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触手な俺が魔女の奴隷  作者: よしむ
第八章 スーパーエロ触手大戦F(仮)
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第二十四話

「俺の女に手を出すなァアアアアア!!」


 発情期の獣の如き咆哮を上げ、ワイルドな俺をアピールする。

 いつもならここでダリアさんが「誰のこと?」と突っ込んでくれるはずなのだが、ダリアさんはそれどころじゃない。

 よって、俺の咆哮は凄く恥ずかしい響きになってしまった。

 ああ、突っ込まれたい。

 もちろん性的な意味ではなく、言葉のキャッチボール的な意味で。


 伸ばした触手を巨大触手生物に絡ませ、無理矢理拘束を解こうとする。

 巨大触手生物の触手の膂力はスキュラさん程ではない。

 だが、俺より圧倒的に多い触手に、ダリアさんとアビーを助けることができない。


 ご主人は自らの周囲にバリアのようなものを張っているようなので、恐らく白濁液をかけられても問題ないだろう。

 今対処すべきことは、触手に捕らわれた二人をどうにか助けること。

 プライドなど放り投げて、困ったときはご主人に頼む!


「ご主人、ダリアさんとアビーが捕まっちゃいました!」

「むぅー、しょうがないのぅ。

 最強最悪のこのわしが渋々助けてやろう」


 最……悪?

 悪に憧れるとは、ご主人もなかなか若いな。


「ぬぬぬ……、魔女ビーム!」


 ご主人の指、一本一本から光芒が発せられる。

 さすが魔女だ! 指からビームを出すなんて巨大ロボットの特権かと思ってた。


 魔女ビームにより、触手が焼き切られていく。

 肉の焦げた美味しそうな臭いと、巨大触手生物の生臭い臭いが混然一体となって、吐き気を催す。

 なんとか触手から脱し、地面に着地したダリアさんとアビー。


「く、くやしい……、でも……」

「幹事長……でしたっけ……」


 よし、二人ともまだ冗談を言える元気はあるようだ。

 だが、このまま迫り来る触手をご主人だけに任せていてはいつまでたっても、巨大触手生物を倒すことができない。


「ご主人! 二人のことは任せてください、ご主人はあのドクサレエロ生物を!」

「ふむ、自ら言い出したことはしっかりやり遂げるんじゃぞ」

「当然です」

「良い返事じゃ。任せるぞ」


 ビームで切り裂かれる触手を見ていて思い出した。

 俺の触手の可能性――うわんが使っていた転移能力の応用による攻撃。

 触手の先が空間を開いて、別の場所に転移する。

 これを応用し、空間ごと敵を切り裂く。

 ただそれだけのことだ。

 空間転移を既に使いこなしている俺に、できないことじゃないはず。


 ダリアさんとアビーを触手で俺の後ろまで引っ張る。


「体が辛いようなら、俺の触手を使ってもいいんですよ」


 できるだけイケメンな声で、そして紳士的に提案する。

 決して俺がいやらしいことをしたいのではなく、二人のことを考えて言っているのだという感じで。


「遠慮しておくわ」

「やめておきます」


 渦潮のときはあんなに乗り気だった二人から、俺の触手が拒絶される。

 どういうことなんだ、ダリアさんはともかく、アビーまでもが断るなんて。

 仕方ない、ここはカッコ良いところを見せて、後でたっぷりねっぷりとお礼を貰うこととしよう。


 迫り来る無数の触手を捕え、動きの止まったところを俺の触手で空間ごと切り取る。

 どんなに固いものであっても、これなら切り落とすことができそうだ。

 範囲は小さく、動いているものを切り取ることも難しいが、俺も触手は大量に持っている。

 触手で対象を捕え、触手で空間ごと切り取っていく。

 これで確実に巨大触手生物の触手の数を減らせる。

 触手さえ無くなってしまえば、巨大触手生物など、ただの巨大生物だ!

 丸裸にして、ただの肉塊にしてやる!


 俺が時間を稼いでいる間、ご主人は破壊の嵐の如く巨大触手生物を蹂躙していた。

 魔女とは何だったのか……と言いたくなるような殴打。

 ご主人が拳を巨大触手生物に埋め込む、すると半径1メートルほどの肉が吹き飛ぶ。

 一打ごとに肉が弾け、体液が撒き散らされていく。

 血に染まる拳、愉悦を覚えた顔。

 瞳孔が広がり、更なる破壊衝動に身を任せていくご主人。

 

 ご主人の性格は、良いとは言えない。

 だけれど、あんなに嗜虐的で獰猛な笑みを浮かべているなんて。


 血を舐め、肉を溶かし、体液を蒸発させる。

 繰り返していくうちに、壊すべき肉体は無くなる。

 ご主人が、巨大触手生物を殺しきった。


「本当にでかいだけのサンドバッグじゃったな」


 こちらに顔を向けたご主人は、いつものご主人だった。

 だけど俺は、そんないつものご主人に少しだけ恐怖した――。



―――



「ありがとう、落ち着いてきたわ」

「そうですね、あの白濁液による異常は一時的なものだったようです」


 しばらく休憩を取り、ダリアさんとアビーも調子が戻ってきたらしい。


「そうですか、それじゃあそろそろ――」

「しっ、静かに!」


 俺の言葉をアビーが遮る。

 耳を澄ますと、枯葉や枝が踏みしめられる音が周囲から聞こえてくる。

 ――囲まれている。


「マヨー! マヨネーズ、マヨマヨ~」


 よくわからない言葉が響く。

 よくわからないのだが、明らかにこれは……。


「マヨット族さんですかね?」


 周囲を囲っていた人たちが次々と姿を現す。

 そして一人のでっぷりとした初老の男性が話しかけてくる。


「あなた方は外から来た人たちですね?」

「そうじゃ」

「この有様は……、もしかして巨大な触手生物を倒したのですか?」

「うむ、このわしがそこら中に散らばる肉片に変えてやったわ」


 ご主人の言葉に、周囲のでっぷりとした男たちがざわめく。

 もしかして、俺たちは不味いことをしたのではないのか。


「そうですか。私はマヨット族の長、ングニと申します」

「ふむ、わしはリュドミラじゃ」

「できれば私たちの村に来て戴きたいのですが……」

「うむ、わしらも『アニキ』に紹介されてな。お主たちを探しておったのじゃ」

「アニキですか! これはこれは……」


 またしても周囲のでっぷりとした男たちが騒ぎ出す。

 そういえばアニキは「良い体をした」と言っていたようだが、彼らは肥満体型に見える。

 もしかしたら彼らはマヨット族などではなく、偽者ではないか……と俺のゴーストが囁く。


「では、私たちの村へと案内します。

 アニキの話を色々と聞かせてください」


 とても友好的ではあるが、それがかえって怪しい。

 油断してはいけない。

 ダリアさんとアビーは、調子が戻ってきたとはいえ、まだまだ本調子とは言えないだろう。

 ご主人は彼らをどう思ってるのか、いまいちわからない。

 俺がしっかりしないと。

 彼らのどんな挙動も見落とすまいと、俺は彼らの様子を探るのであった。



―――



「どうぞお座り下さい」


 マヨット族の長、ングニさんの家に通された俺たち。

 俺たちのような異邦人の来客は珍しく無いのか、村が大騒ぎになったりすることはなかった。


「密林を歩いてこられて、腹がすいている頃合でしょう。

 我々の部族は、来客があるとまずは食事を振舞うことになっていまして。

 お口に合うかはわかりませんが、どうぞお召し上がり下さい」


 でっぷりとしたお姉さんが運んできた料理、それは茶碗に盛られたご飯に、マヨネーズがかけられたものだった。

 それを見たご主人は、ハッキリと嫌そうな顔をする。


「う、うむいただこう……」

「へー、変わった食べ物ね」

「こ、これはちょっと……」


 マヨネーズご飯か……、俺はあまり得意じゃないんだよなー。

 あれ、これ食べたことあるんだっけ? 生前の記憶かな。

 そういえば俺の人生は今の人生だけではなかったのを思い出す。

 生まれる前の俺は、どんな人生を送り、どんなものを食べ、どんな理由で死に至ったのか。

 気にしても仕方ないなと苦笑いしながら、マヨネーズご飯に箸をつける。


「んまいケド、なんだかあのデカソーマくんもどきの白濁粘液を思い出すわね」


 もくもくと咀嚼しながら、ダリアさんが嫌なことを言う。

 ご主人の顔がますます引きつる。


「そうですな、あの生物の白濁とした液体は我々の神聖なるマヨネーズに似ている。

 マヨネーズのまがい物を分泌するあの生物を、我々は悪しき邪神の末裔として忌み嫌っておりました。

 何度も討伐を試みたのですが、あの巨大さと生命力の強さの前に、我々は苦汁を舐めさせられてきたのです」

「マヨット族のみなさんは、マヨネーズが大好きなんですね?」

「もちろんです、我々の部族はその名の通り、マヨネーズと平和を愛する部族ですよ」

「でもォ、マヨネーズばかり食べてると太っちゃうしィ」


 いくら触手生物になったからと言っても、やはり肥満は気になるところだ。


「我々の部族はたしかにぽっちゃりしていますが……、私のお腹を触って御覧なさい」

「えー、それでは失礼して……」


 ングニさんのお腹に触手を突き立てる。

 厚い皮膚の弾力による、心地よい反発力。

 その反発力に合わせて、少しずつ触手を押す力を強めていくと、急に鋼鉄を思わせるかのような腹筋に出遭った。

 俺が腹筋に辿りついたことを確認したングニさんは、腹に力を込め、筋肉のバルクを爆発させる。

 盛り上がる腹筋、さきほどまででっぷりとした腹は、一瞬にして見事なシックスパックを形成する。


「先ほどまでの数々の無礼、お許し下さい」

「ハッハッハ、マヨネーズの素晴らしさがわかっていただければ、それで良いのですよ」


 快活に笑うングニさん。

 彼の笑いに合わせて、腹がぽっちゃり、シックスパック、でっぷり、シックスパックと表情をころころと変える。

 普段はその奥ゆかしさ故、己の存在を隠している筋肉たちが、ふとした瞬間に本性を見せる。

 アニキとはまた違った、筋肉のあり方だ。

 アニキの言っていた「良い体」とはこういう意味だったのか。


「ところで、お主たちは我々のものとは全く違う呪術を操ると聞いたのじゃが……」

「ええ、マヨネーズに宿る精霊の力を借りて、魔を払ったり、未来を視たりするのです」

「ほほう……、実はわしは呪いを受けておってな。

 呪いを解く方法を探して旅をしておるのじゃ」

「それはそれは……。

 そういうことでしたら、マヨット族一番の呪術師を呼びましょう。

 あの巨大生物を倒してくださったお方の願いとあらば、マヨネーズの精霊もいつも以上に頑張ってくれるでしょうな」


 ングニさんは立ち上がり、外にいるマヨット族の人に呪術師さんを呼ぶよう伝えた。

 俺たちの警戒心を察してか、あえてマヨット族独特の言葉ではなく、俺たちにもわかる言葉で指示を出している。


「それでは我らのマヨネーズ料理を堪能しながら、呪術師をお待ち下さい」


 ングニさんが戻ってくると、タイミングを計っていたかのように様々な料理が出される。

 お皿に問答無用でばら撒かれたマヨネーズを見て、俺は胸焼けを覚悟するのであった。



―――



「ほんだらだった へんだらだった どんがらだった ふん♪ ふん♪」


 連れてこられた呪術師さんが、何やら怪しげな呪文を唱え祈っている。

 ングニさんによると、マヨネーズの精霊にご主人の呪いについて問うているとのことだ。

 マヨネーズの精霊は、タマゴ、お酢、油の三要素から構成されており、今はタマゴを呼び起こしているらしい。


「これは期待できそうにないのぅ……」

「いいじゃない、良い観光になったわ」

「観光……」


 小さな声で会話する三人。

 呪術師さんは盛り上がってきているので、どうやら三人の声は届いていないらしい。


 ひたすら続く呪術師さんの熱い祈祷。

 ただでさえ暑い密林の中で、閉め切った部屋の中、汗を振りまく呪術師さん。

 正直外に出たい。


「クァーッ! キマシタワー!」


 突然呪術師さんが目をカァッと見開き、唾を飛ばしながら叫ぶ。


「ほぅ、で、どうなんじゃ?」

「ソデスネ、アナタ、呪イ、トテモ強力。

 まよねーずノ、精霊ジャ、ドシヨウモナイ」

「そうか、世話になったな。さらばじゃ」


 退席しようとするご主人を、慌てて呪術師さんが止める。


「マテ、マッテ。短気ハ損気ダヨ。

 呪イノ正体、知ッテル人、ワカッタヨ。

 まよねーずノ精霊、未来ヲ視ルチカラモアルンダヨ」

「ふむ、その者はどこにいて、何という名をしている?」


 明らかにご主人はさっさと話を終わらせようとしている。

 確かにこの呪術師さんは胡散臭いけど、こんなに露骨な態度を取るなんて。


「ソノママ、船、乗ッテ行ケバ会エルヨ。

 名前ハワカラナイ、ケド、真銀戦車――みすりるちゃりおっつッテ呼バレテルミタイヨ」

「外見の特徴は?」

「スゴク、ぼいんぼいんノ、美人ダヨ」


 なんだと。


「そうか。それではわしらは船の出港時間もあるので、そろそろ……」

「マテ、マッテ。ソコノぐろてすくなキミ」

「俺ですか?」

「ソウソウ、キミキミ。

 色々悩ンデルミタイダケド、キミノゴ主人ノ旅ガ終ワル時、キミノ抱エテイル問題モ、キット解決スルヨ」

「それはどっちの話ですか?」

「サァ?」


 スキュラさんのことか、それとも生殖能力の話か。

 俺が何か問題を抱えていることは言い当てたが、肝心なところを暈された。

 信じていいのかいけないのか、いまいち判断がつかない。

 まあ、当たるも八卦当たらぬも八卦と言うしな。

 いつか解決すると考えていた方が、気持ち的には楽かもしれない。


「ありがとうございます、少し希望が持てました」

「イインダヨ、グリーンダヨ」


 マヨット族の人たちの歓待に礼を言い、俺たちはこの村を後にした。

 ご主人は呪術師さんの占いをあまりあてにしていないようだが、何も情報がないよりはマシ……と俺は考えることにした。

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