第90話/奴は、突然やってくる。
コンビニで買った昼飯を食べ終えた時、それは突然やってきた。
まるで今までものを纏めて吐きだすかの如く、勢いで俺に襲いかかってくる。
このままでは、負ける!
そう確信した俺は、安全地帯へ向けて、すぐさま走り出す。
安全地帯まで後、数歩!
ドアを思いっきり開け放つと、周りの状況などロクに確認せず、飛びこむ!
迫りくる衝撃に備え、俺は腰から下に有る拘束物を外し、対ショック体制を取る。
「この戦い、勝った!」
俺が勝利を確信すると同時に、鈍い唸り声と共に衝撃が襲ってくる。
衝撃をやり過ごした俺は、その安心感から油断していた。
しかし、その油断が行けなかった。
後に俺は思う、何故あの時確認しなかったのかと。
「か、紙が無い・・・だ・・と?」
しまった。なんと言う油断。
焦るあまり、一番重要な物を見落とすとは・・・。
「さて、どうするかな。」
いきなりの腹痛で自室のトイレに駆け込んだはいいが、紙が切れてたのを失念してた。
まぁ落ちつけ、俺。こんな時程、状況整理だ。
今、トイレの中に紙は無い。
予備はドアの向こうにある戸棚の中だ。
しかも、来夢は今実家に帰省中。
「あれ?これ、積んだんじゃね?」
どうしたものか。・・・待てよ?
ドアの向こうに、紙はあるわけだ。
「なら、ドアを開けて取ればいいだけじゃね?」
何だ簡単なお仕事だったな・・・ガタン?
何だろうか、この嫌な予感のする音は・・・。
おちつけ、まずはドアを開け・・・開け!
「ド、ドアが開かない・・・何故!?」
はっ!まさか!いや、そんなバカな。
これが怖い話シリーズにある、トイレに閉じ込められる現象か!
「いやいやいや、そんなバカな。そもそもドアの前に物なんて・・・。」
そういえば、来夢が通販で買った何かを置いてたな・・・あれか!
「ちょっ!マジで!?このトイレ窓無いよ!?」
やばい、ケータイもないし・・・これはマジでピンチなのでは?
仕方ない、ここはドアを壊すしか・・・壊れるのか、これ?
「ただいま。誡・・・はEOWかな?」
はっ!この声は!
紙は!違った、神は俺を見捨て無かったようだ!
このチャンスは生かすしかない!
「来夢!居るのか!頼む、助けてくれ!」
ドアを必死に叩きながら、ひたすら叫ぶ!
頼む、この声届いてくれ!
「わぁ!何!?・・・その声、誡?どうかしたの?」
「ド、ドアがね!開かないの!しかも、紙がないの!ガチで助けて!」
あれ?おかしいな、普通に助けを求めたはずなのに、俺の声が震えてるの何故?
何だろう、頬をなんか生温かい液体が流れている様な・・・。
「あ!これが邪魔で開かないんだね。ちょっと待って、今退かすから。んっ。お、重い。」
おお!ドアの向こうでは、来夢が必死に何かを持ちあげてる様だ・・・。
それにしても、そんな重い物・・・一体何を買ったんだ?あいつ。
はっ!それより、まずは紙だ!
鍵は既に開いている、後は紙を取ってもらうだけ・・・あれ?
馬鹿な!ドアが開いていくだと?
「はい、紙。・・・って、誡。何で泣いてるのさ。」
あ、うん。紙は有りがたいんだけど・・・何故いきなり開けたし。
正直、かなり恥ずかしいんだが・・・。




