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触手な俺が魔女の奴隷  作者: よしむ
第五章 ダリアさんの父親はだーれやー?
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第十三話

 自分の体に寄りかかる2つの体重。

 小さな体と大きな胸の体。

 ご主人とアビーだ。

 2人とも寝息を立てている。


「目、覚めたのね」


 焚き火を挟んで向こう側に座るダリアさんが声をかけてきた。


「はい、すみませんでした。

 パンティーの魅力に抗えなくて」

「それでこそソーマくんって感じだけどね」

「……」

「……」


 周囲は暗く、虫の鳴き声だけが響いていた。

 焚き火の炎のちらつきに、吸い込まれてしまうような錯覚を覚える。


「ダリアさん」

「ん、なに?」

「眠れないんですか?」


 野宿の際はご主人が結界を張るはずだ。見張りはいらないはず。

 ダリアさんは吸血鬼だが、旅館では夜寝ていた。

 なぜダリアさんが起きているのか不思議だった。

 

 そして何よりも、ダリアさんの目が何かを憂えているように見えた。


「ん、そうね。

 昔のことをちょっと思い出しちゃって」

「昔ですか」

「そっ。気の遠くなるくらい昔」

「……」

「……」


 聞いてもいいのだろうか。

 ダリアさんはじっと焚き火を覗き込んでいる。

 その表情から俺が読み取れることは少ない。


「ダリアさんって、歳はおいくつなんですか?」

「いくつに見える?」

「10代の……、後半ですかね。少なくとも外見は」

「じゃあ中身は?」

「わかりません」

「……」

「……」


 いつも余裕のある笑みを浮かべていると思えば、巨人さんのときは先走ったり。

 スカートをたくし上げて挑発したかと思えば、クマさんぱんつで恥ずかしがったり。


 俺はダリアさんのことがよくわかっていない。

 それも当然だ。

 まだ出会って間もないんだから。


「ダリアさんの“心当たり”について聞いてもいいですか?」


 はじめてダリアさんと出会ったときに言っていた、ご主人の呪いに関する“心当たり”。

 俺はまだ、ダリアさんから具体的な話を聞いていない。

 たしか“人”とは言っていたはずが、それ以上の話を聞いていないのだ。

 何となくだが、ダリアさんはその話題を避けていたように思える。


「アタシのお父様よ」

「ダリアさんの?」

「そうよ」


 あっさり聞けてしまった。

 昔のことと“心当たりの人”は関係があるのかもしれないと思ったが違うのだろうか。


「あってるわよ」


 ダリアさんの言葉に不意を突かれた。

 俺の心臓が大きく鼓動する。


「ダリアさん心臓に悪いです。

 じゃあ、単刀直入に聞きますけど、お父さんのことを思い出して眠れなかったんですか?」

「そうよ」

「さっき遠い昔って言ってましたけど、ずっと会ってないんですか?」

「そうね。ずっと会っていないわ」

「ずっと会っていなかったのは理由があるんですか?」


 ダリアさんに俺の考えが読まれてしまうくらいなら、思ったことを口に出してしまおう。

 その方がダリアさんもきっと楽だ。


「……あるけどひみつ」

「そうですか。

 じゃあ、何でずっと会っていなかったお父さんに会いに行く気になったんですか?」

「ソーマくんのご主人様を見てね。

 昔、よく似た人がいたような気がして。

 それでお父様のことを思い出したのよ。

 ずっと考えないようにしていたお父様のことを思い出して、そろそろ許しても良いのかなって思ったの」


 ダリアさんがご主人の方に視線を移す。

 焚き火に照らされたご主人の寝顔が愛らしい。


「そうですか。

 すみません――、いや、ありがとうございました。

 話しにくいことまで話してくれて」

「どういたしまして。

 これでショーツは見せなくてもいいのかしら?」


 俺が巨人のときに言ったことか。

 そういえば今の今まで忘れていた。

 ダリアさんのパンティーのことを忘れているなんて、俺としたことが。


「駄目です。今すぐ見せてください。

 今ならご主人も寝ています。さあ! さあ!! さあ!!!」

「なんじゃソーマ……。

 静かにせんか……、わしは寝ておるのじゃよ」


 ご主人がぺしぺしと俺を叩く。

 寝ぼけてるのかな。


「ほら、怒られちゃった」

「そうですね。

 じゃあまた今度でいいです」

「諦めないのね。

 ……話、聞いてくれてありがとうね」


 ダリアさんが最後に小さな声で呟き、横になる。


 ダリアさんが言っていた“許しても良いのかな”という言葉。

 俺はその言葉が気になっていた。

 ダリアさん親子に何があったのかはわからない。

 ただ、“許しても良いのかな”という言葉と、“母親”のことが一切出なかったこと。

 その二つが俺の思考を廻り、寝かせてくれなかった。



―――



「おらー、いつまで寝とるんじゃ!」


 ご主人の蹴りで俺は目を覚ました。

 照りつける太陽と、蹴りつけるご主人のコラボレーション。

 良い目覚めだ。


「痛いですご主人。ドメスティックバイオレンスです」

「さあ、さっさと飯を食って出発するんじゃ!」

「そういえばダリアさん、俺たちってどこに向かってるんですか?」

「ドラキュラ伯爵のところよ」

「え?」


 ご主人とアビーが同時に声を出す。


「そ、それは不死者たちを集め世界を混沌に陥れようとしているというあのドラキュラさんですか?」

「そ、それは口が臭くて田舎者扱いされるのを極度に恐れる引き篭もりのドラキュラのことかのぅ?」


 2人の口からは全く印象の異なるドラキュラさん像が並べられる。

 総合すると口が臭い引き篭もりの悪の親玉……。


「さぁ~、どうなんでしょうね。

 ずっと会ってないからわからないわ。

 でも、人間だった頃は屈指の魔術の研究者だったわけだし、それから悠久の時を生きている最古の吸血鬼の一人よ。

 呪いとかにも詳しそうでしょ?」

「それはそうじゃが、不死者たちが集まってるところへ行くのは少し……」

「あんでっど差別はんたーい!

 俺だって死んだ魂を引き上げられて転生させられてるんですから、アンデッドみたいなもんですよー!」

「そうよそうよ! あんでっど差別はんたーい!」


 ダリアさんと共に抗議する。

 ダリアさんはアンデッドかもしれないけど、良い尻をしている。

 まだまだ成長する余地がありそうだと思わせる胸も良い。

 血の気が少し足りないが、白い肌は美しい。


 何を言いたいのかと言うと、アンデッドも俺の欲望の対象になり得るのだ。

 しかも時を経ても歳をとらないという特典付き。

 いぇーい! アンデッドいぇーい!

 アンデッドだけに遺影。


「うぷぷ」

「何じゃ急に気持ちの悪い笑いをしおって……」

「いや何でもありません。

 それよりご主人、どうせ行くあてもないんですから、ダリアさんについていきましょうよ」


 昨晩の話を聞いてしまった以上、俺はダリアさんとお父さんを再会させてあげたい。

 親子がいつまでも疎遠だなんて悲しい。


「そもそも行かないとは行っておらんじゃろう。

 ちょっと渋っただけじゃ」

「私は神についていくだけですからね。

 もしアンデッドが襲い掛かってきたら、銀の弾丸を試す良い機会になるだけですし」

「そうと決まったら、ソーマくん。

 早くご飯食べちゃって」

「あ、俺のご飯待ちだったんですね……」


 鍋で煮られているおかゆのようなものを俺は急いで食べ、出発の準備をした。



―――



「闇の魔力が濃くなってきたようじゃ」


 昼なのにも関わらず、あたりは暗くなってきている。

 生えている木々は葉がなく、地面には雑草が生えていない。

 道は石畳が敷かれているし、民家らしきものも何軒か見える。

 だが、生気を感じさせない風景は、俺を少し不安にさせた。


「生き物の気配が少ないですね」


 アビーが辺りを見回し、呟く。


「アンデッドが集まっておるからのぅ。

 植物が闇にあてられて枯れ、虫が去り、鳥が飢えたのじゃろうな」

「ドラキュラさんの家も近いんですかね?」

「実はアタシも大体の場所しか知らないのよね~。

 行ったことないから」

「そういうときは近くの人に聞いてみるのが良いです。

 あの家で聞いてみましょう」


 俺は近くの家のドアに近づき、ノックを……。

 ぺちぺち。

 ぺちぺち。


「ご、ご主人! 大変です! 俺、ノックできません!」

「触手には骨がないからのぅ……。たのもー」


 俺の代わりにご主人がノックをして、住民を呼ぶ。


「全能の神にもできないことがあるんですね。

 自らの身を以て完全ではなくても良いと信者たちに示されるお姿に感動しました」

「よく俺の心遣いを理解しましたね、アビー。

 褒美にそのお乳を搾ってさしあげましょう」

「ああっ、神よ……」

「やめんか」

「はーい、なんデスかね」


 ドアが開き、中から所々皮膚が爛れている方が顔を出した。


「道を尋ねたいのじゃが」

「どちらへ?」

「ドラキュラさんの所に行きたいのじゃ」

「そうデスか。それでしたらそんなに遠くないデスし、案内しますデスよ」

「おお、かたじけないの」


 見た目はあまり良くないが、なかなか親切な人だ。

 俺たちはこの親切な人に連れられて、ドラキュラさんの家に向かうことになった。


「それにしても話ができるゾンビとは珍しいのぅ」

「そうデスね。理性が残ってたおかげで妻と子供を喰わないで済んだんデスよ」


 さらっととんでもないことを話すゾンビさん。

 ご主人も顔が引きつっている。


「そ、それは中々大変だったんじゃな……」

「ここに辿り着くまでは大変だったんデスがね。

 ドラキュラ様のおかげで、安心して暮らせるようになったんデスよ」

「ほほう」

「外では色々と言われてるみたいデスけどね」


 先導するゾンビさんの背中に哀愁が漂う。

 ご主人、アビー、ゾンビさんの言葉をしっかりと胸に刻みつけるんだぞ。


「ところで――」


 ゾンビさんが振り返り、ダリアさんを見る。


「そちらのお嬢さん。貴女はもしかして――」

「そうよ」

「そうデスか。きっとドラキュラ様もお喜びになるでしょう」


 ご主人とアビーは不思議そうな顔をしている。

 今の会話、俺だけが理解している。

 なんという優越感!


「見えてきましたよ」


 ゾンビさんが遠くに見えるお城を指差す。

 家じゃなくてお城じゃん!

 しかも大層ご立派だよ!


「思ったより小さいのぅ。城というからにはもっと大きいものかと思ったのに……」

「ご、ご主人、随分立派なお城ですよ?

 ご主人のイメージするお城ってどんな規模なんですか!?」


 本気でガッカリしているようなご主人。

 一体どんなお城と比べれば、あのお城でガッカリできるんだ。

 力攻めで落とそうとしたら、延々と死体を積み重ねることになりそうなお城なのに。


「西の方――、元々人間の国家があった辺りにはこれほどの規模の城はほとんどありません。

 アンデッドは肉体的な疲労とは縁のない種が多いそうですから、これほどの城を建てる労働力を集めることができたのかもしれませんね」

「そうデスな。これより大きな城となると、それこそ魔王様が住んでらっしゃった魔王城くらいのものでしょう」

「へー、いつか行ってみたいですね」


 アビーとゾンビさんのありがたい解説に相槌を打つ。

 そうこうしている内に、ドラキュラさんのお城の門まで辿りついた。


「どうもどうも、ドラキュラ様のお客様をお連れしたんデスがね」

「そうデスか、ドラキュラ様にはここに来る旨は伝えてますか?」


 ゾンビさんが守衛らしきゾンビさんに話しかける。

 ゾンビはみんな同じような話し方をするのだろうか。


「伝えてないわ。

 『ダリアが来た』と伝えてくれればわかると思うんだけど」

「貴女様がダリア様で? これはこれは……。

 少しお待ちください。ドラキュラ様に伝えて来ますので」


 守衛さんがお城に入っていく。

 他にも何人かの武装した人影が門や外壁に見える。

 偉い人は色々守るものが多そうで大変そうだ。


「さて、わたくしはこれで……」

「どうもありがとうございました」


 案内してくれたゾンビさんを見送り、俺たちは守衛さんが戻ってくるのを待った。


「ダリアよ、お主はドラキュラの何なんじゃ?

 先ほどからアンデッドたちの態度がおかしいぞ」

「娘よ」

「そうじゃったのか、それで……」


 俺とダリアさんだけの秘密があっさりとバラされてしまう。

 まあ、ドラキュラさんと面会すればバレていたことだろうけども。


 納得しているご主人の横で、アビーは険しい表情をしている。


「アビー、どうかしたんですか?」

「いえ、お気になさらないで下さい」


 そう言いながら表情を緩めるアビー。

 だが、明らかにアビーは何かを気にしているようだった。

 アビーは何を気にしているのだろうか。


「皆様、ドラキュラ様から面会の許可が出ました。

 わたくしに着いてきてください」


 俺の思考を遮るように守衛さんがお城から出てきて、俺たちをお城の中へ通した。

 ドラキュラさんとダリアさんの再会が、感動的なものであると良いのだが――。

この作品の「ドラキュラ」は個人名です。

竜公だのドラゴンだのという面倒臭い意味はないと思ってください。

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