第64話/ピンチの時には華麗に登場!
やぁ!皆、元気?
俺は絶賛ピンチの真っ只中です。
そして人間現実逃避したくなると、どうでもいい事を思い出すみたいだ。
膝枕してた凛が、俺を起こせないとか言ってたけど・・・最終的に俺を起こしたの凛だよな、あれ。
やっぱり矛盾してるよな?
それとも、あれですか?
最初の言葉は所謂、テレ隠しってやつですか?
その辺どうなのよ?凛。
お?俺の心の声が届いたか!凛がこっちを見ているぞ?
「この馬鹿!さっさとそこから退きなさい!死ぬわよ!」
「いや、退きたいのは山々なのだが・・・正直、体が痺れて動けない。助けて、マジで!」
さて、何故開幕から俺が思いっきり現実逃避してたかと言うと・・・まぁ言葉通りだな。
俺と凛は現在進行形で、【月夜の草原】のボス【シルバーファング】に挑んでいるわけだ。
この【シルバーファング】が厄介で、どうやらこいつの攻撃をまともに受けると、痺れて動けなくなる様だ。
全く、そんな効果があるなら初めに教えてくれよ・・・思いっきり攻撃を受けてしまったじゃないか。
ちなみに【シルバーファング】は今、凛をタゲっている為ここには居ない。
そう、ここには居ないのだが・・・周りをシルバーウルフが囲んでいるんですけど。
ぶっちゃけ、ピンチには変わらないよね?
そんなわけで、現実逃避をしてたのだが・・・やっぱり現状は変わらないらしい。
流石にこのままだと開始10分で、早くも死亡判定を受けそうなので対策を立てねば!
・・・というわけで、誰か助けて!
「KAIN!状態回復のポーションが無いなら、時間で麻痺が消えるまで耐えなさい!」
マジで?
ふむ。どうやら凛も【シルバーファング】を引きつけて置くだけで精一杯みたいだな。
さて、どうしたものだろうか?
先ほどから、いい感じに俺のHPバーが減っていくのだが・・・。
それに伴い、回復する度に消えるアイテムストレージのポーション。
このままだと、マジでやばいんじゃね?俺。
何故か、応援で呼んだあいつは来ないし・・・。
来るって言ってたのに、何かあったのだろうか?
ちなみに、凛の友人を応援で呼ばないのか?と質問した所、返答は察しなさいとの事だ。
ふむ、あいつ・・・実は友達が居ない残念な子なのか?
むっ!殺気!?って、凛が凄い形相でこちらを睨んでいるのだが・・・睨む余裕があるなら助けてよ。
「さてと・・・そろそろポーションが尽きそうだな。ここは潔く死ぬしかないのか?」
「・・・そんな戯言、聞く耳持たん!回復に集中しろ!」
お?なんか、聞き覚えのある声が聞こえたような・・・あぶね!掠ったよ!今、矢が掠りましたよ!
動けない俺の頬を掠った矢は、目の前から攻撃してきてたシルバーウルフに見事突き刺さってるし。
よく見たら俺の周りに居たシルバーウルフ、矢を受けて全滅してるし・・・お?体動くようになった。
「異変を察して、駆けつけたのだが・・・どうやら間にあった様だな。」
いやいや、このアチャー何言ってるの?
思いっきり遅れてますよ?・・・まぁ助かったけどさ。
「そう睨むな。私とていつも暇なわけではないさ。少し野暮用を片付けていたのでな。」
俺はHPバーの回復をしながら、凛と俺のPTにアチャーを加える。
それにしてもどうでもいいがアチャー、その仕草に意味はあるのか?
合流早々、肩を竦めて答える姿が・・・何というか、様になっているので余計にむかつく。
助けて貰って何だけど・・・ここは文句の一つでも言っても良い気がする。
「忙しかったのなら、無理しなくてもよかったんだが・・・。」
「何を言う。マスター自らが声をかけてくれたのだ。私が断る筈も無かろう。」
いや、俺・・・いつからお前のマスターになったよ?
どうやら、前回のイベントでシノが殿と言ってたので、アチャーはマスターと呼ぶ事にしたらしい。
うん。それやめて、お願いだから。これ以上同類にしないで。
「それに野暮用と言っても、上司に早退申請を出しただけだ。気にする事でも無かろう。」
「いやいや、アチャー。今の内容だけでも、気にする事も突っ込むべき事もあるぞ!?」
どうもアチャーな人が言うには、先ほどまでは会社でログインしてたが、本格的に手伝う為にわざわざ早退して、自宅からログインし直した様だ。
というか・・・会社でサボってVR機器使うなよ。
むしろ、どうやって使ってるんだよ・・・バレるだろ、普通。
「そういうものか。それよりもマスターよ、私はアーチャーで有り、もっと言えば名前はルシファーなのだが・・・。」
「うん、知ってる。」
だが、その名を呼ぶ事は断る!
今の会話でもそうだけど・・・この人、絶対アチャーであってると思うのだが。
「・・・そうか。ならば、仕方があるまい。時にマスター、そろそろ助けなくても良いのかね?」
「あ!」
そうだった、言われるまで凛の存在を忘れてた。
それにしても凛の奴、ずっとタゲられてるのに無傷とか・・・よく回避できるな。
このままタゲを取って貰っておけば、楽に倒せるんじゃね?
「KAIN!いい加減、体制整ったなら助けなさいよ!それと、そこの赤いの!見てたなら援護射撃くらいしなさいよね!」
ふむ、どうやら見た目よりも厳しいみたいだな・・・それにしても、最後の言葉はどういう事なのだろうか?
ん?なんか、アチャーの様子が・・・驚いてる?
「・・・そんなバカな!登場のチャンスを窺っていた私に、気が付いていたとでも言うのか!?」
・・・え?こいつ、登場のチャンス何て窺ってたの?
こっちがピンチなのに?
うわぁ・・・俺の感謝を返せ。




