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触手な俺が魔女の奴隷  作者: よしむ
最終章 あの時の言葉をもう一度
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最終話

「着きましたよー」


 ロージーと名乗るアルラウネが振り返る。

 わしたちはロージーに連れられ、険しい山道を三日も歩かされた。

 そして今、目の前には洞窟の入り口がある。


「遠かったのじゃ……」

「ご主人、意地をはらず、俺の背中に乗ればよかったのに」

「嫌じゃ、絶対エッチなことをするくせに」


 紳士を装ってソーマは常に女体を狙っておる。

 しかも巧妙に反省したふりをするから厄介じゃ。


「それにしても何でこんな辺鄙なところにアタシたちを連れてきたの?」

「あんまり人前に出たがらない、引き篭もりがちな人たちでして」


 むき出しの岩肌ばかりの山。

 こんなところにわざわざ来る者などいないに決まっている、そんな場所。

 罠にかけるなら絶好の場所とも思える。


「まー、とにかくこの中に入ってくださいな。

 お話はそれからです」


 ロージーに促され、洞窟に足を踏み入れる。

 手足に魔力を巡らせ、臨戦態勢をとっておく。

 実力の足らん他の者より前に出る。

 奇襲された際、真っ先にわしが狙われるように。


 入ってすぐに広がる空間。

 広く明るい洞窟の中に、三つの影があった。


 銀灰色に輝く殻を背負った大きなカタツムリ。

 黒いローブを着て、大鎌を背負ったリッチ。

 そして最後に、黒い髪、黒い瞳をした少年。


 ――わしはこやつらを知っている。


「やあ、久ぶりダネ、まお――」

「ちぇすとぉぉぉぉぉおおっ!」

「ちょ、待ッ……えぶぅ」


 少年を目にしたとき、なぜかイラッとしたわしは挨拶代わりにとび蹴りをかます。

 わしの華麗なるとび蹴りは、見事少年の鳩尾を捉える。


「やっぱりこうなったかー」

「そうだね。僕たちの予想通り」


 訳知り顔で会話するカタツムリとリッチを見て、わしのイライラは膨れ上がる。


「何じゃ貴様らは」

「僕の名前はマイマイ、見ての通りのカタツムリだよ」

「俺はリーク。リッチらしい」

「ゲホッ、そしてボクは――カミサマだ」


 カタツムリはまあ良い。

 だがリークとかいうリッチはナンじゃ。らしいって自分の種族も自信を持って言えんのか。

 それにあのガキは、自らのことを神様とか名乗りおった。

 こやつらはふざけておるのか。


「君の記憶を改ざんしたのはボクだヨ、魔王」

「記憶の改ざん? 何を言っておるのじゃ? それに魔王って――」


 言葉の意味がわからない。

 後ろを振り向くと、ダリアとアビゲイルが珍しく真面目な顔をしている。


「キミだ。キミが魔王なんだヨ」

「わしか?」

「そう」

「な、なんだってー!?」


 急に上がったソーマの声。

 成程、そうじゃったのか……。

 わしは魔王じゃったのか……。

 あまりにもわしは最強すぎると思っておったが、まさか魔王じゃったとは……、実に納得じゃな。


「って何でみんな驚かないんですか!?」

「アタシ知ってたもーん」

「お、おなじく……」

「フッ、あれだけの魔力を内に秘めているのだ、魔王であったとしてもおかしくはない……むしろ合点がいく」


 ソーマ以外は驚いていないようじゃな。

 脆弱な連中だと思っておったが、わしがおかしかったとは。


「で、わしが魔王であったとして、記憶の改ざんとはどういうことじゃ?」

「そもそもなぜキミは、自分にかけられた呪いが『歳をとらなくなる』呪いだと思っていたんダイ?」

「よくわからん呪いがかかっているっぽくて、何年も成長しなければそう思うじゃろ!」

「キミは魔王だからね、限りなく不老に近い。

 だから成長するのが極端に遅い、それだけなんだヨ」


 なん……じゃと……。

 つまりわしがいつまでもチンチクリンなのは、呪いのせいなどではなく、種族的な理由だったということなのか……。

 ということはわしの胸……。

 ……。


「さて、それで記憶についてなんだけどネ。

 これはキミ自身が求めたんだ。

 『普通の人と混じって、旅をしてみたい』、そう言ってキミ自身がボクに頼んだことなんだヨ」

「ぬー、じゃあ今すぐ記憶を戻すのじゃ!」

「そうしてもいいんだけどネ、それじゃあつまらないダロ?」


 ふわりと空に飛び上がったカミサマ。

 そして彼が何かを呟くと、一人の少女が現れた。

 銀髪の髪をしていて、頬に何かの紋様が刻まれている。

 身に纏う漆黒のマントにも、頬に刻まれた紋様と同じような紋様が銀糸で縫い付けられている。

 その少女が立ち上がり、ゆっくりと目を開く。

 瞳はルビーのように紅かった。

 髪の色、瞳の色は違うが、そこに立っていた少女はわしと瓜二つだ。


「キミは覚えていないだろうけど、キミはボクが造り出したんだ。

 つまりボクはキミの親っていうわけダネ」

「最悪じゃな」

「ハハハっ、以前のキミもよくそう言っていたヨ。

 今呼び出したのは以前のキミだ。

 旅に出る前の、魔王としての役目を終えたときのキミ。

 今のキミと旅に出る前のキミ……、どう変わったのか、ボクたちに見せて欲しい」

「ほう、そういうことか」

「もちろん、後ろのキミたちも参加して構わないヨ。

 魔王同士の戦いに手を出せるんだったらネ」


 ソーマ、ダリア、アビゲイル、筋肉ダルマ……この四人では流石に手は出せまい。

 過去のわしと今のわし、恐らく力量は互角、ならば先手を取るべきじゃろうな。


 手のひらに魔力を集中、どこかで聞いた炎の鳥を具現化させる。

 ただ炎を手から放つより、具体的な形を与えた方が熱を集束させやすい。

 火の粉を撒き散らしながら、翼をはためかせヤツに襲い掛かる炎の鳥。

 が、ヤツの回りに張られた結界により一瞬で炎の鳥は消し去られた。


 当然か、わしに出来ることはヤツにも出来ると考えるべきじゃろう。

 ならば自らの肉体で以て結界の内側に入り込んで、直接ダメージを与える必要がある。


「すーぱー稲妻、キィィィーーック!」


 自らの身に紫電を纏わせ、ヤツの懐へと蹴り込む。

 わしの右足は、ヤツの両手で軽々と防がれた。

 雷撃も効いてない、すぐさま左足で首を刈りに行くが、これもまた容易に止められる。


 わしの無茶な動きに、ローブが少しずつ破れてきている。

 今頃ソーマあたりが「うっひょーーっ」とか言っていそうじゃが、そんなことを気にしてもいられない。


 ヤツは、無表情でこちらを見つめている。

 頬とマントに刻まれたあの紋様、わしになくてヤツにはあるあの紋様にだけは気をつけなくては。

 何か奥の手に使われるのかもしれん。


 無表情のまま、こちらに殴りかかってくるヤツ。

 内側にパリィし、顎にアッパーを振るうもギリギリで回避される。

 このまま殴りあっていては、ダメージを受けることはないが、ダメージを与えることも出来ない。

 全く変化のない応酬に、わしは少しずつ焦りを募らせる。


「くっ……」


 力を溜める時間さえあれば、わしの身体など簡単に吹き飛ばせる。

 しかし、他の者たちをも巻き込んでしまうし、何よりヤツがそのような時間を与えてくれるとは思えない。


「ご主人どいて下さい!」


 そんな状況で、ソーマの声が聞こえた。

 このわしにどけと言う。

 普段なら叱りつけるところじゃが、このまま殴り合っていても埒が明かない。

 なら、ソーマの言うことを聞いてやってもよいかなと思った。

 ヤツから放たれた回し蹴りを後ろに跳んで回避し、そのままソーマとヤツの直線上から退避する。


「オオオオオオオオオオッ!!」


 ソーマの雄たけびと共に、全ての触手がヤツに向かって殺到する。


「俺の人生の全てを込めた、触手汁を喰らえェエエエエエエ!!」


 えー。

 ちょっと期待しておったのに、それは効かないじゃろ……。


 そう思ったわしの予想は見事にはずれた。

 全ての触手から放たれた白濁液は、ヤツの結界を割り、ヤツの身体を穢したのだった。


 よくよく見ると、ダリアとアビゲイルと筋肉ダルマ、それになぜかロージーまでもがダウンしていた。

 成程、ソーマはエロスの力とかいうワケの分からんものを行使したのか。


「クックック、今度の触手汁の催淫効果は半端なものじゃありません!

 ロージーさんに効かなかった反省を活かし、エロスの力を行使した特別製です!

 いくら魔王様が性的に未熟だとしても、この快楽からは逃れられないッ!!」


 顔を紅潮させ、膝をついたヤツ。

 ヤツに向かって、ソーマの無慈悲な触手が迫る。


 そしてわしは、わしに良く似たヤツが延々と弄ばれるのを見続ける破目になった。




「ふーっ、満足です!」


 あ、あんなことやことんなことまでするなんて……。

 目の前でわしによく似たヤツが、嬌声を上げているところを見せられ、わしは少し……。

 ……あとでソーマを殴ろう。思いっきり。


「いやー、良いモノを見せてもらったネ!」


 心底楽しそうに笑うカミサマ。


「で、これでいいんじゃろ。さっさとわしに記憶を戻せ」

「そうダネ」


 カミサマが気取った仕草で指を鳴らすと、わたしの中に様々な記憶が蘇ってきた。

 自分がカミサマによって造りだされたときのこと。

 魔物たちを統率するため、頑張って魔王を演じていたこと。

 ダリアと昔、会っていたこと。

 ラーナやリークと出逢い、初めて友達ができたこと。

 そして――。


「魔王様、おかえり」

「た、ただいま」


 様々な記憶が蘇り、感情が溢れてきた。


「これでキミたちの旅も終わりダネ。これからどうするんだい?」

「ご主人っ! 突然ですがお願いがあります」

「な、なに?」


 急いで涙をふき、ソーマの方に振り返る。


「主従関係を破棄したいんです」

「え?」

「ご主人の旅は終わったようですし、俺はスキュラさんに会いに行こうと思います」

「それならわたしも一緒に――」

「それも良いんですが、ご主人はここにいる人たちと、話すべきことが沢山あるでしょう?」

「そ、それはそうかもしれないけど……」

「俺は一刻も早くスキュラさんに会いに行きたいと思っています」

「むー、わかった、わかりました!

 でも、主従関係は破棄しないっ!」

「でもそれじゃあケジメってものが……」

「いいの! これからもわたしがソーマのご主人様なの!

 だから、いつかまたわたしのもとに戻ってきて」

「そうですね、わかりました」


 わたしの言葉に折れてくれたソーマ。

 何だかんだ言って、ソーマはいつもわたしのワガママを聞いてくれるんだ。


「話は決まったようダネ。それじゃあ触手生物のキミ。

 今回も大活躍だったキミに、ボクから何かプレゼントを贈りたい」

「プレゼントですか?」

「そうダヨ。ボクは自分で言うのもナンだけど、凄いンダ。

 だからキミが求める願いを、何でも一つ叶えてあげようと思う」

「何でもですか?」

「何でもサ」

「そうですね……、それじゃあスキュラさんが俺と一緒にきてくれなかった理由を知りたいです」

「知るだけで良いのかい?」

「ええ、解決するのは俺自身やスキュラさん自身であるべきです」

「素晴らしい考えダネ。

 ボクはそれに気づくまで、気の遠くなるような時間がかかった愚カ者だヨ。

 でもザンネン、彼女の問題は既にキミたちが解決してしまっている。

 キミが被害を抑えたおかげで、彼女も命を落とさずに済んだしネ。

 だから別の願いにしてくれるカナ」

「どういうことですか?」

「そのままの意味だよ、後は彼女本人に聞けばイイ」


 この話はもうお終い、そう言いたげに手を振るカミサマ。


「そうですか……、それなら俺に生殖能力を与えて下さい!」


 あれ? 何かデジャヴュ……。


「その手があったか!」


 急に大声をあげるリーク。


「うう……、俺は性欲を得られたけど、生殖能力がないから発射まで至らなくて悶々とするしかないんだ……。

 最初から生殖能力を願っていればよかった……」

「な、なんだかわかりませんが、死神っぽい人は地獄のような時間を過ごしてきたんですね……。

 では願いはこうしましょう、『性で悩んでいる全ての人に、救いを』」

「な、なんだと……。触手の君、ソーマ君と言ったか。

 君は神なのかっ! そ、そのような願いをしてくれるなんてっ!」

「俺も男ですからね、リークさんの気持ちはよくわかります」

「ハハっ、本当にキミたちは良く似ているネ。それじゃあ、ソーマ、キミの願いを叶えてあげヨウ」



―――



「ソーマくん、男の子なんだからちゃんと決めるのよ」

「そうですよ、ちゃんと連れ出してくださいね!」

「うむ、成すべきときに、成すべきことを成すのが男だ」


 俺たちは船に乗せてもらい、スキュラさんが棲んでいる島の近くまで来ていた。

 緊張する俺に、みんなが優しく声をかけてくれる。


「それじゃあ、言ってきます」


 あの時と同じように、島まで泳ぎ、洞窟に入っていく。


「ごめんくださーい」


 もしかしたら着替えてたりするかもしれないので、念のため声をかけておく。

 ラッキースケベも嬉しいが、お願いをする前だからな。


 少し待っても返事はない。


「中入っちゃいますよー」


 一方的に告げ、洞窟の奥に入っていく。

 以前来たときはご主人が魔法で洞窟の内部を照らしていたから明るかったけど、今は暗闇に包まれている。


 暗闇の中、ゆっくりと泳いでいく。

 もしかしたら留守なのかな。

 そう思った瞬間、触手に絡みつかれた。

 そのまま引き寄せられていき、柔らかな腕に抱きしめられる。


「本当に迎えに来たのね……」


 涙声で呟く声。

 それはまぎれもなくスキュラさんのものだった。


「一緒に、来て貰えますか?」

「……はい」


 触手を絡ませあい、そっと唇を重ねる。

 これでもう、手当たり次第女性に触手を出したりは出来ないな――、スキュラさんの顔を見て、俺はそう思った。

以上で「触手な俺が魔女の奴隷」は完結です。

最後まで読んで下さり、どうもありがとうございました。

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