第56話/暇な俺と車椅子な少女・・・手持ち点滴~って、駄目ですか?そうですか。
暇だ・・・。
マジで、暇すぎる!
面会時間が終わって雫が帰ってからというもの、何もやる事が無い俺は暇すぎて困る。
軽い栄養失調で倒れたとはいえ、基本的には苦しくも何ともない俺には、ただ寝てるだけとか正直つら過ぎる!
点滴を打ったおかげか、今ではだるさすら感じないし・・・というか、点滴すごいな。
あれか?俺にとっての点滴はリアルのポーションか?
逆に言えば、これを大量に購入すれば、倒れる度に回復できるんじゃ・・・だめだ。注射器、使えない。
下手に打って、空気でも入ったらシャレにならないからな。
仕方がない、諦めよう・・・それにしてもこの脳味噌もいい感じでゲーム脳になってきたな。
さて他に思いつく事は・・・。
だめだ、下らない事でも考えて時間を潰そうと思ったが・・・正直ネタ切れだ。
俺の知識、底を尽きるの早いな~。
絶対俺、遊び人から賢者に転職は無理だわ・・・あれ?転職順あってるっけ?これで。
というか、時間つぶせそうな持ち物がケータイとLINKSって・・・。
そもそも病院内だからケータイは勿論、LINKSなんて余計に接続できるわけがない。
つまり、今の俺には暇つぶしに使えるものが何一つないわけだ。
せめて、漫画か小説の一つでもあれば・・・。
そう贅沢は言わない、クロスワードパズルとか数独なんていう贅沢は・・・雫に頼めば良かった。
「喉乾いたな・・・買いに行くか。」
一応点滴は打っているが、喉の渇きは別だしな。
そういえば、この状態で飲み食いってしていいのだろうか?
まぁいいか。
それにしてもこの点滴・・・ふむ。とりあえず動ければいいか。
そんなわけで、近くの自販機まで点滴を持って出てきたわけだが・・・。
自販機の前で一人の車椅子少女が、超必死に腕を伸ばしてる。
どうやら自販機の中段辺りに、お目当ての飲み物があるようだ。
「ん~!あと少し~!」
おお!頑張れ!
それにしても、腰とか浮かしてる腕がすげープルプルしてるな・・・不謹慎だが見ていて面白い。
あ。諦めた。
「はぁ。もう少し何だけどな・・・。」
なんか、落ち込んでるし。
ジュース買えずに落ち込んでる人、始めてみたよ俺。
というか、中段のボタンならそんなに無理しなくても・・・もしかして気がついてない?
「中段なら、下の番号ボタンを押せばいいんじゃないのか?」
「へ?」
流石にこれ以上、ただ見てるのも意地が悪いので、一応忠告してみる。
仮に、彼女が中段のボタンを押す練習をしているのなら、余計な御世話なんだけどな・・・。
あれ?マジでわかってない?なんか不思議そうに首傾げてるし。
「いや、だから・・・ほら、そこに番号の割り振られたボタンあるだろ?高い所のボタンが押せない人用の。」
「ええ!これ、そうだったの!?」
ふむ、どうやら本当に知らなかっただけみたいだな・・・筋トレ的な何かだったら面白かったのだが、特にあのプルプル感が。
目的の飲み物番号を調べて、あっさり押してるし。
というか、今まではどうしてたのだろうか?
「ありがとうございます。助かりました!」
いや、俺はお礼を言われる覚えは無いんだけどな。
とりあえず、俺も飲み物を・・・あ、財布忘れた。
仕方ない、諦めて一旦出直すか。
「あの・・・飲み物、買わないんですか?」
「・・・財布を忘れたから取ってくる。」
思いっきり間抜けな俺の解答に、少女は苦笑してるし・・・。
というか、自販機の前まで来て引き返すのがそんなにおかしいのだろうか?
違うか。自販機の前に着くまで、財布が無い事に気がつかないのがおかしいんだ。
「あの!そんな状態で来てるくらいですから、喉・・・乾いてるんですよね?出しましょうか?」
なんか、すげー心配そうにされたんだけど、そんな少女に気を使わせるような格好してるか?俺。
ん?少女の目が俺の左手に集中している様な・・・ああ!これのせいか。
いや、部屋を出る時に点滴を動かす棒みたいなのが無かったからな、備え付けから外して持ってきただけなのだが・・・。
「いや、まぁ・・・大丈夫。ちょっと取ってくる。」
「はぁ。そうですか。」
それにしてもこの少女の将来が心配だな、知らない人に簡単にだまされそうで。