第9話:シーフのニーナ③
いつもなら、薬草採集している時間だが、今日からはゴブリン狩りをしている。
装備はハーゲから奪ったロングソードとレザーアーマー・レザーブーツがある。
この世界の装備は便利で、防具に関してはある程度サイズが着用者に合わせて変化する魔法が掛かっている。
ゴブリン狩りといっても、見付けたゴブリンを遠距離から投石で殺していくだけだ。
たまに鉢合わせした時に剣を使うが、スキル『剣術LV1』があるからか、問題なく殺していく。倒したゴブリンからは魔玉の欠片を回収する。
この魔玉と呼ばれている欠片は、ハーゲが以前回収していた物だった。この欠片を使うことで、『魔道具』と呼ばれる魔力で動く道具を使うことができるそうだ。電気やガソリンみたいな物かな。
あっ完全な魔玉だ!
さっき倒したゴブリンの1匹から、綺麗な珠の魔玉が出た。
当然こちらの方が価値が高い。ゴブリンの耳に関しては、クエストを受けられない俺は完全にスルーしている。
ついでに魔法の練習もするか。
「ファイアボール」
「グギャッ!?」
魔力を込めて言葉を放つと、拳大の火の玉がゴブリン目掛けて飛んでいく。
顔面に直撃したゴブリンは、地面に倒れて転げまわっている。
殺傷能力は低いな。魔力が上がれば威力も上がるのか?
「ヒール」
倒れているゴブリンに回復魔法を掛ける。徐々にだが火傷が消えていくが、完全に回復する前にクビを刎ねる。
一度、見たからなのか、問題なく魔法は使えるな。
今度は頭の中で言葉を唱えてみる。さっきと同じように、ファイアボールが発動した。
ふむ、問題なく発動したな……発動時間は変わらないけど、使う魔法がバレないから知能の高い魔物や人間にはこっちの方が有効だな。
次は闘技を使用しながら魔法も使用してみる。
「ギッ!」
こんぼうで殴り掛かってきたゴブリンの攻撃を、躱すのではなく剣で受け止め、攻防の中で魔法の使用を試みるがうまく発動しない。集中力と魔力がうまく込めれていないのが原因だと思う。
何度かやってみるがうまくいかないので、ゴブリンの首を刎ねる。
「ッギャゥッ」
これは相当大変だな……
「なんでそんなに強いの?」
「!?」
いきなり声を掛けられ身構えた。そこに居たのは……ニーナだった。
「ねぇ、ユウはなんでそんなに強いの? 魔法も使ってたし、剣もちゃんと使いこなしてたよ」
距離にして3メートルほどだった。いくら山の中とはいえ、いつゴブリンと鉢合わせするかわからないので、警戒は怠っていなかったので、まったく気付かなかったことにユウは驚きを隠せなかった。
こいつ、こんな近くに居たのか。確か『潜伏』ってスキルを持ってたから、それを使って付いて来ていたのか? あとなんで名前を呼び捨て!
不快感を隠さずニーナに接する。
「お前……いつから居たんだ。それに昨日、言った事を忘れたのか?」
「え~っと1時間位前から見てたよ? あと、昨日のことはゴメンなさい、ステラさんのことは私が勝手に勘違いしてた……」
1時間も気付かなかったのか!?
「あと、ステラさんには、ちゃんと謝って許してもらったよ」
「ステラおばあちゃんに会ったのか? ステラおばあちゃんが許したとしても俺は許してない」
「うん、でも私はユウの友達になるって、決めたからあきらめないよ?」
「友達……俺と? ハハ……」
ユウは、黒く濁った目でニーナを睨む。今までこの目で相手の反応を窺ってきた。見下したり、哀れみや威圧的な態度をとる者、様々な反応があった。ステラを除いて……
ステラだけがいつもと変わらない目で、ユウに接してきた。
ユウが、ステラにだけ心を開いた理由の一つでもあった。
「なんだ……よ…………お前…………!?」
ユウは掠れるような声で、そう言うのが精一杯だった。
ユウに睨まれたニーナは、笑顔だった。
気付けばユウは、その場から逃げ出していた。
変な奴! 変な奴!! 変な奴!!!
「ステラさんの言った通りだ。逃げちゃった……」
ニーナはステラとの会話を思い出す。
ユウが家から出て行くのを確認したので、先にステラに謝ろうとしたのだが――
「まぁまぁ、ユウにこんな可愛いお友達ができていたなんて」
「ち……違うんです。私は……うぅ」
涙目になり口篭るニーナに、ステラは落ち着くまで待ってくれた。
ユウとのやり取りと勝手な思い込みから、ステラの悪口を言ってしまい、怒らせてしまったことと謝罪を伝える。
「そうだったの」
ステラはニコニコ笑顔だった。とても優しそうな顔で、改めて自分の勘違いだったとニーナは恥ずかしくなった。
「ユウは素直じゃないからね。ニーナちゃん、ユウとお友達になりたかったら、あきらめちゃ駄目よ。良い事を教えてあげるわ」
ステラの言ったとおり、ユウは目を覗き込んできた。その際、目をそらさず『笑顔』でいればきっとユウは動揺して逃げること。それでもあきらめないことを教えてくれた。最後にステラはこう言っていた。
「ユウは人見知りで基本、誰も信用していないわ。けどね、一旦心を許すとすごく甘くなるわよ。ニーナちゃん頑張ってね!」
(すごく甘くなる?)
その部分だけわからなかったが、ニーナは今度はあきらめないと誓った。
ユウはその日、ニーナのことをステラに聞こうとしたが、結局聞けなかった。
ステラは頼んでいた道具を買ってきてくれていたので、これで風呂造りに取り組めるが、その日は悶々としながら寝た。
その日からニーナとの隠れん坊が続くことになるとは、ユウもその時は思ってもみなかった。
ニーナは次の日もユウを尾行しており、当然ユウも逃げてまこうとするが、気付くとまた居る。そういったやり取りが2週間ほど続き、ユウがある時、ニーナのステータスを確認すると。
名前 :ニーナ・レバ
種族 :人間
ジョブ:シーフ
LV :12
HP :76
MP :21
力 :21
敏捷 :53
体力 :21
知力 :16
魔力 :11
運 :22
パッシブスキル
索敵LV1
罠発見LV1
短剣術LV1
忍び足LV1
アクティブスキル
盗むLV1
潜伏LV1
罠解除LV1
隠密LV1
固有スキル
なし
あいつスキルが増えてやがる!? 道理で、日に日に気付けなくなるわけだ。
ニーナは『忍び足LV1』『隠密LV1』のスキルと敏捷も少し上昇していた。
この頃になると、一日ほぼニーナの尾行に気付かない時もあるほどだった。
さすがにこう連日、尾行されると『剣技』『魔法』『闘技』の練習ができない。特に『強奪』に関しては絶対にバレるわけにはいかなかった。
「おい……いい加減にしてくれ」
「私と友達になる気になった?」
散々、ストーキングしておいて、この言い草にユウは少しイラッとしたが我慢した。
「お前と友達になって、何か得になることがあるのか?」
「あるよ。まず、ユウはギルドでクエスト受けられないでしょ? ゴブリンを毎日倒しているけど、そのクエストだけでも結構稼げるし、シーフの私が居れば山間の洞窟にいけるよ。
ユウがゴブリンを倒しているのがレベル上げとお金稼ぎの為なら、洞窟の方が経験値もお金も稼げるよ」
こいつ……ただの牛女と思っていたら意外と頭はいいのか? 確かにクエストを受けて報酬を貰えるのはありがたいし、この辺に居る魔物はスキル持ちが少ない……洞窟なら新しいスキルを奪えるかもしれないな。
「わかった。パーティーを組んでやるよ。但し、俺はまったくお前を信用していないから、おかしな行動を取ればどうなるかはわかっているよな」
「パーティーじゃないよ。友達だよ……それに嫁入り前の私に、あんなことしておいて責任を取って欲しい」
「フンッ」
「ひどっ!?」