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触手な俺が魔女の奴隷  作者: よしむ
第一章 触手になって超ショック
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第一話

「今日からわしがそなたのご主人様じゃ!」


 眩い光の中覚醒した俺に向かって、女の子が胸を張って言い放った。

 

 髪も瞳も着ているローブも真っ黒な女の子。

 肩にかからないくらいの長さの髪が、三角帽子から覗いている。

 くりくりとした大きな目がとても愛らしい。

 そんな魔女のような姿をした女の子が腰に手をやり、せいいっぱい不遜な態度をとろうとしている。


 威厳は感じない。

 ただ、愛らしいだけだ。


「かわいらしいご主人様。貴女様のお名前は?」


 とりあえず俺はこの女の子に合わせようと思った。

 正直なところ状況がさっぱりわからないのだが、危機的というわけではなさそうだ。


「ほ、ほほう。その姿で会話をする知能があるのか……。

 さすがわしの召喚した使い魔! そこいらの使い魔とは格が違った!」


 満足げな女の子だが、俺の質問には答えてくれない。

 だが少しだけ情報が手に入った。

 “その姿で会話をする知能があるのか”だとか、“召喚した使い魔”だとか。


 前者はすぐにわかった。

 俺には手も足も頭の感覚もない。

 もにょもにょと動かせる無数のナニカの感覚だけがある。

 なんとなく俺は自分が人間だと思っていたのだが、今、この時に至って違うということに気づいた。

 俺は人語を解せなさそうな生物なのだろう。


 そして後者。

 非現実的な言葉の組み合わせだが、意味のわからない言葉ではない。

 俺はこの女の子によって呼び出された、この女の子に使役される生物なのであろう。


「ご主人~、会話が成り立ってないです。俺の質問に答えて欲しいです」

「ムムっ、わしとしたことが申し訳ない。

 わしの名前はリュドミラじゃ!

 そなたは何か覚えてることはあるかの?」

「何も…。名前もわかりません。

 ただ、俺は人間だったような気がするのですが……」

「そうじゃな。

 そなたが人間だったと思うのなら、人間じゃったのだろう。

 理解力もあり、人語も解すようじゃし、説明しておこうかの」


 ご主人様ことリュドミラ嬢が解説してくれるらしい。

 名前はわかったが、一応ご主人様と呼ぶ方が良さそうだ。

 小さなことで機嫌を損ねたくない。


「あの世におったそなたの魂を召喚し、魂に相応しい身体を受肉させたのじゃ!」

「ご主人、なんか外法っぽいですソレ。

 死者の魂をこの世に呼びつけるとかヤバそうです」

「やっぱりそう思うかの?

 わしも怖くてずっと使うのを躊躇ってたんじゃが、さび……」

「さび?」

「……不便での。じゃから仕方なく使ってみたのじゃ」


 なるほどな。

 この女の子は寂しくて俺を召喚したと。

 どうやら俺は死んでたみたいだし、生き返れてラッキーってことで良いか。


「でもなんで俺の魂を選んだんですか?

 俺としては生き返れてラッキーですけど、ご主人のお役に立てるかわかりませんよ?」

「召喚する魂は選べないからのう。

 じゃから、凶悪な者の魂を召喚して大変な目に遭う者も少なくないそうじゃ」


 さっき怖いって言ってたのはこのことも含めてか。


「じゃあ俺みたいな優しいナイスガイを呼べてよかったですね、ご主人」

「うむ、たしかに性格は悪くなさそうじゃがの……。

 見た目はちょっと異形というか、グロテスクというか、奇異というかの……」

「そんなに酷いんですか?

 鏡とかないですかね?

 自分の外見を見てみたいです」

「ちょっと待っておれ」


 俺の言葉にご主人は袋の中をあさり始める。

 

 横では焚き火がパチパチと音を立てて燃えており、辺りは暗い。

 木々や草花が生い茂っている周囲からは、虫の鳴き声が聞こえてくる

 ご主人との会話に集中していたため今更気づいたのだが、ここは森の中のようだ。


 夜の森の中で不安になって俺を呼び出したのかなと、俺は足元の複雑な文様で描かれた円陣を見ながら思った。

 こんな子供が一人でこんなところにいるなんて、どんな事情があるんだろうか。


「あったあった、ホレ」


 ご主人が手鏡で俺を映す。

 そこに映っていたのは、巨大なナマコのようなモノに触手をはやした生物だった。

 大型犬くらいの大きさの胴体部分から触手が無数にはえている。

 正直、ご主人が俺を見て逃げ出さなかったのは偉いと思う。


「良く言えば磯の仲間たちみたいですね」

「う、うむ。

 じゃが、変な臭いとかはせんから大丈夫じゃ!

 それにそなたの体は魂の形に相応しい形をとる。

 じゃからそなたが様々な出来事を経験すれば、おのずと魂の形も変わり、体もそれに相応しいものに変化する」

「ほ、ほんとですか!

 俺、成長してイケメンになれますか!?」

「き、きっとなれるんじゃないかの」


 ご主人が目を逸らしながら言う。

 望みは薄いのかな……。

 とはいえショックといえばショックなんだけど、あまり俺は気落ちしていない。

 不思議とこの体はしっくりときてるしな。


「それじゃあご主人。

 俺に名前をつけてください。

 イケメンになれそうな、カッコいいやつを!」


 恐らく俺はこれからこの女の子とずっと行動を共にするのだろう。

 ならば名前は彼女につけてもらいたい。


「カッコいい名前じゃな……。

 フフフ、わしのセンスに脱帽するがよい!」


 おお、ご主人はネーミングセンスに自信があるようだ。


「そなたの名前は今日からヴォルフガングじゃ!」

「うお、超カッコいい!

 でもご主人、カッコ良すぎて不安になります。

 もうちょっとだけ控え目なのが良いです」

「ふむ、たしかにそなたの言うこともわかるの。

 あんまりカッコ良すぎる名前だと、実物を見てガッカリされるパターンが怖い。

 それじゃあ、ルートヴィッヒなんてどうじゃ!?」

「クールです! クールすぎます!

 俺には勿体ないですよ!」

「ふむむむ……、難しいのう……」


 そんなやり取りを、俺はご主人と続けた。



―――



 小鳥の囀る音が聞こえ始めた。

 眠らずに拝む朝日は、なぜこんなにも背徳的なんだろうか。


「ごめんなさい……、わがままばかり言って……」

「そなたが気にすることではない。

 名前は一生ものじゃからの。

 こだわるのは当然じゃ」


 うつらうつらとしながらも、ご主人は色々な名前を提案してくれる。

 だが、ご主人が提案してくれた名前はどれも響きがよそよそしかった。

 他の人の名前でついてたらカッコいいと思うのだが、自分の名前としてしっくりこない。


「そうじゃな……。

 少し趣向を変えてみようかの……。

 ソーマなんてどうじゃ?」


 おお! 親しみを持てる感じの響き!

 それでいてイケメンっぽい気がする!

 完璧だ、さすが俺のご主人様だ!


「それです! ご主人、凄くいいです!

 その名前がいいです!」

「お、おおそうか!

 そなたが気に入ってくれてわしも嬉しいぞ!」

「ありがとうございます。

 この名前、一生大切にします」

「うむ。それじゃあ、名前も決まったことだし、少し寝るとしようかの」

「そうですね。俺が見張りをしますから、ご主人はゆっくり休んでください」

「いや、結界を張っておるから大丈夫じゃ。

 ソーマも休むがよい」

「ありがとうございます、おやすみなさい」

「うむ、おやすみ」


 ご主人は木に寄りかかり、マントに包まって目を閉じた。

 あどけない顔立ちの女の子なのに、野宿に慣れているようだ。

 俺はこの小さなご主人様が抱えている事情を聞いて良いのだろうか。


 ご主人が一人でこんなところで野宿している理由をアレコレ想像しながら、俺は眠りについた。



―――



 目を覚ますと、木々の切れ目から見える太陽が高い位置にあった。

 たぶん時刻はお昼ごろだろう。


「おはよう、よく眠れたかの?」


 見るとご主人が鍋に山菜やキノコ、穀物を入れて煮込んでいる。


「おはようございます。

 すみません、ご主人より遅く起きるなんて」

「いいんじゃよ。

 ちょっと待っておれ、もうすぐ出来るから」


 コトコトと音を立てる鍋からはとてもいい香りが漂ってくる。

 鍋はところどころへこんだり、焦げた跡がついており、使い込んでいるように見える。


「ご主人、もし答えたくなかったらいいんですが……。

 その、ご主人のご両親は?」

「うむ、とっくに他界したよ。

 わしはこう見えても109歳じゃからな」


 少し哀しそうな目をするご主人。

 寝る前に考えていたアレコレが全てハズレた。


「ご主人は魔法かなにかで寿命を延ばしているってことですか?」

「近いが、少し違うのぅ。

 呪われたのじゃ。

 体が成長しなくなる呪いを受けてしまってな。

 わしはこの呪いを解く方法を探して旅をしておる」


 そうだったのか。

 外見と不相応な話し方をしているが、精神年齢からすると相応と言えるのかな。


 ご主人が鍋から木製の皿に料理をいくらか移し、鍋とスプーンをこちらに差し出した。


「すまないのう、皿が一つしかなくてな」

「いえ、ありがとうございます。

 いただきます」

「ふふっ、ソーマは礼儀正しいのぅ」


 触手をスプーンに巻きつけ、鍋から料理を口に運ぶ。

 味付けは塩だけだが、キノコから出汁が出ていて美味しい。

 それに山菜の苦味がアクセントになっている。

 山菜の火の通し加減がにくい。


「凄く美味しいです」

「ありがと」


 そう言って微笑むご主人は女の子らしく、とても可愛らしい。

 しかし、彼女は100年の時を生きてきたと言う。

 一人で100年の時を旅してきたご主人のことを考えると、少し胸が痛む。

 俺の胸がどこかはよくわからないが。


「ご馳走様でした」

「お粗末さまでした」

 

 料理を食べ終わった俺たちはお皿や鍋を少しいったところにある川で洗った。


「それじゃあ、そろそろ出発するぞぃ」

「はい、どこに向かうんですか?」

「うむ、近くに街があるからのぅ。

 そこに向かって、少し仕事をして路銀を稼ごうと思っとる。

 ま、今日中には着けるじゃろうて」


 俺たちはまず街道に出て、そこから更に歩くことになった。

 この体は歩くのが凄く遅そうに見えるのだが、人間とあまり変わらない速度で歩ける。

 走ったときの速度も同じくらいだろう。

 ただ、人間よりも体力はあると思う。

 しばらく歩いていても、あまり疲労感は感じない。


「ご主人、よかったら俺に乗りますか?」


 3時間くらい歩いただろうか。

 ご主人の顔に少し疲労の色が見えたので提案した。

 体が成長しない呪いを受けているということは、体力は子供並みということだ。

 疲れてもおかしくはない。


「いいのか?」

「もちろんです。俺は全然疲れてませんし」

「それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうかのぅ」


 素直にご主人は俺の言うことを聞き、俺の体に跨るようにして乗った。

 そして、ご主人のお尻が俺の体に密着したとき、俺の体に異変が起こった。


「な、なんじゃ……、ソーマが少しずつ固くなって……?」


 俺の胴体にあたる部分が固くなる。

 俺が意識的に固くしているわけではない。


「ソ、ソーマ……、そんなに触手をわしの体に巻き付けなくても落ちたりは……、んっ」


 そして俺の触手が勝手にご主人の体に巻きつく。

 ご主人の太ももを、ご主人の臀部を、ご主人のお腹を、ご主人の胸を。


「こ、これソーマ。

 あ、あまり触手を動かすでない。

 へ、変なところにあたってしまっておるぞ」


 ご主人が恥ずかしそうにもぞもぞと体を動かす。

 そしてときどき、ビクリと体を跳ねさせる。

 その反応に、俺はついつい触手を蠢かしてしまう。


「い、いい加減にせんか!」

「ぎゃひんっ!」


 ご主人から電撃が発せられ、俺の体が痺れる。

 俺が体の自由を取り戻す前に、ご主人は俺から降りてしまった。 


「ソーマは外見と違って紳士だと思っておったが、わしの勘違いだったようじゃな!」

「お、俺もこんなに自制が利かないなんて思ってませんでした……」


 魂に相応しい肉体を得る。

 その意味が少しだけわかった。


「これからはソーマの前で油断しないように気をつけることにする!」

「マコトにスミマセン……」


 ご主人に怒られ、トボトボと歩く。

 実際は109歳とはいえ、小さな女の子に怒られた俺は猛省した。


「へへへ、お嬢ちゃん、こんなところを一人でどうしたんだい?」


 そんな俺たちの前に、いかにも悪そうなおっさんたちが立ち塞がった。

 前から5人、そして後ろにも3人ほどいる。


「こんなところを一人で歩いてちゃ危ないよぉ~、おじさんたちと来ないかい?」

「結構じゃ。お引取り願おう」


 ご主人がおっさんを睨みつける。


 おっさんたちは剣やナイフで武装している。

 数も多いし、俺は一体どれくらい戦えるのだろうか。

 せめてご主人だけでも逃がしたい。


「そんなこと言ってると、無理矢理さらっちゃうぞぉ~」

「これ以上近づくと死ぬことになるぞ」


 ご主人が厳しい口調で威嚇する。


「ちっ、しょうがねえな。

 無理矢理とっつかまえるしかねえか」


 一人のおっさんが俺たちに近づこうとした。

 それを見たご主人が、ため息をついた。

 その瞬間。

 ご主人と俺を中心として、周囲が業火に包まれた。

 業火は数秒で収まり、おっさんたちは消えていた。

 地面に黒い跡だけを残して。


「行くぞ、ソーマ」


 何事もなかったかのように言うご主人。

 

 100年以上生きてきた魔女のような格好をしたご主人様。

 そのご主人様は、とても可愛らしく、とても強くて、とても容赦がなかった――。

セクハラは犯罪です。

えっちなことをする際は、相手の同意をしっかり取りましょう。

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