第二十六話
真っ直ぐ突進してくる花瓶。
あのスピードで激突されたら、色々な穴から色々な臓器を吐き出すことになりそうだ。
車輪で動いている以上、急激な方向転換はできないはず。
ならばギリギリまで引き付けてから跳躍して回避するべき、そう考えた俺は逃げ出したくなる衝動を抑え、じっと待った。
ワンピースを着た彼女は、恐らくノーブラだ。
でなければ、あれほど滑らかな球体がボインボインと揺れる説明がつかない。
ククク……、どう考えても俺を誘ってやがるぜ!
気合を入れ直した俺は、突進してくる花瓶をギリギリのところで横に跳び、回避する。
だが、彼女の攻撃はこれで終わらない。
薔薇から飛び出した彼女が、スレッジハンマーを俺に振り下ろす。
一つ前の試合の剣士も、同じ流れで頭をかち割られていた。
触手を一本に纏め上げ、振り下ろされたスレッジハンマーにぶつける。
「いだいっ」
タンスの角に足の小指をぶつけるような痛み×全ての触手の本数。
とても痛い、だけど止められる。
彼女が渾身の力を込めて振るったであろうハンマーの一撃を、俺は止められるのだ。
勢いに乗ったまま、後ろの壁に花瓶がぶつかったようだ。
大きな音が響く。
「一つ聞きたいことがあります」
「なんですかー?」
地面に着地し、スレッジハンマーを引きずるように構えるアルラウネさん。
ワンピースの裾がはたはたと揺れている。
短めの丈ワンピースからは、肉付きのよいムッチリとした太ももが伸びている。
今、彼女は裸足だ。
先ほどまで薔薇の花に埋もれていたのだから不自然なことではない。
だが履いていないのは靴だけだろうか?
彼女は腰まで薔薇の花に埋もれていた。
ということは、だ。
「貴女は今、パンティーを履いているんですか?」
「さー、どうなんでしょうねー?」
「答えてもらえないのなら、勝負の中で確かめるまでっ!」
ブラジャーもパンティーも身に着けずに、これほどの観衆の前に姿を見せるとは。
彼女は確実に露出癖がある。
その人には言えない恥ずかしい願望、俺の触手が叶えてやる!
空間ごと衣服を削り取る。
衣服だけを削り取って、彼女の肌は傷つけない。
これほど意識が研ぎ澄まされている今の俺なら、不可能では無いはずだ。
触手を総動員させ、アルラウネさんの衣服を剥ぎにかかる。
器用にぴょんぴょんと跳んでかわし、時に触手にハンマーを叩き付けて潰す彼女。
触手は斬り落とされてもそれ程痛くないのだが、ハンマーを叩き付けられるととても痛い。
必死にアルラウネさんを追い回す俺だったが、なかなか捕えることができない。
場は膠着状態に陥ったように思われた。
だが、観衆の声援に違和感を感じる。
何かあるのか……?
そう感じた俺は、後ろを振り返った。
根拠はない、ただ何かあるならあの花瓶だろう、そう思っただけだ。
振り返った俺の目に、猛スピードで迫ってくる花瓶が飛び込んできた。
「まじですか!」
驚きの声と共に回避行動に入る。
横に転がりながら、なんとか花瓶の突進を回避した。
「その花瓶、貴女が乗ってなくても動かせたんですね」
「ふっふっふ、私の本体はこの人間を模した部位じゃありません。
こっちの薔薇の方なんですっ!」
「えっ、それズルイ! 何かインチキっぽい!」
「ふっ、甘いですね。ルール無用の残虐ファイトと、先に言ってあったはずです」
ルール無用とは言ってた気がするけど、残虐ファイトとは言ってなかったような。
だが、それなら女性の方を責めるのは無意味かもしれない。
あの薔薇の花弁に触手を挿入してやった方が、彼女にダメージを与えられるのではないだろうか。
それに、もしあの女性の体が飾りだとしたら、俺の奥の手が通用しない可能性もある。
「それでも、やってみるしかないですね」
「良い目です。覚悟は決まったようですね」
試せることを全て試していくしかないだろう。
どうせ俺にできることは多くない。
この状況ではエロスの力を溜めることも難しい。
「うおおおおっ!」
意味のない叫び声とともに、伸ばした触手をアルアウネさんに向かわせる。
「またですか、いくら数が多くとも――」
巨大触手生物は最低の生き物だった。
だが、たった一つだけ尊敬に値する特技を持っていた。
ヤツはエロ触手生物の奥義とも呼べる、催淫効果のある液体を放出することができた。
あの生物から教わったという事実や、テクニックや心でその気にさせるのではなく、薬効で落とすというのは気に食わないが仕方ない。
今、この場で見せ付けてやる! 俺の奥の手を!
触手によってアルラウネさんを捕まえるのが目的ではない。
気づかれないよう、囲うことが目的だ。
いつ動き出すかわからない花瓶に気をつけながら、俺は触手でアルラウネさんを囲っていく。
触手で半径二十メートル四方に結界を張っていく。
「おかしいですね――」
俺の触手の動きが手ぬるかったためか、気づかれたようだ。
だがもう遅い。
俺の触手は既にこの闘技場を制している!
「いくぞ! 半径20メートル、エロ触手汁スプラッシュッ!!」
触手の結界により囲われたアルラウネさんは、360度全ての方向から催淫液を浴びせかけられる。
かわす方法はない、ご主人のようにバリアらしきもので弾けば良いのだろうが、先ほどからこのアルラウネさんは力押しだ。
恐らく彼女は、魔術の類を苦手としているのではないか。
俺の白濁とした催淫液により、全身を穢されたアルラウネさん。
ワンピースが濡れたことにより、より身体のラインがはっきりと浮き上がる。
パンティーライン、未だ確認できず! やはりこれは……。
「その液体は催淫効果があります。
これ以上は貴女を辱めることになりかねない、素直に降参することをオススメします」
「なるほど、戦っている相手を気遣うとは、中々紳士のようですね。
ですがこの程度の催淫効果、耐えられない私じゃありません」
彼女の赤みの差した頬を、一筋の白濁とした液体が流れていく。
人間の姿をした部位に催淫効果はあるようだ。
だが、彼女は耐えている。
己の内から湧き出る肉欲に。
余計な力を抜き、ハンマーを構えるアルラウネさん。
今までのほわほわとした雰囲気は消えていく。
「……私が、いったい何百年処女をやっていると思っているんですか!」
ハンマーを引きずるようにして走り、一気に距離を詰めてくる。
「し、しりませんよそんなこと!」
くっ、何てことだ。
俺の奥の手は通用しなかった。
しかもちょっと怒ってるっぽい。
だが貴重な情報が手に入った。
彼女はあれだけの身体を持ちながら、未だに未通だと言う。
しかも何百年って。
まさしく鋼鉄の――、いや、真銀の処女と呼ぶに相応しい!
驚愕の事実と共に振り下ろされる鉄槌。
転がり、辛うじてかわす俺に、迫り来る花瓶。
仕方ない、一か八か――
触手を数本束ね、右から左へと一閃。
カタカタと俺の横を通り過ぎる花瓶。
はずれる車輪、真っ二つに切り裂かれた花瓶。
ミスリルでできた花瓶であろうとも、俺の触手による斬撃は防げなかったようだ。
だがここで油断してはいけない。
すぐさま崩れ落ちた花瓶の上に飛び乗り、大きな薔薇の上に飛び乗る。
「動かないで下さい」
触手を蒼い薔薇の花弁にそっとあて、アルラウネさんに向かって言う。
「動けば、貴女の花弁にこの触手を……」
言いながらそっと花びらを撫でる。
「くっ……」
「さあ、負けを認めてください。
でなければ貴女が何百年も守ってきた、大切なモノを穢さなければいけなくなってしまいます」
触手の先から白濁とした催淫液を垂らす。
一滴の白濁液が、花弁を濡らした。
「……そうですねー。
真銀戦車が、その名の由来を破壊されたのですから、負けということになるのでしょうね」
歓声に包まれた闘技場。
ここに立つ勝者は英雄である。
―――
「というわけで探していたミスリルチャリオッツさんです」
「どーもはじめましてー、ロージーと申します」
試合に勝利した俺は、アルラウネさん改めロージーさんをご主人たちのもとへと連れてきた。
それぞれ自己紹介をし、闘技場はうるさかったので移動することにした。
闘技場を出るとロージーさんのミスリルで出来た花瓶も元通りになる。神様凄いな。
「どこで話をしようかの」
「んー、ご飯って時間でもないのよね」
「そうだな、トレーニングには良い時間だし、ジムにでも行くか?」
「あの、お話を聞くんですよ……」
大体いつも通りのみんな。
ご主人の呪いについて知っているロージーさんは、もしかしたらこの旅を終わらせるかもしれない。
だと言うのに、みんないつもと変わらない。
「じゃあ、場所は私に任せてもらっていいですか?」
「何か企んでるのじゃったら――」
「大丈夫ですよー。私に任せてもらった方が話は早いと思います」
「そうか、なら付いて行くとしよう」
こうして、俺たちはロージーさんに付いて行くことになった。
この旅を終わらせる、最後の地へと――。
今更ですが、このお話は「リッチな俺と魔物の国」の派生作品になります。
ここから先は、「リッチな俺と魔物の国」を読んでいないと置いてけぼりをくらうかもしれません。そういう人たちはごめんね!