第26話/綺麗なお姉さん狐は好きですか?・・・大好きです!
さて、俺の壮大な計画が儚く消えたわけですが・・・。
こうしていても仕方がないので、とりあえずシノの様子を見に行こう。
「シノ。大丈夫か?」
「・・・危なかったけど、助かったなの。」
シノは咥えていた空のポーション瓶を吐き出すと、立ち上がった。
HPバーを見ると、完全回復している。
なんだ、ポーション持っていたのか。
ということは、飲む暇がなかっただけ?・・・つまり、もしあの場で馬油を投げても無駄だったと。
うん、過ぎた事は忘れよう。
『そなた、わらわをこの様にしてどうするつもりか?』
どうすると言われても、俺は狐を飼った事無いし・・・どうしよう?
地面に未だに伏せの姿勢で待つ玉藻の元へ、とりあえず近寄ってみる。
≪ペットに愛称を付けてください。≫
玉藻の顔前にそう書かれたウインドウが出てる。
名前か・・・ポチとかじゃダメ?
『・・・そなたは何処までわらわを辱めるつもりか。』
ああ、やっぱり駄目みたいだな。
ぶっちゃけ今さら考えるの面倒だし、玉藻でいいか。
≪愛称が入力されました。大切に育ててください。≫
ウインドウのコンソールで玉藻と入力すると、どこぞのボールで捕まるモンスター育成ゲームみたいな文字が出て消えた。
ようやく体の自由が効くになったのか、玉藻は大狐の姿から初めにあった女性の姿になった。
えっと・・・自由になった所で攻撃とかしないよな?
「ふむ。残念よのぅ。どうやらわらわはそなたに危害を加えれぬよぅ、なっているようじゃ。」
良かった。
せっかく無傷で戦闘終わったのに、ここで殺されたらシャレにならない。
ところで玉藻さんや、背中の鞍は何処に?
「背中の真ん中あたりに、模様が出て来ているようじゃな・・・そなた。わらわの裸体を所望するかぇ?」
いえ、今は遠慮しておきます。
シノが居るので、どんな誤解されるかわからない。
あれ?そういえば、シノは何処に?
「ダメなの。いろいろ探しまわって見たけど、出口らしきものがないなの。」
「同然の話じゃのぅ。ここはわらわの空間。わらわがここと外を繋がぬ限り、出る事は叶わぬわ。」
出口無いのか・・・ん?つまり、玉藻が許可すれば出れるって事?
「まぁそういう事になるかのぅ。」
・・・おいおい、玉藻の許可無しで出れない空間から勾玉を取ってくるクエストなんて、どうやってクリアするんだよ!
運営、マジで仕事しろ!
「侍、この化け狐が嘘をついている可能性があるなの。」
嘘か・・・ん~?でも、嘘をついてるようには見えないんだよな。
そもそもクエストを俺は受けてないから、詳しい内容を知らないわけだし・・・。
「ふむ。そなたら、もしや誤解をしておるのではないかのぅ?」
誤解?え?ここまで、何処に誤解をする要因があった?
「誤解なんてしてないなの。ちゃんとクエストの説明に玉藻の前が護る、勾玉を取ってくると書いてあるの。だから、忍者の特殊スキル隠密で目的の勾玉を素早く盗ってきたなの。」
「ふむ。その時点でそなたは、やはり誤解をしておるのぅ。その勾玉はそもそも、わらわが親しくなった者に渡す物じゃ。」
あ!だから、盗ってじゃなくて、取ってなのか。
納得、どうやらクエストの本当の意味は、玉藻と親しくなって勾玉を貰ってこいと言う事だったらしい。
なんて紛らわしい・・・いや、これも一種の謎解きなのか?
あれ?でも、ならなんで玉藻は怒ったの?
「そなたは見知らぬ者に自分の所有物を取られて、怒りはしないのかぇ?」
ああ、それは怒る。・・・すみません。
さて、こうなったらどうしたものか。
今さら勾玉を返して、改めてくれというのもどうかと思うし、かと言ってこのままでは俺達出れないし。
あ!ところで玉藻、その背中の鞍って外したらまた使えるようになるの?
「全く、おかしなことを聞く主よのぅ。むろん無理に決まっておろう。そもそも契約を解約されれば、わらわ自身どうなるかさえもわからぬのじゃ、そうそう解約を良しとするわけなかろう。」
ですよね・・・って、え?解約したら最悪どうなるの?
「ペット機能は正式サービスから実装された機能なの。だからまだ不明点が多いなの。最悪、消滅なの。」
ふむ。消滅ってことは、このまま死ぬってことか。
こんな美女を殺すのはもったいないな・・・よし、このまま飼ってみるか。
「ふふふ、このわらわを飼うと申すか、いやはや面白い事をいう主じゃ。良かろう、わらわを存分に飼いならして見せよ!」
あれ?意外とまんざらでもない?
まぁいいか。
それより玉藻、お願いがあるんだけど・・・。
「何かのぅ?よかろう、申してみよ。」
「シノが盗んだ勾玉を許してやってくれないか?できればシノにくれてやってほしい。」
さて、ちょっとばかり欲張り過ぎたか?
「なんじゃそんなことかぇ。かまわぬ。どうせ、もうわらわの物ではないしのぅ。」
やっぱり駄目・・・え?いいの?てか、どういう事?
「むっ?主はやはり気が付いておらぬか、まぁ良い。それより主、今は時が迫っておるゆえ、急ぎついてまいれ。そこの小娘もじゃ。」
一体急にどうしたんだろうか?
ともかく玉藻に従い、俺とシノは壊れかけている建物の中へ。
「そうじゃ主は侍だったのぅ。ちと、寄り道を・・・。」
何処をどう通ってるのか、基本方向音痴の俺には分からないが・・・ともかく玉藻の後をひたすら追いかける。
途中寄った部屋に飾ってあった刀を玉藻は掴むと、再び奥へ奥へと歩いていく。
廊下の最奥、行き止まりに着くと聖王神殿に有る様な紋章があった。
どうやらここから脱出できる様だ。
『クゥオオオオン!』
「むっ。いかん。わらわの権限があるうちに早く行くのじゃ!」
権限?どういう事?わけわかんねぇ。
とりあえず玉藻に従ってシノ、俺の順に紋章の中へ入ると、床が突如抜けて下に落ちた。
ああ。これって、来た時と同じ状況ですか・・・。
次に着地した場所は、神社の祠前だった。
ここどこよ?
「桃源の里内なの。幻想神社だと思う・・・なの。」
「そうじゃ、わらわのおかげで助かったのぅ、小娘、感謝するが良いぞ。」
えっと・・・話が見えないんだが、とりあえず町に戻ってきたってことでいいのか?
誰か、説明頼む。
混乱している俺に、玉藻が若干呆れながらも順に説明してくれた。
まず、俺が玉藻を九尾狐としてペットにした為、あのエリアボスである玉藻の前が消滅。
ゲームのリソースにより、新たなるボスの玉藻の前が湧くまでの間に、玉藻が権限を利用して俺達を町まで脱出させてくれたらしい。
最近、AIってすげーな・・・ぶっちゃけ、融通利きすぎだろ。
一旦、クエストを終わらせてくると言うシノと別れ、俺は玉藻と二人で茶店で一息。
うん、みたらし団子とお茶がおいしい。
「そうじゃ、忘れておった。主よ、これを受け取ると良い。」
ん?何だろう?・・・刀?
「出てくるついでに、拝借してきたのよぉ。侍の主であれば何かの役に立つじゃろう?」
≪アイテム:夜刀桜花を手に入れました。≫
システムボイスを聞きながら、早速装備してみる・・・おお!遂に2刀流だ!
試しに、刀を少し抜いてみると、刃が桜色していてすごく綺麗だ。
思わず触れてしまいたくなるくらいに。
「主、気をつけよ。その刀は妖刀故。それより、こんなに良くできたわらわに何かないのかぇ?」
ちょ・・・妖刀って、危なく自分の血を吸わせる所だった。
それにしても、何かって・・・どうすればいいのだろうか?
ん?そういえば、狐って犬科だっけ?・・・ならば、あれか。
「よしよし、良くやった!」
とりあえず頭を撫でてみる・・・お!耳が垂れて尻尾がうれしそうに揺らしてる。
これは・・・かなり可愛いかもしれない。
そして肌さわりが何とも、もふもふしてて癖になる。
まぁ、傍から見たら人型してる玉藻を撫でてるから、変態にしか見えないんだろうけど。
「・・・じー。なの。」
「うぉ!シノ、いつの間に。」
思いっきり、玉藻のもふもふを堪能してたら、いつの間にか横にシノが居たよ。
しかも、下から上目遣いでじーっと見てるし・・・。
え~っと・・・その目は何なのでしょうか?
まさか、撫でて欲しいとか・・・じゃないよね?
「ち、違うなの!」
まだ撫でられ足りない。と文句をいう玉藻にまた今度といいつつ、俺はシノに向き直る。
そのタイミングで、相互フレンド登録申請画面が俺とシノの間に現れた。
ふむ。そういえばパーティーは組んでたけど、フレンド登録はしてなかったな。
俺は迷わずOKを押すと、フレンドリストにシノの名前が追加された。
「殿。この度はありがとうなの。この恩は殿の忍びとなって、返すなの!ではそろそろ寝ないと、怒られるので失礼するなの!」
ちょ・・・殿って、どういう事?!ねぇ説明を・・・。
説明する事無く、シノは慌ててログアウトしてしまった。
リアル時間・・・午後10時。
明日は月曜日だから学校があるとしても、結構早い時間だ。
もしかして、今度こそ見た目通りの少女なのだろうか?
そういえば、性別聞くの忘れたけど・・・まぁ玉藻も小娘って言ってたから少女だろう。
「ふむ。わらわの主は、好かれやすいみたじゃのぅ。わらわもうかうかしておられぬわ。」
いや、玉藻・・・お前は一応ペットじゃ。
「ならば、わらわに首輪でもつけてみるかぇ?主も存外鬼畜よのぉ。わらわはかまわぬぞ?ん?」
「あの・・・すみません、今ペットとか聞こえたのですが・・・。」
玉藻が本気なのか冗談なのか、色白の喉元を見せて訴えてきた・・・ぶっちゃけ、エロいです。
そんなときに、胴着に袴姿のポニーテールが印象的な女性が声をかけてきた。
槍を装備しているが・・・侍だろうか?
「あの・・・突然すみません、聞いてもよろしいですか?」
「主よ、この小娘が用事があるそうじゃぞ?」
おっと、失礼。
それで何か用?
「先ほど、ペットと聞こえたのですが・・・ペットってどうやって入手するんですか?よろしければ教えてもらえませんか?」
なるほど、少し前に俺が諦めたように愛馬を手に入れたいと・・・これは教えて是非、俺の夢を継いでもらうしか。
「いえ、別に馬じゃなくてもいいのですが・・・所で、ペットはどちらに?もしよければ見せてもらっても?」
ふむ。違うのか・・・というかペットならさっきから君の前に居るのだけど・・・なぁ?玉藻。
「え?あ・・・すみません、もしかしてそういうプレイの方々でしたか・・・てっきり私はゲームのペット機能の話だとばかり・・・。」
この娘は何を顔を赤くして、言っているのだろうか?
「ふふふ、主も中々意地の悪い。今のわらわではただの人にしか見えぬであろう。どれ、本来の姿・・・では大き過ぎるようじゃな、ふむ。小型化できるのようじゃのぅ。」
ああ。そっか、傍から見たら玉藻はコスプレ和装美女だった。
・・・っと言う事は、うわ~俺、今まですげー痛いという変態に思われてたんじゃ。
ボンっと煙の演出付きで、隣に居た玉藻は、大型犬サイズの九尾狐の姿になった。
「おい!あれって、九尾狐?」
「え?ペット?マジで?どうやって手に入れるの?」
「おい、マジかよ、ペット機能はデマだと思ってたのに、実装されてるのか!」
「わぁ~可愛い。触らせて!」
やばい、玉藻に気がついた人たちがこっちに押し寄せて来やがった。
とりあえず玉藻・・・ヘルプ!
「・・・はぁ。頼りない主じゃのぅ。」
再び、ボンっと煙付きの演出で人型に戻ると、俺の前に立つと扇子を集まった人々に向ける。
「そなたら、落ちつかぬか。たわけどもめ!わらわが主に教えを請いたければ、そこになおれ!」
すげー・・・怒鳴ったわけでもないのに、一言であの人の波を止めちゃったよ・・・流石元レベル50のボスモンスター。
結局、シルバーウルフのクエストで鞍を手に入れる所から説明し終えた頃には、人々はリムタウンへ我先にと向っていた。
後日、ボスエリアで玉藻の前に鞍を投げる大量のユーザーが目撃される様になったと、掲示板で話題になっていると、CBから教えてもらった。
それと同時に経験値マイナスのユーザーが増えたのは、言うまでもない。
・・・皆、狐美人が好きなんだな。
はい。2刀流&ペット実装!
どんどん、変態になっていく主人公!
真人間に戻れる時は来るのか?




