第27話/希望なんて無かった。・・・3日で代わりすぎだろ。
ペット騒動から3日程過ぎた水曜日、俺は久々にEOWに戻る事ができた。
あの後すぐに、ペットシステムの情報がゲーム公式BBSで公開されたらしく、その際、俺が玉藻を連れて居る事も一緒に晒されたらしい。
その為か人が居なくなり、茶屋でゆっくりお茶の続きを楽しんでいると、何度も知らない人達にもみくちゃにされた俺は、お茶すらゆっくり楽しめないので仕方なく、そのままログアウトして落ちつくまで自嘲する事にしたのだ。
え?普通に狩りに行けばよかったって?
いやいや、茶屋を楽しむのも大事なことだよ?
というか、こうなる事がわかってたから、CBは情報公開しなかったのか・・・なるほど。
まぁそんなわけで今日、久々にログインした所、ログアウト場所でもあった茶屋でシノと玉藻が待って居たのだった。
話を聞くと、あの翌日からずっと俺を待っていたらしい。
ちなみに玉藻は、俺がログアウトした後、人型の姿で人ごみにまぎれ、いろいろ見て回っていたそうだ。
そんなこんなで、無事合流を果たした俺達は現在、玉藻の背中に乗ってリムタウンに向ってる。
向っているのだが・・・・。
「さ、寒い!」
「気持ちいいなの!」
そりゃ俺の腰に手を回し、後ろに乗っているシノには丁度いいのだろうが・・・思いっきり正面から風を受けている俺は正直寒過ぎる。
例えるならライダースーツを着てない真夏の格好で、高速道路を飛ばした様な・・・この例え、どれだけの人に通じるだろうか?
そもそも何故、リムタウンに向っているのか?
それはシルバーウルフ討伐クエストをシノが受けて、ペットGET用アイテムの鞍を手に入れる為だ。
前回のログアウト後、シノもペットを手に入れたくなったらしく、一緒にクエストを受けようと俺を待っていたらしい。
というか、シノのステータスなら一人でもクリアできるはずなのだが・・・。
あ、ついでに今後の為にメールアドレスを交換しました。
流石に、何度も今回みたいに待たせるのは、あれなので・・・。
ともかく提案を受けて、俺も2刀流の練習に丁度いいので参加する事にしたのだ。
したのだが・・・普通ならば桃源の里からの転送で行けば良かったと、今では若干後悔している。
移動する事を玉藻に話した際、どうせならば乗せてくれるというので、桃源の里近くの森で元の大きさに戻った玉藻に乗って移動する事になった。
だって、考えてみてくれ、あのもふもふ感の上に乗るだぜ?
・・・普通寒いなんて思わないだろう。
こうやって考えている間にも、袴や着物の隙間から次々に風が入り込んできて辛い。
というか考えたら、和装じゃなくてレザー装備にしておけばよかったんじゃ・・・。
玉藻さん?この寒さ何とかなりませんか?
『主よ。後30分も掛らぬ故、我慢できまいか?ここで速度を緩めるのは、正直つらいが故。』
ふむ。確かに俺達は乗っているだけだが、玉藻は走っているわけだから急に速度を変えるのは・・・辛いのか?
マラソン中に急に速度を変える様なものだろうか?
さすがにそれは可愛そうだな、すまん玉藻。やっぱりこのままで!
30分位なら多分耐えられるはず・・・。
玉藻の言うとおり30分後、俺達はリムタウン近くの森に居た。
だって、いきなり巨大な九尾狐が町に乗り込んだら大変だろ?
・・・というか、そもそも町に入れるのだろうか?
「殿、殿っ!早く、クエスト受けに行くなの!」
うん。殿って言ってるけど、全然、殿の扱いじゃないよね、それ・・・まぁわかってたけど。
クエストを受ける為に焦るシノに先に行ってもらい、凍えてまだ動けない俺は人型に戻った玉藻と寒さが取れるのを待ってから、町に行く事にした。
「ところで主よ。あの小娘はクエスト受けれると思うかぇ?」
え?いや、受けれるだろう?・・・何でそんな事を?
「はぁ・・・主よ、考えてみよ。この3日間、主がわらわの元へ来てくれなかったのは何故じゃ?」
それはペットシステムの件で、公式の掲示板に俺の情報が晒されたからで・・・あ!
この3日間、ペットシステムに関して公開されている情報を元に、ペットを手に入れたユーザーは増えたおかげでこうして俺は安心して、ログインする事ができている。
それはつまり、大量のプレイヤーがこの討伐クエストを受けて居ると言う事でもあり、また討伐対象が短い間で大量に狩られているということだ。
そうなると、このゲームのシステム上クエストが無くなる可能性もあるわけだ。
やばい。このシステムの事、すっかり忘れてた。
「まぁわらわは、あの小娘がクエストを受けれなくとも関係ないがのぅ。」
玉藻さん・・・頼むから不吉な事、言わないでくれよ。
結果からすると、玉藻の予感は的中したみたいだ。
シノは討伐クエストを受ける事ができなかったようで、町に入った俺と玉藻の元へしょんぼりと戻ってきた。
「殿、討伐クエストは受けれなかったなの。」
いや、うん・・・なんか、ごめん。
さて、どうしたものだろうか?
どうにかしてシノを元気付けて上げたいが・・・。
アイテムを渡せれば、それが一番簡単な方法なのだろうが・・・俺のは既に使用済みだし。
後、持っているとすれば・・・そうだ!凛が居た!
もしかしたら、凛なら事情を話せば譲ってくれるかもしれない。
僅かな希望を信じて、早速ログイン中の凛へ念話をしてみる。
「あ!凛か、悪いんだが・・・」
『あ、KAIN!丁度よかった、私も報告しようと思ってたところなのよ!ふふふ、驚きなさい!私もペットをGETしたわ!どう?すごいでしょ?』
あ、うん。すごいね。
そのテンションと比例して、俺の僅かな希望は絶望へ落とされましたよ?
『一体、何よ。急にテンション下がって、そういえば何の様だったの?』
いや、もう手遅れだったみたいです・・・。
『ちょっ!何よ。全く、そういえばあんた今何処に・・・あ!ごめん、また連絡する!こら、逃げるな!』
どうやら凛の方も、いろいろ忙しそうだな。
そして俺のパンドラの箱に希望何て、無かったようだ。
さて、本格的にどうしたものだろうか?
悩んでいる俺の横で、シノは何故か忍び衣装の上着をエプロンへと変えていた。
ん?シノよ、エプロン装備なんてどうするんだ?
「殿、クエスト行くなの!」
え?だって、クエスト・・・受けれなかったんじゃないの?
「何を言っているの?なの。クエストは受けたなの。殿にも手伝ってもらうなの!」
首を傾げて見られても・・・俺、おかしなこと言っただろうか?
玉藻を見たらなんか呆れてるし・・・どういう?
「はぁ。主・・・その小娘は、討伐クエストは、受けれなかったと言ったのじゃ。つまり、他のクエストを受けておるのではないかぇ?」
あ!なるほど。
それで、そのクエストって?
てか、エプロン関係あるの?
「保護クエストなの!とりあえず出発するなの!」
ん?保護?何を保護するのだろうか?
ともかく、俺はシノに連れられて町の外へ行く事になった。
ちなみに玉藻は町を見物すると言って、勝手に何処かへ行ってしまった。
・・・玉藻って、俺のペット・・・でいいんだよな、本当に。
玉藻は基本自由です。