第7話:シーフのニーナ①
カスト・モリュ、レッセル村のギルド長をやっている。自身の能力を過大評価しており、この小さな村でのギルド長という役職に不満を持っていた。
それにしても昨日はうまいこといったな。
村の連中が、あの子供をハーゲに殺すよう依頼した時は焦ったわい。村には今後来なくなるし、薬草もタダで手に入る。ハーゲに支払った金を差し引いても、十分な利益になるだろう。
あの子供は儂の金蔓だ! 殺されてたまるか。これであの子供も儂に感謝して、今後は黙って薬草を持って来るだろう。
カストは自分のおかげでユウが助かり、自分に感謝していると勘違いしていた。ユウが毎日持って来る薬草の報酬は本来銅貨9枚だが、その内の6枚……3分の2をピンハネしていた。しかもユウが持って来る薬草の量は多く質もよかったので、本来の報酬はもっと高額であった上に、ギルドが依頼者から貰う依頼料も合わせると、馬鹿にできない金額であった。
カストがお金をいやらしい顔で数えていると、ギルドの扉が開く。誰かが入って来たようだ。慌てて金を隠すカストだが、入って来た人物を見てカストが怒鳴る。
「き……っ貴様! 何しに来た!! 昨日の件を忘れたわけではあるまい! 今度は儂でも庇いきれないぞ!」
あくまで上から目線で、恩着せがましく言い放つカストだが、ユウは無表情だった。
「俺が本来貰うはずだった報酬を貰いに来た」
「ば……馬鹿か!! お、お前は……自分の立場がわかっているのか!」
いつも生意気な目をしている子供だったが、今日は何かがおかしいとカストは感じていた。
(雰囲気が違う……なんでこんなに落ち着いているんだ。今、ハーゲ達と鉢合わせすれば、本当に殺されてもおかしくないのに……)
その時、ユウが布で包んでいる物に目がいった。ユウがゆっくりとその布を取ると、そこにはロングソードがあった。
「お前……どこでそのロングソードを手に入れた?」
(おかしい、この村でこの子供に物を売る者など居ない。それにあのロングソードには血が付いている……)
ユウは更に自分のギルドカードをカストの目の前に置いた。
「俺はこのギルドカードが偽物だって知ってるんだぜ。このギルドカードを持って、王都のギルド本部に行けばどうなるだろうな」
「お前のような子供が王都までどうやって行くんだ……」
強がってみたものの、ギルド本部に行かれると困るのはカストであった。最悪、揉み消すことはできるであろうが、王都ギルドへの栄転など夢のまた夢になるからだ。
「お前にはこのロングソードが誰の物かわからないのか?」
そう言われて初めてそのロングソードが、ハーゲの物だとカストは気付いた。
「ハーゲを……殺したのか…………!?」
「お前に答える必要はないな。黙って俺が本来貰う報酬を渡せば、お前には何も起こらないよ」
いつの間にか、カストは汗まみれであった。今まで搾取するだけであった子供と、一夜にして立場が逆転したからである。しかもハーゲは恐らく殺されていると見た方がいい。ハーゲの取り巻きに、この子供……ガキを殺させるしかないと考えるカストだったが、自分が依頼しユウを生かした結果、ハーゲが死んだとなると、自分の身も危なかった。カストは黙って、今までピンハネしていた報酬をテーブルの上に置いた。
「最初から素直にしていれば、こんなことにならなかったのにな」
ユウは本来の報酬を回収しながら、『強奪』で、カストのスキル『鍛冶屋LV1』『錬金術LV1』を奪っていく。
本来こんな使い方をして、万が一にでも『強奪』スキルのことがバレるのはまずかったが、今までされてきた仕打ちに我慢できなかったからである。
「さっさと出て行け! 二度と来るな!!」
「ハハ、言われなくても二度と来ないよ。村の連中に見付かるとまずいんで、裏口から出て行かせて貰うよ」
これでこの村にはもう用はないな。あとは折角奪ったスキルを鍛えていくか。
スキルは使えば使うほどレベルが高くなるみたいだし、『鍛冶屋』と『錬金術』は実際に物でも創ればレベルが上がっていくのか? 調べないとな……
村から家に続く細道を歩いていると、視線を感じたので振り返ると、あの時の赤毛の女が居た。
女は俺の前まで来ると、何か言いたげな目をしている。ハーゲの取り巻きではないと思うが、念の為ステータスを確認する。
名前 :ニーナ・レバ
種族 :人間
ジョブ:シーフ
LV :12
HP :76
MP :21
力 :21
敏捷 :52
体力 :21
知力 :16
魔力 :11
運 :22
パッシブスキル
索敵LV1
罠発見LV1
短剣術LV1
アクティブスキル
盗むLV1
潜伏LV1
罠解除LV1
固有スキル
なし
こいつ……ハーゲよりレベルが高いだと……戦闘系のスキルは短剣術位か? けどステータスが完全に負けている。いやスキルの能力を足せば勝てるか?
「ねぇ……仲間になってあげようか?」
「嫌だ」
これが今後長い付き合いになる、ニーナ・レバとの初めての会話だった。