第6話:レベルが上がった!
やっと動けるようになったのは夜になってからだった。
早く帰らないと、ステラおばあちゃんが心配するけどその前にすることがあった。
俺はふらつく身体でレッセル村の豚小屋の前に行った。
ここには食用の豚ともう一種類豚がいる。豚の顔に人間の大人をふた周りほど大きくした身体『オーク』だ。
こいつらは、冒険者が捕まえて奴隷の首輪で人間の命令には逆らえなくなっている。
奴隷の首輪は魔法が掛かっているそうで、色々な制約を決めれると、以前ステラおばあちゃんが言っていた。
ここのオークは主に労働力として飼われている。
3匹居る内の1匹を見る。
名前 :***
種族 :オーク
ランク:1
LV :3
HP :153
MP :6
力 :61
敏捷 :6
体力 :101
知力 :3
魔力 :2
運 :2
パッシブスキル
腕力上昇LV1
繁殖LV1
アクティブスキル
なし
固有スキル
なし
知能が低いオークには名前を付ける習慣がないのか、名前の欄が読み取れない。あとジョブの箇所が、ゴブリンと同様にジョブはなくランク表示だった。
「俺の眼を見ろ」
そう言うと、オークは俺と眼を合わせる。オーク達を利用して強奪のスキルの練習をする。まずは眼を合わせて強奪スキルを発動する。
『強奪』に関してわかったことは、眼を合わせないとスキルを奪えないのと成功率がある。最初のオークから『腕力上昇LV1』を奪うのに3回掛かった。しかも一回毎に頭痛のおまけ付きだ……
距離は大体1メートルは近づかないと駄目だ。
3匹居たオークの内、『腕力上昇スキル』を持っていたのは2匹で、2匹目のオークから腕力上昇を強奪してみた。スキルレベルは1のままだったが、あきらかに腕力が上昇したのを、感じることができた。試しに手のひらサイズの石を投げてみると、100メートルほど山なりではなく直線で飛んでいった。
あまりのスキル効果に驚いたが、これで考えていたことが実行できそうだ。
『ギルドカード』本物には魔法が掛かっており、ステータスが表示される。そこには勿論スキルも表示され、レベルが上がった際にはどの項目が上がったのかを確認できる。
これが村の人間だったら問題ないのだが、冒険者は頻繁にステータスを確認する。命懸けの日々の過ごしているのだから当然か……
ハーゲから奪った『剣術LV1』、今は気付いていないだろうが、近い内に気付くはずだ。そうなった際に俺が奪ったとまでは確信しないだろうが、黒髪・黒目の不吉とされる俺が原因だと決め付ける可能性は高い。それに今までされてきたことを考えると、俺も許す気はなかった。
家に帰る途中でステラおばあちゃんと会った。帰るのが遅くて心配したようだ。俺の身体中の傷を見て、目に涙を貯めている。
ステラおばあちゃんに心配ないよ。明日からは大丈夫だよと伝えるが、ずっと泣いていた。
俺のことを心配して迎えに来て、更に泣いているステラおばあちゃんを見ると心の中が暖かくなった。
翌朝、まだ身体は痛いが動けないことはない。
ステラおばあちゃんはしばらく外に行かないでと言うが、そういうわけにもいかなかったので、村には近付かないと約束することで外に出る許可を貰った。
誰にも見付からないようにギルドまで行くと、中にハーゲが居た。いつも通り下品な笑い声で取り巻きと話している。あの様子だと、まだスキルがなくなったことに気付いていないようだ。
ハーゲはいつも通りゴブリン討伐クエストを受け、山の方へ向かって行く。俺も気付かれないように後ろから付いて行く。
山の奥深く入って行くと、早速ゴブリン数匹とハーゲが出会し、皆殺しにする。
俺はこの辺一体の山に関しては、薬草採集のおかげでどこに何があり何が居るかも把握している。
ハーゲがどのルートで進んで行くかは、ある程度わかるので罠を仕掛ける。先回りし、そこら辺に居るゴブリン共に石を投げつけた。隠れながらどんどん石を投げ付ける。その数、30匹以上! さすがにこれだけの数になると、隠れながらでも限界なのでハーゲが来るであろう方向に向かって走って行く。
ちょうどハーゲも先程とは別のゴブリン達と戦っていたので、俺は近くの茂みに身を潜めた。
「な……なんだってんだ!!」
いきなり現れた30匹以上のゴブリンの集団に、ハーゲも驚きを隠せなかったようだが、遅かったようだ。すでにゴブリンに囲まれている。
「舐めんじゃねぇ!」
そう叫ぶと、襲いかかってくるゴブリンをロングソードで斬りつけていく。ムカツクが伊達に毎日ゴブリンを狩っていないようで、すでに10数匹のゴブリンが倒されている。だが俺が集めたゴブリンの中には、普通のゴブリンとは違うゴブリンが2匹居た。
名前 :***
種族 :ゴブリンメイジ
ランク:1
LV :6
HP :45
MP :33
力 :10
敏捷 :11
体力 :17
知力 :10
魔力 :16
運 :8
パッシブスキル
繁殖LV1
アクティブスキル
黒魔法LV1
固有スキル
なし
名前 :***
種族 :ゴブリンプリースト
ランク:1
LV :8
HP :41
MP :28
力 :8
敏捷 :10
体力 :16
知力 :12
魔力 :18
運 :6
パッシブスキル
繁殖LV1
アクティブスキル
白魔法LV1
固有スキル
なし
お……おぉ!! アクティブスキルに魔法があるのを確認した俺は、思わず心の中で叫んでしまった。
そのゴブリンが戦闘に参加してからは形勢逆転した。傷ついたゴブリンをゴブリンプリーストが回復させ、遠距離からゴブリンメイジが魔法を放つ。
「ヒ……ヒール」
「ファイアーボー…………ル」
「糞が!!」
喰らわずに躱すハーゲだが、ゴブリンメイジのファイアーボールに体勢を崩され、その隙をゴブリン達が見逃さず襲い掛かる。
俺はその間にゴブリンメイジとゴブリンプリーストに近付く。後ろに居る俺に気付いたゴブリンメイジとゴブリンプリーストに『強奪』を何度も発動する。
「っ痛…………」
強奪の発動する際の頭痛が俺を襲うが、今はそれどころではない。文字通り命懸けだ。問題なく『黒魔法LV1』と『白魔法LV1』を強奪できた。
「ファイアーボール」
すぐにゴブリンメイジが魔法を唱えるが、ファイアーボールは発動しない。
「!?」
魔法が発動しないことに混乱しているゴブリンメイジに、予め用意していた石で殴る。『闘技』+『腕力上昇』スキルで強化されている俺に石で殴られたのだから、ゴブリンメイジもたまったものじゃない。
「ギャッッ!!」
頭部の一部が潰れて、そのまま倒れるゴブリンメイジ。
「ヒー…………ル!!」
慌ててゴブリンプリーストがヒールを唱えるが、勿論発動しない。そのままゴブリンプリーストも、撲殺する。
ハーゲの方を見るとまだ生きているようで、ゴブリンも残り5匹にまで数を減らしていた。ハーゲも無傷ではなく、全身血塗れで左腕はちぎれかけているし、左足も引きずっている。
「二段突き!!!」
ハーゲが『剣技』の二段突きを叫ぶが、それは二段突きとはとても呼べないものだった。そう、ただ単純に突きを2回繰り返しているだけだった。
『剣術LV1』を奪ったからなのか、『剣技LV1』があっても二段突きが発動しないのか?
「ど……どうなってんだ! なんで剣技が発動しねぇ!!」
とうとうハーゲは倒れるとゴブリン達が群がり始めるが、その内の一匹が俺に気付いた。
「ギギッ!?」
すぐに残りの4匹もこちらに気付き、ターゲットを俺に変えたようだが少し気付くのが遅すぎた。俺は落ち着いて石を投げていく。
石を喰らったゴブリンは、頭部が陥没する者、目が潰れる者、足に当たりその場で蹲る者も居た。元々ゴブリンメイジとプリーストは離れた位置に居た上に、倒した後に俺は更に距離をあけていた。こちらに真っ直ぐ向かって来るゴブリンなどいい的だった。
全てのゴブリンを倒し終えると、倒れたハーゲに近付く。しぶとく生きているようで俺を見ると
「た……助かった…………ぐぅ……お……俺を村ま……で運べ! ……」
何か勘違いしているようだったので、親切に教えてやった。
「お前はバカか? なんでゴブリンが大量にお前に向かって来たのかわからないのか?」
「ま……まさか……お前がっ!!」
殺意の篭った目で俺を見てくるが、自業自得だ。ついでに眼が合っているので、『強奪』で『腕力上昇LV1』『剣技LV1』『闘技LV1』、全てのスキルを奪う。
「あんたには世話になったからな。どうだ自分が虫けらと思っていた奴に嵌められた気分は? 本当に世話になったよ…………」
俺がそう言うと、ハーゲは先程とは打って変わって哀願の目で喚く。
「待ってくれ! …………俺だって、好きでやってたわけじゃないんだ……村の連中とギルド長に、言われて……仕方なく……そう仕方なかったんだ!」
「俺も仕方なく殺すことにするよ」
「まっ…………ギャッ!」
俺は持っていた石を至近距離でハーゲの顔面に投げ付けた。ハーゲから奪った『腕力上昇』も加わり、石はハーゲの顔面にめり込む。そのままハーゲは動かなくなった。
初めて人を殺したことに関して何も感じなかった。すでに義父の虐待によって、俺の心は壊れているのかもしれない。
俺はハーゲから回収した装備を見る。ついでに金も奪っている。
ロングソード(6級)
レザーアーマー(6級)
レザーブーツ(6級)
次に自分のステータスを見る。
名前 :ユウ・サトウ
種族 :人間
ジョブ:なし
LV :4
HP :23
MP :31
力 :6
敏捷 :10
体力 :8
知力 :25
魔力 :8
運 :1
パッシブスキル
剣術LV1
腕力上昇LV2
アクティブスキル
剣技LV1
闘技LV2
黒魔法LV1
白魔法LV1
固有スキル
異界の魔眼LV2
強奪LV1
ゴブリンとハーゲを殺してレベルが上がったみたいだ。
スキルもハーゲから奪った際に、『腕力上昇』と『闘技』がそれぞれLV2になっていた。
「さて次はギルド長かな……」
そのまま俺は村に向かった。