第328話:帰ってきた
マガポケ様で『奪う者 奪われる者』のコミカライズが始まりました!
「急げ急げ~」
「遅い奴は置いてくぞっ」
「まって~」
碌に舗装もされていない道を子供たちが駆けていく。通りにはスラム街らしいボロい屋台が立ち並ぶのだが、昼時にもかかわらず店主たちは声かけもせずに客が来るのを欠伸しながら待っている。
「ここも前より高くなってる」
「ほんとだ」
「たかくなってるよ~」
子供たちが屋台の品々を物色するのだが、どの屋台も以前より値上がりしていた。
これは都市カマーの急激な人口増加に伴い、土地や住居――――それに食料品などの物価が高騰しているのだ。その弊害はスラム街にまで押し寄せていた。スラムの屋台で使用される多くの食料品は真っ当なルートで仕入れた物ではない。そのままでは売り物にならない肉の切り落としなどは腸詰め――――いわゆるソーセージなどに加工されるのだが、それすら使うのに抵抗があるような屑肉以下の傷んだ肉や食用に適さないゴブリンの肉などを使用しているのだ。
「これでも随分と抑えているほうなんだぜ」
「悪く思うなよ? こっちも商売なんでな」
店主たちが不満の声をあげる子供たちへ、苦笑しながら事情を説明するのだが、食べ盛りの子供たちからすればそんなことは知ったことではない。シスターの運営する孤児院で食事は出るのだが、それでも腹が減るのだから仕方がないのだ。
「そこいくと、俺の店はお値段据え置きの優良店だぞっ」
店と呼ぶのにはおこがましいボロ屋台の店主が子供たちへアピールするのだが、ここはスラム街である。誰もが物心がつく前から人を疑うことを自然と身につける場所なのだ。当然、子供たちも疑いの目を店主の男へ向ける。
「どうした? 食ってかねえのか」
「ちょっと待って。相談するから」
子供たちが輪になってなにやら話し込む。手にはボコボコにへこんだ飯盒のような物を持っている。
この屋台の怪しげな肉団子入りのスープは一杯で三十マドカ――わずか三十マドカとはいえ、スラム街の子供たちにとっては大金である。
「ん」
子供の一人が飯盒を店主へ渡す。
「へへ。いくついる?」
「とりあえず一杯」
訝しげな顔で子供たちを見る店主であったが、子供からすり減った半銅貨を三枚受け取ると、飯盒にスープを注いで渡す。
「毎度あり~ってなもんよ」
店主は懐に隠している革袋へ半銅貨を仕舞う。ちらりと子供たちの様子を窺うと、子供たちは先ほどと同じように輪になっていた。
「これって少ないよね?」
「すくなーい」
「肉団子も前より小さくない?」
「俺たちがガキだからって舐めてんだよ」
「ゆるせないよな」
「やっちまう?」
なにやら物騒な話が聞こえてくると、店主が慌てる。
「お、おいおいっ。穏やかじゃねえな。俺の特製スープになにかおかしなところでもあったか?」
「このスープ、前より少ない」
「そんなことねえだろ。変な言いがかりはよしてくれよ」
平静を装いながらも、店主は内心では少しばかり焦っていた。
「前はここまであった」
子供が突き出した飯盒の内側には、目印のように溝が刻まれていた。そして肉団子入りスープはそのラインに目視でわかるくらい届いていなかったのだ。
「ズルいぞ!」
「そーだ、そーだっ!」
「私たちが子供だからってバカにしないでよね」
子供たちの抗議に店主はタジタジになる。
「こういうセコイことしてきゃくをだますような店は、しんようできないって言ってたよ」
さらに子供たちの中でも一番小さな女の子が、店主へ厳しい言葉を投げつけると。
「だ、誰だ! そんなフザけたことをお前らに教えた野郎はっ!」
「「「ユウ兄ちゃん」」」
「げえっ!?」
周囲の屋台からは「ざまあっ」「ばーか」「やることがセコイんだよ」といった声が聞こえてくる。
汗だくの店主は負けを認めたのか、露骨な愛想笑いを浮かべると。
「へへっ。ちょっと入れる量を間違えてたみたいだぜ」
そういうと、急いで飯盒へ割増気味に肉団子とスープを注ぐ。その量に納得したのか。残る子供たちも一斉に注文すると、店主は涙目になるのであった。
「お腹いっぱーい」
スラム街の一角で食事を終えた子供たちが、お腹を抑えながら寛ぐ。
「それでさっき言ってたことって本当なのか?」
「本当だよ。昨日ね、ナマリちゃんとグラフィーラお姉ちゃんが、シスターとお話してるのみたもん」
「わんちゃんもいたよー」
「エカチェリーナは犬じゃない、狼よ」
「じゃあ、マジでユウ兄ちゃんが帰ってきたのかもな」
「よし。それじゃ会いに行くかっ!」
「「「さんせ~いっ!!」」」
※
都市カマーの西門を出て歩いていくと目に飛び込んでくるのは通称『お化け屋敷』とカマーの住人から呼ばれているユウの屋敷である。屋敷を囲う塀を覆い隠すほどに成長した植物によって、外からでは屋敷どころか中の様子すらわからない。
「金貨はあまり力を入れて掃除しないほうがいいぞ」
ヒスイの影響で立派な大木になった樹に背を預けながら読書していたユウが、芝生の上であぐらをかいて金貨をブラシで磨こうとしていたナマリへ助言する。
「なんで?」
ナマリと、その頭の上で寝そべっていたモモが不思議そうな顔をする。
「金は金属の中でも柔らかいんだ。どうしても綺麗にしたいなら、柔らかい布で力を入れずに拭く程度にしといたほうがいいぞ」
「わかった!」
最近ナマリがハマっているのが貨幣の収集である。今もナマリの目の前には、綺麗な布の上に各国の貨幣が並べられていた。その横ではニーナが同じようにスローイングナイフを並べて手入れしている。そう、ニーナの装備を手入れする姿を見て、カッコいいと思ったナマリが真似をしているのだ。
暫しニーナが装備を、ナマリが貨幣を手入れする作業音が流れ、たまにユウが本のページをめくる音が挟み込まれる。静かな時の流れをユウが満喫していると、その静寂を綺麗な音色が上書きする。屋敷の門に設置している呼び鈴である。
「お客様なんだぞっ」
作業の手を止め、ナマリが勢いよく立ち上がる。そして、どこに潜んでいたのやら、狐人のアリアネと狸人のポコリが姿を表すと、門へと向かっていく。
「誰かな?」
「複数の騒ぎ声から想像はできます」
「わっ!? マリ姉ちゃんいたの」
読書の邪魔にならないよう姿を隠してユウの傍に控えていたマリファに、ナマリがその場で驚き飛び跳ねる。来客者が誰なのか、マリファにはおおよその見当がついているようであった。
当然、ユウは誰が来たのかわかっているので――――
「騒がしくなるな」
――――と呟きながら本を閉じた。
「あ~っ! いた! みんな~、ほんとうにユウにいちゃんいるよー」
「マジでユウ兄ちゃんだっ」
「ね? だからわたし言ったでしょ」
「ナマリちゃんもいるわ」
「きてよかったね」
大きな声を発したのは、アリアネとポコリに引率されて現れた子供たちである。一斉にユウのもとまで走りだす子供たちと、アリアネにポコリと手をつないでいた幼い子供たちが「まって~」と涙目になる。
途端に先ほどまでの静寂な時間が嘘かのように騒がしくなる。
「ナマリちゃん、なにしてるの?」
「わっ! お金がいっぱいだよ」
「ナ、ナマリっ。なにやってんだよ!? 早く隠せ、隠せっ! 盗られても知らねえぞ!」
「ユウ兄ちゃんはずっといなかったけど、どっか行ってたの?」
「なんでコロやランはいないの? どうして? どうして~?」
「そのおめめにつけてるのなーに?」
「あれはメガネよ」
「ユウにいちゃ、おめめがわるいの?」
「なんでなんで」「どうしてどうして」口撃に、ユウのみならずナマリですら引き気味だ。モモなどはいち早くナマリの帽子の中へ避難しているのだから、かしこいものである。
「うるさいな」
「そうだ! うるさいんだぞっ」
ユウの口真似をするナマリが腰に手を当てて仁王立ちするのだが、子供たちは「まねっこ?」「わたしたちしずかだよ~」「ね~」などと意に介さない。むしろより一層に騒がしくなり「コロは?」「わんちゃんどこ?」「ランもいないね」「いな~い」と収拾がつかなくなる――――と思われたのだが。
「あまり騒がしくして、ご主人様に迷惑をかけないように」
マリファの一言で子供たちは途端に静かになる。その際にさり気なくユウの身体から子供たちを引き離すのも忘れない。それを見ていたアリアネたちは露骨に目を逸らす。ティンなどは図太いもので、怯えるどころか「はいはい。お姉さまが嫉妬してるから、ご主人様から離れてくれなきゃやんなっちゃう」などと煽るような言動である。
「コロたちは散歩だ」
「おさんぽ?」
「さんぽだって」
「いつ帰ってくるのかな?」
「ほら、噂をすればなんとやらだ。帰ってきたみたいだぞ」
ユウが顎で指し示すほうへ子供たちが顔を向けると、狼人のグラフィーラを先頭にコロたちが向かってくるのが見えた。
「わ~っ! おかえりっ!」
「コロとランがいないぞ」
「でもエカちゃんはいるよ」
「え~そんなことないよ。だってコロちゃんたちの匂いがするもん」
「けどよ……もしかして、あれがコロとランなのか!?」
子供たちがまた騒がしくなるのだが、それも無理はないだろう。なにしろコロとランが、自分たちの知っている姿から大きく変わっているのだから。
体長約3.5メートルほどだったコロが小さくなって2.6メートルほどになっているのだ。外見も漆黒の毛に狼をそのまま巨大にしたかのような見た目であるものの、チベタン・マスティフの獅子型のように首周りに赤毛が生えている。その真っ赤に後方へなびくように生えた毛はまるで大炎である。一方ランは逆に一回り大きくなっており、体長1.8メートルほどに、全身を覆う毛は光沢があり黄金かと見紛うほど、その黄金の毛に混じって稲光のような黒い模様が特徴的である。また尻尾は細く鞭のようだった以前とは違い太くなっており、腹部は金色ではなく白色の毛で覆われている。
獣人の子供たちは匂いで判別できたようだが、これでは他の子供たちがコロたちを見間違えるのも無理はないだろう。
「ユウ兄ちゃん、なんでコロとランはあんなに変わっちゃったの?」
「なんでって、コロたちの姿が変わるのを見るのは初めてじゃないだろ……ん? 初めてじゃないよな?」
以前、大賢者が召喚した蓮に似た植物系の魔物を倒した際に、ユウは魔玉を真っ二つにしてしまったのだが、それを再び一つにすることは叶わなかったのだ。高ランクの魔玉ゆえか、またはユウ自身の錬金術レベルが低いためか、それとも他に必要なスキルがあるのか。しばらくユウとラスも粘ってみたのだが、復元は現時点では不可能だと判断する。ならば、腐らせておくのもなんなのでコロとランに与えてみたのだ。すると、コロとランはすぐさまランクアップの兆候を示す。もとはランク10の完全な魔玉だ。半分ずつとはいえ、当然といえば当然の結果といえるだろう。ただ――――
「どうして?」
子供たちが純粋な瞳でユウを見つめる。
「どうしてだろうな」
――――ランクが二つも上がるとはユウも想像だにしなかった。コロはランク5の魔炎狼からランク7の大魔焔狼に、ランはランク5の金雲豹からランク7金豹雷にランクアップしたのだ。ランク5のときですら都市カマーへ連れてこないようムッスから言われていたのだが(ユウは無視していた)さすがにランク7ともなれば大問題となることは容易に想像できるだろう。
「困ったもんだよな」
とりあえず今後の対応は後回しにすることを決めたユウは、グラフィーラの様子がおかしいことに気づく。いつもなら真面目なグラフィーラはわざわざユウやマリファの前まで来て挨拶するのだが、挙動不審な様子で近づいてこない。それどころかその場でユウへ会釈すると、そそくさと屋敷へ向かっていく。
「グラフィーラ姉ちゃん、いっちゃった」
「へんなのー」
変なのはグラフィーラだけではない。コロとエカチェリーナも挙動がおかしい。普段の軽やかな足取りはどこにいったのかと見紛うほど、不自然な足取りである。
「確かに変だな」
にやりと意地悪な笑みを浮かべながらユウは立ち上がると、コロたちのもとへ向かうのだが、その行く手をランが邪魔する。
「ナウーン」
妙に媚びた鳴き声でスリスリしてくるのだが、尻尾でコロの身体を叩く。まるで早くこの場から立ち去れと言わんばかりである。
「コロ、どうした? 調子でも悪いのか」
「ワ、ワフッ」
ユウに名前を呼ばれたコロは身体をビクッと震わせ、なんでもないよとでも言うように小さく吠える。
「うーん、なんか怪しいな」
意地悪な笑みを浮かべたままユウがランの横を通り過ぎ、さらにコロへ近づく。
「ちょっと跳んでみろよ」
その言葉にコロは「えっ」と言わんばかりの表情をするのだが、ユウの背後に控えるマリファが見ていることに気づくと観念したようにその場で跳ぶのだが――――
「くくっ、なんだよそれ。いつもは何メートルも跳び上がるのにおかしいだろ」
地面から数センチしか飛び上がらないコロのなんとも情けないジャンプに、ユウから笑い声が漏れ出る。笑うユウとは対照的にマリファからは圧力が増していく。子供たちもなんだなんだと集まってくる。そのとき――――
「にゃぁ」
コロから――――いや、コロの体毛からかなんとも可愛らしい鳴き声が聞こえてくる。
「にゃあ゛ぁ゛っ」
慌ててランが鳴くのだが、周りからは冷ややかな眼を向けられる。
「全然、似てないだろ。ほらコロ、もう一回ジャンプしてみろよ」
「コロ、ご主人様の言葉が聞こえないのですか?」
死を悟った者のように、コロは二度三度と慎重にジャンプする。すると、コロの体毛から毛玉が次々と転がり落ちてくる。毛玉は赤や青に茶色と様々な色をしており芝生の上を転がり止まると、なんとクリクリした二つの眼がパチリと開かれる。すると「にゃぁ」「にゃああ」「にゃあっ」「みゃぁー」と一斉に鳴きだす。
「わあっ! ネコだ!」
「ねこちゃんだ」
「にゃんこがいっぱい!!」
そのなんとも愛らしい姿に子供たちはすぐにメロメロとなる。
「ご主人様、これはツリーキャットの赤子のようです」
毛玉の一つを手のひらに乗せたポコリが、ユウへ毛玉の正体を説明する。ツリーキャットとは、オポッサムのように母親の身体に子を乗せる、またはぶら下げながら子育てをするネコ科の魔物である。
「なんだ親はお前らが喰ったのか?」
「シャーっ!」
心外だとばかりに威嚇するランであったが、ユウの背後から自分を睨みつけるマリファと目が合うと、すぐさま降参とばかりに寝転がり腹を見せる。
「冗談だ。そんなに子供が欲しければ適当に番を見つけてきてやろうか?」
そんなものいらない。失礼しちゃうと言わんばかりに、ランはツンッとした顔をしながら木まで歩いていくと蹲る。どうやらツリーキャットのことは気になるようで、寝ているように見えて薄目でこちらの様子を窺っているようだった。
「お姉さま」
アリアネがマリファの耳元で囁く。どうやらアリアネはグラフィーラから詳しい事情を聞いてきたようで話を聞くと、散歩中にツリーキャットの亡骸を見つけたグラフィーラたちは、まだ生きていた赤子を見捨てることができず拾ってきたのだ。
「まったくあの娘は」
怒るというより呆れた表情でマリファは屋敷へ目を向ける。そこには扉の隙間からグラフィーラが、恐る恐るといった感じでマリファたちの様子を覗き見していた。本人は隠れているつもりなのだろうが、特徴的な狼の耳がピコピコ動いていて目立つのだ。
「マリねえちゃん、このネコちゃんたちどうするの?」
「い~っぱい! いるよー」
「こんなにいたらシスターも飼うの許してくれないよね?」
「えー、かわいいのになぁ」
「すてるの? そんなのかわいそうだよ!」
コロとエカチェリーナを家探しならぬ体毛探しをした結果、ツリーキャットは合計で三十三匹も見つかったのだ。ツリーキャットから解放されたコロたちはお気楽なもので、大きく身体を伸ばすと芝生の上をゴロゴロ転がってはそのあとを子供たちが追いかけている。
「オドノ様、このネコ捨てるのっ!?」
「俺はまだなにも言ってないだろうが。まあ、ネズミの駆除に猫はいてもいいかもな。あとでネームレスに送る」
「いいの?」
「良いも悪いも、ここで捨てるって言ったらお前らがぎゃーぎゃー喚くだろうがっ」
その言葉にナマリや子供たちが笑みを浮かべる。
「ユウって甘いよね~。そんなんじゃ冒険者として失格だよ」
頭と胸にツリーキャットを乗せたニーナが小言を言う。
「ニーナさんの言う通りです。ご主人様が甘々でやんなっちゃう」
ティンがニーナに続くが、メイド服にツリーキャットがしがみついている姿を見れば説得力は皆無である。
「お腹が空いているみたいね。子猫だから牛の乳じゃなくて山羊の乳がいいかしら」
「ランク1とはいえ魔物なんですから気にしなくていいでしょう」
アリアネとポコリは小走りで屋敷へ向かっていく。その後はツリーキャットに乳を与えるグループと、コロたちと遊ぶ子供たちの騒がしい声が庭に響く。
「ユウにいちゃ~んっ」
「なんだよ」
読書を再開していたユウは、頭に響く声に面倒くさそうに返事する。
「ランがね、なでなでしたいのにさわらしてくれないの」
「くれないのっ!」
子供たちが指差す方向を見れば、離れた場所で寛ぐランはこちらの視線に気づいたのか、後ろ足をV字に開いて挑発する。大事な場所は尻尾で隠しているのだが、なんとも人をおちょくった態度であった。
「あーっ!」
「そういうのよくないんだよっ」
「ユウにいちゃ、めっ! てして!」
簡単に挑発に乗せられた子供たちは怒り心頭といった感じなのだが、ユウは小さくため息をつくと。
「前にコロと戯れてて押し潰されそうになったのを忘れたのか?」
「えー、大丈夫だよ」
「うん。わたしたちだいじょぶだもん」
「ちゃんと気をつけてるもんね」
「ウソつけ。ランはお前らを気遣って距離を取ってるんだ、そっとしといてやれ」
子供たちは「大丈夫なのになぁ」と言いながらも、渋々とコロやツリーキャットたちのもとへ散っていく。
「ナマリ、どうかしたのか?」
「そろそろだから」
「そろそろって……なにが?」
ナマリのそわそわと落ち着かない様子に子供たちは不思議そうに見つめる。そわそわしているのはナマリだけでなく、いつの間にかナマリの帽子から出てきていたモモまでチラチラとユウのほうを見ているのだ。
「ご主人様」
「ん? もうそんな時間か」
マリファの言葉にユウは読んでいた本を閉じて立ち上がる。
「……おやつの時間?」
「レナっ、いつの間に来たのですか」
マリファが空を見上げると、箒に跨ったレナが空中からユウたちを見下ろしていた。
「……私を除け者にしておやつを食べるなんて、神が許しても私が許さない」
鼻をフンフン鳴らしながら息巻くレナであったのだが。
「あなたが勝手に夜ふかしして、今までぐーたら寝てただけではないですかっ」
痛いところを突かれたのか。さっきまでの威勢はどこへやら、どんどん箒の高度が落ちていき、レナは地面に降り立つ。
「おやつっ!?」
「聞いたか? おやつの時間だって!」
「やった!!」
「あっ! レナ姉ちゃんだ!」
「おやつおやつ~!」
「わ~い!」
耳聡くおやつという言葉を聞きつけた子供たち――――よりも早くコロたちがユウのもとへ駆けていく。
「ぼく、タマネギ食べれるよ!」
「俺も俺も! チョコレートも! 食べたことないけどっ!」
「あたしだってたべれるもんね!!」
「あのね、あのね? あたちナッツもたべれるよ?」
(うるさいな)
子供たち――――特に獣人系の子供たちがなにを食べれるかをアピールしてくる声に、ユウは内心で呟く。これは以前、ユウが孤児院のシスターに獣人系の子供に食べさせてはいけない食べ物を確認したのを、子供たちが見聞きしていたのだ。それ以来、なにかにつけて何々は食べれるとアピールしてくるのでユウはうんざりしているのだが、ここで「うるさい」などと言おうものなら「なんで? なんで?」の質問攻めにあうので大人しく黙っているのだ。
「こいつらのおやつの前に――――」
「ご主人様、このあとカマーへ買い物に行くので子供たちのことなら、私からシスターへお伝えしておきます」
「よくわかったな。それじゃ頼む」
魔人族のネポラがユウに言われるまでもなく察したことに、マリファは満足そうに、だが大きくではなくわずかに頷く。ユウに仕えるマリファとしては主の前で大仰な身振りで目立つわけにはいかない。あくまでユウの傍で、影のように仕えるのが己が役目と思っているのだ。
「ええーっ!? シスターに言いつけるの?」
「なんでー!」
「あのね? ないしょにしておねがい」
「あたしたちおこられちゃうよ」
「どうせシスターに黙ってここに来たんだろ。怒られろ、いい気味だ」
子供たちが一斉に言わないでと抗議するが、ユウは一蹴する。
「ナマリ、人数が多いからアプリと苺を集めてこい」
本来は違うおやつの予定だったのだが、多くの子供が訪ねてきたのでユウはおやつを変更する。
「わかった!」
屋敷の庭にはヒスイの影響で異常繁殖しているのは木々だけではない。果樹や苺などの果実が生る多年草にまで影響を及ぼしているのだ。そのため、ユウたちだけでは消費しきれないほど果物が生っている。
ナマリが元気よく返事して走っていくと、子供たちも慌てて追いかけていく。
「ご主人様、ヨーグルトをお持ちすればよろしいでしょうか」
「そうだな。人数も多いし、ここで食べるか」
「では、すぐに」
アプリの実と苺からユウがなにを作るのか察したマリファが、すぐさまティンたちに命じて食材から食器に調理用の場所まで用意させる。少し離れた場所では、子供たちが楽しそうに果物を収穫する声が聞こえる。
「ユウ兄ちゃん、用意したよ」
「ちゃんとあらったんだから」
「おててもあらったの」
毎度、言われてるからなのか。子供たちはユウに言われる前に果物だけではなく手まで洗っていた。
ユウとマリファは籠に入ったアプリの実をさいの目に切っていく。その横ではティンたちが苺のヘタを取り除きながらカットし、さらにその横では大量のヨーグルトとカットされたアプリと苺をニーナとレナが混ぜ合わせる。
「ほら、受け取ったら食べていいぞ」
木製の皿とスプーンを受け取った子供たちが顔を輝かせる。
「ティン姉ちゃんは食べないの?」
「ふっふっふ。ティンたちは朝から仕込んでいるフレンチトーストがあるから、今から楽しみでやんなっちゃう」
「ティン、そのだらしない顔はなんですか」
「はっ、ティンとしたことが」
涎を垂らさんばかりのティンがマリファに注意されて顔を引き締めるのだが、頭の中ではニーナたちはここでおやつを食べるのだから、その分をどうやって手中に収めるかを画策していた。
「コロたちのぶんもあるのかな?」
「あるぞ。ただコロたちのは砂糖抜きで――――」
(いや、コロたちは魔獣だから砂糖を入れても大丈夫なのか?)
ユウがコロたちを見ると、キリッとした表情でコロが見つめ返してくる。その姿に気が抜けたユウは、さっさとコロたちのおやつを用意していく。
「おいしいー! ユウ、おかわり~!」
「ニーナ姉ちゃんだけズルいぞっ!」
「……ニーナは食いしん坊」
「ではレナはいらないんですね」
「……そ、そんなことは言ってない」
ニーナが遠慮なくおかわりするので、子供たちも気兼ねなくおかわりすることができた。
楽しい時間を過ごし、甘いミルクティーにフルーツヨーグルトを食べて大満足の子供たちは芝生の上に寝転がる。
「食べてすぐ横になるのは身体に悪いですよ」
「は~い」
同じように横になろうとしていたナマリが「そうだ、よくないんだぞ!」と言い放ち、頭の上のモモにペシリと叩かれると子供たちは大笑いする。
「ユウ兄ちゃん、おいしかった。ありがとうね!」
「食べさせなきゃ、お前らうるさいからな」
「ええ、俺ら静かだよ」
「おぎょうぎいいもんね」
小生意気な子供たちを見ながらユウは鼻で笑う。
「どこの誰が行儀がいいって? ああ……そうだ。最近のあいつはどうなんだ?」
ユウの要領の得ない問いかけにポカーンとしていた子供たちだったが、その内の一人が思い当たることがあったのか口を開く。
「あいつってジョゼフさん?」
「あ? 俺はジョゼフのことなんて聞いてないんだけどな。お前がどうしてもって言うなら聞いてやるか」
「ええっ」と言う子供たちをよそに、ニヤニヤ笑っていたニーナがユウの放った魔力弾で尻を狙い撃ちされ「やめてよ~」と逃げていく。
「それで、どうなんだ?」
「ジョゼフさんなら最近は見ないよ」
「うん、みないよねー」
「いなくなっちゃったのかな?」
「なんだそりゃ」
そう言いつつもユウは内心では。
(明日にでも様子を見に行ってやるか)
※
「へ~、あれがカマーか」
都市カマーより30キロほど離れた――――上空に浮遊しながらローブ姿の男が人知れず呟く。
名前 :ユウ・サトウ
種族 :人間
ジョブ:魔法戦士・付与士・剣聖
LV :69
HP :4752
MP :5307
力 :922
敏捷 :848
体力 :967
知力 :869
魔力 :938
運 :1
パッシブスキル
剣術LV8
斧術LV7
短剣術LV6
棍術LV6
体術LV8
槍術LV7
槌術LV8
盾術LV7
杖術LV6
投擲LV7
豪腕LV5
身体能力激化LV4
敏捷激化LV3
索敵LV7
統率LV7
威圧LV6
夜目LV6
属性耐性LV9
HP回復速度激化LV3
MP回復速度激化LV4
罠発見LV6
忍び足LV6
状態異常耐性LV9
剥ぎ取りLV6
皮膚硬化LV3
魔龍眼LV5
高速再生LV6
料理LV5
魔法耐性LV9
軽装備時、敏捷強化LV3
重装備時、防御力強化LV5
重装備時、筋力強化LV5
回避LV7
詠唱破棄
魔力強化LV7
消費MP激減LV3
調教LV7
騎乗LV5
剣装備時、攻撃力強化LV2
クリティカル確率上昇LV3
クリティカル威力上昇LV3
光の加護
闇の加護
アクティブスキル
剣技LV8
聖剣技LV4
暗黒剣LV3
闘技LV6
短剣技LV4
棍技LV5
杖技LV5
格闘技LV5
魔拳LV8
槍技LV6
盾技LV7
斧技LV6
槌技LV7
武技LV6
戦技LV5
白魔法LV8
黒魔法LV8
死霊魔法LV8
付与魔法LV7
暗黒魔法LV7
精霊魔法LV5
時空魔法LV7
召喚魔法LV7
古代魔法LV5
龍魔法LV5
神聖魔法LV3
魔法剣LV8
鍛冶屋LV5
錬金術LV8
盗むLV4
隠密LV6
鑑定LV4
解析LV3
咆哮LV6
開錠LV5
罠設置LV5
罠解除LV5
結界LV8
魔力覚醒LV7
ブレスLV5
従属強化LV7
従魔強化LV7
使役LV6
状態異常攻撃LV8
固有スキル
異界の魔眼LV5
強奪LV4
眷属従属LV3
ビーストキラー
聴覚上昇
再生
剛力
精霊の囁き
並列思考
開門
インセクトキラー
龍殺し
聖獣殺し
疾空無尽
虚空拳
装備
武器:黒竜・燭(3級):攻撃力激化・自動修復・黒竜の息吹
防具:飛行帽捌式(1級):自己再生・全耐性激化・物理耐性激化・魔法耐性激化・龍絶界
:龍晶ミツハのゴーグル(1級):盲目無効・龍眼癒・龍破眼
:アダマンタイトの鎧(3級):物理耐性激化・HP回復速度強化・MP回復速度強化
:黒竜鱗のガントレット(3級):物理耐性激化・魔法耐性激化・闇耐性強化
:聖獣革のブーツ(3級):聖耐性激化・聖の加護
:黒竜鱗の盾(3級):物理耐性激化・魔法耐性激化・闇耐性強化
装飾:ミラージュの指輪(3級):解析に対して偽って表示する
:薄倖攻転の指輪(3級):運のステータスが低いほど攻撃力が上昇する
:堕罪のイヤーカフ(3級):猛毒耐性激化・麻痺耐性強化・睡眠耐性強化
黒竜剣・濡れ烏(3級):呪詛(遅延)・攻撃時にMP吸収(大)・斬撃時に対称の魔法耐性を半減・呪い(精神汚染・激痛・意識混濁・呼吸困難)
名前 :ニーナ・レバ
種族 :人間
ジョブ:シーフ・暗殺者・影法師
LV :46
HP :1611
MP :802
力 :508
敏捷 :734
体力 :465
知力 :195
魔力 :394
運 :22
パッシブスキル
索敵LV7
罠発見LV7
短剣術LV7
忍び足LV6
短剣二刀流LV6
暗殺術LV7
回避LV7
敏捷強化LV6
剥ぎ取りLV6
クリティカル確率上昇LV1 NEW!
クリティカル威力上昇LV1 NEW!
アクティブスキル
盗むLV5
潜伏LV7
罠解除LV7
隠密LV6
闘技LV3
短剣技LV7 ↑UP
暗殺技LV6
開錠LV7
鑑定LV6
罠設置LV5
影転移
影技LV5
固有スキル
魔導縮地
装備
武器:黒竜・爪(3級):切れ味激化・攻撃時に一定確率で猛毒状態 黒竜・牙(3級):貫通力激化・攻撃時に一定確率で麻痺
防具:聖獣革の鉢金(3級):攻撃力強化・防御力強化・HP回復速度強化・聖耐性激化・聖の加護
:黒竜革のジャケット(3級):竜耐性激化・物理耐性激化・自己修復
:カンダタの篭手(3級):斥候職系のステータス強化
:大盗賊の靴(3級):敏捷激化・斥候職スキル強化
装飾:鬼の腕輪(3級):腕力激化
:シスハのペンダント(5級):解析LV3まで防げる。またステータスの部分だけにブロックを掛けることも出来る
:竜の腕輪(4級):全能力上昇
:韋駄天のピアス(3級):敏捷激化
:幻魔のピアス(3級):幻惑無効
:闇烏の襟巻き(3級):暗闇無効・夜目強化・気配遮断
予備武器:白竜光牙(3級):聖光属性・攻撃時にHP・MP吸収(中)
:ミスリルダガー(4級):攻撃時にMP吸収(微小)
:ダマスカスダガー(4級):攻撃時にHP吸収(微小)
予備装飾:黄金糸のスカーフ(4級):物理耐性強化・火水耐性強化
:妖精のピアス(4級):幻惑耐性強化
:小人のピアス(5級):敏捷上昇
名前:レナ・フォーマ
種族 :人間
ジョブ:魔術師・魔女・賢者
LV :47
HP :710
MP :3041
力 :119
敏捷 :180
体力 :144
知力 :738
魔力 :773
運 :16
パッシブスキル
杖術LV6
詠唱破棄
MP回復速度激化LV2
魔力強化LV7
消費MP半減
杖装備時魔力強化LV4
杖装備時知力上昇LV2 ↑UP
ローブ装備時、知力強化LV2
ローブ装備時、魔力上昇LV3 ↑UP
魔法耐性LV7
知力強化LV1
アクティブスキル
白魔法LV6
黒魔法LV7
付与魔法LV3
古代魔法LV2 ↑UP
精霊魔法LV1
神聖魔法LV2 ↑UP
暗黒魔法LV1
召喚魔法LV1
結界LV7
魔力覚醒LV6
杖技LV3
固有スキル
なし
装備
武器:龍芒星の杖・五式(2級):魔力激化・知力激化・消費MP激減・四大属性激化・精魂 ミスリルの箒(4級):魔力強化・詠唱速度上昇・MP回復速度上昇・風の加護
防具:黒竜の帽子(3級):竜耐性強化・MP回復速度激化・物理耐性強化
:ミスリルのローブ(4級):魔法耐性強化
:天魔ゾフィーヌの手袋(3級):魔眼無効・魔耐性激化・黒魔法強化・暗黒魔法激化
:アークデーモンのマント(3級):魔法耐性激化・MP回復速度強化・消費MP減少
:大魔女の靴(4級):魔力強化・MP回復速度強化・魔法耐性強化
装飾:
:木龍の指輪(3級):魔法耐性強化・体力激化
:木龍珠のアミュレット(3級):物理耐性激化・体力強化
:強命の指輪(3級):HP500増幅・HP8%上昇
:聖天使のピアス(4級):白魔法上昇・神聖魔法強化・聖耐性強化
:闇のピアス(4級):闇耐性強化・呪い耐性強化
:闇のネックレス(3級):闇耐性激化・呪い耐性激化
:闇のアンクレット(4級):闇耐性強化・呪い耐性強化
:魔王セーンの指輪(3級):第5位階までの魔法攻撃吸収MP変換
闇シリーズのセット効果
地水火風耐性強化・MP300上昇
名前 :マリファ・ナグツ
種族 :ダークエルフ
ジョブ:調教士・虫使い・樹霊術士
LV :46
HP :1189
MP :1225
力 :394
敏捷 :434
体力 :451
知力 :404
魔力 :502
運 :3
パッシブスキル
弓術LV3
マリスの魔眼LV6
調教LV6
操虫術LV6
身体能力強化LV3
木の加護
詠唱速度強化LV2 NEW!
無詠唱LV4
料理LV2
アクティブスキル
弓技LV3
精霊魔法LV3
従属強化LV6
使役LV6
従魔強化LV6
騎乗LV4
樹霊魔法LV5 ↑UP
虫召喚
固有スキル
なし
武器:神霊樹の弓(3級):幽体系に大ダメージ・身体能力強化・命中率激化・樹霊魔法強化
防具:風竜革のジャケット(3級):敏捷激化・重量軽減・魔法耐性強化
:霊樹の靴(4級):恐慌耐性強化・魔力上昇
:女王蟲クインの手甲(2級):斬撃半減・打撃半減・従魔(虫・蟲系のみ)激化・従属(虫・蟲系のみ)激化
装飾:黒竜のチョーカー(3級):筋力激化・竜耐性強化・物理耐性強化
:黒竜のバングル(3級):物理耐性激化・魔法耐性激化
:アーティスのアミュレット(4級):聖・闇耐性上昇 恐慌耐性強化
:木龍の腕輪(3級):全能力強化・魔法耐性強化
:獣魔の指輪(4級):従魔強化・使役強化
:使役の指輪(4級):従魔の支配力強化
名前 :コロ
種族 :大魔焔狼
ランク:7
LV :1
HP :34398
MP :2003
力 :1565
敏捷 :1348
体力 :1630
知力 :356
魔力 :741
運 :23
パッシブスキル
敏捷激化LV3 ↑UP
忍び足LV7
嗅覚LV7 ↑UP
火属性無効 NEW!
統率LV3
アクティブスキル
咆哮LV8 ↑UP
噛み付きLV8 ↑UP
隠密LV5
闘技LV4
灼熱のブレスLV1 NEW!
焔鎧LV1 NEW!
固有スキル
なし
装備
武器:なし
防具:なし
装飾:王銀の首輪(3級):身体能力激化・魔法耐性強化
セット装備
王金・王銀の首輪を装備している者同士が
近くにいる際、HP・MPが一定時間ごとに
回復する。
名前 :ラン
種族 :金豹雷
ランク:7
LV :1
HP :7892
MP :6127
力 :933
敏捷 :1785
体力 :887
知力 :724
魔力 :968
運 :32
パッシブスキル
敏捷激化LV5 ↑UP
嗅覚LV5
気配察知LV7
魔法耐性LV7 ↑UP
雷耐性LV7 NEW!
アクティブスキル
隠形LV7
闘技LV4 ↑UP
噛み付きLV5
付与魔法LV6 ↑UP
雷毛帯 NEW!
雷爪 NEW!
固有スキル
雲海
装備
武器:なし
防具:なし
装飾:王金の首輪(3級):身体能力強化・魔法耐性激化




