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触手な俺が魔女の奴隷  作者: よしむ
第五章 ダリアさんの父親はだーれやー?
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第十四話

「わ、わたしがこの城の主、ドラキュラである。ようこそ我が城へ」


 仰々しい謁見室に通された俺たち。

 その謁見室で待っていたドラキュラさんが、俺たちに自己紹介をした。

 緊張していたのだろうか、少し声が裏返っている。

 ドラキュラさんは、表地が黒で裏地が赤のマントを羽織り、貴族らしい刺繍が施されたシャツを着て、黒いズボンを履いている。

 口ひげを蓄え、面長でわし鼻、そして両目はダリアさんと同じく鮮血のような紅だ。

 正に俺が想像する吸血鬼の格好をした人物がそこにはいた。


「うむ、わしはリュドミラと申す。急な訪問にも関わらず、このような歓待をしてもらってありがたいと思う」

「はじめまして、ソーマと言います。リュドミラ様の使い魔です」

「アビゲイルです」


 俺たちが自己紹介を済ませる。

 ドラキュラさんは、俺たち一人一人をしっかりと見つめ、自己紹介を聞いていた。

 そして、ドラキュラさんはダリアさんを見つめる。

 ダリアさんは目を逸らしたままだ。


「ダリア」

「……」


 ドラキュラさんの呼びかけにも返事をしない。

 もじもじしてるダリアちゃんカワイイ!と個人的には思うのだが、このままではいけない。

 事情をそこそこ知っている俺が助け舟を出すしかない。


「ドラキュラさん、ダリアさんも俺たちがいては言いたいことを言いづらいんだと思います。

 なので、先に俺たちの用件を済ませてしまってもよろしいでしょうか?

 話が終わり次第、俺たちは下がりますので」

「え、ちょ、ちょっと」


 ダリアさんが抗議の声をあげるが、心を鬼にして話を進める。

 俺より圧倒的に年上のはずなのに、ダリアさんは自分から仲直りもできないんだからな。


「そうか、それなら仕方あるまい。

 君たちの用事というのは――、リュドミラ嬢にかかっているソレでいいのかな?」

「うむ、実は歳をとらなくなるという呪いをかけられていてな。

 治す――、いや、解呪する方法を探しているのじゃ」

「ふむ?」


 ドラキュラさんが少し考え込む。

 口元に手をやり、口髭を弄り始めた。


「まず始めに言っておきたいのだが、わたしにはその呪いを解呪することはできない。

 その呪いをかけた者は、常識はずれに強い力を持った者だ。

 わたしの知る限り、その呪いを解ける者などこの世界にはいない」

「そうか……」

「その呪いをかけた張本人か――、或いは外の世界ならば」

「外の世界ってなんですか?」


 わくわくする言葉が出て来たので、つい口を挟んでしまった。


「うむ、最近“大航海”ブームだと聞いた。

 外とは即ち、外海を越えた先にあると言う新しい大陸や島々だ。

 そこになら、わたしの知らない強力な術師がいるかもしれん」

「おお、そんな楽しそうなブームが起きていたんですか!」


 冒険とか航海って男心をくすぐるよなー、憧れる。

 こんな楽しそうなブームが起きているというのに、ご主人はうろうろとこの大陸を旅していたのか。


「えっと、最近というほど最近でも……」

「うむ、何十年も前からじゃな」

「えっ、本当に!?」


 アビーとご主人の注釈に、驚愕の声を出したのは俺じゃない。

 ドラキュラさんだ。

 ドラキュラさんは少し頬を赤らめている。


「も、もちろんそうだな。

 『ブームだった』と言おうとしていたんだ。

 つい最近って言っちゃったけど、言い間違えたのだ」


 汗をダラダラと掻き、必死に言い訳するドラキュラさん。

 見ていてかわいそうになってくる。


「ま、何にせよありがたいことじゃ。今後の方針は決まった」

「そうか、わたしの助言が役に立ちそうなら良かった。

 それともう一つ――」

「何じゃ?」

「君は呪いをかけられた時のことを覚えているのか?」

「いや、覚えておらぬ」

「ふむ、やはりそうか。わたしの見立てが間違っていなければ、君にかけられた呪いは、君が考えているようなモノではない」

「どういうことじゃ?」

「わたしの口から言えるのはここまでだ。

 これ以上は、わたしが言って良いものなのか判断がつかぬ」


 ご主人の疑問の声にドラキュラさんは答えなかった。

 しかし、“わたしが言って良いものなのか判断がつかぬ”というドラキュラさんの言い方は、随分と意味を含んでいるように思える。

 

「もし急いでいないのなら、今晩は泊まっていって欲しい。

 君たちの話も色々と聞かせて欲しいしね」

「構わぬ、世話になろう」


 ドラキュラさんが手を叩くと、影から影が出て来た。

 どういうことなのかはわからないが、とにかく影から影が出て来たのだ。


「御用で?」

「うむ、この方たちを客室に案内してくれ。

 皆さんは夕食ができるまで、部屋でお寛ぎ下さい」

「御意」


 影が喋った!と驚く暇もなく、影さんに先導されて部屋を出る。

 影さんは、人影のように見えるが移動する際に足を動かさない。

 まるで地面を滑っているようだ。


「ダリアさんは残って下さい」


 さりげなく俺たちと一緒に退出しようとするダリアさんを止める。


「うぅ、ソーマくん……」

「大丈夫ですよ。話をしてあげてください。

 親子なんですから、きっと許せるはずです」


 俺が親と呼べる存在はご主人だが、やっぱりご主人はご主人で親ではない。

 そんな親を持たない俺が言うのはおかしいかもしれないが、それでも親子とはそういうものだと思う。


「う~……」

「ほらっ!」


 ダリアさんの背中を押し、扉を閉める。

 そして俺は、ご主人たちと共に部屋まで案内された。


「ここの部屋をご自由にお使い下さい」


 そう言うと、影さんは影に吸い込まれ消えていった。


「それじゃあ、わしはこの部屋を使わせてもらおう」

「じゃー、俺はあっちで」

「駄目じゃ、ソーマはわしと同じ部屋じゃ」

「え? 何でですか?」

「何でもじゃ!」

「じゃあ、私はこっちの部屋にします」


 てっきりご主人とアビーの2人が俺を取り合うという展開になると思ったが、アビーはあっさりと部屋の中に入っていった。

 俺のために争わないで!って言いたかったのに。


 アビーの態度に少しだけ寂しさを感じながら、俺はご主人と同じ部屋に入った。

 掃除が行き届いており、清潔な部屋だ。

 調度品は古めかしい物が多かったが、物自体は良い物のように思える。


「ご主人、どうかしたんですか?

 いつもなら『ソーマは別の部屋じゃ!』とかって言うはずなのに」


 そう思ってご主人とは違う部屋を選んだのだが。


「だって、なんだかダリアと仲良くなって……。

 わしが知らない間に、ダリアと何か話したのじゃろ!」

「……巨人さんのパンティーを燃やした日の夜に少し話をしました」

「ソーマはわしのソーマなんじゃぞ!

 それをっ、わしだって火傷したソーマを頑張って治癒したっていうのに!

 疲れて寝てるわしに隠れてダリアと内緒話なんて!」


 ご主人が声を震わせながら、俺をぺちぺちと叩く。


 こ、これは……。

 生まれて間もない人生経験の浅い俺でもわかる……。

 ご主人は嫉妬している!

 嫉妬は愛から生まれる感情。

 即ち……。


 OKということじゃないのか!?


「ご主人、俺はご主人のものですから……」

「ほんとか、ほんとにそうか?」 

「当たり前じゃないですか」


 優しく囁きながら触手をご主人の体に――。


「そうか、それなら良い」


 ご主人はサッパリした顔で俺から離れた。

 あ、あれ?


「おお、ふかふかっぽいベッドじゃぞ!

 おっほほーい! 飛び込むのじゃー!」

 

 無邪気なご主人を、ムラムラした俺は呆然としながら眺める。

 この性欲はどこへぶつければ良いのだろう――。



―――



 神は甘すぎる。

 リュドミラさんは警戒しているようだが、まだ甘い。

 私が危険を排除しなくては。


 所持している銃全てに銀の弾丸が装填されていることを確認する。

 

 あの毒婦はドラキュラと手を組んで、私たちを罠にかけようとしている可能性が高い。

 だが、神に進言したところで信じてはもらえないだろう。

 あの毒婦は、なぜか神から信頼を得ているようだ。

 

 部屋をこっそりと抜け出し、先ほどの謁見室に向かう。


 あの毒婦とドラキュラが2人きりの今なら、尻尾を出すかもしれない。

 動かぬ証拠を掴み、神とリュドミラさんを説得する必要がある。

 このような危険なところに一晩泊まるなど、正気の沙汰ではない。


 謁見室のドアを少しだけ開ける。


 体から漏れ出る魔力を最小限に絞る。

 だが周囲の音や臭い、魔力には気を配らなくてはならない。

 証拠を掴んでも、誰かに見つかっては意味がない。


「すまなかったな、ダリア……。

 わたしは、わたし一人で吸血鬼になるのが怖かったのだ……。

 たった一人で永遠を生きることが……、だから、お前の気持ちも聞かずに――」

「それはどうでもいいの。

 アタシが吸血鬼になってしまったこと自体は。

 アタシは、お母様を殺したお父様を認められなかったの……」


 何の話をしているのだ?

 どうやら姦計の話ではなさそうだが……。


「そうか……。

 あれはわたしが迂闊だった。

 母さんの性格を考えれば、ああなることは充分考えられたからな」

「あの日は、アタシの誕生日だったのに――」

「ああ、本当にすまなかった」


 涙を流し、抱き合う2人を見て、私は自分の考えを恥じた。

 あのような涙を流せる者が、神を罠にかけるような卑劣なマネをするはずがない。


「でも、ようやくお父様を許せそうって思ったの。

 あの時何もできなかった自分のことも」

「ダリア、お前は悪くない。

 わたしが悪かったんだ」


 私は見てはいけないものを見てしまった。

 他人を疑う、卑しい心根故に。


「ううん、もういいわ。

 でもお父様――」

「なんだ?」

「もう少し口臭には気を使った方がいいかもね」

「そ、そうか? それは悪かった」


 ダリアさんは笑顔になり、ドラキュラさんは苦笑いする。


「それでダリア、お前はあの人たちと共に行ってしまうのか?」

「ええ、そうします」

「……そうか。

 これを言っても良いのかはわからぬが、リュドミラ嬢は恐らく魔王様だ」

「どういうことですか?」

「わたしにもわからん。

 髪の色や瞳の色を変えているが、内包する魔力まではごまかせん。

 わかるのは魔王様が記憶を無くしている――、もしくは改ざんされているということだけだ。

 あの呪いは年齢をどうにかするものではなく、記憶に干渉するものだろう」

「……お父様は、あの呪いをどうするべきだと思いますか?」

「判断しかねるな。

 だが、魔王様ならいずれ呪いを解く方法を見つけるだろう」

「そうですか、ありがとうございます。

 それでは、アタシもそろそろ部屋に向かいます。

 みんなに――特にソーマくんにお父様と仲直りできたことを報告しないと」

「そうか、ではまた夕食のときに」

「ええ」


 私はそっとドアから離れた。

 そしてそのままダリアさんが出てくるのを待つ。


「あら?」

「申し訳ありません、貴女を疑い、先ほどの話を盗み聞きしました」


 謁見室から出て来たダリアさんに、私は深々と頭を下げた。


「別に構わないわ。ただ――」

「わかっています。魔王の件は話しません」

「それもなんだけど、アタシが泣いてたことも黙っててくれる?

 恥ずかしいから」

「もちろんです。ここで見たこと、聞いたことは全て黙っていると誓います」

「何に誓うの?」

「もちろん我が神に――」

「じゃあソーマくんに聞かれたら話しちゃうの?」

「あっ」


 うろたえる私を見て楽しそうに笑うダリアさん。

 こんな風に笑うダリアさんを、私は初めて見たんじゃないだろうか――。 

 


―――



 ご主人とベッドの上を飛び跳ねて遊んでいると、ノックが聞こえてきた。

 ハシャギ過ぎて怒られるのかと一瞬焦ったが、入ってきたのはダリアさんとアビーだった。


「何やってるのよ……」


 ベッドの上に突っ立っているご主人と俺を見て、呆れるダリアさん。


「い、いや……、これはじゃな……」

「あ、あまりにもふかふかなベッドだったので、つい……」


 ゆっくりと床に降りる俺たちを見るダリアさんの表情は、とても晴れやかだ。

 きっとうまく仲直りできたのだろう。


「ソーマくん、ありがとうね」

「いいんですよダリアさん。お礼はパンティーでいいんです」

「しょうがないわね……」

「ダリアさんの脱ぎたてのパンティーですよ。それ以外は受付ません」

「ちっ」


 やはりか。

 その辺で拾ったパンティーか、もしくは安く買った新品のパンティーを渡そうという算段だったのだろう。

 この俺はそう簡単に騙されない。


「それで、りゅどみん。

 これからのことだけど――」

「うむ。まずは港町に行って、外洋に出る船を探す。

 そしていざ行かん! 新大陸へ!」

「おお、カッコいいですよご主人!」


 明後日の方向を指差し、ポーズを決めるご主人。

 俺たちの冒険はここから始まりそう!


「ダリアさんも一緒に来てくれるんですよね?」


 俺は一つだけ懸念していたことがあった。

 それはドラキュラさんと仲直りしたダリアさんが、このお城に残ってしまうのではないかということだ。


「もちろん! こんなに面白そうなことって他にないでしょ?」

「良かった! これでダリアさんのパンティーを狙える!」


 ダリアさんが一緒に来てくれると言ってくれて、素直に嬉しかった。

 俺はまだ生まれたばかりだが、ご主人とダリアさんとアビーはずっと一緒だったのだ。

 離れたくないと思うのは自然なことだろう。


 盛り上がる俺たちを優しく見守るアビー。

 何というか、いつもはピリピリとした雰囲気が少なからずあったのだが、今のアビーはとても朗らかだ。


 そういえばこの2人は一緒に部屋に入ってきた。

 謁見室に残ったダリアさんと、部屋にいたはずのアビー。

 この2人が一緒にいるのはどうしてだろうか。

 何かあったのかもしれない。

 でも2人の顔を見る限り、悪いことではないのだろう。

 ならば俺が詮索する必要はないか。

 今はともかく、ダリアさんの仲直りと、みんながこれからも一緒にいられることを喜ぼう――。

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