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触手な俺が魔女の奴隷  作者: よしむ
第四章 ジャイアントはシャイなんだ
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第十二話

 宙に浮いたご主人を見つめ、呆ける巨人。


「全く、面倒くさいことこの上なかったぞ」


 ご主人がため息混じりに呟く。

 そんなご主人の右足が光り輝いていた。

 その光は神々しく――もないな、どこか間抜けな印象を与える。

 間抜けにぺかーと光った右足を引き、ご主人は叫んだ。


「正気に戻れキィーーーッッック!!」


 ご主人の渾身の回し蹴りが、巨人の側頭部にヒットする。

 渾身と言ってもご主人の体格だ。

 放たれた回し蹴りを食らっても、巨人は微動だにしない。


「ご主人!」

「安心せい、わしが時間をかけて編んだ魔術じゃ」


 ご主人は自信満々に胸を張っているが、俺が言いたいのはそういうことじゃない。

 一間と置かずに業炎を呼び出すご主人。

 そのご主人が時間をかけて準備した魔術が、何と言うか、凄そうに見えない。


「わ、わたしは……」


 ご主人に蹴られた巨人はキョロキョロと辺りを見回し、呟いた。


「わたしは何ということを……」

「どうじゃ! 正気に戻ったであろう!」


 目に涙を浮かべはじめる巨人と、自らの手柄を自慢するご主人。

 俺も人のことはあまり言えないが、ご主人はもう少し空気を読むべきだと思う。


 ダリアさんとアビーがご主人の元へ駆け寄る。

 俺もご主人の所へと向かった。


「さて、それじゃあ事情を教えてもらえるかしら?

 巨人が理由もなく暴れるなんてことはないわよね?」


 ダリアさんが珍しく真面目な声色で話しかける。

 その間、ご主人とアビーが巨人の傷に治癒術を施し始めた。


「そ、その……。わ、わたしの……」


 巨人が両手で顔を覆う。

 小麦色の肌が、若干赤く染まってきている。


「わ、わたしの下着が……、盗まれたんですっ!」

「それはブラジャーのことですか?

 それともパンティーのことでしょうか?」


 俺は巨人のお姉さんを混乱させないように、できるだけ良い声で問いかけた。

 これは今聞かなければならない、とても重要なことだ。

 ブラジャーかパンティーかで、今後の俺の対応が変わるのは間違いない。


「ぱ、ぱんつの方です……」

「ということは、今、パンティーを履いてないということですか!?」

「い、いえ……、今は別のぱんつを履いています。

 でも、無くしたって事は絶対にありません!

 誰かが盗んだに決まっているんです! そして今頃いやらしいことに……」


 ちっ、今は履いているのか……。

 履いていなかったら、凄いモノが見られたかもしれないというのに。


 ふとダリアさんの方から殺気を感じた。

 恐らくこれ以上余計なことを言うと、吸血鬼の恐ろしさを知ることになりそうだ。

 少し黙っておこう。

 そして折角だから、巨人の太ももでも見ていよう。


「落ち着いて。

 貴女の言いたいことはわかったケド、下着がどこにあるかわからないのでしょう?

 このままだと、ただ村を破壊した巨人っていうことになってしまうわ」

「……例え盗まれた下着が見つかっても、これだけの被害を出してしまっては言い訳も苦しいでしょう」


 治癒術を施しているアビーがゆっくりと口を開く。


「でも、人間が下着を盗んだことが発端でしょう?」

「人間の仕業とは限りませんし、盗まれたと決まったわけではありませんよ。

 ですが私も巨人さんに同情する気持ちはあります。

 神以外の誰かに下着を触られるなど、言語道断です。

 なので――」


 アビーは悪戯っぽくウインクする。


「ごまかしてしまいましょう」



―――



「うおおおおおおおおお!!

 巨人はどこだァァァァァァアアア!!」


 馬の蹄を轟かせ、騎士たちが叫びながらやってきた。

 騎士たちからはどう考えても巨人の姿が見えているはずなのだが。


「お前か!!

 暴れている巨人というのはお前のことなのか!!」


 巨人のすぐ近くまでやってきた騎士の隊長っぽい豚の顔のおっさんが問う。

 確かオークという種族だったはずだ。


「正確には暴れていた巨人じゃな。

 わしの魔術で正気に戻したのじゃ」

「むっ、そうか。

 見たところ一般人なのに、迷惑をかけたな」

「いやいや、なかなか厄介な呪いじゃったよ。

 わしのスーパーエキセントリックな魔術でなければ正気に戻すことは不可能じゃったろうなァ。

 本当に厄介な呪いじゃった。解呪できる者などそうはおらんだろうなァ」


 ご主人がやたらと自慢げだ。。

 演技ではなく素でやっているように見えるのは気のせいだろうか。


「ん~~? 呪いだとぉ~~?

 貴様のようなガキんちょが何を言っているんだ?」

「ほほう、いい度胸じゃな」


 ご主人が威圧するように低い声を出し――、体から何かを放出する。

 魔術を行使しているときと雰囲気が似ているが、俺には何が起きてるのかよくわからない。


「……すみませんでした」

「わかればよろしい。

 それで話の続きだがな。

 この巨人は呪いを受けて暴れておったんじゃ。

 しかも巨人に呪いをかけた者は、巨人の下着まで盗んでいった極悪人なんじゃ!」

「なんだと!? それは真か!」


 騎士隊長さんが大声を張り上げ、巨人を見上げる。

 巨人さんは慌ててコクッコクッと頷く。


「ちなみに下着は上か? それとも下か?」

「どっちでもいいじゃろ」

「まァそうだな。

 お前たちの言い分はわかったが、証拠がないだろう。

 お前たちの話を上に挙げても、恐らくは信じてもらえまい。

 そうなると、最悪極刑の可能性もある」

 

 俺たちのような流れ者が証言しても、信憑性はないということか。

 この村に被害を出したのは事実だし、そもそも呪いの話など作り話だからな。

 巨人のお姉さんを助けるのは難しいか。


「私が事実だと証言します」


 アビーが騎士隊長さんにゆっくりと近づく。

 そしてコートから一丁の拳銃を取り出し、グリップの部分を見せる。


「……失礼ですが、貴女様のお名前は?」

「アビゲイルです」

「わかりました。

 おい! お前たちは避難している住人を呼び戻せ!

 ここはもう安全だ!」

「ハッ!!」


 騎士たちは返事をすると、馬を走らせて去っていった。


 それにしても今のやり取りは何だ。

 もしかしなくてもアビーって凄い人だったりするのか。

 ただの勘違い系巨乳お姉さんじゃないのか。


「ん、ん~~。

 これは独り言なんだがなァ」


 騎士が全員去ったことを確認し、騎士隊長がなんだか面倒くさい感じの一人芝居を始める。


「この間、近くに住む豪商に招待されてなァ。

 山吹色のお菓子をいただいたんだが」

「スイートポテトですね!」


 アビー、違うぞ。


「うむうむ、実になめらかで美味だった。

 甘いものが苦手なこのオレでもつい食べ過ぎてしまってなァ」


 えっ、合ってたの!?

 

「そこで、その豪商が妙なことを言っておってな。

 『男なら一度は夢見たことがあるだろう? パンティーに包まって寝たいと。ワシは遂にその夢を叶える方法を思いついた! 羨ましかろう? 羨ましかろう?』とかなんとか」


 な、なんだと!?

 確かに俺も夢見たことはあったが、実現できない儚い夢だと思っていた。

 だが、今なら夢で終わらない。

 この巨人のお姉さんのパンティーなら、人間が包まることは可能だ。

 クソッ! うらやまけしからん!


「そ、それってわたしの……」

「待って、落ち着いて」


 わなわなと震えだす巨人のお姉さんをダリアさんが必死に宥める。

 ここで巨人のお姉さんが我を忘れては大変なことになってしまう。


「燃やすぞ」

「そうですね」

「ご主人! アビー!

 何さらっと言ってるんですか!?

 せめて隊長さんがいなくなってから言って下さい!」

「オレは何も聞いてないぞ。

 何せ頭の中はスイートポテトのことで一杯だったからな」


 遠い目で語る騎士隊長さん。

 恐らく今、彼は自分に酔っているのだろう。

 自分の立場と職務のことはサッパリ忘れて。


「そういうわけだから、安心してネ」

「は、はい……。

 お願いします、わたしのぱんつで寝ている人がいるなんて、考えるだけでも泣きそうです」


 涙声の巨人のお姉さん。

 こうして見ると、このお姉さんは凄くイジめたくなる。

 何とかして一回くらいこのお姉さんのパンティーに包まっておきたいものだが。


「任せておくのじゃ。

 わしが跡形もなく燃やし尽くしてやる」

「そうですね。

 ついでにその豪商さんの家も爆破しておきましょうか」

「いいわねソレ。

 醒めない悪夢にご招待してあげましょう」


 この3人の前でそんなことはできないか。

 折角俺の108つある夢が叶いそうなのに、これでは……。


「それじゃ、隊長さん。

 巨人さんのことヨロシクねっ!」

「任せておけ。呪われてたということだし、人的被害もない。

 無罪放免ってわけにはいかないだろうが、アビゲイル様のお名前があれば奉仕活動くらいで済むだろう。

 巨人のねーちゃんを収容できるような牢屋もないしな。それと……」


 騎士隊長さんが紙にさらさらと何かを書き込んでいく。

 そしてその紙をアビーに差し出す。


「これをどうぞ。大きな街でしか換金できませんが、今は手持ちがありませんので」

「ありがとうございます」

「豪商の屋敷は警備が厳重です。

 貴女様なら問題ないでしょうが、どうかお気をつけて」

「任せてください」


 アビーは大きな胸を叩き、騎士隊長さんへ返事をする。


「それじゃ、巨人さんももう暴れちゃ駄目よ」

「はい……、皆さん、わたしのぱんつのことよろしくお願いします……」


 巨人のお姉さんの深々としたお辞儀を背に、俺たちは豪商の屋敷へと向かった。



―――



 そしてその日の夜。

 騎士隊長さんが教えてくれた豪商の屋敷まで来た俺たち。


「そろそろ良い時間じゃな」

「ですがご主人、やはりここはレオタードに身を包むべきです」

「ソーマはさっきから何を言っておるのじゃ」

「ですから何度も言ってるじゃないですか。

 怪盗はレオタードを着ているものなんですって!」


 3人に何度も力説するがわかってくれない。

 アビーですら「“れおたーど”って何ですか?」と訝しげに尋ねてきた。


「そもそもアタシたち怪盗じゃないしね。

 これから行うのは破壊工作よ!」

「うむ、その通りじゃ。

 顔を隠すくらいで良かろう。

 ソーマよ、作戦を確認するぞ」

「はい……」


 俺の言い分はやはり聞き入れて貰えない。

 破壊工作をするスパイでもレオタードは着るものなのに。

 なぜだろうか、俺の中では常識と言っても過言ではないのに、3人には全く通じない。


「まず、館は塀で囲われておる」

「へぇ」

「……そして塀の中には大量の犬がおる。

 殺すのは簡単じゃが、犬に罪はない。

 そこでソーマが触手をバルコニーまで伸ばす。

 その触手を伝って豪商の寝室らしき2階に一気に進入するのじゃ」

「あの、ご主人って空飛べますよね?」

「もちろん、そんなことはお茶の子さいさいじゃ!」

「じゃあご主人だけで行って、火をつけて帰ってくれば……」


 ご主人が悲しそうな目でこちらを見る。


「そうじゃが、それじゃあつまらないじゃないか……」

「ソーマくんつめたーい」

「冗談ですよぅ。

 それじゃあ行きますよ?」


 俺もまだパンティーに包まるという夢を捨てたわけじゃないからな。

 部屋に乗り込むことさえできれば可能性は0じゃない。

 ククク……、まさかパンティーを被るという手順を踏まずにパンティーに包まることになろうとはな。


 俺は触手を伸ばし、2階のバルコニーを掴んだ。

 そしてその上をご主人、ダリアさん、アビーが渡っていく。

 全員が渡りきったあと、俺も触手で体を引き寄せて、バルコニーに着地する。

 庭にいる犬たちは大騒ぎしている。

 侵入者がいることは既にバレているだろう。


「よし、このまま窓から押し入るのじゃ!」


 ご主人の合図に合わせ、ダリアさんが黒い槍を窓に向かって投擲する。

 耳をつんざくような音を鳴らし砕けるガラス。

 

 ご主人たちには忍び込むという考えがないらしい。

 これでは夜を選んだ意味がないような……。


「おお、この部屋で正解じゃぞ!」


 先に窓から部屋に侵入したご主人が叫ぶ。

 その声を聞いた俺は、俺の出せる全速力を以て部屋に侵入する。


「な、なんだ貴様らは!」

「クックック、名乗る程の者ではない!」

「アタシたちは一人の女性の泣き声を聞いた者よ!」

「彼女の嘆き、苦しみを解き放つときが来ました!」


 天蓋のついたベッド、そこに敷かれている巨大なシルク。

 アレは間違いない。

 パンティーだ。

 健康的に焼けた巨人さんによく似合いそうな、青い色をしたパンティー。

 空の青、海の青。

 男の2大ロマンを挟んだその先にあったのは、決して叶うはずのなかった夢であった。


 俺は速度を落とさず、そのままパンティーに潜り込む。

 

 こ、これが……!

 パンティーのシルクに全身を包まれるということ……!

 トゥルトゥルの肌触り、そしてほのかに漂う香り。

 これは……、これはァァァ!!


「死にたくなかったらこの部屋から出ていくのじゃ!」

「今からここは、地獄になるからね」

「さあ、神の裁定の前に、慈悲を請いなさい!」

「くっ、貴様らこんなことをしてタダで済むと思うなよ!」


 トゥルットゥル~、トゥルトゥトゥッル~。


「ふふん、業火の中で己が性癖を悔やむが良い」


 トゥルトゥルル~……、ん? あちっ、あちちちっ。


「ご、ご主人! 熱いです! 死んじゃいます! 助けてっ!」

「ソーマ? そんなところで何をしておるんじゃ!」

「そーまくん……」

「か、かみさまっ!?」


 俺が気づいたときには部屋は火の海だった。

 パンティーの肌触りがあまりにも心地よかったため気づかなかった。


 嗚呼……、焼かれていく俺の体……。

 ご主人が泣きそうな顔をして、こちらに飛び込んでくる。

 ダリアさんは少し呆れているようだ。

 アビーは俺を助けようと必死だな……。


 煙を吸い込み、火に炙られている俺……。


 みんなに引きずられて火の中から助けられた俺は、自分が生きていることに安堵し、気を失った。

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