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触手な俺が魔女の奴隷  作者: よしむ
第三章 狂信者は強靭でした
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第十話

「遂にオレとお前の戦いの時が来たようだな」

「そうですね。

 ドラゴンフォースの中にあって、唯一まともな気がしないでもないアニキと戦えるなんて光栄です」

「フッ……。

 このオレを前にして、そのような事を言えるのはお前くらいのものだな」


 俺はこのマッチョなアニキに奇妙な友情を感じていた。

 彼は常に紳士的で、常に公平だった。

 アニキの筋肉からはたくましさだけじゃない、優しさや正義を愛する心を感じたのだ。


「さあ、アニキ。

 俺たちの勝負のルールを発表してください」

「フッ、よかろう。

 体力とは即ち筋肉。筋肉とは即ち肉体。

 ここまで話せばわかってもらえるだろう?」


 言いながら、アニキは着ているものを脱ぎ始めた。

 そしてビキニパンツ一丁になる。

 体は既にオイルにより照りが出ていた。


「成程。

 俺の肉体はご主人から戴き、俺の魂を写したモノ。

 その肉体でアニキと戦えるのなら本望ですね」


 アニキはゆったりとした自然な立ち姿を見せた。

 腕はだらんと下に垂れている。

 非常にリラックスした体勢。

 

 ――静。

 

 全ての力を抜いたアニキからは、筋肉の猛りを全く感じない。

 が、次の瞬間、アニキが全身に力を込める。


 ――静から動へ。


 体勢を全く変えていないと言うのに、アニキの筋肉は躍動する。

 アニキの筋肉という筋肉が収縮し、筋肉の溝をより深いものとした。


「キレてるキレてる!」

「デカイよー!」


 観衆たちからアニキの筋肉を誉め称える歓声が上がる。

 ぬらぬらと光る大胸筋が眩しい。

 アニキはただ力を入れて立っているだけだと言うのに、観衆をこんなにも沸かせることができるなんて。


「流石です、それでこそアニキだ」


 俺は素直にアニキを褒め称えた。

 彼の筋肉からは、膨大な量のトレーニングの残像が見えたからだ。

 事前のトレーニングだけではない。

 アニキは今もなお戦っているのだ。

 アニキはただ立っているだけに見えるが、今もじっと筋肉に渇を入れ続けている。

 だが、全く辛そうじゃない。

 彼は爽やかに白い歯を見せている。

 アニキの顔は、この世に生きることへの希望に溢れていた。

 そう、アニキの肉体は正に人間賛歌そのものだった。


 アニキに対抗し、俺はありったけの触手を伸ばした。

 アニキの筋肉のキレ、デカさに俺が敵うはずはない。

 ならば、俺は俺の肉体の持ち味を見せつけるしかないだろう。


「触手もいいぞー!」

「やだー、きもちわるーい」


 観客たちからは悲鳴とも聞こえる声援が飛ぶ。

 やはり俺の肉体は生理的嫌悪を与えてしまうのだろうか。


「フッ、やるな。

 オレがどれだけトレーニングをしても、そのようなマネはできん。

 だがな……」


 アニキはゆっくりと体勢を変え始めた。

 腰を半回転させ、太ももを上げる。

 上半身は俺の方を向けているが、下半身は横を向いている。


 そのスムーズなサイドリラックスへの移行は、見るものたちを惹き付けた。


 太ももが前に出されたことにより、大腿筋が先ほどよりも強調される。

 そして少しだけ見える大殿筋がとてもセクシーだ。


「ナイスバルク!!」

「いいよ~!!」


 アニキのナイスなパフォーマンスにますます観客たちはヒートアップしていく。

 

 それに引き換え俺は……。

 いや、卑屈になるな。

 俺は、俺の肉体を見せ付けるのだ。


 俺は伸ばしきった触手たちをうにょうにょと蠢かせる。

 俺が持つ全ての触手が最大限伸ばされ、波打つ。


「き、きれい……かも」

「あ、ああ……」


 青い空の中波打つ触手は、幻想的な空間を生み出した。

 空の青と、触手の肉の色。

 宇宙と生物の融和。

 たくさんの可能性から選ばれ、生まれた生命の神秘。

 それを無常に見守る宇宙の摂理。


「認めざるを得ないな。

 異形の者よ、お前を我が宿敵と認めよう」


 アニキに認められた――、その喜びをかみ締める暇をアニキは与えてくれなかった。


 アニキはそのまま腕を後ろに回し、セクシーなお尻の前で組む。

 その見事なサイドトライセプスにより腕が――、特に上腕三頭筋が強調される。

 

 圧倒的な筋肉の質量が、見ている者たちを飲み込む。

 今まではアニキの筋肉の大きさや切れ目の深さばかりに目がいっていたが、ここに来て浮き出る血管の存在感が増してきた。

 当然ながら、筋肉に栄養や酸素を送るのは血管を流れる血液だ。

 強く大きく育った筋肉は、血管を圧迫し、血流を滞らせる。

 だがアニキの血管は太く、アニキの筋肉に決して負けていなかった。

 総指伸筋から上腕二頭筋、そして三角筋から大胸筋へと続く幾筋かの血管。

 あの太く逞しい血管により、アニキの圧倒的な質量の筋肉たちは生かされているのである。


 アニキは今、生命の力強さを己が肉体から発露させていた。

 アニキから吐き出される息も、アニキの汗腺から溢れ出る汗――いや漢汁も。

 その全てが生命の力強い活動の表れなのだ。

 アニキの人間賛歌は、遂に全ての生命への賛歌に昇華した。


「最高だあああああああああ!!」

「大きいよぉおおおおおおお!!」


 次々と上がる歓声。

 その中には感極まって泣き出す者まで現れはじめていた。


 アニキに遅れるわけにはいかない。

 アニキを尊敬するからこそ、アニキに追いつく――いや、アニキを追い越すのだ。


 俺は全ての触手から舌を出した。

 今の俺にできる最大の変化。

 波打つ触手たちから一斉に出された舌。

 一見するとグロテスクなその光景だったが、その様は生命の誕生を連想させた。

 生命が生まれ、育まれ、新たな生命を生み、死んでいく。

 触手からチロチロと出し入れされる舌は、正に生命の連鎖そのものだった。

 無常な宇宙の摂理に対して、唯一生物が許された反抗。

 それは進化だ。

 生命は連鎖を繰り返し、進化してきた。

 俺は生命の進化を体現してみせたのだ。


「面白いものだな」

「そうですね」


 俺とアニキは全く違う方向性で、己の肉体をアピールした。

 だというのに、俺とアニキのテーマの行き着くところは同じだったのだ。


 アニキが俺に近づいてきて、握手を求める。

 勿論、俺はアニキの握手に応えた。


「諸君、オレと異形の者、どちらの肉体の方が優れていたと思う?」


 アニキの問いかけに、観衆は沈黙した。

 俺とアニキは、その沈黙の理由がわかっていた。

 観客たちも当然のように理解していた。

 どちらの肉体も素晴らしく、甲乙つけがたい。

 勝敗を決めてしまうことは、生命への侮辱になってしまうと。


「決まりだな」

「そうですね」

「勝者はオレと俺だ!!」


 アニキと俺が組んだ手と触手を高らかに掲げる。

 その姿に、観客たちは熱狂した。

 ある者は雄たけびを上げ、ある者は涙を枯らした。


「長かったのぅ。

 たまごまんじゅうもお茶も無くなってしまったよ」

「アタシは結構楽しかったケド」

「神の肉体は宇宙そのものでしたね」


 俺のかけがえのない仲間たちが集まってくる。

 口に出した言葉は素っ気無いものだが、この感動的なフィナーレにみんなが目を潤ませているはずだ。


「さあ、君たちは全員試練を乗り越えた。

 このドラゴンドロップを受け取る権利がある」


 アニキが4つの飴玉らしきものを差し出す。


「ほう、これは飴玉と同じように口に含んでおればよいのか?」

「その通りだ」


 アニキが大きく頷く。

 アニキが言うのなら間違いないな。


「ふむ、じゃあいただこうかのぅ」

「そうですね、いただきます」


 ご主人とアビーが飴玉らしきものを口に入れた。

 ダリアさんは飴玉を受け取るも、臭いを嗅いだだけで口に入れようとしない。


「うわぁああ、なんか体が熱くなってきたのじゃ……」

「そうですね……。

 神よ……、私にお慈悲を……」


 飴玉を口にした二人は見る見る顔を赤くしていき、俺に抱き着いてきた。


「どどどどうしたんですか二人とも?」

「これ、マンドラゴラが入ってるわよね?」

「うむ。竜のエキスなどないからな。

 マンドラゴラとドラゴンってちょっと響きが似ているから良いかなと思ってな。

 他にはマムシの生き血とか、それっぽいものを適当にブチ込んで飴玉にしたのだ」 

「ふーん」


 ダリアさんは何かに納得しながら、大きく振りかぶって――飴玉を投げた。


「何するんですか! ダリアさん!」

「あんなもの口に入れられるもんですか。

 さあ、りゅどみんとアビーを連れて山を降りるわよ」

「で、でも二人とも歩けるような状態じゃ――」

「担いでいきなさい」

「帰るのか。

 また近くまで来たら、ここに来るが良い。

 我々も、更なる高みへ昇って待っておるぞ」

「は、はい! お元気で!」


 挨拶もそこそこに、俺はご主人とアビーを乗せてダリアさんを追いかけた。


「うにゅー、ソーマよ。

 ちょっとだけ、ちょっとだけならいいんじゃぞ」

「ああ、神よ……、私にお慈悲を……」


 俺の上で何やらもぞもぞと動く二人。

 バランスが崩れて歩きにくい。

 ただでさえ山道の下りだというのに。


「ダリアさん、さっきの飴玉って……」

「さあね~。

 ま、しばらくしたら治るんじゃない?」


 ダリアさんは知っていて隠しているな。


「そぉーまぁ……」

「神よ……」


 ねだるような声を出す二人。

 ちょっとだけ、ちょっとだけなら良いって言ってたよな。

 でもさっきのダリアさんの口ぶりだと飴玉の効能っぽいんだよな。

 果たして今えっちなことをしても良いのだろうか。

 俺は二人の甘い囁きを聞きながら、悩むのであった――。

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