姿が良く見えない。


「さあ、お受け取り下さい」


 水音を鳴らしながら、人影が近づいてくる。


「私のこの身を」


 一糸纏わぬ姿の女性が、俺に抱き着いてきた。

 何が何だかわからないが、触手は反応してしまう。

 触手は自然と形を変え、彼女の胸の先に吸い付く。

 大きな彼女の胸に、触手はからませる。


「ああ……神よ……」


 うっとりとした声で呟く彼女。

 頬は赤く染まり、目が潤んでいる。

 彼女の瞳は水色。

 瞳の色と同じ水色の髪を巻貝のように纏めている。


 よくわからんが、とりあえず良し。


 俺はそのまま彼女の体を愉しもうと思った――のだが。


「ソーマ、何をやっておるのじゃ?」

「あーらら……」


 まあ、こうなる気はしていたよ。

 当然言い訳は用意……できるわけないな。

 正直に言っても信じてもらえないだろうし。


「ソーマ、遺言は?」


 澄み切った笑顔を見せるご主人。

 言い訳すら許してくれない。


「た、たすけてください」  

「無理じゃな」


 ご主人の体に何かが集まっていく。

 恐らく魔術を行使するのであろう。

 何回か見たから学習したぞ、俺。


「待ちなさいッ!」


 いつの間にか俺から離れていた巨乳の女性が声を上げる。

 その手には二つの発射口を持った銃が握られている。


「えっ、銃って存在したの!?」

「ソーマよ……、何を言っておるのじゃ。

 存在しないものをそなたが知っておるはずないじゃろ」

「あ、そうですよね」

「ふふっ、そうとも限らないケドね。

 それよりアレ、どうするの?」


 巨乳の女性は銃口をピタリとご主人に向けている。


「撃たれても構わんよ。

 わしには届かん」

「ご主人、挑発するようなことを言わないで下さい。

 おっぱいが大きい人、とにかく落ち着いて。

 とりあえずその銃を降ろしましょう?」


 俺の言葉を聞き、巨乳の女性は銃を降ろす。


「神がそうおっしゃるなら……」

「神?」


 ご主人とダリアさんが首をかしげる。


「どういうことか説明してくれますか?」


 文脈からして俺が神なのだろう。

 ならば俺の言葉には耳を貸すはず。


「我が神よ……私を試すのですね?

 わかりました。

 私が神の敬虔なる僕であることを証明して見せましょう。

 あれはそう、昨晩のことでした。

 旅館に泊まった私は、窓の外に浮かぶ月を見ておりました。

 自らの人生を思い返していたのです。

 後悔の多い人生でした。

 数々の失態を思い出し、自らの不甲斐無さに涙していたのです。

 そんなとき、窓から神の触手が入ってきたのです。

 神の触手は私を優しく慰めて下さいました。

 神のおかげで私は自分を取り戻せたのです。

 翌朝、神の触手が伸びてきた方向の部屋を虱潰しに探し、神を見つけ出したのです。

 神を見つけ出した私は、神とその回りにいる糞虫どもの話を聞き、神の目的を把握しました。

 神の目的地がこの山と知った私は、身を清め、神を待っていたのです。

 そして、神は私を迎えに来て下さった。

 さあ我が神よ、昨晩の続きを!!」


 ま、まずい。

 巨乳の女性の話は見に覚えがない。

 寝ぼけてやったのだろうか。同じ部屋で寝ているご主人とダリアさんを放っておいて?

 いや待て。

 そういえば犬耳の巨乳を思い出して、巨乳のことを考えていなかったか?

 だとしたら、触手がついつい巨乳探しの旅に出てしまった可能性はあるのか。

 いや本当にあるのか? そんな可能性。

 だが一つだけわかったことがある。

 この巨乳の女性は、ちょっとアレな人だ。


「忠実なる我が僕よ。

 汝の信仰心はよくわかった。

 だが、ここにいる二人は我の大切な者たちなのだ。

 傷つけてはならぬ」

「ですが神よ!

 あの糞虫は神を攻撃しようと――」

「違うのだ。

 あれは我を愛するが故の行為だ。

 そなたの愛と、彼女の愛は違うのだ」

「……そうでしたか。

 私の過ちを赦してくださいますか?」

「もちろんだとも。

 自らの行いを省みる者を、どうして責められようか」

「ああ……、神よ……」


 とりあえず神っぽく話をして、ご主人とダリアさんの安全を確保する。


 ちなみに糞虫と呼ばれていたご主人とダリアさんは、完全に話に飽きていた。

 ご主人はガイドブックを開いており、ダリアさんは散々つまらないと言っていたたまごまんじゅうの冊子を読んでいる。

 糞虫と呼ばれていたことを聞いていなかったと信じたい。


「さあ、ともかく今は服を着なさい。

 その格好では風邪をひいてしまう」

「神のご命令とあれば……」


 よし、とりあえず落ち着いた。


「ご主人、ダリアさん、なんとかなりました」

「ん、そうか」

「話長かったわね~」

「ご主人とダリアさんに危害を加えないことを納得させました」

「で、どうするのあの娘?

 殺すの?」


 さらっととんでもないことを言い放つダリアさん。


「それじゃあ説得した意味がないじゃないですか」

「放っておいてさっさと山を登るのじゃ。

 全く、ソーマのせいで無駄に時間を使ってしまった」

「神よ、私も共に参ります」


 黒い胸のあいたコートを着た巨乳の女が口を挟む。


「ダメに決まっておるじゃろ。

 ほら、ソーマもさっさと行くぞ」

「神に見捨てられるくらいならッ」


 巨乳の女は回転式拳銃を取り出し、銃口を咥える。


「待てィ! 自殺は最も忌むべき行為だ。

 自らの命を粗末にするな」

「ふぇ、ふぇふは」

「口答えするな。

 その拳銃を降ろすのだ」

「ふぁ、はい……」


 俺の言葉には素直に従う巨乳の女性。

 だが、俺がいなくなればどうなるかわからない。

 こんなに大きい胸をした女性が自殺なんて、許されることではないはずだ。


「ご、ご主人……」


 俺はご主人を見る。

 つぶらな瞳で見つめる。


「く、なんじゃその目は……」

「俺のご主人は優しいご主人のはずです」

「む、むう」

「彼女はどうやら俺を必要としているようです」

「そ、そうかもしれんな」

「俺がいなくなったら死んでしまうかもしれません」

「……ええい、わかった! 勝手にせい!」

「ありがとうございますご主人! 大好きです!」


 本当にご主人はちょろいな。

 これでいつでも巨乳が愉しめるぞ。

 これから毎日乳を揉もうぜ!


「というわけです。

 許可が下りたので一緒に行きましょう」

「神よ……ありがとうございます……」

「その呼び方は辞めてください。

 俺の名前はソーマです」

「……リュドミラじゃ」

「ダリアよ」

「私はアビゲイルと申します」

「そう、よろしくね、アビー」


 ダリアさんが笑顔を向ける。

 複雑そうなご主人と違い、ダリアさんはアビーを受け入れたようだ。


「ほれ、話が決まったのならさっさと行くぞ。

 あまり時間を無駄にすると、頂上に着く前に日が暮れてしまう」

「ご、ごめんなさい。

 私のせいで時間をとらせてしまって……」

「良い」


 ご主人が山道に向かって歩き出し、アビーが追う。

 少し遅れた俺とダリアさん。


「糞虫、ね……」


 ダリアさんが呟き、微笑する。

 聞いていたのか……。


「アビーもさきほどは気が動転していたみたいですし――」

「ふふふっ、わかってるわよ」


 軽いステップで駆け出したダリアさん。


 本物の神様へ。

 このパーティーが平穏でありますように。

 半分くらい、いや8割くらい俺が悪いっぽいですけど、何卒お願いします。

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