第42話/何でこいつ・・・男なんだろう?
寝ようと、寝ようと思っていたのに・・・寝れない。
無理して起きていたから体力的には限界のはずなのだが、俺の眠りを妨げる最大の敵が現れた。
それは・・・。
「腹っ減った。」
人間の三大欲求とはよく言ったものだ。
全く、おかげで眠る事ができない。
まぁ考えたら俺・・・朝から何も食べてない。
確か、医者から栄養不足って言われてなかった?
ふむ。これは本格的に何か胃に入れるべきかもしれない。
こうなったら来夢にコンビニで何か買って来て貰おう。
・・・ん?そういえば、来夢の奴は何処に行った?
そして、なんかうまそうな匂いが・・・。
「誡。あのね、お粥を作ってみたんだけど・・・食べれる?」
お?ナイスタイミング。
この際、多少の味は気にしないからくれ!
「口に合えば良いんだけど・・・不味かったら無理しないで良いからね?」
来夢が持ってきた土鍋の中身を見る限り、普通の卵とじお粥の様だ。
見た目と匂いからは不味そうには思えないが・・・というか、そんな不安な物を病人に出すってどうよ?
まぁまともに動けない状態なので、贅沢は言ってられない。
とりあえず、腹に入ればいいか・・・さぁ、器をこちら渡すんだ。
「熱いから気をつけてね。はい、あ~ん!」
・・・こいつは何をしているのだろうか?
スプーンでお粥をすくったと思ったら、付きだして来るとか・・・俺は幻覚でも見ているのだろうか?
「あ、あれ?やっぱり、そのままじゃ熱いよね。ごめん。ふーふー。はい、あ~ん!」
いや、あの熱いとかじゃなくて・・・俺、普通に食べれますよ?
何故、そこで首を傾げる。
「え~。だって、誡が言ったんだよ!学校が終わったら看病して貰うって!もう、あれ嘘だったの?」
そういえば手厚い看護を受けるって言ったけど・・・え?手厚い看護って、それですか?
いやいや、そんな迷惑かけれないって!
むしろ、それはギリギリアウトな気がするのでパスの方向で!
「ふ~ん。そんな事言っちゃうんだ。いいもん!なら、このお粥、あげないから。」
ちょっ!おま!病人に対して、兵糧攻めは卑怯だと思います!
結局、病人なら大人しく看護されるようにと言われ、しぶしぶ餌付けされる事を了承する。
「うんうん、最初から素直に言う事聞けばよかったのに~。もう、変なプライド持つから。はい、あ~ん!」
いや、プライドと言うか・・・これが女の子ならすげーおいしいイベントだと思いますけどね・・・あ、塩加減がちょうどいいなこれ。
半ば自動的に口を開けて、お粥を入れて貰いながら改めて、昼間の話を考えてみる。
まぁ考えた所で、今の頭じゃ何も浮かばないんだけどな・・・。
そういえば、この話は凛にしたらまずいのだろうか?
・・・まずそうだな、主に幸恵さんがサボってる件の辺りが。
「誡?もう、お粥は無いよ?・・・そんなにおいしかった?」
「あ?ああ、悪い。うまかった。ありがとうな。」
おっと!考えごとしている内に、土鍋のお粥は空になった様だ。
来夢に言われるまで、気がつかなかったとは言え、口を開けたまま待っていたとは・・・我ながら恥ずかしい。
「そういえば、風邪って人に移すと早く治るらしいよ?」
ああ、そんな事聞いたことあるな・・・でも、人に移す方法ってどんなやり方だよ?
「ん~?定番だと、キスかな?誡、僕がしてあげようか?」
いえ、遠慮します・・・って!近いから、なんで人の顔を抑えてるの!?
ちょっ!マジで、シャレにならない!・・・つうか、何故目を閉じる!
マジ勘弁して下さい。
何が悲しくて、男にキスされなければいけないんだ!
確かに、こいつ本当に男か?って感じのいい香りはするが・・・って!流されるな俺、抵抗を、抵抗を!
「あはは、冗談だよ。誡ったら慌て過ぎだよ?」
いや、冗談に思えなかったから慌ててるんですが・・・。
ごめんごめんっと軽く謝りつつ、来夢は水と薬を取りに行った。
全く、シャレになってない・・・しかも、一瞬でも流されかけた自分を呪いたい。
あいつの見た目は、こういう冗談には反則だと思う。
それにしても、腹がいっぱいになったからだろうか?
それとも薬に眠気要素があったのだろうか?
来夢から受け取った薬を飲んですぐ、俺は眠気に襲われて再び眠りに付いた。
何だろうか・・・腹の辺りに妙な重さを感じる。
体にかかる違和感を感じて、俺は目をうっすらと開けてみた。
部屋の中は電気が消えており、窓からも光が入っていなことを考えると、まだ夜の様だ。
「・・・今、何時だ?」
枕元の時計を見ると、1時を少し過ぎた辺りだった。
そして、腹に感じた違和感の正体はすぐにわかった。
来夢が、腹の上で突っ伏して寝ていた。
丁度、俺の位置からだと寝顔が良く見える。
近くに水の入った桶とタオルがある所を見ると、どうやら看病してる途中で力尽きた様だ。
「全く、そこまで心配する様な事じゃないだろうに。逆にお前が風邪引くぞ。」
この状況に苦笑し、何気なく来夢の髪を指で梳いてみる・・・おお!すげーさらさらだ。
こいつ、寝てると本当に美少女にしか見えないんだよな・・・何故、男の娘なんだ。
来夢が女の子だったら、まちがいなくフラグ立てをしてただろうに・・・残念すぎる。
「ん?んん?・・・誡?・・・ごめん、起しちゃった?」
さわり心地が良いのでつい、何度か髪を梳いていたせいか、起こしてしまったようだ。
「いや。それよりも、俺も後は寝てるだけだから、お前もベットで寝ろ。風邪引くぞ?」
「・・・うん、そうする。」
ふらふらと起き上がるって行った所を見ると、どうやら自分のベットに戻ったようだ。
さて俺も、朝までもう一寝入りしますか。
朝、何やら抱き心地とさわり心地の良い枕の感触で、意識が覚醒してくる。
はて?抱き枕何て買ったか俺?
気になって開けた目に飛び込んできたのは、俺の胸に顔をうずめて眠る来夢の姿だった。
・・・え~っと、来夢さん?何してるんですか?
「ん・・・ん、んん?・・・あ!おはよう、誡。」
おはようじゃない、何でお前がここで寝ている!?
のそのそと起き上がった来夢は、眠そうに目を擦りつつベットの上に座った。
目がトロンとしてる所を見ると、まだ寝ぼけていそうだ。
「え~・・・だって、誡が言ったんだよ?ベットで寝ろって・・・くしゅん。」
それは、自分のベットで寝ろって意味だ!・・・って、おいおい。まさか!
「えへへ。・・・風邪引いちゃったみたい。」
熱を測った結果、今度は来夢が風邪引いたのは事実のようだ。
来夢に移ったおかげか、俺は完全回復した。
その後、三日程寝込んだ来夢を、俺は学校へ行きながら世話する事になるのだった。
まさかとは思うが・・・俺が寝る間にキスしてないよな?