第57話/点滴は・・・飲み物です!って誰かが言ってた。
財布を手に再び自販機へ来ると、少女はまだ残っていた。
手に先ほど買った飲み物が無い所を見ると、誰かを待ってでもいるのだろうか?
まぁいいや、とりあえず飲み物を・・・ん?
何だろう?少女に凄く見られてるのだが・・・俺、何かおかしいか?
いやまぁ、点滴を手に持っているのはおかしいかもしれないが・・・。
というかこの点滴、手に持ってからというもの、全然量が減ってない気がするのは気のせいだろうか?
まぁ気のせいだろう・・・うん、そういう事にしておこう。
さて、それよりも飲み物だ。
喉も乾いている事だし、ここは冷たいものでも・・・むっ?左手がふさがって財布が開けにくい。
くそ!こうなったら点滴を指先で挟んで・・・よし!財布が開いたぞ!
さて、財布が開いたのはいいが・・・どうやってお金を取り出すべきか。
仕方がない、こうなったら・・・。
「そこの少女、悪いんだけど・・・これ持っててくれないか?」
「え?あ、はい!」
なんか、すごく驚かれたけど、やっぱり点滴を他人に持たせるのは不味かっただろうか?
まぁいいや。
さて、飲み物を・・・。
「あ、あのお兄さん、これ・・・。」
「ん~?どうかしたか?」
やっぱり点滴をいきなり持たされるのは嫌だったのだろうか?
まぁ普通は嫌か。
さっさと買って、回収するとしよう。
「いえ・・・この点滴、外れてますけど?」
「へ?」
あ!振り向いた反動でボタン押しちまった。
俺、いったい何を押したよ・・・レモン100%ジュース?
馬鹿ですか?何で病院にこんなものがあるんだよ!
っと、それよりも点滴は・・・あ~マジだ。思いっきり腕から針が抜けてる。
「大丈夫なんですか?」
「・・・まぁ何とかなるだろう。どちらかというと、この飲み物の方が問題だ。」
レモン100%とか、もはや飲み物じゃないだろ、これ。
とりあえず、少女から点滴を回収した所で、近くの椅子に座って飲んでみる事に・・・やべ、マジで酸っぱい。
これ、人の飲み物じゃないから・・・余計に喉乾くから。
それにしても、少女がまだ俺の事を見ているのだが・・・。
ふむ。この状況で思いつくと言えば・・・。
少女が仲間に成りたそうにこっちを見ている、仲間にしますか?YES/NO。
ここはYESを選ぶべきなのだろう・・・って、何処のRPGだよ、それ!
・・・一人脳内、ボケ&突っ込みって、寂しいな。
とりあえず、声をかけてみるか・・・。
「それで、俺に何か用か?」
「え!?え~っと、お兄さん・・・暇ですか?」
まぁ思いっきり暇なわけだが・・・。
話してみるとこの少女、名前は水瀬 歩と言うらしい。
何でも小さい頃に事故に遭い、両足が動かなくなっていたそうだ。
何故過去形かというと、半年前にここの大学で手術には成功しているので、事実上動けるはずらしいのだが・・・。
「名前が歩なのに・・・情けないですよね?」
「ん~。まぁ使っていなかったのをいきなり使おうとすれば、そりゃ~怖いと思うのも普通だろ?」
要は、まだ自分の足で立つのが怖いらしく、試していないそうだ。
まぁ理屈はわかるな。
ずっと乗っていなかった一輪車とかにいきなり乗ると、バランス感覚取り戻すまで怖いってのと一緒だろう・・・多分だけど。
「あはは。はぁ・・・ヴァーチャルの世界なら歩けるのに・・・。」
ふむ。どういうことだろうか?
詳しく聞いて見ると、治療の一環で1カ月前くらいからVR機器を使って、仮想空間での歩行練習を行っているそうだ。
仮想空間では、1週間程で歩けるようになったそうだ。
「まぁ今は、歩行練習よりもネットゲームにはまってるんですけどね。お兄さん、知ってますか?END OF THE WORLD ONLINEって言うんですけど。」
「ああ。俺もやってるからわかるが・・・。」
あのゲームができるってことは・・・それなりに歩行できるんじゃないのか?
というか、そもそもこの病院から接続できるのか!?
できるなら暇つぶしに、俺もアクセスしたいのだが・・・。
「・・・接続を考えているなら多分、無理だと思いますよ?私は専用の機器にこっそりインストールしてやってますし・・・。」
何故考えがばれたし・・・俺ってそんなに読まれやすいのだろうか?
さて、話し込んでいるのはいいが・・・俺の手にはそろそろ温くなって来ている危険物質が一つ。
この飲み物をどうしたものか。
せめて中和できるものがあれば・・・点滴?
そういえば、前に知り合いが点滴は飲めるとか言ってた気が・・・やってみるか!
「ちょっと、お兄さん!?」
「いや、知り合い曰く、飲めるらしいから大丈夫だろう?」
点滴袋の上を針で破いてレモンジュースを入れたら、歩に驚かれた。
ふむ。やはり針を使ったのは衛生的によくなかっただろうか?
まぁ液体には触れてないだろうし・・・大丈夫だろう?
いざ!液体処理へ!
「だ、大丈夫なんですか?」
「ふむ。意外とうまいかも・・・ん?」
レモンの酸っぱさが弱まって、意外といけるな~っと思っていたら見周りのナースに見つかった。
事情を説明した所、ものすごく怒られたのだが・・・何故だろうか?
ついでに点滴はその場で回収されてしまった。
ふむ、意外とあの味は嫌いじゃないのだが・・・。
「あはは。お兄さん、良ければまた、お話してくださいね!それじゃ!」
「え?あ。・・・行ってしまったか。」
ついでに、ナースに連れられて歩も部屋に戻った様だ。
それにしても、どうしたものか・・・俺、明日には退院できるんだが。
まぁ今度、見舞いにでもくればいいか。
さて、俺も部屋に戻・・・そういえば、俺の部屋って何処だっけ?
どの道も似た様に見えるんですけど・・・。
結局、病棟というダンジョンを攻略して自室に付いたのは、それから30分だった。
まぁ良い暇つぶしはできたか・・・疲れたけど。